監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
第3号被保険者制度に対しては、女性の就労を阻害する要因といった指摘が以前よりされていました。少子高齢化による人口構造の変化により、労働力の不足が大きな課題だからです。
このような社会構造の変化により、第3号被保険者を減らす動きが見られます。本記事では、第3号被保険者制度について、制度の背景と影響、今後の展望を詳しく解説します。
第3号被保険者制度とは
第3号被保険者制度は、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている配偶者を対象とした制度です。主に以下の条件を満たす人が該当します。
- 年収が130万円未満
- 配偶者の年収の2分の1未満
※だたし、同居・別居の別や収入状況によって認定基準が異なります。
第3号被保険者制度の特徴は、第3号被保険者本人は保険料を負担せず、第2号被保険者全体で負担する仕組みであることです。つまり、第3号被保険者は個別に保険料を納めません。主に専業主婦(主夫)やパートタイム就労の配偶者が制度の対象となっています。
出典:日本年金機構|第3号被保険者
関連記事:【社労士監修】専業主婦の年金はいくらもらえる?離婚や死亡、3号廃止?縮小?での変更点も解説
第3号被保険者制度廃止の可能性含め縮小化が検討される背景
扶養されている配偶者のライフセーバーとも捉えられる第3号被保険者制度ですが、縮小傾向にある背景には、以下のような要因があります。それぞれ見ていきましょう。
1.公平性の確保
第3号被保険者制度において、保険料を負担していない第3号被保険者は老齢基礎年金を受給できます。保険料を負担している単身世帯や共働き世帯からすると「ずるい」などと捉えられることがあり、不公平感が生じているようです。同じ配偶者であっても、自営業者の配偶者は第3号被保険者になれないことも、不公平感を助長しています。
2. 「106万円の壁」による就労調整問題
政府は、年収106万円を超えると社会保険料負担が発生する社会保険制度の改正を順次進めています。就労している第3号被保険者の多くが就労時間を調整しているのは、106万円を超えないためです。働き控えは、労働力不足の一因となっており、「106万円の壁」問題と呼ばれています。もし第3号被保険者制度がなければ、就労調整をする理由はありません。
3.社会構造の変化
第3号被保険者制度は、昭和61年4月に開始されました。現在、創設から約40年弱経過し、共働き世帯や単身世帯が増加するなど、社会構造が大きく変化しています。専業主婦(主夫)を前提とした制度は令和の時代にはそぐいません。第3号被保険者制度は、女性の社会進出を阻害する要因の一つとも指摘されています。
総務省統計局の調査結果を元に作成した令和4年版厚生労働白書「共働き等世帯数の年次推移」では、「男性雇用者と無業の妻からなる世帯」の減少と、「雇用者の共働き世帯」の上昇が顕著です。
出典:厚生労働省 |令和4年版 厚生労働白書 共働き等世帯数の年次推移
第3号被保険者制度の廃止の可能性は?縮小化の実態は?
第3号被保険者制度について、これまでに以下のような動きがあります。
- 2023年9月:社会保障審議会年金部会で第3号被保険者制度のあり方を議論する必要性を確認し、社会保険の適用拡大の方向性で見直し
- 2024年10月:社会保険の適用拡大により、第3号被保険者の減少が見込まれる
- 2025年〜:第3号被保険者制度の対象者の縮小化が進む
厚生労働省の社会保障制度改革に関する議論を行う社会保障審議会では、第3号被保険者制度の対象者を減らしていくべきという意見が相次いでいます。将来的には、廃止というよりも社会保険の適用拡大により、第2号被保険者を増やし第3号被保険者を徐々に減らす動きになると考えられます。
参考:厚生労働省|第7回社会保障審議会年金部会(議事録)
参考:厚生労働省|従業員数100人以下の事業主のみなさまへ 社会保険適用拡大ガイドブック
仮に第3号被保険者制度が廃止になったらどうなるか?
現在の方向性としては、直ちに第3号被保険者制度が廃止になることはないと考えられますが、社会保障審議会年金部会の議論でも廃止すべきといった声も上がっています。しかしながら、もともと、女性の労働が一般的とは言えなかった時代に、女性が年金制度に加入するための救済措置として設けられたことを考えると、「廃止されたら困る」ケースも多いでしょう。ここでは、将来的な可能性を視野に入れ、第3号被保険者制度が仮に廃止になったらどうなるか確認します。
△保険料負担が発生する
仮に廃止された場合、現在の第3号被保険者も保険料を負担することになります。令和6年度(令和6年4月~令和7年3月まで)の国民年金保険料は月額16,980円です。社会保険適用拡大の対象にならない場合、年間で約20万円の負担増となる可能性があります。社会保険の適用対象となる場合は、月額給与により、保険料が異なります。保険料は労使折半となりますが、負担が増えることは避けられません。
出典:日本年金機構|年金Q&A 国民年金の保険料はいくらですか。
△家計への影響がある
突然の保険料負担増は、多くの家庭の家計を圧迫するでしょう。とくに、低所得世帯への影響は大きいと考えられます。
◎就労促進効果が期待できる
一方で、「106万円の壁」がなくなることで、より自由度の高い就労の実現が期待されています。労働力不足の緩和にもつながる可能性があるでしょう。
◎年金額が増えや給付金も受け取れる
被用者年金に加入し、第2号被保険者となった場合は、元々第3号被保険者だった方の年金が2階建てとなります。受け取れる年金額が増える、傷病手当金や出産手当金が受け取れる、といったメリットがあります。
出典:厚生労働省|社会保険加入のメリット
「在職老齢年金制度」と「第3号被保険者制度」の関連性
第3号被保険者制度の縮小のように、制度の見直しという視点で注目されているのが「在職老齢年金制度」です。在職老齢年金とは、在職(厚生年金保険に加入)しながら受ける老齢厚生年金のことを言います。
在職老齢年金制度では、受給されている老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額に応じて年金額が支給停止となる場合があります。具体的には、以下のケースです。
- 基本月額と総報酬月額相当額との合計額が50万円を超える場合、次の金額となる。
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当-50万円※)÷2
出典:日本年金機構|在職老齢年金の計算方法
なお、令和5年は48万円でしたが、令和6年より50万円を上回ると、年金支給額が削減されるように金額変更されました。
在職老齢年金制度については、この制度があるために、シニア世代の就業意欲を抑制し、結果として労働力不足を加速させているという指摘があります。令和6年財政検証の結果の概要でも、年金制度の前提を変えた場合を検証するオプション試算において、在職老齢年金制度を撤廃したケースが取り上げられました。
在職老齢年金制度の見直しは、高齢者の就労を促進し、人材不足の緩和につなげるためのものです。しかし、撤廃した場合、働く年金受給者の老齢厚生年金給付額に影響はなくなるものの、将来の受給世代の給付水準が低下することになり、検討が必要です。
出典:厚生労働省|令和6年度の年金額改定についてお知らせします
出典:厚生労働省社会保障審議会年金部|令和6年財政検証の結果の概要
参考:HRpro|2024年度の「在職老齢年金」は調整額が50万円に変更。給与・賞与と年金額との調整計算はどう変わる?
