iDeCoが2024年12月に改正されます。これに伴い、企業ではどのような手続きが必要になるのでしょうか?iDeCoの改正内容とともに、関連する企業型確定拠出年金・確定給付企業年金について確認した上で、企業が行うべき手続きについて見ていきましょう。
iDeCoとは
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、拠出限度額の範囲内で自分で決めた掛金を、自分で選んだ方法で運用して、60歳以降に受け取る私的年金のことです。公的年金に上乗せすることで、老後生活の資金となります。
iDeCoのメリットは税制優遇
iDeCoで老後資金づくりに取り組むメリットは税制優遇です。掛金が全額所得控除されるため、所得税と住民税の負担を減らせます。
また掛金を運用して得た利益にも税金がかかりません。運用益をそのまま再投資にあてられるため、その分老後資金を増やしやすい仕組みです。加えて年金として受け取るときにも、控除の対象となります。
税制優遇により効果的な老後資金づくりが可能です。
関連記事:【税理士監修】昇給で手取りが減る?収入が増えた実感ナシの理由も解説:
iDeCoの改正は2024年12月から
iDeCoはこれまで加入対象者の拡大を進めてきました。これに伴い、企業型確定拠出年金・確定給付企業年金の加入者との公平性を図る必要が出てきたため行われるのが、2024年12月の改正です。ここでは具体的な改正点を紹介します。
会社員や公務員など第2号被保険者の拠出限度額が変わる
iDeCo公式サイトによると、2024年9月時点のiDeCoの掛金上限額は以下の通りです。
加入資格 |
拠出限度額 |
自営業者などの第1号被保険者 |
月2万3,000円 |
勤務先に企業年金がない会社員 |
月2万3,000円 |
企業型確定拠出年金のみに加入している会社員 |
月2万円を上限に5万5,000円から企業掛金を差し引いた金額 |
企業型確定拠出年金と確定給付型企業年金に加入している会社員 |
月1万2,000円を上限に2万7,500円から企業掛金を差し引いた金額 |
確定給付型企業年金のみに加入している会社員 |
月1万2,000円 |
公務員 |
月1万2,000円 |
専業主婦(主夫)の第3号被保険者 |
月2万3,000円 |
このうち会社員や公務員といった第2号被保険者の拠出限度額が、2024年12月1日から以下のように変わります。
第2号被保険者 |
2024年7月時点 |
2024年12月から |
企業型確定拠出年金のみに加入している会社員 |
月2万円を上限に5万5,000円から企業掛金を差し引いた金額 |
月2万円を上限に「月5万5,000円-(企業型確定拠出年金の掛金額+確定給付型企業年金等の掛金)」で算出される金額 |
企業型確定拠出年金と確定給付型企業年金に加入している会社員 |
月1万2,000円を上限に2万7,500円から企業掛金を差し引いた金額 |
|
確定給付型企業年金のみに加入している会社員 |
月1万2,000円 |
参考:
iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等
厚生労働省|2020年の制度改正|◇企業型DC、iDeCoの拠出限度額にDB等の他制度ごとの掛金相当額を反映(2024年12月1日施行)
年単位拠出が変わる
iDeCoは毎月定額の掛金を拠出するのが原則です。ただし書類を提出すれば、年間の拠出限度額を上限に、1~12回の拠出スケジュールを設定できる年単位拠出ができます。
例えば4月と10月に1年分の掛金を1/2ずつ拠出する、1~11月は1万円ずつ拠出して12月のみ10万円拠出する、といった拠出の仕方が可能です。
ただし企業型確定拠出年金にも加入している場合は年単位拠出ができません。さらに2024年12月からは企業年金制度に加入している従業員や、共済組合員となっている公務員等も利用できなくなります。
年単位拠出でiDeCoの掛金を納付している場合、2024年12月の制度改正に間に合うよう、2024年10月末までに「毎月定額」での納付へ変更する手続きを行わなければいけません。
参考:iDeCo公式サイト|お知らせ|iDeCoの掛金を「毎月定額」以外の方法で納付されている皆さまへ
脱退一時金が変わる
2024年12月の制度改正で、確定給付型企業年金等の掛金相当額によっては、iDeCoの掛金上限額が小さくなることや、最低額の5,000円を下回ることがあります。
このような状況で掛金を拠出できなくなった場合には、以下の要件を満たすと脱退一時金の受給が可能です。
- 60歳未満である
- 企業型確定拠出年金の加入でない
- iDeCoに加入できない
- 日本国籍を持つ20歳以上60歳未満の海外居住者でない
- 障害給付金の受給権者でない
- 企業型確定拠出年金もしくはiDeCoの加入者として掛金を拠出した期間が5年以内であるか、個人別管理資産の金額が25万円以下である
- 最後に企業型確定拠出年金もしくはiDeCoの資格を喪失してから2年以内である
事業主証明書の発行が変わる
企業年金プラットフォームで企業型確定拠出年金・個人型確定拠出年金(iDeCo)・確定給付企業年金等の加入者データを管理して、拠出限度額をチェックする仕組みの運営が始まります。
これにより、国民年金基金連合会が企業年金の加入状況を確認できるようになるため、企業が発行している事業主証明書は不要になります。
従業員がiDeCoへ加入するときや転職するとき、年1回の現況確認なども、企業での対応は不要です。
iDeCoと関係する企業型確定拠出年金・確定給付企業年金を解説
