社員食堂はアメリカ英語では「cafeteria」イギリス英語では「canteen」と表記されます。
学校や寮などの食堂にも使われるため、社員食堂を明確にしたい場合companyをつけて「company cafeteria」 と表すこともあります。
社員食堂は日本だけの文化ではなく、世界各国でも取り入れられている制度です。
テレワークが主流となりつつある世の中において、社員食堂のあり方も変化してきました。
本記事では、社員食堂のメリットデメリットを交え、変わる社員食堂の現状について解説していきます。
社員食堂は必要?使われていない現実
2018年に株式会社リクルートライフスタイルが運営するホットペッパーグルメ外食総研にて行った「社員食堂の利用実態や改善要望」(※1)の調査において、昼食で社食を利用できる人は22.7%。そのうち45.8%が利用可能である社食を使わないと回答していました。
社員食堂を使いたい理由のトップ3は「安い」「外に出るのが面倒」「短時間で済む」、逆に社員食堂を使いたくない理由は「おいしくない」「高い」「種類が少ない」でした。
社員食堂は会社が運営費用を負担しているため、会社によってメニューの種類を増やしたり、値段を下げることが難しいケースもあるようです。
コロナ禍以降、時代の変化とともにさらに利用率が減り、社員食堂が使われなくなっている現状が問題として挙がっています。早速理由からみていきましょう。
社員食堂が減少する理由
前出の社員食堂利用実態の調査からもわかる通り、社員食堂を備えている会社は全体の2割程度と少ない上に、そもそも社員食堂の利用率は減少傾向にありました。
そんな中、2019年~のコロナパンデミックにより、テレワークが急速に進むことになります。
社員の出社頻度が大幅に少なくなったことにより、社員食堂の利用者はさらに減少しました。社員食堂が減少する理由の中から、主な2つをみていきます。
リモートワークと感染症対策の問題
コロナ禍以降、スタンダードな働き方として浸透してきたテレワークにより、会社に出社する機会が少なくなりました。場所にとらわれない働き方は今後も増えていくでしょう。必然的にオフィスに併設される社員食堂の利用者は減少していくと考えられます。
また出社したとしても、長引く感染症の蔓延により、社員食堂での食事は黙食が推奨されています。
複数人が集まって食事をとる社員食堂などの場所は、感染リスクの回避のため、使われにくくなってきた現状があります。
コンビニの手軽さと利便性
コンビニエンスストアの手軽さも、社員食堂の利用が減少した理由のひとつと言えるでしょう。
前出の社員食堂の利用実態や改善要望調査(※1)によると、社食を利用しない日の昼食方法の1位は「コンビニエンスストアやスーパー等で購入」で47.1%でした。
コンビニエンスストアの商品は、レンジで温めるだけですぐに食事ができます。忙しい日本の労働者にとって、コンビニエンスストアの手軽さは、時間短縮にも役立つアイテムのひとつに。また昨今では、プライベートブランドの商品を販売することで、価格が安く抑えられている点も追い風となっています。
このコンビニエンスストアの商品の充実と価格努力が、社員食堂の利用者離れを招く一つの要因と考えられます。
社員食堂のメリット
減少してきているとはいえ、社員食堂にはメリットがあります。社員食堂の設置の本来の目的はそのメリットにありました。
ここでは社員食堂を導入することで得られるメリットをみていきましょう。
社員の健康管理
社員食堂のメニューは、社員の健康に配慮した栄養管理がされており、バランスのよい食事をとることが可能です。塩分過多や高カロリーになりがちなコンビニ弁当や外食とは異なります。
また社員食堂は、社員のリフレッシュの場に。日本人は働きすぎと言われるくらい休むことが苦手です。デスクから離れ、社員食堂で食事をとることでしっかりと休憩をとるきっかけとなるでしょう。
社員の健康を守ることは、会社にとっても生産性の向上などにつながる大切なファクターです。
社員食堂でコミュニケーション
社員食堂で社員が共に食事をとることで、コミュニケーションがとりやすくなります。
仕事から離れることができ、仕事の話題に限らずプライベートな話題もフランクに話せる雰囲気が作られます。
コミュニケーションが深まることで、仕事においても情報共有やチームワークの円滑化につなげることが可能です。
特にオフィスに集まり、対面して働く機会が少なくなってきている昨今だからこそ、社員同士のコミュニケーションの場は重要になります。
社員の時間・ランチ代を節約
社員食堂は会社に併設されているため、外食よりも時間がかからず、食事の提供スピードも早いことがほとんどです。ランチタイムの時短に役立っていると言えるでしょう。
また福利厚生として社員食堂を運営している会社は、社員が利用する場合、食事補助として食事料金は通常よりも低価格に抑えられています。
社員にとって社員食堂でランチをとることは、毎日の食費の節約にもつながります。
社員食堂のデメリット
