建設業界の2025年の賃上げは上昇傾向が続くと予測されています。深刻な職人不足、2024年問題による残業規制、政府の賃上げ推進策など、複数の要因が重なり、大手を中心に6%を超える賃上げが実施される見込みです。本記事では、建設業界の賃上げが進む背景や課題、そして今後の動向を考察します。
2025年建設業界の賃上げは上昇傾向継続か
2025年建築業界の賃上げ予測では、過去のデータを踏まえて考える必要があります。結論としては上昇傾向が続くと予測されます。次の章では、その根拠を見ていきましょう。
2025年賃上げ傾向が継続と予測される根拠
建設業界の賃上げ実績や春闘要求方針から、2025年の賃上げ動向を分析します。
2023年、2024年の春闘による賃上げ実績
厚生労働省による「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」では、2023年の建設業界の春闘での賃上げ率は3.36%(全体では3.6%)、2024年では5.94%(全体5.33%)です。2025年度も高い水準での賃上げ継続が期待されます。
出典: 厚生労働省|令和5年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況、令和6年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況
2024年建設業の賃金引き上げ調査結果
厚生労働省の2024年の「賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」でも建設業の賃上げが確認できます。賃上げした建設業の企業割合は99.7%、平均1万5,283円で前年比4.3%の増加です。全体平均が88.1%であった夏の賞与支払い状況でも、建設業では90.9%が支給しており、建設業界での高い賃上げ傾向となっています。
出典:厚生労働省|令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況
2024年の建設業界大手企業の賃上げ実績
業界を牽引する大手企業の2024年度における賃上げはかなり進み、6%を越える高い賃上げを実現しました。
竹中工務店
人的資本への積極的な投資として、ベースアップ25,000円と定期昇給と合わせて7.0%超の賃上げを実施しています。また、2024年度4月入社の新卒採用者の初任給は3万円増額し、大学院卒(修士)300,000円、大学卒280,000円としました。
出典:竹中工務店|7%超の賃上げ、および作業所勤務者に対する手当増額を実施(2024/3/28)
大成建設
いわゆる建設業界の2024年問題への対応として、ベースアップと定期昇給などを合わせて平均6%程度(前年比+1ポイント)の賃上げ実績です。2024年度入社の初任給も月額1万5,000円引き上げました。
出典:日本経済新聞|大成建設、6%賃上げへ 建設24年問題対応で手当上積み(2024/2/9)
清水建設
従業員平均で3.1%のベースアップ、定期昇給分と合わせると5.7%の賃上げをしました。新卒者は、学部卒、修士了の双方1万5,000円の引き上げで28万円、30万円です。
出典:清水建設|ベースアップの実施、採用給の引き上げについて(2024/3/29)
鹿島建設
建設業の2024年問題での時間外労働の上限規制などを踏まえ、全従業員一律の賃上げを実施、総合職では月額3万5,000円の賃上げです。賞与も増額し、20代〜30代の若年層は10%以上、全体で7%もの増額を行いました。
出典:鹿島建設|2024年度賃金引上げについて(2024/3/29)
2025年春闘要求目標
連合が2025年の春闘で掲げた目標は、賃上げ分3%以上、定期昇給相当分を含めて5%以上です。加えて、中小企業向けには格差是正のための高い要求として+1%を掲げ、1万8,000円以上で6%を目安としています。
また、2025春闘のメインスローガン「みんなでつくろう!賃上げがあたりまえの社会」は、賃上げ継続を強く予測させます。
出典:連合|2025春季生活闘争 闘争方針
2025年賃上げ意向調査で建設業は前向き
山陰合同銀行による山陰両県(島根県と鳥取県)の主要企業1,205社へのwebアンケート(2024年8月〜9月実施)では、2025年度の賃上げ意向調査で建設業は7割超となっています。「業績が改善しなくても実施する」という強い意欲を示した割合が高いことも見逃せません。地方でも建設業における賃上げの動きが高まっています。
出典:山陰合同銀行|2024年度賃上げ結果および2025年度賃上げ意向調査
2025年賃上げを表明した建設業の企業
2025年の賃上げをすでに表明したのが西松建設です。ベースアップと定期昇給とで平均10%超の引き上げを予定しています。また、2025年4月入社の大卒総合職初任給を前年度比13%高い30万円に引き上げます。これは3年連続であり、残業時間の上限規制と人手不足対策のためです。2025年、建設業界での賃上げ表明企業は増えていくと予測できます。
出典:日本経済新聞|西松建設、大卒初任給を30万円に 来年入社から 24年問題で10%賃上げも(2024/10/25)
建設業界での賃上げにある背景・要因
少子高齢化による人手不足だけでなく、業界特有の事情もあり、建設業での賃上げは継続傾向です。
職人不足
建設業界は未曾有の人材危機に直面しています。総務省の国勢調査によると、大工就業者数は1980年のピーク時93.7万人から40年で70%減の30万人を割り込み、平均年齢54歳超、30歳未満の若手はわずか7%という極めて深刻な状況です。
さらに、2025年には団塊世代が全員75歳以上を迎えることから、人手不足感は急速に加速することが予測されています。実際、帝国データバンクの「建設業」の倒産動向(2024年1-10月)調査では、2024年9月時点ですでに約70%の建設業者が人手不足を実感している状況です。
出典:帝国データバンク|「建設業」の倒産動向(2024年1-10月)
建設業界の2024年問題と法規制による業界構造
