2024年の春闘では非正規雇用にも賃上げが広がっています。実際に非正規雇用の従業員に賃上げを実施した企業はどのくらいあるのでしょうか?一覧で確認してみましょう。また非正規雇用の賃上げの現状や、年収の壁による働き控えを避けながら賃上げにつなげられる福利厚生についても解説します。パートやアルバイトの待遇改善を考えている場合に役立つ取り組みをチェックしましょう。
非正規雇用の賃上げをした企業一覧
非正規雇用の従業員に対して賃上げを実施した企業はどのくらいあるのでしょうか?パートやアルバイトなど非正規雇用の従業員へ賃上げを実施した企業の中から、以下の5社について紹介します。
- イオングループ
- ウエルシアホールディングス
- スギホールディングス
- 上新電機
- ダイキン工業
イオングループ
イオン・サンデー・まいばすけっとなどさまざまな業態の小売店を展開しているイオングループでは、約40万人のパート・アルバイトが働いています。
2024年春から、イオングループでは非正規雇用の従業員に7%の賃上げを実施しました。7%の賃上げは2年連続です。
思い切った賃上げが実施された背景には、イオングループの労働組合の組合員数のうち80%以上がパートであることと関係しています。
ウエルシアホールディングス
ウエルシア薬局をはじめとするドラッグストアを中心に展開しているウエルシアホールディングスでは、2024年の春闘において、非正規雇用従業員の時給を7.95%賃上げすることで妥結しています。
非正規雇用の従業員に対する賃上げは2023年の春にも8.77%で実施済みです。
スギホールディングス
スギ薬局を展開しているスギホールディングスは、非正規雇用の従業員に対して、6.93%の賃上げを実施しています。産業別労働組合UAゼンセンが目標としていた6%を上回る賃上げ率での妥結でした。
上新電機
家電の販売を行っている上新電機は、2024年の春闘で、非正規雇用の従業員の時給を6.19%賃上げすることに決定しています。
賃上げによる人的資本投資により、従業員の経営への参画を促し、企業価値を高めて経営理念を実現していく意図による賃上げです。
ダイキン工業
ダイキン工業は2023年7月に、国内勤務の非正規雇用従業員に対する時給の賃上げを行っています。賃上げ額は一律100円です。1日8時間勤務すると1カ月で1万6,000円となり、正社員と同等程度の賃上げ額となります。
業績が好調な中、従業員の士気を高める目的で実施された賃上げです。
非正規雇用の賃上げが進みにくい背景
非正規雇用の従業員の賃上げが、正社員の賃上げと比べて進みにくいのには理由があります。賃上げがなかなか進まない背景を見ていきましょう。
推定組織率が低い
日本で賃上げを目指すときには、労働者が主体となって組織している労働組合が団結し、企業へ賃上げの要求や交渉を行います。この労働組合の組合員の雇用形態を見ると、正社員が多数派です。
厚生労働省の「令和5年労働組合基礎調査の概況」によると、非正規雇用の従業員が参加する労働組合数を雇用者数で割った推定組織率は8.4%と低い割合となっています。
この数値から、非正規雇用の労働者が参加している労働組合が、非常に少ない状況であると分かります。賃上げの要求や交渉をしたいと考えたとしても、非正規雇用の従業員にとっては正式な窓口が極めて少ない状況です。
個人で賃上げを求めることもできますが、力関係で不利になりやすく、実現までのハードルは高いでしょう。
組合への参加が限定的
厚生労働省の「令和5年労働組合基礎調査の概況」によると、非正規雇用にあたるパートタイム労働者の組合員数は以下のように推移しています。
年 |
非正規雇用の組合員数 |
全組合員数に占める非正規雇用の割合 |
2019年 |
133万3,000人 |
13.3% |
2020年 |
137万5,000人 |
13.7% |
2021年 |
136万3,000人 |
13.6% |
2022年 |
140万4,000人 |
14.1% |
2023年 |
141万人 |
14.3% |
2019年以降、全体としては増加傾向ではありますが、それでも労働組合の全組合員に占める非正規雇用の割合は14.3%です。産業別に見ると、製造業で26.6%、卸売業・小売業では15.5%と14.3%を超えていますが、その他の産業は全て10%に届きません。
さらに連合総研の「非正規で雇用される労働者の働き方・意識に関するアンケート調査」では、組合員のうち62.4%が、組合活動へ「まったく参加していない」と回答しています。
