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【社労士監修】ベア(ベースアップ)とは?定期昇給との違いや実施状況を解説

2023.11.02

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監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

ベア(ベースアップ)とは基本給を一律に引き上げることです。定期昇給をはじめとする、その他の昇給とはどのように違うのでしょうか?近年の実施状況や、採用活動への影響もチェックしましょう。自社の待遇改善や人材の定着率アップに役立つ内容です。

ベア(ベースアップ)とは何か

全従業員の基本給を一律に引き上げることをベースアップといいます。省略した呼び方が「ベア」です。

ベアを行う場合、一部の従業員の基本給のみ上げたり、能力や役職によって昇給率を変えたりはできません。3%と決めたなら、全社員一律で3%昇給させます。

基本給25万円の従業員なら3%ベースアップで基本給が25万7,500円に、基本給30万円の従業員なら30万9,000円になる計算です。

基本給は1度上げると、簡単に下げることはできません。ベースアップ後の撤回は労働契約法第9条の不利益変更にあたるため、慎重に実施する必要があります。

また基本給は時間外手当やボーナス・退職金にも影響を与えます。毎月支給する給与額が上がることに加え、その他の支給額が変わることも考慮しておかなければいけません。

ベア(ベースアップ)の目的

企業がベアを行うのは、従業員への還元と、生活の保障という側面があります。市場が活発で企業の経営状況が好調なときにベアを実施しなければ、従業員は「頑張っても自分の生活は変わらない」とやる気を失いかねません。

高いモチベーションで仕事に臨む従業員が減れば、生産性が落ち、質や生産数が落ちる事も考えられます。好調だった業績が悪化することも考えられるでしょう。

また従業員の生活の質が下がらないよう、物価上昇に合わせてベアを実施するという目的もあります。物価が上がっているにもかかわらずベアを実施しないでいると、基本給が変わっていなくてもお金の価値が目減りするためです。

これまでと同程度の価値の基本給を従業員へ支給するには、少なくとも物価上昇率と同じだけのベアが必要です。

ベア(ベースアップ)の昇給率は春闘で決まる

ベアの昇給率は春闘で決まります。春闘は労働組合が毎年春に行う闘争です。企業に対し、賃上げや労働条件の改善を求めます。

毎年2月ごろから交渉が始まり、業績や社会全体の経済状況によって、労働組合の要求がそのまま実現することもあれば、条件を下げて実現することや、実現しないこともあります。

労働組合のない企業でも、春闘の結果を受けた企業が実施した賃上げや労働条件の改善を考慮し、処遇改善を行うケースがあるでしょう。

関連記事:物価高で中小企業の賃上げが実現する?2023春闘結果と企業事例

ベア(ベースアップ)以外の昇給は6種類

従業員の基本給を一律で上げるベア以外にも、昇給は以下の6種類あります。

  • 定期昇給
  • 臨時昇給
  • 自動昇給
  • 考課昇給
  • 普通昇給
  • 特別昇給

「定期昇給」とは「毎年4月に昇給」「毎年4月・10月に昇給」というように、1年に数回の昇給が定期的に行われることです。国内では定期昇給を実施している企業を多く見かけます。

ただし、ベースアップとは異なり、必ず昇給が必要とは限りません。毎年決まったタイミングに給与が上がるチャンスを設け、条件をクリアしていれば昇給する、といった制度です。昇給に業績が関係する企業もあります。

「臨時昇給」は定期昇給と異なり時期が設けられていません。業績が好調なときに行うことや、成績優秀な従業員に対して行うことがあります。

「自動昇給」では昇給は年齢や勤続年数に応じて社内規程どおりに行われます。実績や能力は反映しません。

「考課昇給」は自動昇給とは反対に実績や能力を評価する昇給の仕組みです。日々の働きが給与につながるため、モチベーションアップに役立つといわれています。ただし従業員一人ひとりの査定が必要で手間とコストがかかる点はデメリットです。

また技能が上がったことによる昇給を「普通昇給」、特殊な業務へ従事したり特別な功労のあった従業員へ行う昇給を「特別昇給」といいます。

ベア(ベースアップ)の現状

厚生労働省の「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」をもとに、ベアの現状も確認していきましょう。2022年中にベアを行った・行う企業の割合は、以下の表のとおりです。

