人的資本可視化指針とは内閣官房の非財務情報可視化研究会が、人的資本の可視化について発表した資料のことです。どのような内容が記載されているのでしょうか?人的資本の情報開示義務や開示する項目についての解説とともに見ていきましょう。
人的資本可視化指針とは
人的資本可視化指針は人的資本の情報開示に向けた準備についての手引です。人的資本を可視化するための方法や、可視化までのステップについて解説しています。人的資本の情報開示に関するガイドラインやフレームワークの活用方法も分かります。
人材を企業の資本と考え、積極的に投資する対象としてとらえるのが人的資本です。さらに人的資本の価値が最大になるよう、従業員の能力を伸ばすことで、企業の成長につなげる経営手法を人的資本経営といいます。
サービスや無形の商材を扱う企業の割合が増え産業構造が変化したことや、環境・社会・ガバナンスを重視して企業を評価するESGという指標が広まったことにより、投資家は人的資本に関する情報の開示を求めるようになりました。
人的資本可視化指針をもとに、自社の人的資本を整理し把握することで、企業が投資家の期待に応えられれば、新たな投資を呼び込めるでしょう。また非上場の企業においては、スムーズな採用活動やエンゲージメントの向上が期待できます。
人的資本可視化指針で示されている人的資本可視化の方法
事業の元手となるお金は、今どのくらいの価値を保有しているか数えやすい資本です。一方、人的資本を定量的にとらえるには、さまざまな要素で見ていかなければいけません。
人的資本可視化指針では、とらえにくい人的資本の可視化の方法を解説しています。
人的資本可視化で期待されていることを理解する
投資家が企業へ期待しているのは、人材に関する方針を企業の重要課題と関連付けながら、理論的に説明することです。三井住友信託銀行の2021年の調査から、そのことが分かります。
人的資本に関する開示については、以下を求める投資家が多くいました。
- 経営陣・中核人材の多様性確保に関する方針:67%
- 中核人材の多様性に関する指標:53%
- 人材育成方針・社内環境整備方針:49%
また環境・社会・ガバナンスを重視して企業を評価するESGについては、以下を求める投資家が多いそうです。
- 重要課題への評価指標の設定:63%
- 経営戦略と重要課題の関連性:58%
- 重要課題の特定:58%
- サステナビリティ基本方針の策定:42%
投資家が何を期待しているのか明確にすることで、的確な情報開示につながります。
参照:三井住友信託銀行|『ガバナンスサーベイ®2021』について
経営戦略と人的資本への投資の関係性を明確にする
単に人的資本への投資額が多いだけでは、投資家からの評価は得られません。人的資本への投資が経営戦略とどのように関連しているのかを論理的に説明する必要があります。
ここではフレームワークを活用すると便利です。代表的なフレームワークに「価値共創ガイダンス」があります。
価値観、ビジネスモデル、持続可能性・成長性、戦略、成果と重要な成果指標、ガバナンスを関連付けることで、全体像をストーリーとして伝えられるようになるフレームワークです。開示する情報の全体像を分かりやすく整理できます。
4つの要素に沿って人的資本を開示する
企業が環境・社会・経済の観点から、持続可能な社会を目指すための取り組みとして実施していることに関する内容がサステナビリティ情報です。サステナビリティ情報を開示するときには、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4つの要素を開示する方法が根付いています。
投資家にとって馴染みのある開示構造のため、人的資本の情報開示を行う場合にも、4つの要素で構成するとよいでしょう。人的資本の情報開示では4つの要素はそれぞれ以下を示します。
- ガバナンス:人的資本のリスクや機会に関する監視や統制
- 戦略:人的資本のリスクや機会が組織のビジネスや戦略などへ及ぼす影響
- リスク管理:人的資本のリスクや機会を分類し評価して管理するプロセス
- 指標と目標:人的資本のリスクと機会を評価したり管理したりする指標と目標
価値共創ガイダンスといったフレームワークで全体像を把握した上で、この4つの要素について検討しましょう。
具体的な開示事項を検討する
把握した人的資本の情報は、そのまま全てを開示するわけではありません。自社の経営戦略と人的資本への投資の関連を分かりやすく伝えるために必要な開示事項を選ぶのがポイントです。
また人的資本の具体的な開示事項は、以下の2つの類型で整理して考えます。
- 自社ならではの戦略やビジネスモデルによる独自性のある取り組み、指標、目標
- 企業間の比較を意識した開示項目