企業で働く従業員がiDeCoに加入する場合、企業型確定拠出年金や確定給付企業年金の考慮が必要です。2種類の制度の概要について解説します。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を毎月拠出し、従業員が商品を選んで資産運用を行う制度です。企業型確定拠出年金を導入している企業で働く従業員が加入できる、年金の3階建て部分にあたります。
運用した資金は、原則として60歳から受け取り可能です。老齢給付金として受け取る場合には、5年以上20年以下の有期年金・終身年金・規約で規定している場合には一時金として受給できます。
このとき受給できる金額は、従業員の運用によって決まります。商品の選び方によっては運用益で大幅に増やせるかもしれません。その反面、商品の価格が下がれば元本割れの恐れもある点に注意が必要です。
給付額には従業員が自ら責任を負うため、制度を導入するなら従業員向けの投資教育を実施するとよいでしょう。
関連記事:【社労士監修】企業型確定拠出年金とは?2024年12月からの変更を確認
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)とは、企業型確定拠出年金と同様に年金の3階建て部分にあたる制度です。掛金の拠出から給付までの全てに企業が責任を負う部分は、企業型確定拠出年金と異なります。
拠出した掛金は、企業とは別の生命保険会社・信託会社・企業年金基金で運用されるため、万が一企業が倒産しても従業員の受給権が保護されるのも特徴です。
ただし企業が給付額にまで責任を負う性質上、企業の業績が大幅に悪化すると、当初予定していた給付額を実現できない可能性があります。
iDeCoの改正は企業型確定拠出年金の上限引き上げと関係している
会社員や公務員がiDeCoに加入するとき、拠出金の上限額は以下の通りです。
月2万円を上限に「月5万5,000円-(企業型確定拠出年金の掛金額+確定給付企業年金等の掛金)」で算出される金額
計算式から分かる通り、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の掛金がiDeCoの掛金にも影響します。2024年12月から変わるiDeCoの掛金について理解するために、同じく2024年12月から行われる企業型確定拠出年金の上限引き上げについても見ていきましょう。
対象となるのは確定給付型企業年金と併用するケース
2024年12月から企業型確定拠出年金の掛金の上限額が引き上げられます。この引き上げの対象となるのは、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金等を併用しているケースです。
2024年12月からの企業型確定拠出年金の掛金上限額
企業型確定拠出年金の2024年9月時点の拠出金上限額は、企業型確定拠出年金のみを導入している企業であれば月5万5,000円です。
企業型確定拠出年金と確定給付企業年金等を併用している企業では、確定給付企業年金等を一律で月2万7,500円と考え、企業型確定拠出年金の拠出金上限額を2万7,500円としています。
2024年12月からの企業型確定拠出年金の掛金上限額は「5万5,000円から確定給付型企業年金等の掛金相当額を差し引いた金額」です。
企業型確定拠出年金のみを導入している場合は、確定給付型企業年金等の掛金は0円のため、企業型確定拠出年金の掛金上限額はこれまでどおり月5万5,000円です。
一方、確定給付型企業年金等を併用するケースでは、確定給付型企業年金等の掛金が月2万7,500円を下回っているとき、企業型確定拠出年金の掛金は2万7,500円を超えます。
例えば確定給付型企業年金等の掛金が月1万3,000円なら、企業型確定拠出年金の掛金は月4万2,000円まで拠出可能です。
改正に伴い企業が行う手続きは?
iDeCoの制度改正により企業が行う手続きは、制度改正についての従業員への周知と企業年金プラットフォームへの登録です。それぞれの手続きについて解説します。
iDeCoや企業型確定拠出年金の制度改正について周知する
2024年12月から行われるiDeCoや企業型確定拠出年金の制度改正は、従業員に大きく影響する内容です。iDeCoに関して従業員自身が手続きを行わなければいけないケースもあるため、滞りなく手続きが行われるよう周知しましょう。
企業年金プラットフォームへ登録する
今回の制度改正から、企業年金プラットフォームで企業型確定拠出年金・iDeCo・確定給付型企業年金等の加入者データを管理して、拠出限度額をチェックすることになります。
この仕組みに対応できるよう、企業型確定拠出年金と確定給付型企業年金等を併用している場合には、記録関連運営管理機関に確定給付型企業年金等の掛金相当額の登録が必要です。
適切に登録できていない場合には、従業員がiDeCoの掛金を拠出できなくなる可能性があるため注意しましょう。
iDeCoの制度改正をきっかけに従業員の待遇を見直そう
2024年12月に会社員・公務員の拠出金限度額の変更を中心とした、iDeCoの制度改正が行われます。この拠出金限度額の変更には、企業型確定拠出年金や確定給付企業年金も関係しているため、合わせて見直しが必要です。
また企業は、従業員への制度改正に関する内容の周知や、企業年金プラットフォームへの登録などの手続きも行う必要があります。
従業員の待遇に関わる制度改正をきっかけに、給与や福利厚生なども見直してみてはいかがでしょうか。例えばエデンレッドジャパンの提供する食の福利厚生サービス「チケットレストラン」を活用することで、従業員の税負担を増やすことなく実質的な手取り額を上げることも可能です。