建設業界の賃上げは、2024年4月からの残業時間上限規制導入が大きな転換点となりました。加えて、建設現場での人材派遣が法律で禁止されていること、職業訓練校の激減、一人親方制度の主流化による若手の安定雇用の困難さなど、業界特有の構造的問題も賃上げ圧力を強めているようです。
2024年11月結果についての厚生労働省「毎日勤労統計調査」で、建設業における月間現金給与総額は40万5,446円(前年同月比4.3%増)と、全産業平均が3.0%と比較して着実に上昇しています。工期遅延を避け受注を維持するためにも、熟練工の引退を目前に控えた今、業界全体の生き残りをかけて必然的な賃上げが行われています。
出典:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和6年11月分結果速報
物価高への配慮
継続的な物価上昇に対応するためにも、賃上げの必要性が高まっています。総務省による2024年11月消費者物価指数は、2020年基準で110.0、前年同月比で2.9%上昇です。2025年1月、2月、3月、そして4月と物価上昇の品目も数多く予定されており、生活維持のための賃上げが求められています。
出典:総務省|2020年基準 消費者物価指数 全国 2024年(令和6年)11月分
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政府による賃上げ推奨の動き
政府は建設業界の人材確保と処遇改善のため、積極的な賃上げ支援策を展開しています。
総合評価落札方式は3%(中小1.5%)賃上げで5%の加点
建設業界の賃上げを加速させるため、政府でも強力な支援策を展開しています。その中心となるのが公共工事の入札改革です。大企業は3%以上、中小企業は1.5%以上の賃上げを実施する企業に対し、総合評価方式において加算点合計の5%以上となるよう加点の配点を設定、受注機会の拡大を後押ししています。
出典:国土交通省|総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置
2024年の岸田元首相の5%賃上げ要請
2024年3月、岸田元首相は建設業界トップとの意見交換会で、労務単価5.9%引き上げとともに、5%を上回る賃上げ実施を要請しました。
出典:NHK|岸田首相 建設業界トップに5%超の賃上げを要請(2024/3/8)
賃上げ促進税制による支援
従業員の給与を前年より引き上げた場合、増加分の一部を法人税や個人の所得税から控除できるのが賃上げ促進税制です。2022年ごろから急激に物価が上がったため、制度を利用する企業が増えています。
出典:経済産業省|賃上げ促進税制
建設業の賃上げの課題と解消への糸口
給与水準の引き上げに加え、労働環境の改善や福利厚生の充実など、総合的な処遇改善が求められています。ここでは、具体的な取り組みを見ていきましょう。
多重下請け構造の見直しで下請け企業の賃上げを促進
建設業界全体の待遇改善を実現するためには、元請け企業だけでなく、下請け企業も含めた給与水準の底上げが不可欠です。国土交通省は2024年11月、業界の長年の課題であった多重下請け構造の見直しに向けた取り組みを発表しました。
従来、複雑な下請け構造は現場作業員の賃金上昇を妨げる要因でしたが、国交省は実態調査と改善指導を通じて、専門性に基づく適切な業務分担の確認と、不要な多重構造の解消を進めていくことを発表します。賃上げの原資が確保され、現場作業員への適正な賃金支払いが実現すると期待されています。
出典:NHK NEWS WEB|国土交通省 建設業界の多重下請け適正化へ対策 賃上げ促すため(2024/11/13)
賃上げに福利厚生を加えて求人応募数を増加へ
建設業界では、賃上げと共に福利厚生の拡充が進んでいます。物価高を背景として、食事補助などの福利厚生導入が現場作業員の確保と定着率向上に効果的です。賃上げと魅力的な福利厚生の組み合わせが、人材採用の重要な差別化要因となっています。ここからは、食の福利厚生で魅力を高めた企業の事例を見ていきます。
導入事例1.ジビル調査設計株式会社
建設コンサルタントのジビル調査設計(福井県)では、現場作業員の夏場の熱中症対策はもちろん、内勤を含めた全従業員が利用できる食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入しました。働く環境が大きく改善したと好評です。
導入事例:ジビル調査設計株式会社
導入事例2.道路サービス株式会社
安全に道路を使うために必要な工事を担う道路サービスでは、コンビニなど全国25万店舗で使える食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入しました。朝早い現場でも従業員がコンビニで手軽に朝食をとれるようになり、食事を通じた活力向上が生産性アップにつながっています。地域の建設業界では珍しい福利厚生として、人材採用での強みとなっています。
導入事例:道路サービス株式会社
チケットレストラン導入のメリット
「チケットレストラン」の最大の魅力は、一定の利用条件下において非課税枠運用ができるため従業員の税負担を増やさないことがメリットです。食事代のサポートに加えて毎月の手取り増を実感でき、企業側も福利厚生費として計上できます。運用も簡単で、ICカードの配布後は月1回のチャージ作業だけで、企業側の負担がほとんどありません。すでに3,000社以上が導入し、建設業界などでの新しい人材戦略としてメディアからも注目を集めています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
賃上げは持続的成長への第一歩
建設業界の2025年に向けた賃上げは、業界全体の構造改革と密接に関連しています。賃上げを含む待遇改善を通じて、業界の魅力を高め、若手人材の確保と技術継承を実現することが、建設業の持続可能な成長へとつながります。
政府の支援策や福利厚生の拡充など、総合的な処遇改善で業界の発展を目指しましょう。従業員満足度と定着率の向上には、食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」の導入もぜひご検討ください。