日本の人手不足問題は、年々深刻さを増しています。総務省の統計によれば、2024年の就業者数は6,781万人と過去最多を記録したにもかかわらず、企業の約5割が「人手が足りない」と回答しました。特に中小企業では、採用難が喫緊の経営課題となっています。そこで本記事では、日本の人手不足の現状を最新データから読み解き、その背景と要因を分析しました。さらに、限られた予算内で人材を確保・定着させるための効果的な施策を具体的に解説しています。
日本は本当に人手不足なのか?
日本の人手不足問題は、もはや一部の業界だけの課題ではありません。企業規模や業種を問わず、多くの企業が直面する構造的な課題となっています。まずは、最新の統計データを基に、日本の人手不足の実態を詳しく見ていきましょう。
就業者数は過去最多なのに…企業の約5割が「人手が足りない」と回答
総務省統計局が公開している「労働力調査(基本集計)2024年(令和6年)平均結果」によると、2024年の就業者数は6,781万人で、前年比34万人増と過去最多を記録しました。男女別に見ると、男性は3,699万人(前年比3万人増)・女性は3,082万人(前年比31万人増)です。
一方で、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2025年1月)によれば、2025年1月時点で正社員が「不足」と感じている企業の割合は53.4%となり、コロナ禍(2020年4月)以降でもっとも高い水準に達しています。
また、日本商工会議所の「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」(2024年9月)を見ても、人手が「不足している」との回答は63.0%に達しています。さらに同調査では、人手不足を感じている企業のうち65.5%が、その影響について「非常に深刻(廃業のおそれ)」(4.2%)または「深刻(事業継続に支障が出るおそれ)」(61.3%)と回答しました。
これらの調査結果は、日本企業の半数以上が人手不足に直面していることを示すとともに、その影響が企業の存続を脅かすレベルにまで達していることを明らかにしています。
参考:総務省統計局|労働力調査(基本集計) 2024年(令和6年)平均結果
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足に対する企業の動向調査(2025年2月21日)
参考:日本商工会議所|「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」 の集計結果について ~中小企業人手不足に対する企業の約6割が外部シニア人材の受入れに前向き~
中小企業に集中する「深刻な人手不足」
人手不足問題は、特に中小企業において深刻な状況です。帝国データバンクの「2025年度の雇用動向に関する企業の意識調査」によれば、新卒新入社員の採用予定がある企業は全体で37.1%ですが、大企業では72.5%であるのに対し、中小企業では30.8%に留まっています。
同調査では、ある輸送用機械・器具製造の小規模企業の声として、次のような意見が取り上げられています。
「賃金が低い零細企業に新卒希望がある訳がない。人手不足のなか、余力のある大企業が人材獲得競争を勝ち抜いているのが現状」
大企業を中心に「初任給30万円時代」と言われる昨今、原材料・エネルギーなど各種コスト高に直面する中小企業では、大企業と同レベルの賃上げを実施することは容易ではありません。
求職者にとって、賃金は勤務先選びの大きなポイントです。賃金の差が採用市場において大企業と中小企業の間に格差を生み、中小企業の人材確保をより困難なものにしているのが現状です。
人手不足が生まれる背景とは
なぜ日本では、これほどまでに人手不足が深刻化しているのでしょうか。「求人を出しても応募が来ない」「採用しても定着しない」といった経営層の悩みの背景には、日本社会の構造的な変化があります。
生産年齢人口の減少が止まらない
総務省統計局の調査によると、15~64歳の労働力人口※は、2024年平均で6,011万人と、前年比で16万人増加しています。男女別に見ると、男性は3,250万人(前年比4万人減少)・女性は2,762万人(前年比21万人増加)でした。
一見、日本の労働力が増加しているように見えますが、日本の生産年齢人口※は長期的には減少傾向にあります。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によれば、日本の生産年齢人口は1995年(平成7年)に8,716万人でピークを迎え、その後減少に転じました。2023年(令和5年)には7,395万人と、総人口の59.5%まで低下しています。
一時的な就業者数の増加は、女性の社会進出促進や、高齢者の就業継続などの政策効果と考えられます。少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少という根本的な課題は、いまだ解消されていないのが現状です。
