監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
従業員のモチベーション維持を図るのに大切な福利厚生。
福利厚生の充実を図る企業もあるなかで、よく取り入れられているものが住宅手当です。
支給金額や条件などは企業ごとに異なりますが、なかには「一人暮らしの場合はどうなるの?」のような、疑問を持つ方もいるでしょう。
より効果的に支給するためにも、概要や一般的な支給基準などについて、理解を深めておくことが大切です。企業の担当者様などは参考にしてみてください。
住宅手当とは
住宅手当とは、企業が従業員に対して任意で支給する福利厚生のひとつです。従業員の住まいに関する補助を目的として支給します。住まいは、最低限の生活を送るには欠かせないものです。かかる費用を一部補助することで、従業員の生活安定を図ることがおもな目的としています。
企業が負担する福利厚生のなかでも、住宅手当は高い割合を占めている項目です。
日本経済団体連合会の2019年度福利厚生費調査結果報告(※1)によると、法定外福利費の1人一ヶ月当たりの平均が24,125円。そのうち住宅関連は11,639円と全体の48.2%を占めています。
データを見ると、住まいに関する補助を重要視している企業は、多いといえるでしょう。
住宅手当は、法律による定めがない「法定外福利」のひとつです。基本的には、企業が自由に支給対象となる条件、および支給する金額を決めます。
家賃補助や持ち家のローン補助を目的として、支給することが一般的です。
従業員の雇用形態によって、住宅手当支給の有無を分けている企業もあります。
例えば、転勤の可能性がある正社員には住宅手当を支給し、転勤がない非正規労働者には支給しないといったパターンです。
ただし同一の勤務条件で同じ業務を行っている従業員に対し、「正社員のみに支給する」という、公平さに欠ける内容の規定を設けることはできません。支給条件や金額の基準を定める際、同一労働同一賃金の考え方では職務内容等が同じ場合、正社員、非正規労働者にかかわらず平等な規定を設ける必要があります。
ちなみに、住まいに関する手当には、住宅手当以外にも様々なものがあります。法律による明確な規定がないため、名目に関しても企業が独自に設定できます。
なかには「引越手当」という名目の手当を支給する企業もあります。
なお企業が自由に規定できるとはいえ、福利厚生と認められる内容でなければなりません。
住宅手当の申請方法
住宅手当の申請方法は、企業ごとにも異なります。法律による取り決めがないため、申請のやり方なども企業が自由に決めることが可能です。
日本企業の場合だと、申請のときに住民票や賃貸契約書のような、居住を証明する書類の提出を求めるケースがよく見受けられます。
また、提出先も企業ごとに異なりますが、総務担当者などへの提出が一般的です。申請が完了すると、社内規定に照らし合わせて支給の有無や支給金額が決定されます。
なお、社内規定については「同居人の有無」および「居住形態」などによって、規定を設ける企業が多い傾向にあります。
一人暮らしの住宅手当
従業員が一人暮らしの場合、賃貸住宅に住んでいる人が多く、若手社員は収入のうち家賃が占める割合が高い傾向があります。こうした背景から、一人暮らしの従業員に住宅手当を支給する企業は多くあります。
細かい条件は企業ごとで違いますが、なかには申請理由を考慮して支給を判断する企業も。
どのような申請理由なら支給する、といった判断基準も就業規則や社内規定で取り決めておきましょう。
賃貸住宅の場合
従業員の住まいが賃貸住宅で住宅手当の支給がされる場合、家賃補助を目的として支給がおこなわれます。
家賃の支払額に対して、企業が一定割合の金額を支給します。
補助する金額は企業ごとに違いますが、上限金額を設けるのが一般的です。
持ち家の場合
持ち家が支給対象とみなされた場合には、住宅ローンの補助を目的とした支給をする企業も。
ローンの支払額に応じて、企業の規定に基づいた金額の支給がおこなわれます。
持ち家に支給する際も、上限金額を設定するケースが多くあります。
同棲している場合
支給対象となる規定を満たしていれば、社内の従業員同士で同棲をしている場合でも住宅手当を支給するケースはよくあります。
ただし、世帯主のみを対象に支給する企業が多いようです。この場合、1人分の住宅手当しか支給しません。
実家暮らしでも支給対象になるケース
大半の企業は、住まいに関して従業員が負担する費用への補助を目的としています。対して実家暮らしの場合では、従業員本人が負担しているか判断がしにくいため、住宅手当の支給をおこなわない企業が多いようです。
1世帯に対して複数の住宅手当の支払がされるような、不正防止の意味合いも含まれているのでしょう。
なお、以下に該当するときは支給するケースも。
1つ目は「従業員が世帯主」である場合です。
一般的に世帯主が家賃の負担をおこなうケースはよくあるため、従業員が負担していると判断できれば支給対象になります。
また、もともとの世帯主は両親だったとしても、現在は生計を別にしているケースもあるでしょう。このようなときは、役所にて世帯分離の手続きを行えば、世帯主になることが可能です。
2つ目には「両親が従業員の扶養に入っている」場合が挙げられます。
扶養ということは従業員の所得がおもな収入源であり、家賃なども負担している可能性が高いと判断されます。
「従業員が家賃を負担しているとき」が、3つ目に該当するケースです。ただし、企業によっては、負担していることを証明する書類の提出を必要とする場合があります。
一人暮らし住宅手当の平均額
厚生労働省の「平成27年就労条件総合調査」(※2)によれば、住宅手当における1人あたりの支給額の平均は、17,000円であると分かりました。このデータは全国を対象としたものですが、都道府県によってはより詳しい調査を行っています。
ちなみに東京都の場合だと、東京都産業労働局が中小企業を対象に調査したデータ(※3)です。
居住形態に関わらず一律で支給する場合では、扶養家族なしで15,606円となっています。
対して居住形態別に支給する場合、賃貸で18,346円、持ち家だと15,250円が平均支給額です。
一方で公務員は、法律や条例によって上限金額および計算方法が決められています。
国家公務員の場合、住宅手当の支給上限額は28,000円(※4)です。計算方法も決められており、定められた条件に沿って実際に支給される金額が決定されます。
対して地方公務員の場合は、地方自治法に基づいて設定しているため、自治体ごとに支給条件や金額が異なります。
東京都庁職員の場合だと給与に関する条例(※5)があり、支給上限は月額15,000円までと国家公務員に比べて安めの設定です。
なお、特別区(東京23区)の場合、条件を満たすと最大27,000円の住宅補助を支給しています。
さいごに
充実した福利厚生は、労働者が企業を判断する重要な項目のひとつです。
なかでも、生活を送るうえで必要な住まいに関する補助は、従業員のモチベーションに深く関わるものだといえます。企業や条件によっても異なりますが、一人暮らしの従業員に対して、住宅手当を支給するケースも多いようです。
生活が安定すれば、従業員も安心して仕事に取り組めるでしょう。結果的には、仕事に対するパフォーマンスの向上に期待できます。福利厚生を効果的に使って、従業員の生産性アップを目指しましょう。
【参考資料URL】
※1「第64回福利厚生費調査結果報告(PDF)/日本経済団体連合会」
※2「平成27年就労条件総合調査/厚生労働省」
※3「中小企業の賃金事情 令和3年版/東京都産業労働局」
※4「国家公務員の諸手当の概要(PDF)/人事院」
※5「住宅手当に関する規則/東京都庁」