監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
中小企業における企業型確定拠出年金の導入は、従業員の福利厚生充実や人材確保に効果的です。本記事では、確定拠出年金の基本的な仕組みから、中小企業向けの制度・2024年の改正点まで、経営者や人事担当者が押さえておきたいポイントを詳しく解説します。企業の成長と従業員の満足度向上を両立させる確定拠出年金の活用法をぜひ参考にしてください。
企業型確定拠出年金とは?基本的な仕組みを解説
確定拠出年金は、従業員の老後の資産形成を支援する企業年金制度のひとつです。まずは、制度の概要から確認していきましょう。
企業型確定拠出年金の特徴と仕組み
企業型確定拠出年金は「拠出」「運用」「給付」の3段階で構成される制度で、別名「企業型DC」や「DC」とも呼ばれます。
第一段階の「拠出」では、企業が毎月一定額を従業員の個人口座に積み立てます。続く「運用」は、提示された金融商品の中から従業員が自由に選択し、自己責任で運用を行う段階です。最後の「給付」は、運用した拠出金を年金、または一時金として受け取る段階で、原則60歳以上が対象です。
この仕組みにより、従業員は自身のライフプランに合わせた資産形成が可能となるほか、企業側も将来の年金債務を確定できるメリットがあります。ただし、従業員が運用リスクを負う制度であるために、企業には従業員に対して適切な投資教育を提供することが求められます。
関連記事:【社労士監修】企業型確定拠出年金とは?2024年12月からの変更を確認
企業型確定拠出年金の税制優遇措置と経営メリット
企業型確定拠出年金には、企業と従業員双方に税制優遇措置があります。
まず企業側は、拠出した掛金を全額損金として計上できるため、法人税の軽減につながります。一方、従業員側は、拠出時や運用益に対する課税がなされないために、効率的な資産形成が可能です。
企業型確定拠出年金を提供することは、待遇面を重視する求職者に対する強力なアピールポイントなります。新たな人材の確保や、既存従業員の定着にも寄与することが予想されますが、導入・運営にはコストがかかるため、企業規模や財務状況を考慮した慎重な検討が必要です。
企業型DC(企業型確定拠出年金)と個人型DC(iDeCo)の違い
確定拠出年金には、企業型DC(企業型確定拠出年金)と個人型DC(iDeCo:個人型確定拠出年金)の2種類があります。主な違いは以下の通りです。
項目 | 企業型DC | iDeCo |
加入 対象者 |
企業に所属する従業員 | 原則として20歳以上60歳未満の全ての人 |
拠出者 | 主に企業 | 個人 |
拠出 限度額 |
月額55,000円 (他の企業年金制度がある場合は27,500円) |
加入者の状況により異なり、最大月額68,000円 |
運用商品 | 企業が選定した商品から 選択 |
個人が金融機関を選び、その中から選択 |
中小企業では、両制度を組み合わせて活用することで、より効果的な従業員の資産形成支援が可能となります。
選択制確定拠出年金について
選択制確定拠出年金は、企業型DCの一形態で、従業員が制度への加入を選択できる仕組みです。主な特徴は以下の通りです。
- 従業員が加入を選択できるため、企業の負担を抑えられる
- 給与の一部を確定拠出年金の掛金に振り替えることも可能
- 従業員のニーズに合わせた柔軟な制度設計が可能
この制度は、従業員の多様なニーズに対応できる反面、制度設計や運営が複雑になる可能性があります。また、加入者と非加入者の間で不公平感が生じないよう、十分な説明と理解促進が必要です。
企業型確定拠出年金|2024年の制度変更
2024年12月より、企業型確定拠出年金制度に重要な変更が予定されています。この改正は、企業型確定拠出年金(企業型DC=DC)と確定給付型企業年金(DB)を併用している企業に大きな影響を与えるものです。
現行制度では、企業型確定拠出年金のみを実施している企業の拠出限度額は月額55,000円ですが、確定給付型企業年金と併用している場合は一律で月額27,500円に制限されています。この仕組みでは、確定給付型企業年金の実際の掛金額にかかわらず、企業型確定拠出年金の拠出限度額が固定されているため、制度間で優遇度合いに差がありました。
