監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
2025年2月、健康総合企業タニタの「タニタカフェ at OFFICE」が参入するなど、設置型社食サービスはニーズが高まっています。背景には、リモートワークからオフィス回帰を促したい企業側の思惑と、物価高により外食代が高騰する中でのランチ代節約ニーズなどがあるようです。
しかし、税務上の取り扱いを理解せずに導入すると、従業員側に給与課税が発生する可能性があります。本記事では、設置型社食を福利厚生として適切に運用し、従業員の税負担を増やすことなく導入するための要件と注意点を解説します。
設置型社食とは?特徴やメリット
設置型社食はその名が示すように、休憩スペースなど企業の一部にスペースを設置し、社員食堂代わりになる食事を提供するサービスです。主な特徴を説明します。
24時間対応で利用しやすい
営業時間が限定される社員食堂とは異なり、早朝出勤者の朝食や残業時の夕食、深夜勤務者の夜食まで対応できます。フレックスタイム制や変則型の勤務体系でも、働き方に合わせて利用できるのが特長です。
食事内容は柔軟な選択肢を提供
その日の気分や体調、予算に応じて従業員が自由に商品を選択できます。健康志向ならサラダを、しっかり食べたいときは弁当を選ぶなど、個人の嗜好に対応します。
少ないスペースで導入可能
専用の冷蔵庫や冷凍庫を設置するだけで運用開始でき、大規模な厨房設備や調理スタッフは不要です。オフィスの空きスペースや休憩室の一角で本格的な食事を福利厚生として提供できます。
導入コストが比較的かからない
社員食堂設置には数百万円から数千万円の初期投資が必要ですが、設置型社食なら数万円程度で導入できるサービスが主流です。予算が限られている企業でも、食事補助の福利厚生を充実させられます。
設置型社食が普及する理由
近年、設置型社食サービスの導入が拡大しています。その背景には以下の要因があります。
オフィス回帰への対応
リモートワークからオフィス回帰の流れを受け、従業員にオフィス出社のメリットを感じてもらう福利厚生として活用されています。
物価高への対策
モノやサービスの値段が上がり、飲食代も高騰しています。商品代金は一部企業が負担するなど、従業員が勤務中のランチ代を節約できる手段として重宝されています。
採用活動でのアピール
魅力的な福利厚生として、採用活動における差別化、企業の魅力向上に貢献します。
健康経営の推進
食事の充実は従業員の健康管理につながります。健康経営に取り組む企業の施策としても導入されています。
福利厚生が所得税非課税となる要件
福利厚生として提供する手当やサービスには、経済的なメリットの程度を踏まえ「給与課税となり所得税が課税されるもの」と、「給与課税とはならず所得税が非課税になるもの」とがあります。
企業が独自で設置する法定外福利厚生が給与課税されずに非課税となるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 福利厚生を目的として支給されること
- 従業員が公平に利用できること
- 現物で支給されること
- 費用が社会通念上妥当な範囲内であること
これらの要件を満たさない法定外福利厚生は、給与として扱われ、所得税の課税対象となります。
それぞれ設置型社食ではどうなるのかを説明します。
福利厚生を目的として支給されること
設置型社食は福利厚生を目的に導入するサービスであり、要件を満たします。
全ての従業員に支給されること
設置型社食を導入する際は、誰もが利用できる場所に設置することで、要件を満たせます。
現物で支給されること
設置型社食は商品の現物支給となるため、この条件を満たします。
費用が社会通念上妥当な範囲内であること
食事補助が社会通念上妥当な範囲にあるかどうかは、国税庁により詳細に定められています。次の章で見ていきましょう。
関連記事:【税理士監修】福利厚生費は全て非課税?導入時には課税・非課税の要件をチェック
設置型社食(食事補助)を非課税で運用するための2つの条件
食事補助については、国税庁がより詳細に給与課税とならない条件を定めています。
(1)役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること。
(2)次の金額が1か月当たり3,500円(消費税および地方消費税の額を除きます。)以下であること。
(食事の価額)-(役員や使用人が負担している金額)この要件を満たしていなければ、食事の価額から役員や使用人の負担している金額を控除した残額が給与として課税されます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
条件1:従業員が食事代の半分以上を負担
設置型社食の商品価格のうち、従業員が50%以上を自己負担する必要があります。
具体例:
- 商品価格500円の場合:従業員負担250円以上
条件2:企業負担額が一人あたり月3,500円(税抜)以下
1人の従業員に対する企業の月間負担額が3,500円(税抜)を超えない必要があります。
計算例(月20日利用する場合):
- 1日あたりの企業負担上限:3,500円÷20日=175円
- 商品価格500円の場合:企業負担175円、従業員負担325円(500円-175円)
→従業員負担率65%(50%以上)、月間企業負担3,500円で両条件をクリア
※1円でも上限を超えた場合は、超過分だけでなく企業補助全額が給与課税対象となります。さらに、現金での支給や用途制限のないサービスも給与課税の対象となるためご注意ください。
深夜勤務者への特別な配慮について
設置型社食のメリットの一つは、深夜勤務者への食事提供ができる点です。国税庁によると、深夜勤務時の食事については、通常の食事補助とは異なる特別なルールがあります。
- 残業・宿日直時の現物支給:金額制限なく全額非課税
出典:国税庁|No.2594 食事を支給したとき
出典:国税庁|〔給与等に係る経済的利益〕
