税制改正要望は、企業や団体、省庁が税制の見直しを国に訴える正式な制度です。近年では、人事・総務部門にも関係の深いテーマが多く、動向を把握しておくことが求められます。この記事では、税制改正要望の仕組みや提出の流れから、注目される「食事補助の非課税枠引き上げ」要望まで、わかりやすく解説します。
税制改正要望とは?|企業や団体が「声」を届ける制度
税制改正要望とは、企業・団体・省庁などによる税制の改善や見直しを求める要望を、国が公式に受け付ける意見提出の仕組みです。まずは、税制改正要望と税制改正の違いや提出主体、その役割について解説します。
税制改正と税制改正要望の違いとは
「税制改正」とは、政府が法律を改正し、税の仕組みや内容を変更することを指します。
一方「税制改正要望」とは、企業・団体・省庁などによる「こう変えてほしい」という要望を、国が受け付ける制度です。税負担の軽減や制度の合理化などを目的に、毎年夏頃に提出され、政策検討の出発点となります。
要望はそのまま法律になるわけではありませんが、税制改正の議論の入口として重視されています。特に多くの要望が集中するのは、法人税・所得税・消費税などで、企業の経営に直結する分野が多いのが特徴です。
こうした要望が政府や与党の税制調査会を通じて検討され、反映される場合、大綱や法案へと進みます。
誰が、なぜ提出するのか|主な提出主体と背景
税制改正要望を提出できるのは、企業や業界団体だけではありません。各省庁(例:厚生労働省、国土交通省)も、例年独自の要望を出しています。
提出の目的は、自らの事業や政策遂行に有利な税制環境を整えることです。たとえば企業であれば、法人税負担の軽減や福利厚生制度の非課税措置の拡充などを求めます。省庁であれば、自らの管轄分野の施策推進や予算執行を円滑にするための制度見直しを要望します。
なお、企業が単独で要望を出すことは稀で、多くは業界団体を通じた連名による提出が一般的です。
税制改正大綱との関係性
税制改正要望が反映される最初の公式文書が「税制改正大綱」です。これは与党税制調査会が年末に発表するもので、翌年度の税制改正の方向性を示す「政策の設計図」ともいえるものです。
提出された要望は、財務省や関係省庁で検討されたあと、与党税調の審議を経て、一部が大綱に盛り込まれます。
大綱に記載された内容は、その後の国会提出や法案成立へと進む可能性が高まります。そのため、税制改正大綱に記載されるかどうかが、要望の「成否」を分ける重要なポイントです。
税制改正の流れとは?大綱ができるまでのプロセス
税制改正は、要望が出されたあと、複数の段階を経て実現します。特に重要なのが、財務省・政府税制調査会・与党税制調査会の役割と、それぞれのスケジュールです。ここでは、要望から税制改正大綱の発表、国会での法案成立、施行までの一連の流れを時系列で整理します。
参考:財務省|税制改正のプロセスについて教えてください。
参考:財務省|税制改正の概要
要望提出から税制改正大綱発表までの全体像
税制改正の流れは、例年以下のような時系列で進みます。
時期 | 主な動き |
8月頃 | 企業・団体・省庁が税制改正要望を提出 |
9月〜10月頃 | 財務省・政府税制調査会で要望内容の整理・検討 |
11月〜12月頃 | 与党税制調査会での最終調整 |
12月中旬 | 与党税制調査会が「税制改正大綱」を決定・発表 |
12月下旬 | 内閣が閣議決定し、正式な政府方針として発表 |
1月〜2月頃 | 政府が税制改正法案を国会へ提出 |
3月頃 | 国会で審議・法案成立・改正法の公布 |
4月1日 | 改正税法施行 |
制度改正は数カ月にわたるプロセスを要し、要望提出から実現までには半年以上を要することになります。
税制改正大綱とは?政策の青写真とその重み
税制改正大綱は、税制に関する国の基本方針を示す公式文書であり、実質的に改正の方向性を決定づける重要な指針です。政府税制調査会は、中長期的な視点で税制全体のあり方を検討します。一方、毎年度の具体的な税制改正内容の審議や要望の反映・調整は、主に与党税制調査会が担っています
大綱に記載された内容は、ほぼそのまま法案化されるケースも多く、実質的には「決定に近い合意」です。そのため、大綱に掲載されることが政策実現への最初の山場となります。
関連記事:【税理士監修】令和7年度税制改正大綱をわかりやすく解説。103万円の壁や扶養控除は?
