企業が従業員の医療費を補助する「医療費補助」は、人材確保が難しい時代における効果的な福利厚生として注目の施策です。しかし、制度設計を誤ると「経費計上が認められない」等のリスクもあるため、企業には制度への正しい理解が求められます。本記事では、福利厚生としての医療費補助の基本から、税務上の条件・健康経営との連携・さらに食事補助との相乗効果まで、医療費補助について企業が知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
福利厚生としての「医療費補助」とは?基本を解説
企業が従業員に提供する医療費補助は、法定外福利厚生の一種です。内容次第では、非課税で処理できる一方、制度設計を誤ると給与とみなされる可能性もあります。まずは、医療費補助がどのような制度か、その基本的な位置づけを確認していきましょう。
法定外福利厚生としての医療費補助の位置づけ
福利厚生は、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の大きく分けて2種類があります。
法定福利厚生は、社会保険料や労働保険料など、法律で企業に義務付けられているものです。一方、法定外福利厚生は企業が任意で提供するもので、食事補助・住宅手当・通勤手当・慶弔見舞金などが該当します。医療費補助は後者にあたり、企業の裁量で設計できる自由度の高い制度です。
法定福利厚生は制度上非課税ですが、法定外福利厚生も一定の条件を満たすことにより非課税で処理できます。一方で、条件を満たさない場合、給与として課税対象になるため注意が必要です。
医療費補助を検討する際は、制度への正しい理解のもと運用することが求められます。
医療費補助に該当する主な施策とは
医療費補助として企業が実施できる主な施策には、以下のようなものがあります。
- 健康診断関連:一般健康診断の費用負担、人間ドック・脳ドックの費用補助、オプション検査の追加など
- 予防医療:インフルエンザなどの予防接種費用補助、生活習慣病予防プログラム、禁煙支援プログラムなど。
- メンタルヘルス対策:カウンセリング費用の補助、ストレスチェック後のフォローアップ、メンタルヘルス相談窓口の設置など
- 治療支援:通院・入院費用の補助、高額医療費の一部負担、医療保険の団体加入など
- その他:健康管理アプリの提供、健康増進施設の利用補助、スポーツジム利用料の一部負担など
なお、一般健康診断は扱いとしては法定外福利厚生ですが、労働安全衛生法で実施が義務付けられています。企業が実施しない選択をすることはできないため注意が必要です。
参考:厚生労働省|労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~
参考:e-Gov 法令検索|労働安全衛生法|第66条
医療費補助を「福利厚生費」として処理するための3つの条件
医療費補助を非課税の福利厚生費として処理するためには、いくつかの条件を満たさなければなりません。これらの条件を満たさない場合、支給した医療費補助は給与とみなされ、課税対象となる可能性があります。ここでは、企業が押さえておくべき3つの基本要件について解説します。
① 全従業員を対象とすること
医療費補助は「全従業員」を対象に実施する必要があります。特定の役職者や部署だけを対象とした医療費補助は「使用人全体に共通して供与されるもの」とはみなされず、福利厚生費ではなく「給与」として扱われます。
たとえば、以下のような制度設計は福利厚生として認められません。
- 役員のみが高額な人間ドックを受診できる制度
- 一部の部署や職種だけを対象とする医療費補助
- 勤続年数で対象者を限定する予防接種補助
ただし、年齢層や健康状態に応じ、合理的な理由によって医療費補助の内容に差をつけることは認められます。「35歳以上の従業員には生活習慣病予防検診を追加する」「有所見者には追加の検査費用を補助する」などは、健康上の合理的な理由があるため問題ありません。
② 現金支給ではなく、企業が直接負担すること
医療費補助は、企業が医療機関に直接支払う形で実施する必要があります。これは、福利厚生の原則として「金銭の支給」ではなく「サービスの提供」であることが求められるためです。
以下のような制度は、福利厚生費として認められない可能性が高いため注意が必要です。
- 従業員が医療費を立て替え、後日企業が精算する制度
- 医療費相当額を従業員に現金支給する制度
- 医療費補助を名目に給与に上乗せして支給する制度
医療機関との契約は企業名義で行い、請求・支払いも企業と医療機関の間で直接行うようにしましょう。
③ 社会通念上、妥当な範囲の金額であること
医療費補助の金額が社会通念上妥当な範囲を超えている場合、それは福利厚生費とはみなされません。たとえば、宿泊付きの高額な人間ドックや、必要以上に豪華な医療施設での治療費補助は、給与や賞与とみなされる可能性があります。
一般的な医療費補助の相場としては、以下のようになります(地域や医療機関により異なる)。
