中小企業の人材育成には「時間がない」「育成プログラムの策定ができない」「担当者を確保できない」といった課題があります。これらの課題を解消し、人材育成を通して人材定着につなげるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?中小企業が人材育成に取り組むべき理由とともに解説します。
中小企業の人材育成の現状
中小企業の人材育成の課題やその対策を知るために、商工中金の「中小企業の人材育成の状況について」をもとに、まずは現状を見ていきましょう。
中小企業の人材育成では、OJTとその他の人材育成策を組み合わせているケースが70.9%です。人材育成策ごとの実施割合を見ていきましょう。
人材育成策 |
実施割合 |
OJT |
77.9% |
社内研修 |
60.7% |
金銭的支援 |
53.0% |
外部講習 |
48.3% |
ITスキル |
20.4% |
勤務制度の整備 |
15.1% |
公的支援 |
12.5% |
研修施設・設備 |
10.5% |
出向兼業副業 |
4.8% |
その他 |
3.6% |
加えて人材育成の体制は、「現場に任せている」が41.2%、「特に決めていない」が18.0%で、担当者や担当部署がある中小企業は合わせても34.8%です。組織的・計画的な人材育成に取り組んでいる中小企業は少ないことが分かります。
また従業員数が少なくなるほど、組織的・計画的に人材育成に取り組んでいる中小企業の割合は低いのが現状です。
中小企業の人材育成の課題
商工中金の「中小企業の人材育成の状況について」から、中小企業の人材育成の課題も紹介します。
中小企業の人材育成の課題 |
選択した割合 |
時間的余裕 |
44.8% |
育成プログラムの策定 |
38.9% |
企画・実施担当者を確保できない |
32.7% |
従業員の能力向上への意欲 |
29.4% |
金銭負担 |
18.9% |
従業員が早々に退職してしまう |
18.1% |
優先順位が低い |
15.2% |
必要なスキルの予見 |
6.4% |
人材育成と企業価値向上のつながりが薄い |
4.8% |
その他 |
2.2% |
課題としてあげた中小企業が多い「時間的余裕」「育成プログラムの策定」「企画・実施担当者を確保できない」について解説します。
時間的余裕
人材育成には時間がかかります。採用した人材を育成したいと考えていても、日々の業務が忙しいとなかなかまとまった時間を取れません。新しく入った従業員に、初日から現場に入ってもらうこともあるでしょう。
育成プログラムの策定ができない
人材育成の大切さを理解していても、具体的に何をすればよいか分からず進んでいないという中小企業もあります。自社の従業員にどのようなプログラムが必要なのかが定まっておらず、人材育成に取り組めていない状況です。
担当者を確保できない
担当者を置いて計画的に人材育成を行う必要性があることを認識していても、人手不足から担当者を確保できていない中小企業もあります。担当者が不在で人材育成が後回しになってしまいやすいようです。
人材育成の課題の解決方法
人材育成に課題を感じている中小企業では、課題を解決するために何から取り組むとよいのでしょうか?課題の解決方法を紹介します。
優先順位をつける
予算・人材・時間などに限りがある中で人材育成に取り組むときには、優先順位をつけて実施することが重要です。自社の人材育成のどこに課題があるのかを明確にした上で、大きな影響が出やすい部分や、早いタイミングで効果が得られる部分から取り組みます。
人材育成の大切さは分かっているけれど人材育成できる人材がいない状況なら、まずは人材育成ができるリーダーを育てなければいけません。
また新しく入社した従業員の早期離職が頻発しているため改善したいと考えているなら、OJTの体制を整える必要があります。
今1番優先順位の高い取り組みから実行していくことで、徐々に人材育成に取り組む体制構築を目指しましょう。
人材育成のマニュアルをつくる
OJTによる人材育成の効果を高めるには、人材育成のマニュアルが役立ちます。指導の順序や方法がマニュアルになっていることで、新しく入社した従業員の教育担当者になった従業員は、誰でも均一に指導できるようになるためです。
業務に関する動画や資料を作成して、まずはそれを新しく入社した従業員に見せるところから始めるのもよいでしょう。
eラーニングを導入する
人材育成を効率的に行うには、eラーニングを導入するとよいでしょう。一般的なビジネスマナーや業務に必要な資格取得に向けた勉強に役立つ講座などは、eラーニングを活用すると人手や時間が足りない状況でも実施しやすくなります。
新しく入社した従業員がeラーニングである程度の知識を学んでいれば、現場での人材育成の工程を減らせるのもメリットです。
中小企業が人材育成に取り組むべき理由
予算や時間が限られている中で中小企業が人材育成に取り組むのは、人手不足解消や業績アップ・資金の獲得に人材育成が影響するためです。人材育成が中小企業にとってプラスに働く理由を解説します。
人材定着率アップにつながるため