独自性のある取り組みはさらに、取り組みや開示事項そのものに独自性のあるものと、開示事項の選択理由に独自性があるものとがあります。企業間の比較を意識した開示事項は、投資家が企業を比較しやすいよう設ける一般的な内容です。
また2つの類型のバランスを取ることも意識しましょう。
人的資本可視化指針で示されている人的資本可視化のステップ
人的資本の可視化を最初から完璧に作り上げるのは難しいことです。まずは整理した内容をできるところから開示し、フィードバックを受けるとよいでしょう。フィードバックを反映し見直すことで、精度を上げていきます。
この可視化に向けたステップでは、具体的に何を実施するのでしょうか?「人的資本可視化指針」をもとに順番に見ていきましょう。
人的資本可視化への準備
まず行うのは可視化するための準備です。ここでは「基盤・体制の確立」と「可視化戦略構築」を行います。
基盤・体制の確立 |
可視化戦略構築 |
・トップのコミットメント |
・価値協創ガイダンスに沿った人的資本への投資 |
人的資本の可視化は資料を作ればよいというものではありません。経営戦略の一環として、経営者から従業員へ重要性について直接伝える必要があります。取り組む内容によっては、従業員が部門を超えて連携する必要もあるため、協力体制が必要です。
可視化戦略の構築には「人材版伊藤レポート」や「人材版伊藤レポート2.0」で紹介されている「3つの視点・5つの共通要素」が役立ちます。意識することで、人的資本経営を実践に移しやすくなるでしょう。
有価証券報告書での開示
2023年3月期から人的資本の情報は有価証券報告書で開示することが義務付けられています。対象は国内の上場企業約4,000社です。
有価証券報告書にはサステナビリティ情報の記載欄が新たに設けられ、その中の「戦略」の記載欄に「人材育成方針」と「社内環境整備方針」を、有価証券報告書の「従業員の状況」欄に「男女間賃金格差」「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」を記載することとなりました。
戦略的な任意開示
人的資本開示情報は有価証券報告書での公開以外に、任意公開もできます。経営戦略に合致する方法で開示すると、投資家はもちろん従業員・求職者・顧客などへのアピールにもつながるでしょう。事業報告書やWebサイトなどでの開示が効果的です。
任意開示は上場企業以外にもできます。非上場の中小企業が人的資本情報を開示すれば、求職者は働きやすさや研修制度の充実度などを判断しやすくなります。魅力的な待遇の企業だということが伝われば、スムーズな採用につながるかもしれません。
また大企業を中心に、ものやサービスの調達に、法令や社会規範を遵守している企業を選ぶCSR調達を行う動きが広がっています。大企業と取引をするとき、この基準を満たしていることを伝えるために、人的資本情報の開示が必要になるかもしれません。
中小企業でも人的資本情報を可視化し開示できるよう準備することで、経営にプラスに働きます。
開示が望ましい7分野19項目を確認
「人的資本可視化指針」をもとに、人的資本情報として開示するのが望ましいといわれている7分野19項目についても見ていきましょう。
人材育成
従業員のスキルアップの取り組みや、後継者の育成などに関する人材育成分野には、以下の3項目が含まれています。
- リーダーシップ
- 育成
- スキル、経験
人的資本経営では人材を資本と考えるため、積極的な投資で企業の価値を向上させられる分野といえるでしょう。
エンゲージメント
エンゲージメントの項目では、業務内容・職場環境・待遇などに従業員がどれだけ満足しているかを明確にします。従業員満足度を高める取り組みとして、実施していることもアピール可能です。
ストレスチェックを実施することで、不満の度合いを数値化し開示することもあります。定期的にストレスチェックを実施しつつ、改善に取り組むことで、エンゲージメントを高めていけるでしょう。
関連記事:メンタルヘルスを守る福利厚生は?具体的な取り組みや導入事例を解説
流動性
流動性は人材の定着に関係する分野で、3つの項目があります。
- 採用
- 維持
- サクセッション
企業の運営に欠かせない人材を十分採用できているか、採用した人材が定着しているか、ポジションに適した人材を育成し適切に配置できているか、などを開示する項目です。
例えば離職率を下げるために福利厚生を充実させる、といった取り組みは流動性に分類されます。
関連記事:福利厚生で離職は防止できる?離職率の高い・低い企業例と離職率抑制を叶えた成功事例
ダイバーシティ
十分な人材を確保するには、多様な背景を持つ人が同じ組織で働けるよう体制を整える、ダイバーシティの分野も重要です。ダイバーシティには以下の3項目があります。