2021年と比べると2022年は、管理職・一般職ともに、「ベアを行った・行う企業」の割合が高まり、「ベアを行わなかった・行わない企業」の割合は低下しています。

「ベアを行わなかった・行わない企業」の割合は、管理職で35.6%・一般職で33.8%あるものの、「ベアを行った・行う企業」の割合との差は縮まってきています。

001ベアを行う・行った企業割合の推移

2022年にベアの実施割合が高まった背景には、物価上昇や人材不足があると考えられます。たとえ利益が出ていなくても、従業員の生活を維持し、優秀な人材を採用するには、ベアをせざるを得ない状況もあるようです。

参考:厚生労働省|令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況

規模・業界別(ベア)ベースアップの実施状況

ベアの実施状況は、企業の規模や業界によっても異なります。厚生労働省の「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」で、自社の属する業界の状況を把握できるようチェックしましょう。

<規模別のベア実施状況>

企業規模

管理職

一般職

5,000人以上

28.0%

44.0%

1,000~4,999人

26.5%

33.8%

300~999人

29.8%

34.0%

100~299人

22.6%

27.8%

規模別のベア実施状況は、管理職ではそれほど大きな差は見られませんが、一般職では規模が大きくなるほど実施率が高くなっているのが分かります。5,000人以上の企業では、全体平均の29.9%を大きく上回る44.0%がベアを実施しているのに対し、100~299人規模の企業では平均を下回っているのが現状です。

<業界別のベア実施状況>

業界

管理職

一般職

鉱業、採石業、砂利採取業

18.6%

建設業

38.2%

39.3%

製造業

23.2%

28.2%

電気・ガス・熱供給・水道業

10.6%

14.2%

情報通信業

25.3%

29.7%

運輸業、郵便業

33.3%

48.8%

卸売業、小売業

21.2%

26.9%

金融業、保険業

17.2%

30.8%

不動産業、物品賃貸業

17.2%

22.9%

学術研究、専門・技術サービス業

26.0%

34.9%

宿泊業、飲食サービス業

19.5%

20.5%

生活関連サービス業、娯楽業

22.3%

21.6%

教育、学習支援業

17.4%

16.0%

医療、福祉

29.9%

32.8%

サービス業(他に分類されないもの)

25.4%

27.3%

業界ごとのベア実施割合は差が大きいのが現状です。一般職では最も高い「運輸業、郵便業」の48.8%と、最も低い「電気・ガス・熱供給・水道業」の14.2%の間には、34.6%の差があります。

参考:厚生労働省|令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況

政府は賃上げ促進税制で支援

ベア実施割合の差をそのままにしておくと、貧富の差が拡大しかねません。政府ではより多くの事業者が賃上げを実施できるよう、2024年3月31日まで「賃上げ促進税制」で支援しています。

青色申告をしている企業であれば、給与等従業員への支給額の増加分のうち15~40%の税額控除を受けられる制度です。税額控除額は法人税額もしくは住民税額の20%が上限であることも満たしていなければいけません。

資本金が1億円を超えるといった要件を満たす企業は、賃上げ促進税制のうち大企業向けの対象です。継続して雇用している従業員の給与が前年度から4%以上高くなっていれば25%の、3%以上高くなっていれば15%の税額控除を受けられます。

加えて教育訓練費が前年度比20%以上だと、5%の税額控除が上乗せされます。従業員全体の給与をはじめとする支給額の増加額の最大30%を税金から控除可能です。

資本金1億円以下といった企業なら、中小企業向けを活用できます。給与を始めとする支給額を前年から2.5%以上上げていれば30%、1.5%以上上げていれば15%の税額控除の対象です。

さらに教育訓練費が前年から10%以上増加していれば、10%の税額控除を受けられます。従業員全体の給与をはじめとする支給額の増加額のうち、最大40%を税額から控除可能です。

参考:経済産業省|賃上げに取り組む経営者の皆様へ

介護士のベア(ベースアップ)