新しく入社した従業員に適切な教育を行うことは、自社の受け入れ態勢を示すことです。よりよい仕事につながるよう指導を受けることで、新しく入社した従業員は「期待されている」と感じるでしょう。
適切な教育により、早いタイミングで業務を覚えられれば「この職場でやっていけそうだ」という自信にもつながります。仕事に前向きに取り組む姿勢ができることで、周りからの高い評価も期待できるでしょう。
このように新しく入社した従業員に人材育成を実施することで、努力が評価され、働きやすい状況を作れます。「長く働き続けたい」と感じる従業員が増えることで、人材定着率アップにつながる取り組みです。
また専門知識の獲得がキャリアアップにつながる仕事では、人材育成が仕事へのやりがいを育むことにもつながります。
人材採用にプラスに働くため
人材育成を計画的・組織的に行うことは、従業員のキャリアを支援することにつながります。このような取り組みにより「従業員を大切にする企業」という印象づけができれば、採用活動がスムーズに進みやすくなるでしょう。
社内に人材採用の仕組みを構築することで、採用の幅を広げられるのもメリットです。十分な教育ができなければ即戦力となる経験者を採用しなければいけませんが、教育ができる体制があれば未経験者を採用して育てられます。
採用の間口を広げることによっても、採用活動がスムーズに進みやすくなるでしょう。
生産性向上につながるため
人材育成に取り組むと、従業員一人ひとりの知識やスキルが高まります。全体のレベルの底上げにより、業務効率アップや作業品質アップなどが実現して、生産性向上につながる点がメリットです。
また新たなスキルを獲得した従業員が、より効率的な業務の進め方を考えたり、これまでとは異なる商品やサービスのアイデアを思いつくかもしれません。人材育成の費用を超える利益を期待できます。
人的資本経営につながるため
人的資本経営とは、カネやモノと同じように、従業員を企業の成長に欠かせない投資対象と考える経営戦略のことです。
経済産業省の「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」では「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」とされています。
人的資本経営は、財務情報に加えて社会的な責任を果たしていることを指標とするESG投資に取り組む投資家に注目される要素の1つです。人材育成で人的資本経営に取り組むことで、資金調達がしやすくなることも考えられます。
関連記事:人的資本経営と福利厚生の関係性は?情報開示19項目一覧と施策例
人材育成に役立つ助成金
人材定着率アップや生産性向上を目指して人材育成に取り組むとき、費用がかかることで思うような方法を実施できないケースもあるでしょう。ここでは費用の心配が少なくなるよう、人材育成に取り組む中小企業に役立つ助成金を紹介します。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金には、非正規雇用で働く従業員の正社員化をサポートする「正社員化支援」と、賃金アップや諸手当の制度化などを行う「処遇改善支援」があります。
正社員化支援の「正社員化コース」では、非正規雇用の従業員を正社員化するときに必要な教育を行うことで、かかった費用に対する助成を受けられる内容です。
中小企業は1人あたり80万円、大企業は1人あたり60万円の助成金を受け取れます。
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)
関連記事:【社労士監修】キャリアアップ助成金正社員化コースが拡充!改正ポイントと注意点
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、仕事に関する技術やスキルを従業員が身につけられるよう、計画的に職業訓練を実施している企業に対して、必要な資金や訓練中の賃金をサポートする制度のことです。
「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」「建設労働者認定訓練コース」「建設労働者技能実習コース」の6種類から、自社に合うコースを選択して活用できます。
関連記事:【社労士監修】人材開発支援助成金の条件は?活用事例をチェック
人材育成に加えて福利厚生も人材定着施策に役立てよう
中小企業は人材育成に課題を抱えているケースもあるでしょう。必要性を感じていながら取り組めていない場合には、優先順位をつけて始めることで、人材定着や生産性向上に役立てられます。
人材定着施策として人材育成に取り組みたいと考えている場合には、福利厚生の充実度アップも同時に検討するとよいでしょう。福利厚生により働きやすい環境を整備することで、従業員が「働き続けたい」と感じる職場づくりにつながります。
例えばエデンレッドジャパンの提供する食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入すれば、食事代のサポートにより、従業員はバランスのよい食事をとりやすくなるでしょう。実質的な手取り額アップにもつながる制度です。