物価高が続く中、従業員の実質賃金は低下し、賃上げは企業の重要課題となっています。しかし、多くの中小企業では、思うように賃上げが進んでいないのが現状です。本記事では、こうした背景を踏まえ、中小企業が賃上げできない理由を明らかにした上で、その具体的な解決策を提案します。賃上げの効果的かつ低コストな代替案も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
中小企業の賃上げが困難な現状
物価上昇が続く中、賃上げの実現は社会的な課題です。一方で、その進み具合を見てみると、大企業と中小企業とのあいだの格差が指摘されています。まずは、中小企業の賃上げの現実と、賃上げが求められる背景について解説します。
2024年10月の最低賃金引き上げ
2024年10月の最低賃金改定により、全国加重平均は1,055円となり、前年から51円の大幅な引き上げが実施されました。この引き上げにより、多くの中小企業では給与体系の見直しを迫られています。
特に、非正規雇用労働者の多い業種では、人件費の大幅な増加が見込まれます。大企業と比較して、企業体力の弱い中小企業の負担は大きく、経営への深刻な影響が懸念されているのが現状です。
関連記事:【社労士監修】最低賃金引き上げによる中小企業への影響。厚生労働省の支援事業も紹介
2024年春闘における中小企業の賃上げ状況
2024年の春闘では、賃上げ率が5.10%に達し、33年ぶりの高水準となりました。一方で、企業規模に注目して結果を見てみると、様相は少々異なります。
連合の集計によると、従業員数が300人以上の企業における平均賃上げ率は5.19%を記録しました。しかし、300人未満の企業では、平均賃上げ率はわずか4.45%に留まります。企業規模の差が、賃上げの達成率に大きく影響していることがわかる結果となりました。
参考:日本労働組合総連合|33 年ぶりの 5%超え!~2024 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
関連記事:【2024春闘】賃上げ率5.10%を達成!持続可能な賃上げ戦略とは
賃上げが求められるのはなぜ?
賃上げが求められる背景には、物価の上昇にともなう実質賃金の低下があります。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和6年8月分結果速報」によると、労働者1人あたりの現金給与総額は296,154円と、前年比で2.8%上昇しています。一方で消費者物価指数は3.5%上昇し、実質賃金は0.8%のマイナスとなりました。
これは、数字だけで見ると給与は増えているものの、実質的には減少していることを意味します。
この状況は、従業員の生活水準の低下を招くだけでなく、消費の減退による経済の停滞にもつながりかねません。現状のさらなる悪化を防ぎ、景気を底上げするための一手として、賃上げが喫緊の課題となっているのです。
中小企業の賃上げを妨げる4つの要因
賃上げの必要性を認識しながらも、多くの中小企業が実施に踏み切れない背景には、複合的な課題が存在しています。ここでは、ポイントを4つに絞って詳しく解説します。
価格転嫁の困難さ
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|価格転嫁に関する実態調査-価格転嫁の状況分析(2024 年 2 月・7 月比較)ー(2024年9月26日)
帝国データバンクの「価格転嫁に関する実態調査-価格転嫁の状況分析(2024年2月・7月比較)-」によると、2024年2・7月の調査両方で、コストの上昇分をすべて価格転嫁できていると回答した企業はわずか2.5%に留まりました。また、どちらか一方でもすべて価格転嫁できている企業は、2月が5.2%・7月は5.0%でした。
2・7月の調査両方において、まったく価格転嫁できていない企業も6.6%存在しています。特に中小企業では、取引先との力関係や競合他社との競争により、価格転嫁が思うように進まない現状が推察されます。
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|価格転嫁に関する実態調査-価格転嫁の状況分析(2024 年 2 月・7 月比較)ー(2024年9月26日)
原材料費・エネルギーコストの上昇
出典:東京商工リサーチ|2023年度の賃上げ予定企業 80.6% 「賃上げしない」理由 「価格転嫁できていない」が最多の6割 | TSRデータインサイト
物価高騰の影響は、企業の事業運営コストを直撃しています。東京商工リサーチの調査では、賃上げできない理由として「原材料価格が高騰」が2位となりました。
続いて「電気代が高騰」が3位・「燃料代が高騰」が5位と、コスト上昇に関する項目が上位を占めています。これらの負担増が、本来従業員の賃上げに充てられるはずの原資を圧迫している実態が浮かび上がります。
参考:東京商工リサーチ|2023年度の賃上げ予定企業 80.6% 「賃上げしない」理由 「価格転嫁できていない」が最多の6割 | TSRデータインサイト
人手不足による人件費負担の増加
総務省統計局の調査によると、2023年時点で全労働者の37.1%にあたる2124万人が非正規雇用として働いています。
最低賃金の引き上げにより、扶養控除内で働く従業員が労働時間を抑えるケースが増え、新たな人材の確保や既存従業員の残業対応による人件費の負担が増加しています。
人材確保のための賃上げが必要である一方で、それ自体が経営を圧迫するという悪循環に陥っている企業も少なくありません。
参考:総務省統計局|労働力調査(詳細集計)2023年(令和5年)平均結果の概要
業績の不安定さと資金調達の制約
中小企業の場合、業績の変動が大きく、長期的な賃上げ計画を立てにくい傾向にあります。加えて、大企業と比べて資金調達の選択肢が限られているために、融資を受ける場合も金利負担が相対的に大きくなりやすいのが実情です。
このような財務面での制約も、積極的な賃上げ施策の実施を妨げる大きな要因のひとつとなっています。
中小企業の賃上げを支援する政府の施策
賃上げに取り組む中小企業を支援するため、政府はさまざまな支援制度を用意しています。これらの制度を効果的に活用することで、賃上げにともなう負担を軽減することが可能です。
関連記事:【社労士監修】2024年版|中小企業賃上げ支援の6つの補助金・助成金を徹底比較
業務改善助成金
「業務改善助成金」は、中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資等を行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その費用の一部が助成される制度です。
対象となる条件は以下のとおりです。
- 中小企業・小規模事業者