- 一般健康診断:1万円~1.5万円程度
- インフルエンザ予防接種:3,000円~5,000円程度
- 人間ドック:3万円~9万円程度
これらの金額を大きく上回る補助を行う場合は、その必要性や合理性を説明できる根拠が求められます。
医療費補助で健康経営の推進も
医療費補助は、単なる福利厚生策にとどまらず、近年注目されている「健康経営」を実践するための基盤ともなる重要な施策です。ここでは、健康経営の全体像と医療費補助の役割を確認したうえで、健康経営の導入メリットや課題を紹介します。
健康経営とは?企業に求められる理由
経済産業省は、健康経営について次のように定義しています。
健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
企業に健康経営が求められる背景には、以下のような社会的課題があります。
- 少子高齢化と人手不足:労働人口の減少により、健康で長く働ける人材の確保が経営課題となっていること
- 医療費・社会保障費の増大:企業の健康保険料負担の増加を抑制するため、従業員の健康維持の重要性が高まっていること
- 生産性向上の必要性:健康な従業員による生産性向上が企業の競争力に影響すること
- ESG投資の広がり:企業の健康経営への取り組みが、投資判断の材料として注目されるようになっていること
健康経営に取り組む企業は年々増加しています。2025年3月10日に発表された「健康経営優良法人2025」認定法人は、大規模法人部門で3,400法人・中小規模法人部門で19,796法人に達しました。2017年にはそれぞれ235法人・315法人のみであったことを踏まえると、健康経営に対する急速な関心の高まりには目を見張るものがあります。
医療費補助は、こうした健康経営の取り組みを支える基本的な施策として重要な役割を果たす制度です。
健康経営を実施するメリットとは?
株式会社「帝国データバンク」が全国の「従業員」の立場にある人を対象に行った調査によると「企業が健康経営に取り組むメリット」として、もっとも多い54.3%が「従業員のモチベーション向上」と答えました。この設問から、健康経営に取り組む企業の従業員は、自身のモチベーション向上を実感していることが分かります。
また「健康経営に取り組んでいる企業で働きたい(働き続けたい)か」との設問に対しては「働きたい(働き続けたい)と思う」が 25.8%・「どちらかというと働きたい(働き続けたい)と思う」が26.6%となりました。合計52.4%と、過半数の従業員が、自社の健康経営への取り組みについてポジティブに捉えていることが明らかとなっています。
このように、健康経営は、企業に生産性向上や人手不足解消をはじめとする多面的なメリットをもたらします。だからこそ、健康経営への取り組みは「コスト」ではなく「投資」として注目されているのです。
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|従業員アンケート 健康経営に関する企業の取り組み状況や効果に関する調査分析|(2024年2月29日)
医療費補助が健康経営優良法人認定を後押し
医療費補助は「健康経営優良法人認定制度」の評価項目にも関連しています。医療費補助が特に関連するのは、主に以下の項目です。
- 健診・検診等の活用・推進:健康診断の結果に基づく保健指導の実施や費用補助
- 感染症予防対策:予防接種の費用補助や実施
- 具体的な健康保持・増進施策:メンタルヘルス不調者に対するカウンセリング費用の補助や相談窓口の設置
適切に設計された医療費補助制度は、健康経営優良法人認定の取得に向けた重要な施策となります。認定を取得することで、人材採用や企業イメージの向上といった副次的なメリットも期待できます。
参考:ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度)|申請について - ACTION!健康経営
企業規模による健康経営への取り組みの違い
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|健康経営への取り組みに対する企業の意識調査|(2023年10月26日)
帝国データバンクが2023年に行った調査によると、健康経営に取り組んでいる企業の割合は、1,000人以上の企業で82.6%と高水準なのに対し、51〜100人の企業では68.1%、5人以下ではわずか40.7%に留まっています。
この背景には、人的・金銭的リソース不足やノウハウ不足など、中小企業ならではの課題があることがうかがえます。
関連記事:今すぐ!健康経営に取り組む3つのメリットと実践事例
健康経営の導入が進まない理由とは?現場が抱える課題を整理
健康経営への取り組みでは「始めたいが着手できない」「一度導入したが続かない」といった声も聞かれます。ここでは、健康経営の導入時によく見られる課題を4つに絞って解説します。
制度を「導入するだけ」で止まってしまう
