中小企業は人手不足と言われ、長時間労働が当たり前になっています。また、在宅勤務を導入したことで、就業時間を過ぎても業務に追われている人も増加しており、どうしたら長時間労働を減らすことができるか、お悩みではないでしょうか。
本記事では長時間労働の解消のための対策や、成功した企業事例、何から対策を始めるべきかを紹介します。
制度の導入だけでは「長時間労働の解消」につながらない
プレミアムフライデーやノー残業デー、有給取得の推進など積極的な長時間労働の解消に取り組む企業もありますが、あまり実感できていないのではないでしょうか?
その理由の一つに日本企業特有の風土や日本人の性格が関係しています。生産性や働き方改革といった言葉が飛び交うようになった昨今でも「残業をする人は勤勉で会社に貢献している」や、「早く帰ることは悪いこと」などと、残業を善しとする文化や風潮が根付いています。
そのため、企業がどんなに長時間労働を減らす制度を導入しても、それだけでは課題解決につながりません。根本的な解決のためには、社員が本気で残業削減に取り組み、仕事もプライベートの時間も大切にしようという本人の意識改革が必要なのです。
人事担当が考える「長時間労働を解消するための取り組み」
長時間労働を解消するには、まずは企業のトップが残業時間削減に対する取り組みを宣言します。社内全体に周知させ、”強制的に残業をなくしていく”ことが長時間労働を解消する一番の近道です。そして、削減した残業代を社員に特別ボーナスとして還元したり、作業効率化したことに対する評価したりするなどして、社員の頑張りを認める制度を作りましょう。
(1)従業員への周知
企業として「従業員の健康とより良い毎日を企業は願っている」ということを従業員に伝えることが重要です。体調不良だと仕事の生産性や効率が低下し、最悪の場合は業務を行うことすら不可能になってしまいます。従業員一人ひとりが健康で毎日を過ごすことが会社の願いだということを知ると、従業員の帰属意識も上がり、企業の想いに応えようとしてくれます。
(2)定時の終礼
定時間際に終礼を行うことも有効な手段の一つです。「労働時間を一区切りする」という意識を植え付けることで、「ここから先は残業になる」という意識をみんなが持ち、残業を申告制にすれば、ダラダラ残業を抑制することができます。
(3)オフィス消灯、アクセス制限をかける
さらに、長時間労働の解消法として、20時になったらオフィスを消灯させたり、システムへのアクセス制限をかけて仕事ができない環境にすることも残業を抑制する効果が期待できます。
(4)残業時間の把握
誰がどのくらい残業をしているか記録することも重要です。残業を「悪」とするのではなく、定期的に残業時間を調べて、特定の人や部署が毎月毎月一定時間の残業が発生しているのであれば、原因を調査して残業を減らしていく対策をする必要があります。業務の棚卸しをして不必要な作業をなくしたり、他の人に業務を割り振ったり、他部署に応援を頼んだりして改善していくことができます。
(5)業務のムダを省く
業務の効率化として以下のような取り組みも長時間労働の解消に有効です。
・形骸化している定例ミーティングを廃止
・事前に資料を配布して読んでもらい、会議は意見交換の場にする
・人数が多すぎる会議は参加者を絞って減らす。
・終業間際のミーティング開催は禁止する
本人が「業務を効率化して残業時間を減らしたらボーナスがもらえるんだ」とか「評価が上がるんだ」と認識して、やる気を起こして、効率化するために考え、行動することによって、長時間労働の削減という大きな成果が得られるのです。
長時間労働の解消に成功した企業事例
長時間労働を課題としていた企業の改善事例を二社ご紹介します。この成功した二社の企業に共通する点は、社員本人のやる気や意識に任せずに、会社全体の制度として推し進めたことが挙げられます。特定の部署だけ行ったり、逆に例外を作ったりせずに、社員全員が同じルールのもと業務時間を減らすという目標に向かうことにより、相乗効果によって大きな成果が得られるでしょう。
(1)株式会社ピコナの事例
業種:情報・通信業
従業員数:10名
改善方法:「残業チケット」の導入
アニメーション業界は平均残業時間が100時間で、株式会社ピコナも残業100時間超えが当たり前という社内の風潮がありました。そこで、同社では長時間労働を解消するために、NO残業デーやサマータイムを導入。しかし、残業することが当たり前になっていた社員は仕事のオンオフを切り替えることできず、うまく定着しませんでした。
そこで、次に導入したのが「残業チケット」制度でした。「残業チケット」とは、月初にチケットが10枚配布され、残業をする必要が発生した場合には19時までに申請してそのチケットを使います。残業は1枚のチケットで23時まで残業することができ、月に10回まで、6回以上はペナルティを設けました。
「残業チケット」を6枚以上使用すると、1枚あたり「ピコナポイント」が5ポイントマイナスになるペナルティを設けています。ピコナポイントとは1日出社する度に1ポイント貯まり、ポイント数に応じて食べ物から遊園地のチケットなどの景品が当たるサイコロをふることが出来る福利厚生の一環です。
ピコナポイントが5ポイントマイナスされると、出勤した一週間分のポイントを全て失ってしまうことになるので、6枚以上チケットを使う人はいなくなりました。この「残業チケット」制度によって、残業時間を8割削減することに成功し、社員の平均残業時間も20時間に減り、社内全体で長時間労働の解消を達成しています。(※1)
(2)株式会社富士通ワイエフシーの事例
業種:情報・通信業
従業員数:185名
改善方法:出退勤時刻の把握
株式会社富士通ワイエフシーはシステム開発などを行うIT業界の会社です。IT業界は本番稼働前のテストがあったり、システムの改修を行ったり、稼動後の保守運用などで長時間労働が発生しやすい業界の一つです。株式会社富士通ワイエフシーでも長時間残業や有給の取得しづらさがあり、出産後に子育てしながら仕事を続けることが困難になり、退職する女性社員が多いのが課題でした。
そこで、従業員一人ひとりが健康的でやりがいの持てる、働きやすい環境づくりのため、時間外労働の削減や両立支援制度、年次有給休暇の取得促進といった取り組みを行いました。
・IT機能を活用し従業員の出退勤時刻を把握
・全従業員の時間外労働時間を幹部従業員へ週1回メールで通知
・原則5日以上連続した年次有給休暇の取得を呼びかけ
・育児休業や育児短時間勤務、フレックス勤務制度の導入
・半日休暇の取得可能数を増加
・週に1回、一斉定時退社の促進
この会社では、現場の声を聞き、およそ10年前から幹部従業員を含めた従業員のテレワークを実施するなど経営トップが主体的に働き方改革に取り組んできました。その結果、離職者の減少や有給取得のとりやすさ、育児休業取得者は100%復帰するといった働きやすい職場づくりが行われています。
まとめ
人手もなく、予算も取れない会社の場合は、まずはできることから始めていきましょう。社員の長時間労働を解消することができればプライベートの時間も確保でき、より充実した毎日を過ごすことができます。社員にとって働きやすい会社であればあるほど、長く働いて貢献してくれるので、会社にとっても良い効果が得られるでしょう。
<参考資料>
※1:第1回GOOD ACTIONアワード受賞 – 株式会社ピコナ – rikunabi/リクナビNEXT
※2:働き方・休み方改善ポータルサイト/厚生労働省