監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
共働き世帯が増加する中で、企業の福利厚生における生活支援の重要性が高まっています。本記事では、生活支援型福利厚生が重要視される理由や、導入することで企業が得られるメリットについて分かりやすく解説しています。家事代行や食事補助など、注目の生活支援型福利厚生についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
増加する共働き世帯と企業に求められる対応
近年、共働き世帯が急増し、企業には新たな対応が求められています。まずは、共働き世帯数の現状について解説します。
共働き世帯の増加に伴い、仕事と家庭の両立が大きな課題となっています。厚生労働省の「令和5年版厚生労働白書」によると、1980年には614万世帯だった「雇用者の共働き世帯」が、2022年には1,262万世帯と約2倍に増加しました。「男性雇用者と無職の妻からなる世帯」の数が半減しているのとは対照的です。
一方で「令和3年社会生活基本調査」を見ると、6歳未満の子どもを持つ夫婦の1日当たりの家事・育児関連時間は、妻が7時間28分に対し、夫は1時間54分に留まっています。
出典:総務省統計局|令和3年社会生活基本調査 生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要(P5)
5年前にあたる2016年の調査と比較すると、妻は6分減少し、夫は31分増加しているものの、依然として家事・育児の負担が女性に偏っていることが分かる結果となりました。このような状況下において、福利厚生を通じた仕事と家庭の両立支援は、企業にとって喫緊の課題となっています。
参考:厚生労働省|令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-(本文)
参考:統計局ホームページ/令和3年社会生活基本調査
福利厚生の概要
福利厚生とは、従業員とその家族の福祉の向上や生活支援を目的として、企業が給与以外に提供するさまざまな制度やサービスのことです。福利厚生には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があります。それぞれの概要を整理していきましょう。
法定福利厚生
「法定福利厚生」は、従業員の健康維持や老後の生活保障・失業時の所得保障など、基本的な生活の安定を図ることを目的として定められた福利厚生制度です。法定福利厚生を従業員へ提供することは、法律や法令によって定められた企業の義務であるために、企業側が提供する・しないを決めることはできません。
以下、法定福利厚生の主な項目を紹介します。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 子ども・子育て拠出金
- 労災保険
企業は法定福利厚生の費用の一部を負担する必要があり、従業員の給与から天引きされる保険料と合わせて各保険制度に納付されます。法定福利厚生を提供しない企業は罰則の対象となるほか、未提供が原因で従業員が損害を被った場合には、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。
なお、法定福利厚生の提供にかかった費用は、経費として計上可能です。課税される所得が減るために、企業は法人税の負担額が軽減されます。
法定外福利厚生
「法定外福利厚生」は、企業が任意で提供する福利厚生制度です。従業員の多様なニーズに応えるために、各企業が独自に定めるものであるため、法定福利厚生とは異なり企業側に提供の義務はありません。「提供する・しない」だけでなく、内容についても企業が独自に定められるのが特徴です。
以下、広く提供されている一般的な法定外福利厚生を紹介します。
- 住宅手当
- 通勤手当
- 食事手当
- 特別休暇
- 慰安旅行
- 慶弔見舞金
- 財形貯蓄制度
- 資格取得費用補助
- 家事代行利用補助
- ベビーシッター利用補助
なお、法定外福利厚生の提供にかかった費用は、以下の要件を満たすことで経費として計上できます。この場合、法定福利厚生と同じく企業の法人税の負担額が軽減されます。
- 福利厚生の目的で支給すること
- すべての従業員を対象としていること
- 福利厚生費として内容や金額が妥当であること
- 現物支給である(換金性がない)こと
関連記事:【税理士監修】食事補助は非課税?福利厚生の仕組みと注意点を解説!