健康経営は、制度を作って終わりではありません。たとえば、従業員にストレスチェックを実施しても、結果を分析して改善施策につなげなければ、状況は改善されません。
現場では「とりあえず導入したけれど、その後何も変わらなかった」というケースや、制度の形式だけが残ってしまう「形骸化」も起こりがちです。導入後は、定期的な見直しやPDCAサイクルを回す体制が不可欠です。
社内での認知・理解が進まず形骸化する
健康経営を実践するにあたっては、事前の従業員の理解と納得が必要です。しかし「この制度は何のためにあるのか」「自分に関係があるのか」が伝わっていない場合、利用が進まないばかりか、反発を招く結果に終わる可能性も否定できません。
こうした事態を防ぐには、社内広報や説明会、アンケートなどを通じ、事前に制度の趣旨を周知徹底することが大切です。「制度の押し付け」ではなく「自分のための施策」であるという実感を育てましょう。
リソース不足で施策が継続できない
中小企業の多くは、健康経営への取り組みを専任で担う部門を持ちません。また、専門知識やノウハウが不足していることで、継続的な運用に手が回らない場合もあります。
その結果、いったん形は整ったものの、短期間で頓挫してしまうといったことが起こりがちです。外部の支援サービスの活用など、少ないリソースでも実行可能な制度設計を行いましょう。
経営戦略とつながっていない
健康経営が組織に根付かない原因のひとつに「経営の視点と施策が乖離している」ことがあります。具体的には、人事部門が主導しても経営層が関与していない、戦略と連動したKPIが設定されていない、といったケースです。
健康経営は、本来「従業員の健康=企業の成果」という考え方に基づく経営戦略の一部です。トップが明確にメッセージを発信した上で、経営層を巻き込んだ取り組みが求められます。
健康経営の課題を乗り越える実践策|チケットレストランの活用
医療費補助だけでは従業員の健康維持に限界があります。真の健康経営を実現するには、従業員が日常的に健康を意識した行動を取れる仕組みが必要です。ここでは、日常的な健康支援策として注目されているエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」について、実際の導入事例とともに紹介します。
健康経営優良法人認定に対応した制度設計が可能
「チケットレストラン」は、一定の条件下において、所得税の非課税枠運用を活用しながら全国25万店舗以上の加盟店での食事を実質半額で利用できる、食の福利厚生サービスです。加盟店の種類は、有名ファミレスやカフェ・コンビニなど多種多様で、勤務時間内にとる飲食物の購入であれば時間や場所の制限もありません。
すでに3,000社を超える企業に導入され、日本一の食の福利厚生サービスとして知られる「チケットレストラン」ですが、健康経営の施策としても有効です。健康経営優良法人の認定制度では、食生活の改善や予防施策が評価対象となっており「チケットレストラン」のような食事補助制度はその要件に合致するからです。
「チケットレストラン」を通じ、従業員の栄養バランスや昼食習慣を支える仕組みを整えることで、医療費補助だけではカバーしきれない「日常の健康支援」と、従業員の経済的なサポートを同時に実現する福利厚生の提供が可能となります。
健康経営優良法人の認定取得を目指す企業様は「【録画配信】チケットレストラン × RIZAP共催WEBセミナー」もご覧ください。
関連記事:【税理士監修】食事補助は非課税?福利厚生の仕組みと注意点を解説!
実践事例|鈴木商店が取り組む健康経営と食事補助
システム開発・ITコンサルティングを行う「株式会社鈴木商店」では、かねて福利厚生の拡充を望む声が上がっていました。また、健康経営優良法人の認定項目である食生活改善の取り組みを満たす必要もあったことから、これらの課題を解消する手段として「チケットレストラン」の導入を決断したそうです。
その結果、同社は2023年と2024年の2年連続「健康経営優良法人」の認定法人に認定されました。加えて、健康週間アンケートにおける従業員の肯定的回答も56%から70%と大幅に上昇しています。
参考:https://www.suzukishouten.co.jp/
導入事例ページ
医療費補助から始める「戦略的な福利厚生」の見直し
医療費補助は、従業員の健康支援を通じて企業の持続的成長を促す重要な福利厚生施策です。さらに、健康経営と組み合わせることで、従業員満足度や生産性の向上・人材定着といった多面的な効果も期待できます。
ただし、福利厚生としての制度設計には実務的な留意点も多く、十分な知識と準備が欠かせません。特に中小企業では、人的・金銭的リソースの欠如が健康経営の取り組みを阻害しがちなため、事前の十分な制度設計が必要です。
「チケットレストラン」のような日常的な健康支援としての食事補助制度も活用し、健康経営優良法人認定の取得や企業価値の向上を目指してはいかがでしょうか。
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