非正規雇用では働く時間や曜日が不規則なことや、労働組合との接点を持ちにくいことから、組合活動に参加しにくいといった事情があるようです。
実際に活動している組合員が正社員中心では、非正規雇用の賃上げは反映されにくいでしょう。結果として、組合員がいたとしても、非正規雇用の賃上げには直結しにくいのが実情です。
参考:厚生労働省|令和5年労働組合基礎調査の概況
参考:連合総研:―「非正規で雇用される労働者の働き方・意識に関するアンケート調査」結果―
非正規春闘の流れ
これまで春闘は正社員中心の労働組合で行われてきました。ただしこれでは、正社員の賃上げは実現しても、非正規雇用のパートやアルバイトの賃上げはなかなか行われません。そこで2023年に入って宣言されたのが非正規春闘です。
物価高による食品・日用品・光熱費などの値上がりは、低所得層に特に大きな影響を与えます。家計に占める必需品にかかる費用の割合が高くなりやすく、生活が苦しくなりやすいためです。
厚生労働省の「「非正規雇用」の現状と課題」を見ると、非正規雇用で働く従業員と正社員の平均賃金は、以下のように非正規雇用の従業員の方が低い水準であると分かります。
雇用形態 |
平均賃金 |
一般労働者(正社員・正職員) |
2,014円 |
短時間労働者(正社員・正職員) |
1,900円 |
一般労働者(正社員・正職員以外) |
1,407円 |
短時間労働者(正社員・正職員以外) |
1,392円 |
非正規雇用で働く従業員の生活が、物価高により苦しくなってきている状況から、2023年に非正規春闘の開始が宣言されました。
非正規春闘とは
非正規春闘は個人加盟労組(ユニオン)による活動です。ユニオンは企業を問わず個人で加盟できます。勤務先の企業へ賃上げを要求したいけれど労働組合がないという場合には、ユニオンを通して交渉できる仕組みです。
このユニオンが連携し、非正規春闘に取り組んでいます。2023年には36の企業と交渉を行い、16社で賃上げが実現しました。
非正規春闘では、賃上げの相談を受け付け、春闘交渉へつなげる取り組みに力を入れています。ユニオンへの相談により、誰でも非正規春闘に参加可能です。
2024年春闘での動き
2024年の非正規春闘では、120の企業に対して10%以上の賃上げを要求しました。交渉の中でストライキの実施も発表しています。
また賃上げによる経済の好循環を実現するには、非正規雇用の従業員に対する賃上げが必要という見方が広がってきました。
その結果、日本労働組合総合連合の「~2024 春季生活闘争 第4回回答集計結果について~」で春闘の結果を見ると、非正規雇用の時給に対する回答は、加重平均で66.44円の賃上げとなっています。
参考:日本労働組合総合連合|~2024 春季生活闘争 第4回回答集計結果について~
関連記事:【非正規春闘2024】非正規労働者の賃上げに有効な対策と福利厚生
非正規雇用の賃上げによるメリット
非正規雇用の賃上げを行うにはコストがかかります。コストをかけて取り組むことで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?賃上げのメリットをチェックしましょう。
従業員のモチベーションアップ
賃上げは従業員のモチベーションアップにつながります。例えば賃上げにより時給が60円上がると、1日5時間勤務なら300円給与が上がる計算です。1カ月に20日間勤務していれば、6,000円収入が増えます。
ただし賃上げによるモチベーションアップは、長期間続くものではありません。定期的な昇給に加え、明確な評価制度を整えることで、従業員の「頑張って給与アップを目指そう」という意欲を引き出せます。
意欲的な従業員が増えれば、仕事への取り組み方が変わっていき、効率的に成果が上がりやすくなるでしょう。業績アップにもつながることが期待できます。
人材不足の解消
少子高齢化の進行により、15~64歳の生産年齢人口はこれからますます減少していきます。このような状況下では、事業の運営に必要な人材の採用や定着がスムーズに進まないこともあるでしょう。
例えば同業他社が自社より高い時給でパートやアルバイトを募集していれば、自社への応募は集まりにくくなります。現時点では自社で勤務している従業員も、より時給の高い同業他社で働くために退職するかもしれません。
賃上げにより人材の採用や定着を計画的に進めやすくなります。
非正規雇用の賃上げによるデメリット
非正規雇用の賃上げは、企業にとってメリットとともにデメリットももたらします。具体的にどのようなデメリットがあるのでしょうか?