生活支援型福利厚生を導入するメリット
企業が独自に定められる福利厚生(法定外福利厚生)にはさまざまな種類があります。中でも近年特に注目を集めているのが、通勤手当・食事補助・育児支援・介護支援など、直接従業員の生活をサポートする「生活支援型福利厚生」です。企業が生活支援型福利厚生を導入するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
従業員の離職防止
生活支援型福利厚生の導入は、従業員の離職防止に大きな効果があります。
たとえば、育児支援として企業内保育所の設置や保育費用の補助をおこなうことで、子育て中の従業員が安心して働き続けられる環境を整えることが可能です。同様に、介護支援サービスの提供や介護休暇制度の充実は、家族の介護と仕事の両立に悩む従業員の離職を防ぐ効果があります。
このように、生活支援型福利厚生は、貴重な人材の流出を防ぎ、企業の長期的な成長と安定に寄与する重要な施策です。
従業員の満足度向上
生活支援型福利厚生の導入は、従業員の企業に対する満足度を大きく向上させます。家事代行や食事補助などのサービスを通じ、企業が従業員の日常生活における負担軽減に積極的に取り組んでいることを実感できるためです。
こうした実感は、従業員の企業に対する愛着や帰属意識の向上に寄与します。生活支援型福利厚生は、従業員と企業の良好な関係構築に貢献し、企業に対する総合的な満足度を高める効果的な施策といえます。
業績の向上
生活支援型福利厚生の導入により、生活に関連する負担やストレスが軽減されると、従業員の仕事に対するモチベーションやパフォーマンスが向上します。企業としての生産性が高まり、結果的に業績の向上が期待できます。
なお、生活に関連する負担やストレスの軽減は、精神的な余裕に通じるものです。生活支援型福利厚生の導入により、従業員一人ひとりの創造性や課題解決能力が向上し、イノベーションの創出にもつながる可能性があります。
採用市場での競争力強化
若手人材や共働き世帯にとって、仕事と生活の両立をサポートする福利厚生は非常に魅力的です。
「マイナビキャリアリサーチLab」が2025年3月卒業見込みの全国の大学生・大学院生を対象におこなった調査によると「企業に対して安定性を感じるポイント」として、もっとも多い55.0%の学生が「福利厚生が充実している」と回答しました。
特に生活支援型の福利厚生は、従業員の働きやすさに直結するため、求職者へのアピール度も高くなります。つまり、企業の採用市場における競争力の強化が期待できるのです。
参考:マイナビキャリアリサーチLab|2025年卒 大学生 活動実態調査 (3月)
企業イメージの向上
充実した福利厚生を提供する企業は、社会的な評価が高まり、企業イメージが向上します。従業員の暮らしを直接的にサポートする取り組みは、CSR(企業の社会的責任)の観点からも高く評価されるため、企業ブランドの価値が高まるほか、他社との差別化も可能です。
また、従業員が自社の福利厚生に満足していることを周囲に伝えることで、口コミによる企業イメージの向上も期待できます。結果として、取引先や顧客からの信頼度も高まり、ビジネス面でのメリットが生まれます。
人気の生活支援型福利厚生をチェック
生活支援型福利厚生にはさまざまな種類があるため、企業は自社の状況や従業員のニーズに合わせ、最適なものを選択することが大切です。ここでは、特に人気の高い生活支援型福利厚生について、カテゴリー別に紹介します。
通勤・住宅
通勤・住宅に関する福利厚生は、従業員の生活基盤を支える重要な支援です。
- 通勤手当:公共交通機関の定期代や車通勤の燃料代補助
- 住宅手当:賃貸住宅の家賃補助
- 従業員寮:単身者向けの寮の提供
- 借り上げ社宅:企業が借り上げた物件を従業員に提供
これらの福利厚生は、特に都市部や地方からの転勤者にとって大きな魅力となります。住居費の負担軽減は、従業員の生活の安定につながり、仕事に集中できる環境整備に寄与します。
育児・介護
育児・介護支援は、共働き世帯の増加に伴い、特に重要性が高まっている福利厚生です。
- 保育所の設置:企業内保育所や提携保育所の設置
- 保育費用の補助:保育施設の利用料補助
- ベビーシッター利用補助:ベビーシッターサービスの利用料補助
- 介護サービス利用補助:介護サービスの利用料補助
これらの支援は、従業員が育児や介護と仕事を両立するための大きな助けとなります。特に、保育所の設置や費用補助は、女性のキャリア支援に効果的です。
医療・健康
従業員の健康維持は、生産性向上や、医療費抑制の観点から重要です。
- 健康診断:法定以上の内容での定期健康診断の実施
- 人間ドック費用補助:人間ドック受診費用の一部または全額補助
- メンタルヘルスケア:カウンセリングサービスの提供
- スポーツジムの費用補助:企業提携ジムの利用料補助
これらの支援は、従業員の心身の健康維持に貢献し、長期的な視点で企業の生産性向上につながります。
慶弔・災害・疾病
従業員の人生の節目や不測の事態に際し、金銭面でおこなう支援です。
- 結婚祝い金:結婚時の祝い金支給
- 出産祝い金:出産時の祝い金支給
- 弔慰金:従業員や家族の死亡時の弔慰金支給
- 災害見舞金:自然災害等被災時の見舞金支給
- 入院見舞金:従業員の入院時の見舞金支給
- 傷病見舞金:傷病による休業時の見舞金支給