国会での審議・法案成立〜施行までの流れ
税制改正大綱が発表されると、内閣は翌年1月中旬〜2月頃に関連する税制改正法案を国会に提出します。予算関連法案として扱われることが多く、原則として3月末までに成立します。
法案成立後、施行されるのは原則として4月1日です。ただし、制度によっては施行時期が異なる場合もあるため、企業側では内容の確認と対応準備が求められます。
税制改正は、企業の会計・人事・福利厚生に直結する制度であるため、早めのキャッチアップが大切です。
税制改正要望はいつ出せる?提出スケジュールを知ろう
税制改正要望は、毎年決まったスケジュールで提出され、審議・大綱発表へと進みます。企業や団体はこの流れを把握しておくことで、制度変更のタイミングや影響を予測できます。ここでは、提出時期とその後の審議プロセス、掲載されやすい要望の特徴について整理していきましょう。
年間スケジュール|いつ・どこに出すのか
税制改正要望の提出は、原則として毎年8月末が締切の目安です。特に省庁の提出期限は財務省により定められており、例年8月31日までに要望書を取りまとめるよう求められています。
税制改正要望は、企業が個別に出すのではなく、多くの場合は商工会議所や経団連、業界団体などの中間組織を通じて提出されるもので、提出先は関係省庁や財務省です。場合によっては、与党税制調査会に直接意見を届けることもあります。
なお、各省庁も独自に要望を取りまとめ、財務省に提出します。企業や省庁からの要望は、財務省で整理されたのち、与党や政府の税制調査会での審議対象として扱われるのが一般的です。
誰が判断するのか|財務省・与党税調・政治家の役割
提出された要望は、まず財務省主導で各省庁からの要望が整理・評価されます。その後、政府税制調査会が中長期的な制度設計の観点から意見を述べ、具体的な改正方針を調整するのは与党税制調査会です。
与党税制調査会では、与党議員や実務者が参加して、社会的な優先度や財政への影響、政策的整合性を踏まえて要望の採否を検討します。また、政治家個人の関与が影響を与えるケースも珍しくありません。
近年では、特定の議員が政策的テーマを主導して動くケース(例:小泉進次郎氏による食事補助非課税枠の見直し支援)も増えています。
掲載される要望の特徴とは?
すべての要望が税制改正大綱に反映されるわけではなく、採用されるのはごく一部に限られます。
掲載されやすい要望の特徴として挙げられるのは、社会的な課題解決につながること・政策全体の方向性と一致していること・財政中立性があること(新たな財源確保策がある、あるいは歳出削減効果がある)などです。
また、過去の動きと整合する内容や、メディアや世論の注目を集めたテーマは採用されやすい傾向にあります。要望の内容に加えて、「誰がどのように要望したか」という提出の仕方も結果を左右します。
注目の税制改正要望|食事補助の非課税枠引き上げとは
現在、注目されている税制改正要望のひとつが「食事補助の非課税限度額の引き上げ」です。1984年以降、40年以上にわたり据え置かれてきた月額3,500円という上限を、現代の物価に見合う水準へと見直そうという動きが活発化しています。ここでは、制度の課題と業界の動き、そして税制改正大綱への掲載の可能性について詳しく解説します。
現行制度(月額3,500円)と課題
現在、企業が従業員に提供する食事補助について、非課税で認められている限度額は「月額3,500円」です。この基準は1984年に定められたもので、以降40年以上にわたり見直しが行われていません。近年では食材費・人件費・光熱費の高騰によって昼食代も上昇しており、当時の基準が現代の実態に即していないことは明白です。
実際、エデンレッドジャパンの調査によれば、ビジネスパーソンの約25%が「週に1回以上ランチを食べていない」と回答しており、コスト面での負担や食の優先順位の低下がうかがえます。健康や業務効率にも直結する課題として、制度の現実離れが課題視され始めています。
参考:国税庁|No.2594 食事を支給したとき
参考:エデンレッドジャパン|ビジネスパーソンのランチ実態調査2025~コメ高騰でランチの主食危機⁉ 7割近くが“影響あり”と回答~
業界の動きと要望提出(1,139者/社が賛同・議員が支援)
2025年5月、飲食店・食事補助利用企業・食事補助サービス事業者、計1,139者/社によって構成される「食事補助上限枠緩和を促進する会」(代表 株式会社エデンレッドジャパン)により「食事補助非課税限度額の引き上げ」を求める要望書が自民党に提出されました。
この要望は、単なる企業側の意見表明にとどまらず、政治家の明確な支援を得ています。特に、自民党の「物価上昇に合わせた公的制度の点検・見直しPT」で座長を務める小泉進次郎衆議院議員は、当日同席し、「必ず実現に向けて取り組む」と明言しました。こうした政治的後押しは、制度改正の実現可能性を大きく後押しする要因となっています。
