監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
住宅手当は企業が支払う義務のあるものではありません。福利厚生のなかでも企業の裁量による法定外福利厚生に該当するものです。
しかしながら、住宅にかかる費用は毎月の固定費のなかでも大きな割合を占めます。求職者にとって住宅手当などの居住に関する制度を備えているかどうかは、会社を選ぶ上で大きなポイントになり得るのです。
ここでは、企業が備える住宅手当の相場がどのようになっているのか、厚生労働省の調査等を元に解説していきます。
住宅手当の相場をチェック
厚生労働省が行っている「就労条件総合調査の概況」によると令和2年の調査(※1)では、労働者一人当たりの住宅手当の平均額(相場)は17,800円でした。住宅手当を備える企業は、ライフスタイルの多様化や支給要件の複雑さにより減少傾向にあると言われています。
しかし金額的な観点では、平成27年の同調査(※2)での平均支給額が17,000円だったことからみてもそれほど大きく変化していないことがわかります。
昨今では、カフェテリアプランなどの選択型福利厚生のメニューの一つとして採用し、従業員が必要に応じて選択し利用できる形にしている企業も見受けられます。
住宅手当の相場:業種ごと
住宅手当の相場について、業種ごとの違いはどの程度あるのでしょうか?業種ごとの平均額(相場)については、平成27年の就労条件総合調査結果の概況_賃金制度(※2)において以下のように報告されています。
鉱業,採石業,砂利採取業……11,136円
建設業……16,760円
製造業……14,178円
電気・ガス・熱供給・水道業……10,466円
情報通信業……25,312円
運輸業,郵便業 ……15,471円
卸売業,小売業……18,305円
金融業,保険業……19,151円
不動産業,物品賃貸業……20,571円
学術研究,専門・技術サービス業……19,808円
宿泊業,飲食サービス業……15,442円
生活関連サービス業,娯楽業……17,753円
教育,学習支援業……19,189円
医療,福祉……15,727円
複合サービス事業……12,091円
サービス業(他に分類されないもの)…… 23,480円
以上のデータから住宅手当の金額が一番高いのは「情報通信業」で25,312円、一番低いのが「電気・ガス・熱供給・水道業」の10,466円でした。
相場に15,000円程度の差があるものの、各業種別の相場をみると1万円台から2万円台の支給が多いことがわかります。
このことからも全体の相場は1万円~2万円程度の支給額であると言えます。
住宅手当の金額を設定する際の参考にすると良いでしょう。
とはいえ、住宅手当は毎月かかる費用です。途中で減額したり廃止したりすると従業員の不満や離職に繋がりかねません。企業の財政状況を考慮して、無理のない金額を検討することが大切です。
大手企業の相場
企業規模によって住宅手当の相場に違いはあるのでしょうか。
「令和2年就労条件総合調査の概況」(※1)によると、大手企業と呼ばれる1,000人以上の従業員を抱える企業の相場は21,300円でした。
全体の平均相場より若干高めとなっていることがわかります。
さらに、大手企業で住宅手当の支給している割合は61.7%と半数以上が備えており、単身赴任手当や別居手当なども66.6%が備えていることが見て取れました。
転勤のある大手企業では、勤務場所が遠隔地になる可能性も高くなることから、居住に関する手当を備える企業が多いと推測されます。
中小企業の相場
次に中小企業の相場を見ていきましょう。
中小企業については、従業員人数によってそれぞれ以下のように平均額(相場)が報告されています(※1)。
300~999人……17,000円
100~299人……16,400円
30~99人……14,200円
企業規模が小さくなるごとに住宅手当の相場も低くなっていますが、大企業に比べても、住宅手当を備えている企業の割合は50~60%前後とそれほど差はありません。
しかし、単身赴任手当や別居手当などの割合はそれぞれ300~999人(41.4%)、100~299人(22.0%)、30~ 99人(5.3%)と少なくなっています。
転勤等があるかないかについても、その費用の算出は変わってきます。居住に関する手当制度を制定する際の金額の設定で考慮すると良いでしょう。
住宅手当の相場:エリアごと