2024年12月からの新制度では、この不均衡を是正するために、企業型確定拠出年金の拠出限度額が「月額55,000円から確定給付型企業年金の掛金を差し引いた額」に変更されます。たとえば、確定給付型企業年金の掛金が月額20,000円の場合、企業型確定拠出年金の拠出限度額は、月額35,000円(55,000円 - 20,000円)です。
さらに、従業員がiDeCo(個人型確定拠出年金)にも加入したい場合、企業型確定拠出年金の新しい拠出限度額から実際の掛金額を差し引いた残額を、iDeCoの拠出限度額として利用できるようになります。これにより、従業員はより柔軟に資産形成を行うことが可能になります。
関連記事:【社労士監修】2024年12月施行。企業型確定拠出年金の掛金上限額引き上げを解説
中小企業向け確定拠出年金関連制度
中小企業の福利厚生充実や従業員の資産形成支援のために、確定拠出年金に関連するいくつかの制度が用意されています。ここでは、中小企業が活用できる主な制度として、簡易型DC(簡易企業型年金)とiDeCo+(イデコプラス)について解説します。
簡易型DC(簡易企業型年金)
簡易型DCは、企業型確定拠出年金の一種で、従業員数300人以下の中小企業を対象とした制度です。通常の企業型確定拠出年金と比較して、導入手続きが簡素化されているのが特徴です。以下、主な特徴を紹介します。
- 規約の承認申請手続きが簡素化されている
- 運用商品数の下限が2本(通常の企業型DCは3本以上)
- 加入者資格に一定の制限がない(全従業員が対象)
導入ステップも簡略化され導入しやすい制度ではありますが、柔軟性に欠ける面もあるため、企業の状況に応じて検討が必要です。
iDeCo+(イデコプラス)
iDeCo+は、個人型確定拠出年金(iDeCo)に関連する制度で、企業年金制度を実施していない従業員数300人以下の中小企業が利用できます。この制度では、iDeCoに加入している従業員に対して、企業が追加で掛金を拠出することができます。主な特徴は以下の通りです。
- 企業年金制度を実施していない企業が対象
- 従業員のiDeCo掛金に上乗せする形で企業が拠出
- 拠出限度額は、従業員と企業の合計で月額23,000円まで
iDeCo+は、フルスペックの企業型DCを導入するほどの体力がない企業でも、従業員の資産形成を支援できる手軽な制度です。ただし、iDeCoに加入していない従業員は適用外のため、公平性の観点から導入を慎重に検討する必要があります。
参考:労働金庫連合会|簡易型DCおよびiDeCo+(イデコプラス)について|確定拠出年金(企業型DC)|ろうきんの勤労者の資産形成に係る役割発揮宣言
中小企業が企業型確定拠出年金を導入するメリット
企業型確定拠出年金の導入は、中小企業に多くのメリットをもたらします。
まず挙げられるのが、人材確保・定着力の向上です。充実した福利厚生は求職者にとって魅力的であり、従業員の長期定着にも寄与するものです。
財務面では、掛金の全額損金算入や、退職給付債務の軽減といったメリットがあります。また、従業員の老後の資産形成支援や金融リテラシーの向上にもつながり、総合的な福利厚生の充実に貢献します。
ただし、これらのメリットを最大化するには、適切な制度設計と継続的な従業員教育が不可欠です。また、企業型確定拠出年金だけでなく、従業員の日々の生活をサポートする福利厚生も重要です。
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関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
中小企業における企業型確定拠出年金の可能性と今後の展望
企業型確定拠出年金は、中小企業にとって従業員の福利厚生を充実させ、人材確保・定着を図る有効な手段です。
ただし、一定のコストが必要な施策のため、導入にあたっては慎重な検討と準備が必要です。企業体力や、人的リソースによっては、簡易型DCとiDeCo+のような、中小企業向けに特化した制度を検討するのもよいでしょう。
自社に最適な制度設計を行い、従業員と企業がともに成長できる環境づくりを目指してみてはいかがでしょうか。