※労働力人口=15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口
※生産年齢人口=15歳以上65歳未満の人口
働きたい人は増えているが、条件が合わない
総務省統計局の調査によると、労働力人口比率(15歳以上人口に占める労働力人口の割合)は63.3%・就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は79.4%と、いずれも上昇傾向にあります。
しかし、ここで問題になるのが、職種にまつわるミスマッチです。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)令和7年2月」によれば、職業によって有効求人倍率に大きな格差があることがわかります。
職業 | 有効求人倍率 |
輸送・機械運転従事者 (トラック運転手、バス運転手など) |
2.27倍 |
介護サービス職業従事者 (介護施設職員、ホームヘルパーなど) |
3.95倍 |
建設躯体工事従事者 (型枠大工、とび職、鉄筋工など) |
8.13倍 |
職業 | 有効求人倍率 |
一般事務従事者 (データ入力・電話対応・書類整理などの一般事務) |
0.42倍 |
機械組み立て従事者 (工場での機械・部品の組み立て作業) |
0.72倍 |
これらの表はあくまでも一部抜粋ですが、同じ時期でも職業によって有効求人倍率に大きな違いがある、すなわち、求職者のニーズと企業の求人内容にミスマッチが生じていることがわかります。
参考:厚生労働省|一般職業紹介状況(令和7年2月分)について
若者の就業観の変化と企業のギャップ
最近の若手社員は、給与や安定性だけではなく「働きやすさ」や「納得感のある仕事」を重視する傾向があります。
厚生労働省の「令和5年 雇用動向調査」では、20代が転職や退職を選ぶ理由として「労働時間や休日などの労働条件が悪かった」「給料など収入が少なかった」など、待遇面への不満が多く挙げられました。
一方で、アデコの調査では、若手社員が「辞めなかった理由」として「希望する仕事ができる」「同期や同僚との関係が良いから」「上司との関係が良いから」といった回答が目立ち、人間関係や成長実感といった「職場への納得感」が定着の決め手になっていることがうかがえます。
こうした若者の価値観の変化に対応できていない企業では、人材の確保・定着がますます困難になっています。
参考:アデコ株式会社|新卒入社後3年以内に離職しなかった若手社員を対象にした調査
関連記事:「若手社員の育成」が人手不足解消の鍵!中核人材として定着させる方法とは?
中小企業が採用難に陥る理由
人手不足は日本企業全体の課題ですが、特に中小企業において深刻です。ここでは、自社の課題を客観的に見つめ直すヒントとして、中小企業が採用難に陥る主な理由を分析します。
給与水準や待遇面で大企業に劣る
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」によると、企業規模別の平均賃金(男女計)は、大企業(従業員1,000人以上)で364.5千円・中企業(100~999人)で323.1千円・小企業(10~99人)で299.3千円となっています。
男女別に見ると、男性では大企業403.4千円・中企業355.6千円・小企業324.5千円、女性では大企業296.6千円・中企業271.3千円・小企業255.5千円と、いずれも企業規模による賃金格差が明確に表れる結果となりました。
こうした待遇面での差は、月給はもとより、定期昇給や賞与・退職金などにも大きく影響します。就職活動においては、これらの条件が比較検討される要素となるため、中小企業は不利な立場に置かれがちです。
関連記事:中小企業が賃上げできない理由は?賃上げに活用できる制度や福利厚生を解説
知名度が低く、そもそも「見つけてもらえない」
中小企業が採用で苦戦する大きな理由のひとつに、知名度の低さがあります。
インターネットが発達した現代では、就活生が情報を得る手段も多種多様です。企業のWebサイトや就職情報サイト・SNSなど、求職者自身が求める企業や職業の情報を自由に入手できるようになりました。
しかし、中小企業の多くは、自社サイトの構築や更新が不十分であったり、就職情報サイトへの掲載費用を捻出できなかったりと、そもそも学生の目に触れる機会が限られる傾向にあります。OB・OGも少ないため、口コミでの情報拡散も期待できません。
結果として、中小企業の求人は「応募者がいない」のではなく「そもそも見つけてもらえず、応募検討の俎上に載らない」という根本的な課題を抱えているのです。
福利厚生など制度面が弱く、魅力に欠ける
福利厚生のための予算は、企業規模によって大きく変わるのが一般的です。
以下に示すのは、厚生労働省の「令和3年就労条件総合調査の概況」から抜粋した、2021年(令和3年)における企業規模別の1人あたり1カ月分の福利厚生費です。
企業規模 | 1,000 人以上 |
300~999人 | 100~299人 | 30~99人 |
法定福利費 | 54,348円 | 50,804円 | 48,024円 | 45,819円 |
法定外福利費 | 5,639円 | 4,567円 | 4,546円 | 4,414円 |
厚生年金や健康保険のような「法定福利厚生」は、法律で定められた企業の義務です。
一方で、通勤手当や食事補助などの「法定外福利厚生」は、企業が独自に定める自由度の高い制度です。企業の従業員に対する姿勢や予算が反映されるため、企業規模の大きい企業のほうが、小さい企業よりも充実しやすい傾向にあります。
こうした福利厚生をはじめとする制度面の弱さは、特に若年層の採用においてネガティブな影響を与えます。給与水準と同様に、福利厚生の充実度は、企業選びの重要な判断材料となっているのです。
人手不足解消に効果的な3つの施策とは
人手不足は深刻な経営課題ですが、適切な対策を講じることで状況を改善することが可能です。ここでは、特に中小企業が限られたリソースの中で実践できる、効果的な人材確保・定着施策を紹介します。
採用方法を見直す
情報が豊富で、誰でも手に入りやすい現代の採用は「多彩な採用チャネル」が重要なテーマです。
具体的には、従来の求人広告やハローワークに加え、以下の方法が挙げられます。
- SNSを活用した情報発信
- オンライン採用イベントへの参加
- リファラル採用
- 地域の学校との連携強化
- 副業人材の活用
さらに、自社の強みや魅力を適切に発信するためのブランディング強化も重要です。
「自社でしか経験できない仕事の魅力」や「少人数ならではの成長機会」など、大企業にはないメリットを明確に打ち出すことで、マッチ度の高い人材との出会いが期待できます。
柔軟な働き方を導入する
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、働き方の多様化が一気に進みました。この時期に学生時代を過ごした若手社員がイメージする働き方は、従来の働き方とは大きく異なる可能性があります。
これを踏まえ、企業には、以下のような制度の検討・導入が求められます。
- リモートワーク
- フレックスタイム制
- 時短勤務
- 週休3日制
このように、多様な働き方の選択肢を用意することは、若年層はもとより、ワークライフバランスを重視する層・子育てや介護との両立を目指す層・自己啓発や副業と本業を両立させたい層など、多くの求職者にとって大きな魅力となります。
福利厚生を充実させる
人材の採用・定着において、福利厚生の充実は重要な要素です。
特に効果的なのは「日常的に恩恵を実感できる福利厚生」です。食事補助や住宅手当といった月々の生活サポートはもちろん、健康増進支援や家事代行サービス利用費の補助など、従業員のQOL(生活の質)向上に直結する制度は高い評価を得やすいでしょう。
また、福利厚生は、単なる「待遇」にとどまらず「企業文化」や「従業員への姿勢」を表すものとして捉えられる傾向があります。自社の理念や価値観に合致した福利厚生を提供することで、企業としてのブランディング、ひいては他者との差別化が期待できます。
関連記事:中小企業の福利厚生を取り巻く現状と課題。導入する福利厚生の選び方も
食事補助制度「チケットレストラン」の活用
数ある福利厚生サービスの中でも、近年特に注目度を高めているサービスのひとつに、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、一定の条件下において、所得税の非課税枠を活用しながら全国25万店舗以上の加盟店での食事を実質半額で利用できる、食の福利厚生サービスです。加盟店の種類は、有名ファミレスやカフェ・コンビニなど多種多様で、勤務時間内にとる飲食物の購入であれば時間や場所の制限もありません。
中小企業であっても導入しやすい食事補助制度を活用することで、「従業員を大切にする企業」というイメージを形成し、採用力と定着率の両方を高めることが可能です。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
まとめ|人が集まる企業になるために
日本全体が人手不足に直面する中「人が集まらない」という課題は深刻化しています。とはいえ、状況を改善することは決して不可能ではありません。
人手不足の本質は、多くの場合「人がいない」のではなく「条件が合わない」ことにあります。自社の強みを生かした採用戦略の見直し・柔軟な働き方の導入・従業員満足度を高める福利厚生の充実など、できることから着実に改善を進めていくことが重要です。
特に中小企業では「働きやすさ」や「仕事のやりがい」、「成長機会の豊富さ」など、自社ならではの魅力を明確に打ち出すことが大切です。「チケットレストラン」のような利便性の高い福利厚生の導入も検討しつつ、人が集まる企業づくりを目指しましょう。
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