監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
インフレ給付金の最新動向を確認すると、2024年も支給している企業が複数あります。給付金を支給した企業と併せて、支給方法や支給額の傾向についても見ていきましょう。これからインフレ給付金を支給するときに役立つよう、支給するときの注意点も解説します。
インフレ給付金の最新動向
インフレ給付金を支給した、もしくは支給を予定・検討している企業は、帝国データバンクの「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」によると26.4%です。1/4の企業がインフレ給付金について、何らかの行動を起こしていると分かります。
加えて支給方法や支給額についても見ていきましょう。
参考:帝国データバンク|インフレ手当に関する企業の実態アンケート
関連記事:インフレ手当は支給するべき?支給額の相場と注意点をわかりやすく解説
インフレ給付金の支給方法
同じく帝国データバンクの「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」によると、インフレ給付金の支給を実施したもしくは予定・検討している企業のうち、一時金を選んだのは66.6%、月額手当を選んだのは36.2%でした。
一時金は短期的には大きな出費となる支給方法ですが、支給の有無をその都度判断しやすいメリットがあります。1度支給を開始すると、停止や金額の調整が難しい月額手当より、一時金を選ぶ企業が多いようです。
インフレ給付金の支給額
インフレ給付金の平均支給額は、一時金なら5万3,700円、月額手当なら6,500円です。
支給方法を一時金と回答した219社、月額手当と回答した119社の、支給額の割合もチェックしましょう。
一時金支給額 |
割合 |
1万円未満 |
11.9% |
1万~3万円未満 |
27.9% |
3万~5万円未満 |
21.9% |
5万~10万円未満 |
21.9% |
10万~15万円未満 |
9.1% |
15万円以上 |
7.3% |
月額手当支給額 |
割合 |
3,000円未満 |
26.9% |
3,000~5,000円未満 |
30.3% |
5,000~1万円未満 |
30.3% |
1万~3万円未満 |
11.8% |
3万円以上 |
0.8% |
一時金なら5万円以上、月額手当なら1万円以上支給すると、手厚いインフレ給付金を支給している企業として他社との差別化につながると考えられます。
関連記事:【社労士監修】インフレ手当の相場はいくら?支給の現状と実際の支給事例を多数紹介!
2024年にインフレ給付金を支給した企業
2024年に入ってから、インフレ給付金を支給した企業についてもチェックしましょう。今回紹介するのは以下の3社です。
- 株式会社ホープ
- シンニチ工業株式会社
- 株式会社ユーザーローカル
株式会社ホープ
自治体に特化したサービスを提供している株式会社ホープでは、2023年に引き続き、2024年にも「インフレ特別手当」という名称のインフレ給付金を支給しています。
支給されたのは2024年4月26日の支給日に正社員として在籍していた148人の従業員です。2023年4月~2024年3月の勤務期間をもとに算定された1人あたり最大8万8,888円が支給されました。
シンニチ工業株式会社
自動車や建築などに用いられるパイプの製造販売を手がけているシンニチ工業株式会社では、2024年1月22日に2度目のインフレ給付金を支給しています。
対象は2024年1月1日時点で在籍している全従業員です。この従業員の中にはパート勤務も含みます。
支給額は一律8万5,000円と、一時金の支給額としても高水準でした。
参考:NIKKEI COMPASS|インフレ特別手当を支給しました[シンニチ工業]
株式会社ユーザーローカル
ブックデータ分析システムやAIシステムなどの研究開発・提供などを行っている株式会社ユーザーローカルでは、2024年3月の支給日に在籍している全ての従業員に対して、インフレ給付金を支給しました。
支給額は10万円(試用期間は5万円)です。これまでにも複数回のインフレ給付金を支給してきましたが、物価高騰による影響を緩和する目的で、さらなる支給を決定したそうです。
参考:株式会社ユーザーローカル|株式会社ユーザーローカル、全社員に対して「インフレ手当」を支給
インフレ給付金を支給するときの注意点
インフレ給付金を支給するときには、手続きが必要になることや、給付金の支給額以外にもかかるコストがあること、雇用形態の違いに配慮が必要なことなどを押さえておかなければいけません。注意点の内容を解説します。
税金や社会保険の対象となる
従業員に支給するインフレ給付金は給与とみなされます。給与が上がれば、従業員の負担する税額や社会保険料額も上がるため、実質的な手取り額が思ったほど上がらないと感じる従業員もいるでしょう。
また従業員の健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料の半分は企業が負担します。インフレ給付金にかかる費用に加えて、社会保険料の負担が増えることも見越して支給額を決めなければいけません。
同一労働同一賃金に配慮する必要がある
インフレ給付金を支給するときには、同一労働同一賃金にも配慮が必要です。例えば「正社員のみに支給する」という場合には、不合理な待遇者が発生する可能性があります。雇用形態による待遇差が発生しない制度設計が必要です。
関連記事:「同一労働同一賃金」の"おかしい"現状|日本と海外の違いから解説
就業規則の変更が必要となる
インフレ給付金を月額手当として支給する場合には、就業規則の変更も必要となります。就業規則に記載する項目は大きく分けて、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項・任意的記載事項の3種類です。
3種類のうち絶対的必要記載事項は、就業規則に必ず含めなければいけない項目で、労働基準法第89条に定められています。
賃金に関する項目は絶対的必要記載事項の1つのため、インフレ給付金を月額手当として支給するときには必ず変更しなければいけません。従業員規模によっては、労働基準監督署への書類提出も必要です。また、一時金として支給する場合も「臨時の手当」に該当するため、就業規則に記載しておく必要があります。
今後の支給有無や条件が不確定な場合は、『物価上昇の動向を鑑み、インフレ給付金として、臨時の手当を支給する場合がある。支給条件等については、都度書面をもって周知する。』等の文言しておくとよいでしょう。
割増賃金の負担が増える
月額手当でインフレ給付金を支給するときには、割増賃金に影響することも押さえておきましょう。企業は従業員の時間外労働や休日労働・深夜労働に対して、定められた割増賃金を支払わなければいけません。
インフレ給付金を月額手当として支給する場合には、割増賃金の基礎となる賃金にインフレ給付金も含まれます。その分、割増賃金のコストが上がることにも考慮が必要です。
インフレ給付金には福利厚生も検討を
インフレ給付金の最新動向をチェックすると、企業の1/4ほどが支給した、もしくは支給を予定・検討しています。実際に2024年にも、インフレ支給している企業が複数存在します。
ただしインフレ給付金を支給するときには、制度設計やかかるコストに注意が必要です。あらかじめ考慮しておかなければ、同一労働同一賃金への配慮が不十分になることや、見込みより多くのコストがかかることもあるでしょう。
また従業員の暮らしにかかる費用をサポートする福利厚生で、インフレ対策をすることも検討するとよいでしょう。例えば食事補助であれば、定められた要件を満たすことで、支給しても給与とみなされません。
税金や社会保険に影響せず、実質的な手取り額を増やせる方法です。手間を抑えつつインフレ対策に役立つ福利厚生を導入するなら、エデンレッドジャパンの提供する食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を検討するとよいでしょう。