コストの増大
賃上げは企業の負担するコストの増加につながります。60円の時給アップであっても、従業員が100人いれば6,000円です。全員が1日に5時間働くなら、1日につき3万円のコスト増となります。全員が1カ月に20日間勤務する場合、給与の支給額は60万円増える計算です。
経営状況が思わしくない企業にとっては、大きな出費となります。
パート・アルバイトの働き控え
賃金アップにより、扶養範囲内での勤務を希望するパートやアルバイトの働き控えが生じる可能性もあります。従業員数101人以上の企業に勤務し、以下の要件を満たすパートやアルバイトは、自ら社会保険へ加入しなければいけません。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8万8,000円以上
- 2カ月を超えて雇用する見込みがある
- 学生ではない
社会保険へ加入すると、将来の年金額を増やせるといったメリットがある半面、毎月の給与から社会保険料が天引きされるため手取り額が減ります。手取りの減少を避けるには年収106万円(月額8万8,000円)に収まるよう勤務を調整しなければいけません。
時給1,000円であれば1カ月に88時間まで勤務できますが、時給1,060円なら83時間までに抑える必要があります。1カ月に5時間、1年間に60時間、働き控えが発生する可能性があります。
パートやアルバイトのほとんどが働き控えると、人手不足が発生しかねません。
デメリットへの対策
賃上げによるコスト増や従業員の働き控えへ対策できるよう、税額の控除や助成金の制度が用意されています。制度を活用することで、デメリットを解消しながら賃上げを実施可能です。
デメリットの対策が可能な、賃上げ促進税制とキャリアアップ助成金について解説します。
賃上げによるコスト増への対策「賃上げ促進税制」
前年度と比べて賃上げした中小企業者が、増加額の一部を税額から控除できるのが賃上げ促進税制です。「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」によると、給与の増加額のうち最大40%を、法人税額もしくは所得税額から控除できます。
通常要件に加え上乗せ要件を満たすことで、以下のように控除割合が上がる仕組みです。
税額控除の適用要件 |
法人税額もしくは所得税額の控除割合 |
通常要件:給与が前年度より1.5%以上増加 |
15% |
上乗せ要件1:給与が前年度より2.5%以上増加 |
30% ※15%上乗せ |
上乗せ要件2:教育訓練費が前年度より10%以上増加 |
40% ※10%上乗せ |
参考:経済産業省・中小企業庁|中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック
関連記事:賃上げ促進税制の基本を分かりやすく解説!別表記載時の注意点も
働き控えへの対策「キャリアアップ助成金」
パートやアルバイトが年収106万円を超え、自ら社会保険へ加入することを避けるために働き控えることを「106万円の壁」といいます。
106万円の壁による働き控えに対策するには、キャリアアップ助成金の「社会保険適用時処遇改善コース」を活用するとよいでしょう。
「手当等支給メニュー」「労働時間延長メニュー」「併用メニュー」の3つのメニューがあり、対象となる従業員1人当たり最大50万円の助成金を受け取り可能です。
厚生労働省の「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース」を参考に、助成金について見ていきましょう。
メニュー |
要件 |
1人当たりの支給上限額 |
手当等支給メニュー |
●1年目:社会保険適用促進手当などとして賃金の15%以上分を従業員へ追加支給すること ●2年目:社会保険適用促進手当などとして賃金の15%以上分を従業員へ追加支給するとともに、3年目以降に以下の取り組みを行うこと ●3年目:基本給を18%以上増額すること。 ※労働時間延長との組み合わせも可能 |
●1年目:10万円×2回 ●2年目:10万円×2回 ●3年目:10万円×1回 |
労働時間延長メニュー |
以下のいずれかの取り組みを6カ月継続すること ●週所定労働時間の延長4時間以上 ●週所定労働時間の延長3時間以上4時間未満・賃金5%以上増額 ●週所定労働時間の延長2時間以上3時間未満・賃金10%以上増額 ●週所定労働時間の延長1時間以上2時間未満・賃金15%以上増額 |
30万円 |
併用メニュー |
●1年目:社会保険適用促進手当などとして賃金の15%以上分を従業員へ追加支給すること ●2年目:労働時間延長メニューの要件を満たすこと |
50万円 |
また対象となる従業員の要件は以下の通りです。
メニュー |
要件 |
手当等支給メニュー |
・社会保険加入日から1年経過時点で労働時間の延長ができる見込みである |
労働時間延長メニュー |
・社会保険加入日から2カ月以内に週所定労働時間を一定時間延長できる |
併用メニュー |
・社会保険加入日から最長2年間の手当等の支給後の働き方について労使で話し合う予定がある |
2023年10月~2025年度末までに、対象となる従業員に社会保険を適用し、メニューごとの要件を満たすことで受け取れます。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース
関連記事:【社労士監修】年収の壁対策はキャリアアップ助成金を活用!待遇改善に役立つ福利厚生も
福利厚生を活用する賃上げの方法