参考:エデンレッドジャパン|食事補助の上限枠緩和に向け、自民党小泉進次郎議員、古川康議員らに要望書を提出
大綱に記載される可能性と社会的注目
現時点でこの要望が税制改正大綱に「確実に掲載される」とは断言できません。しかし、すでに複数の大手メディアがこの動きを報道しており、社会的注目が高まっているのは事実です。また、議員の公式なコメントや国会内のプロジェクトチームでの議論対象となっていることも、政策化に向けた有力な材料といえます。
過去の傾向から見ても、「国民の生活に関わる分野」「非課税制度の見直し」「デジタル化・インフレ対策と親和性の高いテーマ」は大綱に掲載されやすい傾向があります。食事補助の非課税枠拡大もこれらの条件を満たしており、今後の税制改正動向において有望な項目のひとつといえるでしょう。
今後は、大綱への掲載を起点に、実際の法改正や所得税法施行令の見直しといった動きにつながるかが注視されます。
税制改正要望は企業にとってチャンス?活用の視点
税制改正要望の制度は、一部の大企業や業界団体だけの話ではありません。一般企業にとっても、制度の仕組みを理解し、時流を読んで施策を検討するうえでの重要な「経営インフラ」となり得ます。ここでは、企業が税制動向をどう読み解き、福利厚生や報酬設計にどう生かせるかを考察します。
企業戦略に生かせる税制制度の知識とは
税制は、企業の報酬制度や福利厚生の設計に大きな影響を与えます。たとえば、所得税等の扱いを左右する「非課税」制度を活用することで、従業員の手取り額を実質的に引き上げることが可能です。
また、税制改正に関する要望や大綱の動向を早期に把握することで、自社の制度設計や改定スケジュールに余裕を持たせることもできます。
財務や労務、人事施策にまたがる制度は複雑化する傾向にあるため、税制という共通言語を理解しておくことが、社内連携の円滑化や説得力ある施策提案にもつながります。
「第3の賃上げ」としての非課税メリット
近年注目されている「第3の賃上げ(エデンレッドジャパンが定義)」とは、ベースアップ(第1)、定期昇給(第2)に続く選択肢として、実質的な手取りアップや家計負担の軽減につながる福利厚生を活用した賃上げをいいます。
たとえば、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」をはじめとする食事補助や通勤手当、住宅手当など、一定の条件下で所得税の非課税枠が活用できる福利厚生を活用すれば、企業の負担を抑えつつ、従業員の実質的な所得増に貢献できます。
こうした制度を効果的に設計するには、現行の税制とその改正見通しをセットで理解することが重要です。税制改正要望は、非課税制度の拡充を後押しするきっかけにもなり得ます。
関連記事:「第3の賃上げ2025」とは?福利厚生で実現する新時代の賃上げ戦略
制度改正を後押しする企業の立場と行動とは
一般企業が税制改正要望そのものを単独で提出することは現実的ではありません。しかし、業界団体や企業連合が行う要望活動に賛同・協力することは可能です。具体的には、賛同署名やヒアリング参加、情報提供などが現実的な手段となります。
また、制度改正が現実味を帯びてきた段階では、自社での制度導入準備を進めておくことも重要です。社内の福利厚生制度に税制面から見直す余地があるかを確認し、従業員への制度周知や説明体制を整えておくことで、実施のスムーズさや活用率にも差が出ます。
「声を届ける」だけでなく、「制度を使いこなす」姿勢が求められます。
税制改正要望の流れを知り、自社戦略に備えよう
税制改正要望は、限られた一部の団体だけでなく、あらゆる企業にとって関係の深い制度です。制度の提出時期や流れ、政策への反映プロセスを理解しておくことは、経営判断や人事施策において重要な判断材料となります。
特に、現在注目されている「食事補助の非課税枠引き上げ」のように、福利厚生と税制の両面から社会的な要望が広がるケースは、企業にとっても「制度を味方につける好機」です。政策の動きを他人事とせず、自社の制度運用にどう生かせるかを意識しておくことが、先を読む経営の第一歩となるでしょう。
参考記事:「#第3の賃上げアクション2025」始動、ベアーズが新たに参画~中小企業にこそ“福利厚生”による賃上げを! “福利厚生”で、より働きやすく、暮らしやすい社会へ~
:「賃上げ実態調査2025」を公開~歴史的賃上げだった2024年も“家計負担が軽減していない”は7割以上!
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