設置型社食は24時間利用可能であり、深夜勤務者への福利厚生として特に効果的です。
現金支給との比較:なぜ設置型社食が有利なのか
設置型社食等、現物支給となる食事関連の福利厚生サービスの利点を知るために、現金支給の食事代についても理解を深めましょう。
食事代を現金で支給すると、従業員にとっては現金を自由に使えるというメリットがありますが、税務上はデメリットがあります。企業の補助額は全額が給与課税の対象となるためです。1か月当たりの補助額が3,500円(税別)以下であっても給与として課税され、所得税等が控除されます。
ただし例外として、深夜勤務に伴う夜食で現物支給が困難な場合のみ、1回の支給額が300円(税抜)以下なら非課税となります。
出典:国税庁|No.2594 食事を支給したとき
主要な設置型社食サービス比較
ここでは、3つの設置型社食サービスについて紹介します。料金等は変動する可能性があるため、詳細はサービス運営側にお問い合わせください。
タニタカフェ at OFFICE
「タニタカフェ at OFFICE」は、タニタが2024年2月に開始した設置型社食サービスです。野菜はたっぷり、カロリーは抑えた健康的な食事を自由に選んで楽しめます。
初期導入費は6万円(税別)、月額利用料は4万5,000円(税別)です。加えて企業負担の商品代金が別途必要となります。従業員は市場価格の約30%安く利用できます。
出典:タニタ|置き社食サービス「タニタカフェ at OFFICE」の提供を開始
出典:タニタカフェ|置き社食サービス タニタカフェ at OFFICE
OFFICE DE YASAI
「OFFICE DE YASAI」は、サラダ・フルーツなどフレッシュな食事を中心とする設置型社食サービスです。プランは冷凍と冷蔵の2タイプあり、100円から健康的な食事を購入できます。2025年7月には累計導入拠点数が2万拠点を突破しました。
公式サイトのよくある質問には「企業が費用を一部負担することで従業員様が気軽に野菜やフルーツ、お惣菜などを食べられる福利厚生サービス」との記載があります。
出典:OFFICE DE YASAI|Office de Yasaiとは
オフィスおかん
管理栄養士監修、どこかほっとするお惣菜を提供できるのが「オフィスおかん」です。子どもにも安心して食べさせられるこだわりの商品を、100円から購入できます。導入実績は3,000拠点以上、健康経営にも貢献するサービスです。
サービス利用にあたっては、お惣菜の商品代金のほか、サービス・システム料金(資材提供、必要設備貸与、配送および納品、サービス維持管理等の費用が含まれる)がかかります。
設置型社食導入の成功ポイント
これから設置型社食を給与課税対象外として導入する際に押さえたいポイントを紹介します。
事前の税務確認
各サービスの導入時には、企業が負担する金額につき、給与課税となるのかどうかを確認しましょう。経費としての取り扱いを知る上でも大切です。税理士など専門家に相談する方法もあります。
設置型社食だけに限られませんが、福利厚生として従業員へ提供しても、給与課税となってしまう可能性があります。
従業員への周知
利用方法や税務上の取り扱いについて、従業員に十分な説明を行いましょう。利用方法だけでなく、税務上の取り扱い(例えば、どの範囲までが非課税なのか、超えると給与課税となる部分はどこからか)をわかりやすく説明することが重要です。これにより従業員側の誤解やトラブルを防ぎ、制度への納得感を高めることができます。設置型社食サービスが社内で定着するかにもかかわるでしょう。
説明が必要な内容:
- 自己負担の割合(従業員は50%以上を要負担)
- 月額いくらまでが非課税か(企業負担は3,500円税抜以下)
設置型社食以外の選択肢も検討を
外勤が多く、リモートワークも取り入れているなどの理由から、設置型社食が自社に適さない場合は、他のサービスも検討してみましょう。
例えばエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店で利用できる食の福利厚生サービスです。専用のICカードにより加盟店での食事代を補助する仕組みにより、働く場所や勤務形態を問わず全従業員が利用できます。この専用ICカードは食事専用の用途であるため、所得税法上「現物支給」の食事とみなされます。
また「チケットレストラン」は、国税庁の確認を受けながら運営されているサービスのため、食事補助の非課税枠(月額3,500円)を最大限活用できます。導入企業は3,000社を超え、福利厚生サービスを活用した賃上げの仕組みは「第3の賃上げ」(エデンレッドジャパンが定義)として注目されています。
2025年には、食事補助における非課税限度額の引き上げを求める動きも活発化しており、今後の制度見直しへの期待も高まっています。
関連記事:【税理士監修】チケットレストランの非課税メリット!非課税管理も簡単クリア
参考:エデンレッドジャパン|食事補助の上限枠緩和に向け、自民党小泉進次郎議員、古川康議員らに要望書を提出
給与課税されない仕組みが人気の「チケットレストラン」
設置型社食は従業員満足度向上や業務効率化に優れた福利厚生です。非課税の福利厚生として食事補助を導入するには、「従業員が半額以上負担」「企業負担が毎月3,500円(税抜)以下」といった条件を満たす必要があります。
より手軽に食事補助の非課税枠を活用したい場合は「チケットレストラン」も選択肢の一つです。月額7,000円(税別)を企業と従業員で半額ずつ負担して、専用のICカードを使い、シンプルかつ効率的に、サービスを提供できます。
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税理士 / 1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和
宅配便配送員、自販機ベンディング作業、駅構内配送など)、コンサルティング会社・通販会社にて勤務を経て、税理士を目指し、今に至る。
1級FP や日商簿記1級、宅建資格も持ち、幅広い視野と知見でサポートしています。
