監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
2024年10月、厚生労働省より、ストレスチェックの義務化の対象が拡大される方針が示されました。これは、これまで従業員50人以上の事業場にのみ義務付けられていたストレスチェック制度を、従業員50人未満の事業所を含む全事業場に拡大して義務付けるものです。本記事では、制度拡大の背景や具体的な実施方法、企業が準備すべき事項について、社会保険労務士の監修のもと詳しく解説します。スムーズに新制度へ対応するためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
ストレスチェック制度の義務化が全事業場へ拡大
厚生労働省は、2024年10月、ストレスチェック制度を全事業場に義務付ける方針を固めました。これにより、これまで従業員50人以上の事業場にのみ義務付けられていた制度が、50人未満の事業場にも拡大されることになります。
ストレスチェック制度は、2014年の労働安全衛生法改正により創設され、2015年12月から施行されている制度です。この制度は、労働者が自身のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを第一の目的としています。また、検査結果を集団ごとに分析することにより、職場環境の改善につなげることも重要な目的のひとつです。
具体的には、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施し、その結果を労働者に通知して自身のストレスへの気付きを促します。また、検査の結果、高ストレスと判定された労働者が申し出た場合は、医師による面接指導を実施することが事業者に義務付けられています。
この制度拡大の方針は、2024年10月10日に開催された「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の中間とりまとめで示されました。従来、従業員のプライバシー保護の観点から、小規模事業所でのストレスチェックは努力義務とされてきました。しかし、外部機関の活用によって適切な情報管理が可能になったことから、義務化の環境が整ったと判断されています。
参考:ストレスチェック制度について|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
参考:厚生労働省|ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案
増加する労働者のメンタルヘルス不調
ストレスチェックの義務化の拡大が示すように、近年、職場におけるメンタルヘルス対策の重要性が高まっています。ここでは、労働者のメンタルヘルスの不調にまつわる現状を解説します。
深刻化する職場のメンタルヘルス状況と企業への影響
メンタルヘルス不調により、1カ月以上休業または退職した労働者がいる事業場の割合は、近年上昇傾向にあります。
厚生労働省の「精神障害の労災補償状況」によると、2023年度の精神障害による労災支給決定件数は883件と、過去最多を記録しました。5年前の2019年度(509件)と比較して、約1.7倍の増加となります。
また、支給が決定された件数に限っても、自殺が79件報告されています。これは、職場におけるメンタルヘルス対策が喫緊の課題であることを示す数字です。
なお、精神障害による労災請求件数は全業種で増加傾向にあり、医療・福祉分野(887件)や製造業(499件)、卸売・小売業(491件)などで多く発生しています。この状況は、企業の生産性低下や人材流出といった経営課題にも直結しています。
参考:厚生労働省|別添資料2 精神障害に関する事案の労災補償状況
参考:厚生労働省|ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案
小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の現状
労働者数50人以上の事業場では、メンタルヘルス対策に取り組む割合が91.3%に達している一方、30~49人の事業場では71.8%・10~29人では56.6%と、事業場規模が小さくなるほど低調となっています。
ストレスチェックの実施率についても、50人以上の事業場では84.7%に達しているのに対し、50人未満の事業場では32.3%に留まっているのが現状です。
第14次労働災害防止計画(2023年3月策定)では「労働者数50人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027年(令和9年)までに 50%以上とする」という目標が掲げられました。全事業場への義務拡大は、この目標達成に向けた重要な施策として位置付けられています。
参考:厚生労働省|ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案
小規模事業場へのストレスチェック制度拡大の概要
ストレスチェック制度の義務化拡大にあたり、50人未満の事業場に対しては、その規模や実情に応じた実施方法が検討されています。厚生労働省は、小規模事業場の実態に即した実効性のある制度運用を目指し、具体的な実施方法や支援体制の整備を進めています。
ストレスチェックの対象となる事業場と労働者
新たなストレスチェック制度は、従業員数50人未満のすべての事業場が対象です。この従業員数にはパートタイム労働者も含まれますが、実際のストレスチェックの実施対象者については一定の基準が設けられています。
