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【社労士監修】有給休暇が残ったまま退職するとどうなる?企業の対応やスムーズな消化方法

2024.09.18

監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

有給休暇が残ったまま退職すると、残った有給休暇は消滅します。従業員の権利である有給休暇を、適切に取得できるようにするには、企業はどのような取り組みを行うとよいのでしょうか。スムーズな有給消化のポイントを見ていきましょう。

有給休暇が残ったまま退職するとどうなる?

従業員が退職するときに、有給休暇が残っている場合があります。有給休暇が残ったまま従業員が退職すると、その有給休暇はどうなってしまうのでしょうか?

消化できない分は消滅する

有給休暇が残ったまま従業員が退職すると、未消化の有給休暇が消滅します。企業は退職した従業員に対して、有給休暇を与える必要性がないためです。

法律によると、有給休暇には労働者のリフレッシュや休養といった目的があります。ただし退職した元従業員は企業に所属する労働者ではなくなるため、企業は有給休暇を与える必要がありません。これにより元従業員が消化できなかった有給休暇は消滅します。

なお企業には有給休暇の付与が義務付けられていますが、従業員から残りの有給休暇について消化の申し出がなければ、退職日を迎えて消滅したとしても法律上の問題はありません。

最終出社日の後に取得できる場合も

従業員が残りの有給休暇の取得を希望した場合「最終出勤日」と「退職日」を調整すれば、残った有給休暇の付与が可能です。従業員の持つ有給休暇の権利は退職日まで消滅しないため、残った休暇の日数に合わせて、最後に出社する日と退職を調整するとよいでしょう。

例えば有給休暇が残り5日間あり、12月31日を退職日とする予定の場合、最終出勤日を12月26日とすると、従業員は有給休暇を残さず使い切れます。                *ただし、年末年始休暇が所定休日の場合は注意が必要です。有給休暇の対象となるのは所定労働日に限るためです。

残りの有給休暇について企業側の対応は?

従業員から有給休暇取得の申し出があると、企業は原則として拒否できません。適切に対応するには、事前の対策が必要です。対応を誤るとトラブルに発展し、労働局から指導が入る可能性もあるため注意しましょう。

ここでは担当者が把握しておくべき、残った有給休暇への対応方法を紹介します。

時季変更権で取得する日を変えてもらう

原則として従業員から有給休暇の申請があると、企業は拒否できません。ただし条件を満たしていれば、時季変更権により有給休暇の取得時期の変更が可能です。

企業が時季変更権を行使できるのは、従業員が有給休暇を取得することで業務に支障が出る、といった明確な理由がある場合に限られます。

例えば有給休暇の取得時期が繁忙期にあたり、そのタイミングまでに後任の採用や育成が十分に実施できる見込みがなく、正常に業務を運営できないといったケースでは、時季変更権を行使可能です。

一方、単に「コストがかかるから」という理由のみでは、時季変更権の行使は難しいでしょう。

時季変更権を用いて有給休暇の取得時期を変更した場合、退職日までの間に従業員が有給休暇を取得できるよう配慮が必要です。退職日を過ぎると有給休暇が消滅する点に注意しましょう。

有給休暇を買い取る

有給休暇の買い取りは原則としてできません。従業員が十分な休養を取れるよう法律で定められている有給休暇の買い取りを認めると、法律の目的に反するためです。

ただし退職後に消滅する有給休暇に関しては、買い取りは禁止されていません。退職日までに取得しきれなかった有給休暇を買い取りしても、法律の目的に反しないと判断されるためです。

買い取りせざるを得ない場合は、トラブル防止のために、買い取りに至った背景や買取金額等について、退職労働者と書面を交わしておくとよいでしょう。

関連記事:【社労士監修】有給休暇の金額を計算する方法は?給料に買取する場合の計算方法も

残りの有給休暇をスムーズに付与するポイント

従業員が退職するときに、有給休暇をスムーズに取得できるようにするには、どのようなポイントがあるのでしょうか。企業が押さえておくべき点を紹介します。

有給休暇の残日数を把握する

従業員から退職の相談を受けたり、退職願を提出されたりしたときには、有給休暇の残日数を把握します。

有給休暇は全労働日の8割以上出勤すると、入社から6カ月経過後に付与されます。それ以降は1年ごとに勤続年数に応じて、以下の日数が付与されるよう法律に定められています。

通常の労働者の付与日数
継続勤続年数 0.5年 1.5年 2.5年 3.5年 4.5年 5.5年 6.5年以上
付与日数 10日間 11日間 12日間 14日間 16日間 18日間 20日間

 