女性の社会進出を促進する制度改革の必要性
第3号被保険者制度の見直しは、女性の社会進出を促進する上でも重要です。現行制度はいわゆる専業主婦を前提としており、主に女性の就労を抑制する要因となっています。政府は2023年10月から、「106万円の壁」問題への対応として、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の手続きを開始しました。この制度では、事業主が新たに労働者に社会保険を適用した場合、労働者1人あたり最大50万円が助成されます。
しかし、これはあくまで暫定的な対応策です。抜本的な解決には、第3号被保険者制度の見直しを考える必要があるでしょう。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)
関連記事:【社労士監修】年収の壁を乗り越える!「社会保険適用時処遇改善コース」とは
高齢者の定義変更と年金制度への影響
年金制度の見直しに関する重要な議論として、高齢者の定義変更についても紹介します。2024年5月23日に開催された経済財政諮問会議では、次のような興味深い指摘がありました。
- 健康寿命の延伸を踏まえ、政府の高齢者の定義を5歳引き上げることを検討すべき
根拠として、日本では健康寿命が延びていて、就労意欲の高い65歳以上が増えていることが指摘されました。
現在、高齢社会白書などを代表に、政府は65歳以上を高齢者とし、高齢化率などを計算しています。世界保健機関(WHO)も同様の定義を採用しています。しかし、この定義が制定された昭和57年当時(現在の約40年前)と比べ、現在では以下のように状況が変わりました。
- 昭和57年(1982年):65歳以上の高齢者の割合は全体の10%未満
- 令和5年(2023年):65歳以上の高齢者の割合は29.1%
雇用や年金支給の面では、既に高齢者の年齢が事実上引き上げられています。令和3年4月1日から施行された改正高年齢者雇用安定法では、事業者に65歳までの雇用確保が義務付けられ、70歳までの就業確保が努力義務となりました。
高齢者の定義の変更は、年金制度全体に大きな影響を与える可能性があり、とくに、基礎年金の拠出期間延長と給付増額に関する議論には、直接関わると考えられます。
出典:NRI|コラム 年金制度の安定性・信頼性を高める改革への期待:「在職老齢年金制度」、「第3号被保険者制度」の見直しで人手不足緩和も
参考:内閣府|令和6年第6回経済財政諮問会議 誰もが活躍できるウェルビーイングの高い社会の実現に向けて①
参考:内閣府|令和6年度版 高齢社会白書 第1章 高齢化の状況
福利厚生が人材確保の救世主に?食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」
第3号被保険者制度の見直し、縮小化が検討されている今、企業の人事戦略は転換期を迎えています。社会保険適用拡大や労働時間管理の見直しが求められることで、人材確保・定着が重要課題となっているためです。
このような状況下で注目されているのが、食事補助を中心とした福利厚生の強化です。エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」のような、全国25万店舗以上で使える食事補助の福利厚生サービスは、従業員の日常生活を直接サポートし、満足度向上に大きく貢献します。人気のファミレスやカフェなどを従業員食堂のように利用できる利便性は、従業員から高く評価され、継続率99%、利用率98%、満足率93%です。すでに3,000社を超える企業への導入実績を誇ります。
食事補助には、従業員の健康管理支援、コミュニケーション活性化、採用競争力の強化といった多面的なメリットがあります。制度変更に伴って、より柔軟な働き方が可能になり、多様な労働形態を支援する福利厚生として、食事補助は効果的な選択肢になるでしょう。
企業は変化する労働環境に応じて、年金制度のように、福利厚生も時代に応じて見直しが求められています。食事補助の導入は、従業員の生活支援と企業の競争力強化を両立できる人材戦略として、注目されています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
第3号被保険者制度の行方と今後の注意点
第3号被保険者制度の見直しは、日本の社会保障制度と労働市場に大きな影響を与える可能性があります。企業は制度変更に適切に対応しつつ、新たな人材戦略を模索する必要があるでしょう。エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を代表とする食事補助の福利厚生サービスは、従業員の生活支援と企業の競争力強化を両立する効果的な選択肢として注目されています。変化する制度や労働環境に応じて、福利厚生制度も柔軟に進化させていきませんか。