具体的には、期間の定めのない労働契約の従業員、または1年以上の期間を定めた契約の従業員が対象となります。また、労働時間については、通常の従業員の所定労働時間の4分の3以上勤務する従業員が対象です。ただし、所定労働時間の2分の1以上の従業員についても、実施することが推奨されています。
参考:厚生労働省|ストレスチェック実施義務対象になる「常時50 人以上の労働者を使用する事業場」
小規模事業場向けの実施方法
小規模事業場には、産業医の選任義務がありません。適切な情報管理が困難な場合があることから、ストレスチェックは原則として外部機関への委託が推奨されています。外部機関を活用することで、従業員のプライバシーの保護を確実におこなえるメリットもあります。
なお、厚生労働省が2024年5〜6月に実施した調査によると、外部機関によるストレスチェックの実施費用は1人あたり数百円から千円程度でした。ただし、実施者の費用が別途追加料金としてかかる機関もあるため、事前に確認が必要です。
参考:厚生労働省|ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ案
実施後の対応と支援体制
厚生労働省の検討会では、小規模事業場向けの具体的な支援体制も示されています。
ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員への医師による面接指導は、外部機関の利用で1人あたり2万円程度の費用が見込まれます。ただし、地域産業保健センターのサービスを利用することで、無料で面接指導を受けることが可能です。
制度運用面での負担軽減策もとられています。50人未満の事業場については、労働基準監督署への実施結果の報告は求められません。また、従業員のメンタルヘルスケアを支援するため、地域産業保健センターによる各種サービスの提供体制が強化されるほか「こころの耳」相談窓口の充実も進められる予定です。
さらに、職場環境の改善に向けた取り組みも検討されました。検討会は、従業員の集団分析や職場環境改善の義務化について、現時点では時期尚早と判断しています。まずは各企業の成功事例を収集・共有しながら、段階的に取り組みを強化していく方針が示されました。
企業が準備すべきこと
厚生労働省は、50人未満の事業場へのストレスチェック制度拡大にあたり、十分な準備期間を設けた上での施行を予定しています。法改正後の具体的な施行時期は今後の検討課題となりますが、企業側も計画的な準備を進める必要があります。
まず、実施方法について外部委託か自社実施かを検討しなければなりません。特に小規模事業場では、プライバシー保護の観点から外部委託が推奨されています。外部機関の選定にあたっては、厚生労働省が公開している委託先選定のためのチェックリストを活用できます。
また、実施時期や実施方法・高ストレス者の選定基準・結果の通知方法など、具体的な実施手順を定めた社内規程の整備も必要です。特に情報管理体制の構築は重要なポイントとなります。企業は、これらの準備を段階的に進めながら、従業員への丁寧な説明も行っていくことが求められます。
従業員のメンタルヘルスケアに効果的な施策
従業員のメンタルヘルスを維持・改善するには、ストレスチェック制度の実施に加え、日常的なメンタルヘルスケアの取り組みも重要です。中でもメンタルへの影響が大きい食事に注目し、企業にできる具体的な施策を紹介します。
メンタルヘルスと食生活の関係
従業員の健康管理において、食生活の管理は重要な要素のひとつです。
まず、規則正しい食事をとることは、生活リズムの安定につながります。万全の状態で仕事に臨めることで、高いモチベーションやパフォーマンスが期待できます。自然と成果が挙げやすくなることから、メンタル面も安定し、楽しみながらいきいきと仕事に取り組むことができるでしょう。
また、従業員同士で食事をともにする機会が増えると、社内のコミュニケーションが活性化します。横のつながりが深まるほか、風通しのよい組織づくりがしやすくなり、従業員一人ひとりのメンタルヘルスの安定に寄与します。
関連記事:メンタルヘルスには食事管理が重要!福利厚生で心の健康を支援しよう
食事補助でメンタルヘルスをサポート
従業員の健康的な食生活をサポートする方法として、近年特に注目を集めているのが食事補助の福利厚生サービスです。
たとえば、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を利用すると、一定の利用条件下で従業員の食事代が半額になります。
サービスの加盟店は全国に25万店舗以上で、ジャンルも豊富なため、利用者の食の好みや制限を問いません。健康な食生活のサポートになるのはもちろん、従業員同士の話題づくりのきっかけとしても効果的です。
従業員へのアピール度が高く、コストパフォーマンスの高い福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入されているサービスです。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
メンタルヘルスケアと福利厚生の充実で実現する健全な職場づくり
ストレスチェック制度の全事業場への拡大は、企業におけるメンタルヘルス対策の大きな転換点です。
制度の実施にあたっては、外部機関の活用や各種支援制度の利用により、小規模事業場でも無理なく対応することが可能です。さらに、「チケットレストラン」のような食事補助の福利厚生と組み合わせることで、より効果的なメンタルヘルスケアを実現できます。
従業員の心身の健康は、企業の持続的な発展に欠かせない要素です。ストレスチェック制度の導入を契機に、従業員の健康を支援する体制を整備し、働きやすい職場づくりを進めていきましょう。