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
週所定労働日数 1年間の所定労働日数 継続勤務年数
0.5年間 1.5年間 2.5年間 3.5年間 4.5年間 5.5年間 6.5年間以上
4日 169~216日 7日間 8日間 9日間 10日間 12日間 13日間 15日間
3日 121~168日 5日間 6日間 6日間 8日間 9日間 10日間 11日間
2日 73~120日 3日間 4日間 4日間 5日間 6日間 6日間 7日間
1日 48~72日 1日間 2日間 2日間 2日間 3日間 3日間 3日間

例えば入社3.5年が経過した従業員が退職するとします。毎年の有給休暇は最低限の取得が義務付けられている5日間ずつ取得していました。ただし3.5年経過後の有給休暇取得はまだ行っていません。

また使い切れなかった有給休暇は2年間で消滅します。このことから、退職時の有給休暇残日数は21日間です。

あらかじめ有給休暇の残日数が分かっていれば、最終出勤日と退職日の調整を行いやすくなります。

参考:
厚生労働省|年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています
厚生労働省|年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説

関連記事:【社労士監修】有給休暇の付与日数のタイミングは?前倒し方法やタイミング、計算ツールも

最終出勤日や退職日までのスケジュールを確認する

従業員が最終出勤日のあと退職日まで有給休暇を取得するなら、最終出勤日までに仕事の引き継ぎを完了させなければいけません。今から最終出勤日までの期間で引き継ぎが可能か、誰が業務を引き継ぐか、などを決めておく必要があります。

日頃から有給休暇の取得を促す

有給休暇を計画的に取得できるよう、従業員へ呼びかけることも大切です。退職前にまとめて有給休暇を消化しようすると、スケジュールの都合上完全には消化しきれない場合があります。

日頃から従業員が有給休暇を取得していれば、退職日にまとまった有給休暇が消滅することを避けやすくなるでしょう。トラブルの発生も回避しやすくなります。

従業員が有給休暇を計画的に取得するには、職場の雰囲気づくりも重要です。有給休暇を気軽に申請しやすいよう、上司やリーダーが率先して取得するとよいでしょう。

とはいえ、計画的な取得を促したとしても、従業員が休暇を取りづらく、消化が進まないことがあります。特に、接客サービスや医療に関する職業などでは、休暇を取りづらいと感じる方もいるようです。
実際にネット上でも「取りづらい」といった声が見受けられます。

有給休暇を無理やり取得させることもできず、対応に困る場合もあるでしょう。このような場合には、休暇を取得しやすい職場の雰囲気づくりが大切です。企業全体が休暇を取得しやすい雰囲気であれば、従業員も休暇の申請がしやすくなるでしょう。

加えて半休や時間単位で有給休暇を取得できる制度の整備や、労使協定を結んだ上で企業があらかじめ有給休暇を取得させる日を決められる計画年休を実施するのも有効です。

雇用形態ごとに異なる有給休暇への対応

有給休暇をスムーズに消化するには、雇用形態ごとの規定を把握しておくことが必要です。企業では正社員に加えて、派遣社員・パートタイム・アルバイトなど様々な形態の従業員を雇用しています。

雇用形態別の有給休暇について確認することで、従業員の退職時に適切な対応が可能です。

派遣社員の場合

派遣社員も退職時に有給休暇をまとめて取得できます。注意が必要なのは、派遣社員の有給休暇を付与するのは、派遣元である派遣会社である点です。自社が派遣社員にとって派遣先である場合には、派遣社員に有給休暇を付与できません。

自社が派遣元の派遣会社であるなら、派遣社員の最終勤務日の翌日から派遣契約期間満了までに代替要員を送ることや、代替要員を送るのが難しい場合の派遣契約期間変更などについて、派遣先へ交渉を行います。

パートタイム・アルバイト勤務の場合

有給休暇はパートタイムやアルバイトにも付与されるため、退職時にまとめて消化することもあるでしょう。このとき注意が必要なのは、週所定労働日数や1年間の所定労働日数によって、付与する日数が異なる点です。

勤務日や勤務時間が少ないほど、有給休暇の付与日数が少なくなるよう設定されているため、従業員の勤務状況をよく確認した上で、有給休暇の残日数を把握する必要があります。

有給休暇が残ったまま従業員が退職するときのポイント

退職日に残っている有給休暇は消滅します。従業員が希望に合わせて有給休暇を取得できるよう、企業は従業員の有給休暇の残日数や最終出勤日までのスケジュールを確認しておきましょう。

併せて計画的に有給休暇を取得するよう促せば、退職時に一気に休む必要がなくなります。

また法律で定められている有給休暇の他にも、福利厚生を充実させて働きやすい環境を整備すれば、従業員の退職を避けられるかもしれません。

例えば従業員の食事代をサポートする食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入すれば、実質的な手取り額アップにもつながります。従業員の定着率アップにやくだつ福利厚生の導入を検討してみませんか。

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