パートやアルバイトなどの非正規雇用の従業員に対して、時給アップといった形で賃上げをすると、社会保険への加入を避ける目的で働き控えが発生する可能性があります。このような課題により「賃上げしたいけれど思うほど上げられない」といった企業もあるでしょう。
この課題の解決には福利厚生も役立ちます。福利厚生を活用することで、給与額を増やさずに実質的な手取り額を上げる方法をチェックしましょう。
支給しても給与とならない福利厚生がある
企業が福利厚生の一環として独自に支給する手当は、原則として基本給の他に支払われる賃金の一種と考えられています。能力や仕事内容などの条件を満たす従業員のみに支給する賃金です。そのため給与に含まれますし、従業員の負担する所得税の対象でもあります。
ただし中には、要件を満たすと給与として扱われない以下の手当もあります。これらの手当を支給することで、給与を上げすぎることなく非正規雇用の待遇アップが可能です。
- 通勤手当
- 出張手当
- 宿直手当
- 在宅勤務手当
- 資格取得手当
- 食事手当
106万円の壁を意識して働いている非正規雇用の従業員の働き控えを避けつつ、待遇改善が可能な方法といえます。
所得税非課税で待遇改善を実感しやすい
年収103万円以上の場合、所得税がかかります。賃上げの実施により、年収が103万円を超えると、新たに所得税を負担することになる非正規雇用の従業員が出てきます。また以前から所得税を負担していた従業員は税額が増えるでしょう。
賃上げにより給与が増えているはずなのに「変化を感じられない」「手取りが減った」という従業員は少なくありません。
一方、非課税の要件を満たし、福利厚生の一環として手当を支給する場合、所得税額は支給が始まる前と変わりません。税額の負担が増えない分、従業員は待遇改善を実感しやすいでしょう。
非課税の要件を満たす食事手当を、手間なくスピーディーに導入できる「チケットレストラン」を運営しているエデンレッドジャパンでは、福利厚生による待遇改善を「第3の賃上げ」と定義しました。
第1の賃上げである定期昇給、第2の賃上げであるベースアップとともに、第3の賃上げを活用することで、税額を増やすことなく実質的な手取り額を上げられます。
関連記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
福利厚生による賃上げには「チケットレストラン」がおすすめ
福利厚生による待遇改善で、実質的な手取り額を上げる賃上げを行うには、定められている要件を適切に満たさなければいけません。企業が要件を満たしつつ独自に福利厚生を導入するには、手間がかかりすぎることがあるでしょう。
そこでおすすめなのが、エデンレッドジャパンの食事補助サービス「チケットレストラン」です。所得税が非課税となる要件を満たしているサービスのため、企業は導入するだけで構いません。
第3の賃上げに役立つ、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」について解説します。
従業員が公平に利用できる
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、全従業員が公平に利用可能な福利厚生サービスです。全国にある25万店舗以上の加盟店で食事を購入できるため、雇用形態や勤務場所に限らず利用できます。
従業員のコミュニケーション促進につながる
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」の導入によって、食事をきっかけに従業員のコミュニケーションが活発になった事例があります。
中城建設株式会社では「チケットレストラン」を導入したあと、連れだって食事をしにいく従業員が増えているそうです。休憩時間は比較的静かに過ごす従業員が多かったそうですが、会話が弾む姿が目立つようになってきています。
MIRAI station株式会社でも「チケットレストラン」は良好なコミュニケーションにつながっているそうです。食事代の一部をサポートすることで余裕が生まれ、従業員同士が気軽に食事に誘い合えるようになりました。
関連記事:中城建設株式会社
関連記事:MIRAI station株式会社
手間をかけずに導入できる
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、導入や運用にかかる手間が少ないのも特徴です。導入時には、契約後に届くICカードを従業員に配布すれば完了します。専用ソフトのインストールといった作業は必要ありません。
その後の運用で行うのは、1カ月に1回のチャージ作業のみです。少ない手間で利用できるため、担当者の負担を増やさずに導入できます。
非正規雇用の賃上げには福利厚生も活用を
非正規雇用の賃上げに取り組む企業が増えてきています。これまで賃上げは正社員中心の取り組みでしたが、続く物価高を受け、非正規雇用の賃上げも重視されている状況です。非正規春闘も始まり、労働組合がない企業に対しても賃上げを要求できるようになりました。
ただし賃上げにより給与が上がると、扶養範囲内での勤務を希望している非正規雇用の従業員は、扶養を抜けてしまう可能性があります。このとき要件を満たすと所得税が非課税となる福利厚生を活用すると、扶養範囲内を維持しつつ待遇改善が可能です。
賃上げを実施するときには、定期昇給やベースアップとともに、福利厚生を活用しましょう。食事手当として支給できるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」がおすすめです。