介護士の給与は国が定めている介護報酬から支給されます。事業者の請求に応じ、介護報酬を支給するのは自治体です。事業者は受け取った介護報酬の中から、運営に必要な費用を差し引いた上で介護士へ給与を支給します。

この仕組みの中で介護士のベアを実施できるよう、国は介護報酬を加算するための「介護職員等ベースアップ等支援加算」を設けました。

介護職員等ベースアップ等支援加算

「介護職員等ベースアップ等支援加算」は、介護士の基本給か毎月支払う手当を上げるために活用しなければいけません。賞与や一時金として支給できる他の処遇改善加算とは異なります。以下の要件を満たしている場合に受けられる加算です。

  • 処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のいずれかを取得している
  • 加算額の2/3は介護職員のベアに用いる

この加算を受けた場合、介護士の処遇改善はもちろん、介護に従事しない職員の処遇改善にも利用できます。

参考:厚生労働省|令和4年度介護報酬改定について

ベア(ベースアップ)と採用活動の関係

ベアは採用活動とも関係します。基本給を上げるベアで給与水準が同業他社より高くなると、求職者に魅力を感じてもらいやすくなるためです。

同じ業種・職種であれば、より給与の高い企業を選びたいと思う求職者は多いため、求人を出すと多くの応募を集められます。より優秀な人材や、自社に合う人材を採用しやすくなるでしょう。

給与の低さは離職につながる可能性も

給与が低いままでは、在職中の従業員の離職につながる可能性もあります。

厚生労働省の「令和2年転職者実態調査の概況」によると、転職者が離職した理由で最も多いのは自己都合で、全体の76.6%を占めていました。このうち「賃金が低かったから」は23.8%で、「労働条件(賃金以外)がよくなかったから」「満足のいく仕事内容でなかったから」に次ぐ多さです。

他者でベアを実施しているにもかかわらず、ベアを実施しないままでいると、離職が増えるかもしれません。

参考:厚生労働省|令和2年転職者実態調査の概況

ベア(ベースアップ)以外で人材確保を行う方法

ベア以外でもスムーズな採用や離職率の低下につながる対策があります。厚生労働省の「人材確保に「効く」事例集」で紹介されている取り組みを見てみましょう。

参考:厚生労働省|人材確保に「効く」事例集

企業のビジョンや理念を発信する

企業がどのようなビジョンを抱き事業を行っているかは、伝えなければ求職者に理解されません。求人にのみ記載するのではなく、日頃から複数の媒体で自社の魅力を発信するとよいでしょう。

例えば、自社サイトやSNSなどで伝える方法が有効です。今働いている従業員の仕事ぶりや、普段の職場の様子なども発信すると、採用時点でのミスマッチ回避にも役立ちます。

従業員の希望するキャリアを支援する

従業員の定着率を上げるには、キャリア支援も重要です。希望のキャリアをかなえられるよう、セミナーや資格取得をサポートする制度を設けるとよいでしょう。

単に制度を作るだけでなく、全従業員が利用しやすいよう制度を周知する取り組みも行います。

福利厚生を充実させる

自社に合う人材を確保するには、給与以外にも分かりやすい魅力があるとよいでしょう。例えば福利厚生の充実度アップが挙げられます。

家賃補助や食事補助など実質的な給与アップにつながる福利厚生は、要件を満たして支給すれば税制優遇の対象にもなります。従業員にも企業にもプラスになる取り組みです。

関連記事:採用改善・離職率低下に効果大!福利厚生を見直す3つのメリット

ベア(ベースアップ)は人材確保にも有効

全従業員の基本給を一律で上げるベアは人材確保につながります。近年は物価上昇の影響もあり、給与が上がらなければ従業員はこれまでの生活を維持できなくなってしまいます。

生活が苦しいまま働き続けるのは難しいため、転職する従業員も出てくるでしょう。新しい人材の採用もスムーズに進まなくなるかもしれません。ベアで給与を上げれば、自社の魅力を分かりやすく求職者や従業員へ伝えられます。

また、福利厚生を充実させることも、企業の魅力アップにつながります。例えば食事補助を提供できるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入すれば、全従業員が好みの加盟店で食事を購入可能です。

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