社員食堂のメリットの裏にはデメリットも。昨今では、このデメリットの比重が大きくなってきたため、社員食堂が減少してきている一つの理由と言ってもよいかもしれません。
社員食堂がどんなデメリットを抱えているのかをみていきましょう。
経営面の問題
社員食堂は、会社が社員のために常設しているレストラン設備のようなものです。
運営には大きなコストがかかります。社員食堂の設備だけでなく、運営するための人件費や食材調達の費用、衛生管理などさまざまなコストが必要です。
資金力がない会社は社員食堂の維持自体が困難に。そのため、社員食堂を導入している会社は大企業であることが多く見受けられます。
外勤者の利用が難しい
社員食堂を備える目的は、メリットである「社員の健康維持やコミュニケーションの活性化などが等しく享受されること」です。
社員食堂はオフィスに併設されていることがほとんどのため、客先などに勤務している外勤者は利用ができません。
テレワークにより自宅などで勤務する社員が増えた現在の状況下ではさらに利用が難しくなっており、その必要性が見直されています。
「すごい・おしゃれ」人気の社員食堂がある会社は?
減りつつある社員食堂も、会社のブランディングに上手く活用している会社もあります。
社員食堂をおしゃれな内装にしたり、一般開放したりすることで会社のPRに利用している会社をみてみましょう。
社員食堂が一般開放されている会社
「株式会社タニタ」の「丸の内タニタ食堂」
社員食堂がブランドイメージの向上につながっている会社の一つに、体組成計などで有名な「株式会社タニタ」の社員食堂があります。
同社の社員が驚きの体型変化を遂げた、ヘルシーなのに飽きがこないメニューの数々は、多くのメディアに取り上げられ、レシピ本も有名になりました。
この「タニタ食堂のメニュー」を一般の人が食べられる食堂が、都内では丸の内に展開されています。
タニタ食堂では、専門的に体組成計の計測や運動に関するアドバイスなどのカウンセリングが受けられる店舗もあり、健康づくりという企業ブランドイメージがさらに強化されています。
三井住友不動産株式会社の「CUIMOTTE(クイモッテ)」
三井住友不動産株式会社が提供している「CUIMOTTE(クイモッテ)」は中之島三井ビルディング内にあり、テナント企業が共有するダイニングとして運営されています。
社員食堂というより本格的なレストランのような店内には、コンシェルジュサービスまであります。さらに2000冊以上もの書籍をそろえるライブラリーがあり貸出図書も可能。
メニューもモーニングからディナーまでそれぞれ用意されており、日替わりランチは650円とお手頃価格で提供されています。
週替わりのメニューもあり毎日の食事に飽きることはありません。
JICA東京の「JICA東京 食堂」
独立行政法人 国際協力機構 JICA東京の1階にある海外の研修員のための施設に併設された食堂です。
都心にありながら緑の多い環境で食事がとれる施設を、一般の方も利用できるよう開放しています。
JICAは他にも「J’s Cafe(食堂)」を運営しています。発展途上国のメニューを提供したり、フェアトレード商品などを販売したりとJICAの活動と密接に結びついた運営がなされています。
JAXA筑波宇宙センターの「筑波宇宙センター社員食堂」
変わり種でいえば、JAXA筑波宇宙センターが提供する「筑波宇宙センター社員食堂」です。
セキュリティエリア内にあるため、利用には「食堂利用者証」の取得が必要ですが、JAXAのジャンパー着用の社員の方々と共に食事をとることができ、非日常の空間を楽しむことができます。
値段も400円~600円前後とリーズナブルな設定となっています。
東京港湾合同庁舎の「東京税関本関 職員食堂」
人気のお台場エリア、東京港湾合同庁舎の2階にある職員食堂「稲穂食堂」も一般利用可能な職員食堂です。
こちらも利用には入館証を取得する必要がありますが、窓際の席では海を眺めながら食事をとることができます。
お台場は観光地のため、食事の値段も高価なところが多いですが、職員食堂ではラーメンが500円程度と良心的な価格設定になっています。
鎌倉市「まちの社員食堂」
こちらは、社員食堂の新しい形のひとつと言えるかもしれません。
鎌倉で働く人たちが集う「まちの社員食堂」をつくりたい。
そんな思いから、鎌倉に拠点を持つ企業・団体31社が手を取り合ってつくった、鎌倉で働く人限定の「まちの社員食堂」です。
上記のコンセプトの下、地域に密着した飲食店・会社・社員三方が循環しWin Win Winの関係となる取り組の社員食堂を結成。鎌倉の50のお店が週替わりで、鎌倉で働く人のために、健康的でおいしいメニューを提供しています。
コロナ禍により社員食堂の一般開放を一時休止している会社もありますが、このように社員食堂を一般開放することで、会社のブランドイメージアップや広報に役立てている会社は多くあります。
さらに、会社が社員食堂を一般開放することは、社員以外からも売上が見込めるため、社員食堂の維持にかかるコストを補える利点があるのです。
社員食堂で人気のメニューランキング
一般的な社員食堂で人気のメニューにはどんなものがあるのでしょうか?
