監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
雇用保険法の改正により、段階的に雇用保険制度が変化しています。雇用保険制度の概要や、今回の雇用保険法改正の目的を確認した上で、2025年10月に施行される内容をチェックしましょう。併せてその他の時期に施行される内容も紹介します。
雇用保険法で定められている雇用保険制度とは
雇用保険とは、雇用の安定や就業の促進などを目的に、政府が運営している強制保険制度です。
労働者が失業したときの手当や、職業に関係する教育訓練を受けたときの手当、育児休業を取得したときの手当などの他、雇用安定事業と能力開発事業からなる雇用保険二事業を行っています。
参考:ハローワークインターネットサービス|雇用保険制度の概要
雇用保険法改正の目的
2024年5月に成立した雇用保険法等の一部を改正する法律は、多様な働き方に対応可能な雇用のセーフティネットの構築や、キャリアアップに向けた教育訓練やリスキリングの充実、育児休業給付の安定的な財政運営の確保などを目的としています。
関連記事:【社労士監修】2025年4月施行|雇用保険制度の改正について分かりやすく解説!
【2025年10月施行】教育訓練休暇給付金の創設
雇用保険法の改正内容は、2024年5月から段階的に施行されています。2025年10月には教育訓練休暇給付金が創設される予定です。
これまでの制度では、労働者が教育訓練のために仕事から離れる場合に、生活費を支援する仕組みがありませんでした。有給の教育訓練休暇がない企業では「キャリアップに向けて学びたい」けれど、生活のために断念する従業員もいるかもしれません。
新たに創設される教育訓練休暇給付金によって、労働者が生活費の心配をすることなく教育訓練に専念しやすくなります。
教育訓練休暇給付金の対象者
教育訓練休暇給付金の対象となるのは、雇用保険の一般被保険者で、休暇開始前2年間に賃金が支払われた日数が11日以上の月が12カ月以上あり、被保険者として雇用された期間(算定基礎期間)が5年以上ある労働者です。
対象者が勤務先の教育訓練休暇制度を用いて、自発的に教育訓練休暇を取得すると、その期間内に収入を得ていない日が給付金支給の対象となります。
給付金の金額
支給される給付金の金額は、離職したときに受け取る基本手当と同額です。給付日数は算定基礎期間に応じて、90日・120日・150日のいずれかとなります。
対象となる教育訓練
給付金の対象となる教育訓練は以下の通りです。
- 大学・高等専門学校・専修学校・各種学校が行う教育訓練
- 支給対象として厚生労働大臣の指定を受けた講座を実施する施設が行う教育訓練
- その他に職業安定局長が定める教育訓練
対象とならない学校や施設での教育訓練や、独学で行う学習などは、給付金の対象にはなりません。
教育訓練休暇給付金の創設に向けて企業が行う準備
教育訓練休暇給付金は、企業の教育訓練休暇制度を用いた場合に利用できる制度です。そのため給付金を利用してスキルアップやリスキリングに取り組む従業員をサポートするには、教育訓練休暇制度を導入しなければいけません。
制度を利用する場合の申請方法・申請先などを決めた上で、就業規則に盛り込みましょう。併せて従業員に対する、制度の周知も必要となります。
有給で教育訓練休暇制度を導入することも可能
教育訓練休暇給付金の対象となるのは無給の教育訓練休暇です。ただし企業が給与を支給する有給の教育訓練休暇制度の導入もできます。
このとき活用できるのが、人材開発支援助成金の教育訓練休暇付与コースです。
数日間の教育訓練休暇制度であれば30万円(生産性要件を満たすと36万円)、数カ月の長期教育訓練休暇制度であれば賃金助成が6000円(生産性要件を満たすと7,200円)、経費助成が20万円(生産性要件を満たすと24万円)の助成金を受け取れます。
※助成金支給対象に該当するか否かのご相談については事業所がある労働局またはハローワークまでお問い合わせください
参考:厚生労働省|人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース)
関連記事:【社労士監修】人材開発支援助成金の条件は?活用事例をチェック
教育訓練休暇制度の導入は進んでいない企業が多い
教育訓練休暇制度は、導入するかどうかを企業が自由に決められます。
「令和5年度能力開発基本調査 調査結果の概要」によると、教育訓練休暇制度を導入している企業は8.0%、導入を検討している企業は9.9%、導入しておらず導入の予定もない企業は81.9%でした。
また教育訓練休暇制度を導入している企業のうち、30日以上連続して教育訓練休暇を取得できる企業は27.6%です。
多くの企業では、教育訓練休暇制度が整っておらず、導入していてもまとまった休暇として取得できない企業が多いと分かります。