- ダイバーシティ
- 非差別
- 育児休業
時短勤務・フレックス制・リモートワークなどを導入し、多様な働き方ができる制度を整えることに加え、実際にその制度を気兼ねなく利用できることもポイントです。
さらにその制度の目的を従業員全員が理解し、背景の違いや異なる働き方を認め合えるよう、合意形成ができている状態を目指します。
健康・安全
リスクマネジメントの観点から、以下の3つの項目を設けている分野です。
- 精神的健康
- 身体的健康
- 安全
職場が安全に働ける環境であるか、精神的健康を損なうようなストレスがないか、無理な働き方で身体的健康を損なうような状況でないか、などを可視化し開示します。具体的な数値として、労働災害の発生率・従業員の欠勤率などを見ることもあります。
労働慣行
仕事の場で不正が起こっていないかをチェックする分野です。以下の5つの項目が設けられています。
- 労働慣行
- 児童労働、強制労働
- 賃金の公正性
- 福利厚生
- 組合との関係
例えば賃金が最低賃金を下回っている場合、公正性が保たれていない状態です。法律に定められている通り正しく支給されているか、職務に対し適正な金額が支給されているか、などを可視化する項目です。
コンプライアンス
コンプライアンスは法令遵守を意味する項目です。法律を守っていることや倫理的な行動を取っていることを可視化し開示します。
人的資本経営を推進する3つの視点と5つの共通要素
人的資本可視化指針は開示に向けた手引であるのに対し、「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」で紹介されている3つの視点と5つの共通要素は、実践と開示で人的資本経営を推進する方法です。
以下に示す3つの視点と5つの共通要素を参考にすることで、自社の人的資本向上につなげられるでしょう。
3つの視点 |
5つの共通要素 |
・経営戦略と人材戦略の連動 |
・動的な人材ポートフォリオ |
例えば従業員エンゲージメントを向上させるには、働きやすい環境整備や、従業員の希望のキャリア実現へ向けた支援、健康経営に役立つジムの費用補助や食事補助が役立ちます。これらの取り組みで「企業へ貢献したい」という自発的な意欲が高まれば、人的資本の向上につながるでしょう。
参照:経済産業省|人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~
関連記事:人的資本経営コンソーシアムとは?参加企業や人的資本経営の概要も
エンゲージメント向上で人的資本向上に役立つ「チケットレストラン」
人的資本の向上につながるエンゲージメントを高めるには、働く環境の整備が役立ちます。例えば従業員へ食事補助を提供できるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入すると、従業員の食事代の負担を減らせます。
その分従業員は自由に使えるお金が増えるため、少し豪華な食事を食べたり、趣味に使ったり、生活を充実させられるでしょう。従業員が企業による支援を実感でき、エンゲージメントの向上につながる取り組みです。
多様な働き方にも対応可能
人的資本経営に取り組んでいる企業では、多様な働き方をしている従業員が在籍していることも多いでしょう。エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は全国にある25万店舗以上の加盟店で利用できるため、オフィスに出社している人も、自宅でリモートワークをしている人も同じように利用できます。
全ての従業員へ平等に提供できるサービスを探している場合に向いています。
人的資本可視化指針をチェックし適切な開示を
人材を資本ととらえ、優秀な人材の獲得や教育に投資する、人的資本経営に注目が集まっています。特に資本家は投資先を探すときに、人的資本情報をチェックしたいと考えているようです。
そこで人的資本情報を適切に開示できるよう、可視化の準備について解説しているのが人的資本可視化指針です。可視化の方法と可視化に向けたステップを理解することで、自社の魅力を伝えられる情報開示につながるでしょう。
また人的資本経営の推進には、「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」で紹介されている3つの視点と5つの共通要素が役立ちます。
5つの共通要素の1つであるエンゲージメントの向上には、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入するとよいでしょう。平等に提供できる食事補助サービスを人的資本経営の実践に役立てませんか。