社員・学生・寮・介護施設の食堂を運営している株式会社都給食が公開している「社員食堂で人気のメニューランキング」(※2)をみてみましょう。
1位 カレー
やはり定番のカレーは、外れナシですね。
2位 唐揚げ
唐揚げは満足感では何にも負けないパワーの源です。
3位 ハンバーグ
子どもから大人まで大好きなハンバーグ。こちらも人気の理由にうなずけます。
4位 麺類
のど越しがよく食が進む麺類は、さっと済ませたいランチタイムにありがたいですね。
5位 とんかつなどの揚げ物
唐揚げに続き揚げ物人気は強い。ガッツリ系で午後の働く活力もパワーアップ。
人気のメニューをみてみると、やはり高カロリーのものが多くみられます。
サラダなどの野菜もしっかり取れるメニューをセットにすると健康維持には良いかもしれません。
社員食堂の新形態、人気の食事補助
社員食堂の利用は減少傾向にありますが、依然として食事補助は社員にとっても、また就職活動者にとっても人気のある福利厚生の一つです。
時代の変化とともに、会社側も社員の健康を引き続き維持できるよう、提供方法を変えつつあります。
新しく台頭してきた社員食堂の新形態をご紹介します。
チケットレストラン
「チケットレストラン」は食券カードを利用した食事補助システムです。
会社がチケットレストランを購入し、社員に配布。社員はそのカードを加盟店で利用し、食事をとることができます。
チケットレストランは全国66,000店以上の飲食店やコンビニエンスストアで利用できるため、テレワーク中に自宅付近で使用することも可能。
社員は勤務場所や勤務形態にしばられることなく、食事補助の恩恵を平等に受けることができるため、社員の満足度も高い食事補助システムとなっています。
福利厚生で人気のチケットレストラン!食事券から電子カード移行でより便利に
オフィス常設型
オフィス常設型は、オフィスに冷蔵庫(主に自販機型でガラスのショーケースのような冷蔵庫)を設置し、惣菜やご飯を提供するシステムです。
社員食堂のように大規模な施設は必要なく、狭いオフィスでも場所をとらずに設置できます。
24時間いつでも利用でき、夜勤などお店が閉まっている時間帯にも健康的な食事が可能です。
飲食店の社食提供
コロナ禍以降、飲食店業界も苦しい時期を強いられました。新たな戦略として提供されたのが、飲食店の食事デリバリーサービスです。
個人でデリバリーが依頼できる「Uber Eats」などの宅配サービスのほか、有名なレストランのケータリング事前予約が可能なサービスも登場。オフィスで人気の味が食べられるとあって、話題となっています。
さいごに
福利厚生として運営されている社員食堂。
社員の健康維持やコミュニケーションの活性化などメリットがある反面、設備維持にかかるコスト高やテレワークの台頭による利用率の低下などにより、社員食堂の存続は見直されています。
社員食堂の形態も時代に合わせて変化させ、社員の健康維持に活用していくことが、必要なことかもしれません。
【参考資料】
(※1)ホットペッパーグルメ外食総研 社員食堂の利用実態や改善要望を調査/株式会社リクルートライフスタイル
(※2)社員食堂(社食)で人気のメニューランキングを紹介!/株式会社 都給食