住宅手当は、先に述べた通り企業に備える義務はありません。従って支給要件も企業によってさまざまです。一律いくらとして支給する企業もあれば、家賃の何%(ただし上限あり)などとして支給する企業もあります。
地域の家賃相場によっても支給額が変動する企業もあるようです。
ここでは、都市と言われる東京・大阪・福岡の人気エリアの家賃相場をみることで、住宅にかかる費用がどの程度必要となっているのか目安を確認していきます。
東京の相場
東京の人気エリアの上位は港区(12.9 万円)・渋谷区(10.6 万円)・新宿区(9.3 万円)となっています。記載されている家賃の平均額を見てみると、10万円前後であることがわかります。
大阪の相場
大阪の人気エリアの上位は大阪市北区(6.6 万円)・ 大阪市中央区(6.7 万円)・大阪市西区(6.8 万円)となっています。記載されている家賃の平均額を見てみると、6.5万円前後です。
福岡の相場
福岡の人気エリアの上位は福岡市博多区(5.5 万円)・福岡市中央区(5.8 万円)・福岡市東区(4.5 万円)となっています。記載されている家賃の平均額を見てみると、5万円前後でした。
注)上記の人気エリアランキングは、不動産・住宅サイト「SUUMO」に登録されている賃貸物件の賃料を元に「SUUMO」社が独自の集計ロジックによって算出したデータを参照しています。(※3・4・5)
法的な規定がない住宅手当は、地域によって相場を変動させることも、支給要件を変えることも企業に裁量が任されています。
上記のように同条件で算出した家賃相場をみるとやはり東京エリアは家賃相場が高くなるため、家賃の何%などで設定している企業は、住宅手当の支給相場も高くなります。一律とする場合でもエリアごとの家賃相場に応じて支給額を決めている企業もあります。
住宅手当の金額を決定する際は、企業の支給相場だけでなく、自社の従業員の居住エリアの家賃相場なども考慮していきましょう。
住宅手当の相場は家族分類ごとに異なる?
住宅手当について扶養家族がある場合とない(一人暮らし等)の場合で支給額に差があるのか見ていきます。東京都産業労働局の「中小企業の賃金事情(令和元年版)」(※6)によると、住宅手当を支給している企業のうち53.3%が一律支給しており、平均支給額は扶養家族ありの場合18,361円、「扶養家族なし」の場合15,606円でした。
また、住宅の形態が賃貸であるか持ち家であるかでも支給額が異なることがあります。
同調査(※6)では「扶養家族あり」の場合の平均額は、賃貸で23,497円、持家で18,322円でした。
「扶養家族なし」の場合は賃貸で19,220円、持家で13,667円となっています。
以上のデータから、一律とする場合でも一人暮らしと扶養家族ありでは支給額が異なり、さらに賃貸か持家かでも金額が異なる場合があるとわかりました。
いずれにしても、扶養家族がある場合の方が一人暮らしや扶養家族なしの場合よりも、支給額は高くなる傾向にあるようです。
住宅手当を制定する際は、自社の従業員層や今後を見据え、支給要件を整理していくことが必要となってきます。
昨今ではシェアハウスに住む方も増えてきました。シェアハウスの場合どうするのか、世帯主のみにするのかなど、住宅手当の支給要件についてさまざまなケースを想定しておかなければなりません。
(※6)「中小企業の賃金事情(令和元年版)」<図表2-11>住宅手当の支給額より
さいごに
毎月の費用の中でも大きな割合を占めることが多い住宅費用。住宅手当を企業が備えていることは、従業員や求職者にとって魅力的です。
手間とコストはかかりますが、優秀な人材の確保や企業アピールになるため、備えておきたい手当の一つです。
世の中の生活様式が多様化してきたため、その支給要件もいろいろなケースに対応できるよう就業規則や社内規定などの制度を整えていく必要があります。
支給額を一律にするのか変動にするのか、支給額はいくらにするのか、地域の家賃相場や住宅手当の相場を参考に計画していきましょう。
(※1)令和2年 就労条件総合調査の概況/厚生労働省
(※2)平成27年の就労条件総合調査結果の概況_賃金制度/厚生労働省
(※3)東京都の家賃相場情報/不動産・住宅サイト SUUMO(スーモ)
(※4)大阪府の家賃相場情報/不動産・住宅サイト SUUMO(スーモ)
(※5)福岡県の家賃相場情報/不動産・住宅サイト SUUMO(スーモ)
(※6)中小企業の賃金事情(令和元年版)/東京都産業労働局