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
- 解雇・賃金引き下げなどの不交付事由がない
これらの要件を満たした事業者が、事業場内最低賃金の引き上げ計画ならびに設備投資等の計画を立て、事業場所在地を管轄する都道府県労働局に申請を行います。
賃金の引き上げ幅と引き上げる従業員数に応じ、最大600万円が助成されます。
関連記事:【社労士監修】賃上げで最大600万円の業務改善助成金とは?その他の支援制度も解説
キャリアアップ助成金
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の正社員化や、処遇改善を実施した事業主に対して助成する制度です。同制度には、以下の6つのコースが用意されています。
正社員化支援 | 正社員化コース | 有期雇用労働者等を 正社員化した場合 |
障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換 した場合 | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合 |
賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合 | |
賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合 | |
社会保険適用時処遇改善コース | 短時間労働者に以下のいずれかの取組を行った場合 1.新たに社会保険の被保険者となった際に、手当支給・賃上げ・労働時間延長を行った場合 2.労働時間を延長して新たに社会保険の被保険者とした場合 |
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)(リーフレット)
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金
助成額は、企業規模や対象者数によって異なります。たとえば「正社員化コース」では、1人当たり最大80万円です。申請は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局へ行います。
関連記事:【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
その他の活用可能な支援制度
賃上げ実績がある企業は「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」申請時に加点対象となり、審査で優遇を受けやすくなります。
IT導入補助金は、業務効率化のためのITツール導入費用のうち、最大450万円が補助される制度です。また、ものづくり補助金は、生産性向上のための設備投資等に対し、最大8,000万円の補助が受けられます。
これらの制度を組み合わせることで、より効果的な支援を受けることが可能です。
参考:ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト|トップページ
参考:経済産業省|ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について
参考: IT導入補助金2024|トップページ
参考:中小企業庁|IT導入補助金 (令和6年9月時点版)
賃上げ代替案としての福利厚生による対応
中には、コストの負担に対応できず、賃上げを見送らざるを得ない中小企業も存在します。そのような企業におすすめなのが、賃上げの代替案としての福利厚生導入です。以下、その詳細について見ていきましょう。
福利厚生による賃上げのメリット
福利厚生費は、一定の条件を満たすことで損金として経費計上できます。これにより、企業側は賃上げにまつわる支出を経費として計上でき、法人税の軽減効が可能です。
一方、従業員側も、一定の条件下で所得税の負担増なく実質的な手取りを増やせます。たとえば、月額5,000円の賃上げを行う場合、給与で支給すると手取りは減りますが、同額を福利厚生として提供すれば、従業員は給与支給よりも手取りを多く受け取ることができます。
食事補助の福利厚生の魅力
数ある福利厚生の中でも、近年特に注目度を高めているのが「食事補助」です。以下、食事補助を福利厚生として導入することにより、企業が得られるメリットを紹介します。
- 採用市場での他社との差別化ができる
- 従業員のモチベーションとパフォーマンスが向上する
- 従業員満足度が高まる
- ESG投資における企業価値の向上が期待できる
- 離職率の低下によって人材を安定的に確保できる
食事という、日々の生活に密着した福利厚生は、従業員へのアピール度も高く、エンゲージメントの向上にも寄与します。経費計上でコストを押さえながら、福利厚生のメリットを最大限に生かすことができる食事補助の福利厚生は、特に大企業に比べ企業体力に劣りがちな中小企業にとって非常に魅力的な施策です。
全国25万店以上で食事が半額に「チケットレストラン」
数ある食事補助の福利厚生の中で、日本一の実績を誇るのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」を導入した企業の従業員は、一定の条件を満たすことで、全国25万店舗以上の加盟店での食事を半額で利用できます。勤務時間内であれば、利用する場所やタイミングに制限がないため、勤務形態も問いません。内勤・外勤はもちろん、リモートワーク中や出張中の従業員も平等にメリットを提供できます。
また「チケットレストラン」は、導入にあたり複雑な手順はありません。通常、契約から約1カ月で利用が開始されます。
また、運用に必要なのは月に1度のチャージのみで、バックオフィスの負担も最小限です。人的リソースに余裕のない中小企業でも無理なく導入できる福利厚生の食事補助サービスとして、すでに3,000社を超える企業に導入されています。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
段階的な賃上げ実現へのアプローチ
中小企業がスムーズに賃上げを実現するには、政府支援制度の活用と福利厚生の充実を組み合わせた段階的なアプローチが有効です。
まずは自社の経営状況を正確に把握し、活用できる支援制度を検討することから始めましょう。その上で「チケットレストラン」のような食事補助などの福利厚生サービスを併用することで、企業の負担を抑えながら従業員の実質的な賃上げが可能となります。
自社と従業員がともに多くのメリットを享受できる施策を選び、中小企業ならではの強みを生かしながら、持続可能な経営を目指しましょう。
参考資料:福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト