中小企業がインフレ手当の支給を検討するにあたり、支給方法や支給額で迷ってしまうケースが少なくありません。中小企業のインフレ手当支給について、課題や対処法を含めて整理していきましょう。インフレ手当として活用できる福利厚生の食事補助サービス「チケットレストラン」についても合わせて紹介します。
そもそも「インフレ手当」とは?
近年、ニュースや新聞などさまざまな場で見聞きする機会が増えた「インフレ手当」ですが、そもそもこれはどういった手当なのでしょうか。まずは、インフレ手当とは何か確認していきましょう。
インフレを背景とした生活補助を目的に支給される手当
「インフレ手当」の「インフレ」とは、「インフレーション」の略語です。このインフレーションについて、「野村證券|証券用語解説集」では以下のように解説しています。
世の中の全体的な財・サービスを代表する価格指数(物価)が継続して上昇する状態をさす。英語表記はInflation。インフレと略されることも多い。
インフレが進行すると、モノやサービスの値段が上昇します。この場合でも、同時に給与が上昇していれば問題ありません。しかし、そうではない場合、給与が変わらないまま支出だけが増えることになり、労働者の生活水準は下がります。
つまりインフレとは、実質的に労働者の賃金減少と同じ影響を社会へともたらすものといえるでしょう。
「インフレ手当」は、インフレが原因で実質的に目減りした賃金を補う目的で支給されるものです。
企業が従業員へインフレ手当を支給することにより、インフレに伴う従業員の経済的負担は緩和されます。支給額にもよりますが、インフレ前と変わらない生活水準を保つことに貢献できるでしょう。
インフレの原因と現状
2022年から続くインフレは、日本固有のものではありません。世界的なインフレが引き起こされた原因と、日本の現状とはどのようなものなのでしょうか。
インフレはなぜ起きた?
現在、世界規模で起きているインフレの主な原因として考えられているものは、以下の2つです。
- 新型コロナウイルス感染症によるパンデミック
- ロシアによるウクライナ侵攻
2019年末に発見された新型コロナウイルスによるパンデミックは、あらゆるモノの生産活動を世界的に低下させました。人々の活動も制限され、モノやサービスの供給が急速に縮小されたのです。
やがてパンデミックが収束を迎えても、いったん縮小されたモノやサービスの供給は伸び悩みました。一方で需要は急速に回復し、需要に対する圧倒的な供給不足が顕在化したのです。これによりモノやサービスの価格は高騰し、インフレを招く一因となりました。
そんな状況へさらなる追い打ちをかけたのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。
ウクライナへ侵攻したロシアに対する経済制裁として、欧米を中心とする世界各国がロシア産エネルギーの輸入を制限しました。これが世界的なエネルギーの供給不足を引き起こし、エネルギー価格が世界規模で高騰しました。
エネルギー価格の高騰は、原材料費の高騰、引いてはモノやサービスの価格の高騰につながります。インフレがインフレを呼び、近年まれに見るインフレが引き起こされる原因となったのです。
日本におけるインフレの現状
世界的なインフレは、日本国内にどのような影響をもたらしているのでしょうか。
2023年3月7日、厚生労働省は「毎月勤労統計調査 令和5年1月分結果速報」を公表しました。
これによると、労働者の現金給与総額は276,857円(就業形態計)で、前年比0.8%の増加となっています。一見、賃金は上昇傾向にありますが、一方で、総務省が2023年3月24日に発表した「2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)1月分」を見ると、同じく2023年1月の消費者物価指数もまた前年比+4.2%と大幅な上昇を見せています。これは実に41年ぶりの上昇率です。
物価の上昇に賃金の上昇が追いついていないこの状況は、実質的な賃金の低下を意味します。労働者の生活水準は、否応なく低下しているといえるでしょう。
なお、アメリカをはじめとする各国は、インフレ対策として積極的な金利の引き上げを決断、実行しました。しかし日本の場合、日銀が金融緩和政策を維持しているために、円安が依然進行した状態にあります。
円安は輸入品の相対的な価格上昇を招くことから、国内のインフレはいまだ終わりの見えない状況にあるのです。
参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和5年1月分結果速報
参考:総務省|2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)1月分
「インフレ手当」支給の実態
近年、認知度を高めているインフレ手当ですが、実際に支給している企業の割合はどの程度なのでしょうか。支給方法や支給額と合わせて見ていきましょう。
支給企業の割合は?
帝国データバンクが行った「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」※によると、2022年11月時点において、インフレ手当を「支給した」と回答した企業は全体の6.6%でした。
「支給を予定している」が5.7%、「支給していないが、検討中」と回答した企業が14.1%あることから、全体の約1/4にあたる26.4%の企業がインフレ手当について前向きにとらえていると判断できます。
このアンケート結果が公開された2022年11月以降も、インフレ手当の支給を行った企業が続々と増加しています。企業によるインフレ手当支給の取り組みは、今後ますます広がっていくことが予想できるでしょう。
※アンケート期間:2022年11月11日~15日、有効回答企業数:1,248社(インターネット調査)
出典:帝国データバンク|「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」(2022年11月17日)
支給方法は?
同じく帝国データバンクの行ったアンケートによると、インフレ手当を支給した企業のうち、66.6%の企業が「一時金」、36.2%が「月額手当」で支給したと回答しています。
「一時金」は、1度きりの支給を前提とした支給方法で、「月額手当」は給与に上乗せする形で行う長期的な手当の支給方法です。
なお、現状では大半の企業が一時金での支給を選んでいますが、その理由として多く聞かれたのが「一度給与を上げてしまうと、インフレが収束しても元に戻しにくくなる」という意見です。
「企業として、従業員が抱える経済的な負担をサポートしたいものの、見通しの立たないコストを増やすほどの企業体力はない」それが多くの企業に共通するスタンスといえるでしょう。
支給額は?
インフレ手当を支給する場合、支給額としてはいくらくらいが妥当なのでしょうか?
同上のアンケート調査を見てみると、インフレ手当支給額の平均は、一時金で5万3,700円、月額手当で6,500円となっています。
とはいえこれらの数字はあくまでも平均であり、実際の金額には大きなバラつきがあります。
例えば一時金の場合、「1万円未満」の企業が11.9%ある一方で、7.3%の企業は「15万円以上」と回答しました。割合としてもっとも多いのは「1万円〜3万円未満」で、27.9%の企業が該当します。
また月額手当では、「3千円未満」と回答した企業が26.9%、「3万円以上」が0.8%となりました。もっとも多かったのが「3千円~5千円未満」と「5千円~1万円未満」で、それぞれ30.3%となっています。
「インフレ手当」中小企業の場合
中小企業がインフレ手当の支給を検討するにあたり、参考にしたいのはやはり同じ中小企業ではないでしょうか。中小企業に特化したインフレ手当の現状を紹介します。
支給企業の割合は?
株式会社エフアンドエムが2023年2月27日に公開した「中小企業の冬季賞与及び インフレ手当に関する実態調査」によると、回答企業2,082社のうち、「インフレ手当等を支給している」と答えた企業の割合は12%でした。
4%の企業が「その他」と回答していますが、この回答内容を詳しく見てみると、「今後の支給を検討している」「高騰するガソリン代への対策として通勤手当の見直しを行っている」「家族手当の増額をしている」など、インフレ対策としての従業員のサポートに積極的な姿勢がうかがえます。
一方、回答企業の大半となる84%の企業は、「インフレ手当等の取り組みは行っていない」と回答しています。中小企業によるインフレ手当支給の取り組みは、今まさに始まったばかりといえそうです。
参考:株式会社エフアンドエム|中小総研|中小企業の冬季賞与及び インフレ手当に関する実態調査
支給方法は?
上記調査について、「インフレ手当等を支給している」との回答の内訳を見てみると、以下のようになっています。
- 恒久的な賃上げとして実施した:8%
- 賞与とは別に一時金として支給した:3%
- 特別手当等で○月までなど期間限定で支給している:1%
この調査結果では、一時金よりも恒久的な賃上げ(月額手当)を選ぶ中小企業が多いことが分かります。
長引くインフレにも対応できる点、また、通常では難しい賃金アップがかなえられる点において、従業員にとって非常にうれしい施策といえそうです。
支給額は?
同じ調査から、支給方法ごとにもっとも割合の多い支給額をひもとくと、以下のようになっています。
- 恒久的な賃上げ:5千~1万円(34%)
- 一時金:3~5万円(35%)
- 期間を定めた支給:支給期間/6か月超1年未満(47%)、支給額/5千~1万円(40%)
例えば恒久的な賃上げとして月額1万円のベースアップを行った場合、従業員1人あたりに対する企業の年間負担額は単純計算で12万円となります。
支給対象となる従業員の数にもよりますが、これは決して小さな数字ではありません。にもかかわらず多くの企業が手当支給に踏み切っている点を見ても、昨今のインフレの深刻度とともに、インフレ手当の認知度の高さがうかがえます。
「インフレ手当」を支給するメリット
インフレ手当の支給は、企業に大きなコスト増をもたらします。にもかかわらず、多くの企業が支給に踏み切るのはいったいどういった理由からなのでしょうか。
インフレ手当を支給することで企業が得られる主なメリットを紹介します。
従業員が抱く生活不安の払拭
インフレの進行は、従業員の実質的な賃金減少をもたらします。同じ金額で購入できるモノやサービスが減ることから、経済面で不安を抱く人も少なくありません。
エデンレッドジャパンが行った調査を見ても、インフレ手当の必要性について問われた一般社員のうち、実に89.3%もの人が「必要」と回答しています。
インフレ手当の支給は、実質的に目減りした給与を補填するという点において、従業員が抱く経済的不安を払拭する効果があります。
不安が払拭された従業員は、安心して仕事に打ち込めるため、おのずとパフォーマンスも向上します。引いては業務効率化や業績向上も期待できるでしょう。
インフレが従業員の生活に及ぼす悪影響を軽減し、かつ企業としての利益も期待できる点において、インフレ手当の支給は企業にとって大きなメリットのある施策といえそうです。
参考:ビジネスパーソンに聞く「インフレ手当」実態調査 |株式会社エデンレッドジャパン
従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントとは、従業員が勤務先の企業に対して抱く愛着や貢献意欲をいいます。
従業員エンゲージメントが高い企業は、従業員1人ひとりの仕事に対するモチベーションが高く、よりよいパフォーマンスを発揮します。それぞれの従業員が「会社に貢献したい」との自発的な意思を持って業務に携わるため、社内の雰囲気も良く、活気に満ちた環境が自然と整うのです。
インフレ手当の支給は、従業員に対し「会社は自分たちを大切にしてくれている」との印象を与えられる点において、従業員エンゲージメントの向上に役立ちます。
各従業員の労働意欲はますます高まり、長期的には業績の向上も期待できるでしょう。
人材の獲得・定着
出生率は低下の一途をたどり、労働人口の減少に直面する現代社会において、人材の獲得と定着は多くの企業にとって喫緊の課題です。
優秀な人材を獲得し、また長期的に在籍してもらうには、自社の一員として勤務することのメリットを打ち出し、他社との差別化を図らなければなりません。
この他社との差別化の観点からも、インフレ手当の支給は非常に有効です。特に、いまだインフレ手当を支給する企業が少数派の現状では、新規求人の際はもちろんのこと、現在、雇用している社員に対しても大きなアピールポイントとなるでしょう。
企業イメージの向上
インターネットが発達し、SNSが日常的なツールとなった近年、イメージ戦略は企業の運営や継続的な成長に欠かせない要素となりました。
同じモノやサービスを同じ価格で提供した場合、社会的なイメージがよい企業のサービスを選びたくなるのが一般的な消費者心理だからです。
その点、インフレ手当の支給は、「従業員を大切にする企業」「時勢を読み、速やかに決断を下せる企業」として、企業のイメージアップに大きく貢献する施策です。
目には見えないながら、消費者の消費行動に大きな影響を与えることができるでしょう。
「インフレ手当」支給にまつわる課題
インフレ手当の導入を検討するにあたっては、事前に知っておきたいいくつかの課題があります。スムーズな導入を実現するヒントとして確認していきましょう。
支給方法の判断が難しい
前述のとおり、インフレ手当の支給方法には「一時金」と「月額手当」の2種類があります。
このうち「一時金」は、1度きりの支給を前提とした支給方法で、ある程度のまとまった金額を支給するのが一般的です。支給時点で多額の予算が必要となるほか、インフレが想定よりも長期化した場合、「不十分な施策だった」との評価を下される可能性が否定できません。
一方「月額手当」は、毎月の給与に加算する形で行うインフレ手当の支給方法です。長期的なインフレ対策に適した支給方法ですが、インフレの収束時に支給の撤廃を行いにくく、実質的な賃上げとなる可能性が高い点を考慮しなければなりません。
また、毎月の支給は給与の改定と判断されるため、手当の支給が決まった時点で就業規則の変更や随時改訂(月額変更届)の手続きが必要になります。
いずれも一長一短であり、どちらを選ぶか慎重に検討する必要があるでしょう。
税金・社会保険料等の負担が増す
「一時金」であれ、「月額手当」であれ、現金で支給したインフレ手当は通常の賃金として扱われ、課税対象となります。
同時に社会保険料の算定対象である「報酬」にも該当することから、インフレ手当を支給した場合、企業側、従業員側双方に税金や社会保険料、雇用保険料の負担が増すと考える必要があるでしょう。
また、家族の扶養内で働いているパート従業員へインフレ手当を支給した場合、手当分の給与増が原因で扶養から外れてしまうリスクもゼロではありません。
インフレ手当の支給にあたっては、さまざまな視点から考えて支給を検討する必要があるのです。
用途を指定できない
インフレ手当は、インフレに伴う実質的な賃金の減少を補填するための施策です。
しかし、いったん支給してしまえば、それがどう使われるかについて企業側でコントロールすることはできません。嗜好品や遊興費、貯蓄等に回る可能性も十分考えられるでしょう。
特に一時金としてまとまった金額を支給した場合、自由に使える臨時収入として、旅行や大きな買い物へ全額使われてしまう可能性が否定できません。
インフレ手当本来の目的を考えると決して望ましいことではありませんが、現金で支給する以上は避けられない現実といえそうです。
課題に対応したインフレ手当「チケットレストラン」
前述の課題をすべて払拭できるインフレ手当の支給方法として、近年注目度を高めているのがエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。その特徴やメリットとはいったいどのようなものなのでしょうか。
「チケットレストラン」はどんなサービス?
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、30年以上の実績を持つ電子カード配布型の食事補助サービスです。
サービスを導入した企業の従業員は、コンビニやファミレスなど、全国の提携店舗において実質半額の食事補助を受けられます。
2023年3月にはUber Japan株式会社と業務提携し、Uber Eatsの利用も可能となりました。これにより、提携店舗数は全国約7万店舗から約25万店舗へと大幅に拡大しています。
提携店舗のジャンルが幅広いことから利用方法の自由度も高く、昼食での利用のほか、朝食やおやつを購入したり、お弁当に1品をプラスしたりといった使い方も可能です。※勤務時間内に限る
また、一般的な社員食堂のように営業時間の制限もないため、職種や勤務時間も問いません。
こうした利便性の高さから、「チケットレストラン」の導入企業は実に2,000社を超えています。全国でもっとも多く導入されている食事補助サービスが、この「チケットレストラン」なのです。
「チケットレストラン」をインフレ手当に利用するメリット
インフレ手当の支給には、前述のとおり「支給方法の判断が難しい」「税金・社会保険料等の負担が増す」「用途を指定できない」といった課題がありました。
しかし「チケットレストラン」をインフレ手当として導入する場合、これらの課題をすべて払拭することが可能です。
- 支給方法の判断が難しい:現金での支給ではないため、そもそも支給方法に悩む必要がない
- 税金・社会保険料等の負担が増す:福利厚生として利用できるため、税金や社会保険料等の対象にならない※
- 用途を指定できない:用途が食事に限定されている
*「食事に限定」「管理・証明ができる」の2つの条件が揃い、なおかつ従業員が会社からの支給額よりも多く負担している場合、従業員1人につき毎月3,500円(税別)を上限として課税対象にはなりません。
このように、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、インフレ手当に付きものだった従来の課題を一掃するサービスです。
インフレ手当の支給を前向きに考えながらも、同時に発生する課題がネックになっていた企業にとって、非常に魅力的なサービスといえるでしょう。
インフレ手当の使用用途は「食費」が最多数
前述のエデンレッドジャパンが行った調査では、「インフレ手当をどのような用途で使用したいか、または使用したか(複数回答可)」との質問に対し、最多数となる70.3%の人が「食費」と回答しています。
この結果から明らかになったのは、インフレによる実質的な賃金低下が、労働者の食費に与える影響の大きさです。光熱費や燃料費といった費用が削減しにくいぶん、食費にしわ寄せがいっている現状が表れた結果といえるでしょう。
チケットレストランの導入による食費補助は、従業員のニーズにぴったり合致するものです。従業員に喜ばれ、なおかつ効果の高いインフレ手当を支給したいと考えるなら、ぜひ検討したいサービスといえそうです。
中小企業のインフレ手当には「チケットレストラン」
インフレが収束の兆しを見せない中、従業員の生活補助としてインフレ手当の支給を検討、実施する企業が増えています。
とはいえ、一定のコストが必要な施策であることから、特に中小企業においては実施へ踏み切れずにいるケースが少なくありません。
そんな中小企業の選択肢の1つとして、近年急速に認知度を高めているのがエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
福利厚生としての食事補助サービス「チケットレストラン」をインフレ手当として活用し、従業員の生活補助に加えて従業員エンゲージメントや業績の向上を目指してみてはいかがでしょうか。