参考:厚生労働省|令和5年度能力開発基本調査 調査結果の概要
代替要員の確保が課題
同じく「令和5年度能力開発基本調査 調査結果の概要」によると、教育訓練休暇制度の導入を予定しない理由は「代替要員の確保が困難であるため」が50.3%となっています。
従業員が教育訓練休暇を取得すれば、常にぎりぎりの人員体制で業務を行っている企業では、これまで通りに業務を進めるのが難しくなるかもしれません。加えて業種を問わず人手不足が進行している状況の中、代替要員がスムーズに見つからないことも考えられます。
制度を整えても実際に利用するのが難しい状況のため、導入しないという企業が多いようです。
参考:厚生労働省|令和5年度能力開発基本調査 調査結果の概要
雇用保険法のその他の改正内容
雇用保険法の改正では、教育訓練休暇給付金の創設以外にも変化があります。改正内容を施行される時期ごとにチェックしましょう。
施行時期 |
改正内容 |
2024年5月 |
・育児休業給付の国庫負担引き下げの暫定措置を廃止 |
2024年10月 |
・教育訓練給付金の給付率を最大80%へ引き上げ |
2025年4月 |
・自己都合退職者が教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限を短縮 |
2025年10月 |
・教育訓練休暇給付金の創設 |
2028年10月 |
・雇用保険の適用範囲を、週の所定労働時間10時間以上に拡大 |
キャリアアップやリスキリングにつながる福利厚生
雇用保険法の改正により、2025年10月に施行される教育訓練休暇給付金の創設は、従業員のキャリアアップやリスキリングにつながります。従業員のスキル向上や、今後の事業展開に必要なスキルの習得などに役立つでしょう。
この他にも従業員のキャリアアップやリスキリングにつながる福利厚生は複数あります。代表的な福利厚生について見ていきましょう。
研修プログラム
業務に必要なスキルや技術に関する研修を、企業が手配して従業員に提供する方法です。社内で対象となる従業員が一斉に受講できるようにしてもよいですし、社外で実施される研修に必要なタイミングで参加できるようにしてもよいでしょう。
関連記事:社員のモチベーションを高める研修とは?内容と選び方を徹底解説!
資格取得手当
業務に関連する資格を取得するときに、学習にかかる費用や受験料などを負担したり、対象となる資格を保有している従業員に毎月手当を支給したりします。従業員が資格を取得するモチベーションの向上につながる福利厚生です。
関連記事:【社労士監修】手当の種類一覧を紹介!ユニークな手当や非課税の手当もチェック
書籍購入補助
業務に関連する書籍の購入費用を会社が負担する福利厚生です。無制限に支給する他、毎月の上限額や上限冊数を定めたり、購入金額のうち補助する割合を定めたりします。企業によっては感想文を提出することで、補助の対象となるケースもあります。
関連記事:ユニークな福利厚生や制度のある企業を紹介!導入時のポイントも解説
研修を組み込んだ社員旅行
社員旅行を実施している企業では、旅程に研修を組み込んでもよいでしょう。業務から離れた非日常の環境で行われる研修のため、楽しみながら取り組めるのが特徴です。従業員同士のコミュニケーションが深まることも期待でき、チームワークの強化にもつながります。
スキルアップ支援につながる福利厚生サービス
通信講座やeラーニングなどを企業が契約して、従業員に提供することも可能です。業務に関連するスキルや、今後必要になるスキルを学べる内容のサービスを選ぶことで、従業員のキャリアアップやリスキリングに役立ちます。
雇用保険法改正で2025年10月から教育訓練休暇給付金が創設
雇用保険法の改正により、2025年10月から教育訓練休暇給付金ができます。キャリアアップやリスキリングを目的として自発的に学ぶ労働者が、教育訓練休暇を取得したときに給付金を受け取れる制度です。
ただし「令和5年度能力開発基本調査 調査結果の概要」によると、教育訓練休暇制度を導入している企業は10%以下で、80%ほどの企業は導入の予定がないと回答しています。
現時点で自社に教育訓練休暇制度ないけれど、従業員が教育訓練休暇給付金を利用できるようしたいと考えている場合には、社内の制度を整備しなければいけません。
また従業員のキャリアアップやリスキリングに取り組むには、スキルや技術の習得につながる福利厚生を提供する方法もあります。自社に合う制度を採用するとよいでしょう。
福利厚生の導入を検討するときには、従業員満足度の向上や実質的な手取りアップにつながる食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」もチェックしてみてはいかがでしょう。
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