これらの支援は、従業員の生活の安定を図り、企業への信頼感を高める効果があります。
ワークライフバランス
ワークライフバランスの実現は、従業員の満足度向上や生産性向上につながります。
- フレックスタイム制度:勤務時間の柔軟な設定
- テレワーク制度:在宅勤務やサテライトオフィス勤務制度の導入
- 時短勤務制度:育児・介護等での短時間勤務制度
- サバティカル(長期休暇)制度:一定期間の長期休暇取得制度
- 家事代行サービスの補助:家事代行サービスの利用料補助
これらの制度は、従業員の多様な働き方を支援し、仕事と私生活の両立を可能にします。
食事
食事に関する福利厚生は、従業員の健康維持や経済的負担の軽減に効果的です。
- 社員食堂:低価格で栄養バランスの良い食事の提供
- 設置型社食:オフィス内での食事提供サービス
- 宅配弁当:健康的な弁当の提供や費用補助
- 食事チケット(カード型も含む):食事代金の補助
これらの福利厚生は、従業員の食生活をサポートし、健康維持や生産性向上に寄与します。また、経済的負担を軽減することで、従業員の満足度向上にもつながります。
日本一の実績を持つ食の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、ICカード型の食の福利厚生サービスです。「チケットレストラン」が導入された企業の従業員は、専用のICカードで支払いをすることにより、コンビニやファミレス・カフェなど、全国25万店舗以上もの加盟店での食事を半額で利用できます。
勤務時間内であれば、いつでもどこでも使用可能なため、夜勤や出張中・リモートワーク中の従業員も平等に利用できます。こうした利便性の高さが評価され、すでに3,000社以上に導入されている人気のサービスです。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
生活支援型福利厚生導入のポイント
生活支援型福利厚生の導入を成功させるためには、綿密な計画と戦略が必要です。ここでは、生活支援型福利厚生を導入する際に意識したい大切なポイントについて解説します。
目的の明確化
生活支援型福利厚生を新たに導入する際は、目的を明確にすることから始めましょう。
「従業員のモチベーション向上」「採用・定着率の改善」「女性従業員の離職率低下」など、目的が明確であれば、それに合致するサービスの選定がスムーズになり、導入後の効果測定もしやすくなります。
また、長期的な視点で福利厚生制度を改善していく際の指針にもなります。
従業員のニーズ把握
効果的な生活支援型福利厚生を導入するには、従業員のニーズを正確に把握することが不可欠です。アンケート調査やヒアリングを通じて、幅広い意見を集めましょう。
無記名アンケートやグループインタビュー・1on1ミーティングなどを組み合わせることで、より包括的なニーズ分析が可能になります。これにより、利用率が高く、従業員にとってメリットの大きい福利厚生を提供できます。
コストと費用対効果
生活支援型福利厚生の導入には一定のコストがかかります。自社の予算内で無理なく導入できるか、事前に十分な検討が必要です。
コストの分析にあたっては、初期導入コストだけでなく、運用コストや将来的なサービス拡大の可能性も考慮しましょう。また、期待される効果(従業員満足度向上、生産性向上、離職率低下など)とコストを比較し、費用対効果を試算することも重要です。
福利厚生を長期的な視点での投資として捉え、継続的な効果測定をおこなうことで、投資の妥当性を確認できます。
従業員への周知徹底
新たな福利厚生制度を導入しても、従業員に十分に周知されなければ意味がありません。導入前に、すべての従業員に対して内容や利用方法をしっかりと説明することが大切です。
具体的には、説明会の開催・マニュアルの作成・社内メールでの情報共有など、複数の方法を組み合わせて周知すると効果的です。特に、制度を利用することで得られるメリットや具体的な利用シーンを分かりやすく伝えることで、従業員の関心を高め、利用を促進できます。
フィードバックと改善
新たな福利厚生の利用がスタートしたら、そのままにするのではなく、より良いサービスの提供に向けたフィードバックの収集をおこないます。
福利厚生の導入から一定期間後に従業員からの意見や感想を集め、必要に応じて改善をおこないましょう。福利厚生の改善を担う担当者やチームを設け、定期的なレビューや改善をおこなうとより効果的です。PDCAサイクルを回すことで、従業員にとって魅力的な福利厚生制度を維持できます。
生活支援型福利厚生が企業にもたらす価値
共働き世帯が増加し続ける中、家庭と仕事の両立の難しさを理由とした離職を防ぐ手段として、福利厚生に注目する企業が増えています。中でも重視されているのが、生活支援型の福利厚生です。
家事代行・ベビーシッター利用補助・借り上げ社宅・「チケットレストラン」をはじめとする「食事補助」などの生活支援型福利厚生は、働きやすい職場環境づくりや生活コストの削減に直接つながる施策のため、既存従業員の離職を防ぐ効果が期待されます。
今後の企業経営において、従業員の生活全体を支援する視点はますます重要になっていくことが予想されます。生活支援型福利厚生の導入を検討し、従業員と企業がともに成長できる環境づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。