監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
近年、働き方の多様化やリモートワークの普及により、交通費支給の在り方も変化しつつあります。本記事では、交通費の現金支給に関する基本的な知識から実務上の注意点について詳しく解説します。自社の交通費支給について、さらには交通費支給の福利厚生を見直す際の参考にしてください。
交通費とは?
交通費は、従業員が業務のために移動する際に発生する費用を指します。営業活動、出張、物品運搬などの業務目的の移動に関する費用が対象です。具体的には、公共交通機関の利用料金や、自動車使用時のガソリン代、高速道路料金などが該当します。
交通費は会計上、交通費は「交通費」または「旅費交通費」の勘定科目に分類されます。違いをまとめると以下のとおりです。
- 交通費:主に勤務地近辺での業務移動費用
- 旅費交通費:勤務地以外での業務遂行に伴う移動費用や宿泊費
交通費は通常、従業員が立て替えた金額を経費精算として支払います。つまり、交通費は金額に関係なく非課税です。
通勤費と旅費交通費の違い
従業員の業務上の移動に関する費用は、通勤費と旅費交通費に大別されます。通勤費は自宅から勤務地への移動費用で、多くの企業が通勤手当として支給しています。後ほど詳しく解説しますが、所得税法により月額15万円まで非課税ですが、超過分は課税対象です。
一方、旅費交通費は前述したように出張や営業活動など業務遂行のための移動費用です。通常必要と認められる範囲内であれば経費として、全額非課税扱いとなります。
この税制上の違いから、多くの企業では通勤費(会計上は「通勤手当」)と旅費交通費を別々に管理・精算しています。
交通費は文脈によって取り扱いが異なる
会計・経理の観点では、勘定科目としての「交通費」に通常、通勤手当は含まれません。しかし、日常会話や広い意味で「交通費」という言葉を使用する場合、通勤手当を含めて考えることがあります。たとえば求人において「交通費支給」といった表現では、通勤手当も含めて言及していると考えられます。法律や規則で「交通費」という表現を使用している場合、通勤手当と交通費という言葉には区別が必要です。
ここから本記事で交通費を記載するにあたり、通勤費や通勤手当を含める場合、交通費(通勤費)などで補足します。
交通費現金支給の概要を確認
ここからは、交通費現金支給についての概要を見ていきます。
法的な位置づけ
交通費支給に関しては、労働基準法上の直接的な規定はありません。しかし、多くの企業が福利厚生の一環として交通費(通勤費)を支給しています。令和2年厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、諸手当を支給している企業のなかで「通勤手当など」を支給している割合は92.3%です。高い支給率は、交通費(通勤費)支給が事実上の慣行として定着していることを示しています。
出典:厚生労働省|令和2年就労条件総合調査
支給方法の種類と現金支給との関係性
交通費(通勤費)の支給方法には主に以下の3つがあります。現金支給の場合、これらの方法のいずれかを採用するのが一般的です。どの方法を選択するかは、企業の規模、従業員の通勤実態、予算などを総合的に考慮して決定する必要があります。
全額支給
全額支給は実際にかかった交通費(通勤費)の全額を支給する方法です。従業員の満足度は高くなりますが、企業側の負担が大きいです。遠方から通勤する従業員が多い場合、コストが膨らむ可能性があります。
一部支給
一部支給は上限を設定し、その範囲内で支給する方法です。企業側のコストコントロールと従業員への配慮のバランスを取りやすいため、採用している企業も多く見られます。
一律支給
距離や交通手段に関わらず、一定額を支給する方法です。管理が簡単である一方、実際の交通費(通勤費)との乖離が大きくなる可能性があります。また、一律支給の場合、徒歩など通勤費がかからない従業員へ支給する場合含めて、全額が課税対象となる可能性が高いため、税務上の取り扱いには注意が必要です。
交通費(通勤手当)の課税・非課税
旅費交通費は経費なので全額非課税ですが、通勤手当については非課税の限度額が設けられていますので、超えれば課税されます。詳しく見ていきましょう。
交通費(通勤手当)の非課税限度額
交通費には一定の非課税枠が設けられています。通勤に必要な実費弁償的な性格を持つ交通費(通勤費)、つまり通勤手当について、一定の範囲内で課税を免除するための制度です。国税庁の定める主な非課税限度額は以下の通りです。
なお、非課税限度額は、最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤経路および方法による運賃等の額を基準とします。
交通機関での通勤
区分 | 1か月あたりの非課税となる限度額 |
公共交通機関で通勤 | 1か月あたり15万円 |
出典:国税庁|No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当
自動車・バイク・自転車での通勤
区分 | 1か月あたりの非課税となる限度額 |
片道2km未満の場合 | 全額課税 |
片道2km以上10km未満 | 月額4,200円 |
片道10km以上15km未満 | 月額7,100円 |
片道15km以上25km未満 | 月額12,900円 |
片道25km以上35km未満 | 月額18,700円 |
片道35km以上45km未満 | 月額24,400円 |
片道45km以上55km未満 | 月額28,000円 |
片道55km以上 | 月額31,600円 |
出典:国税庁|No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
注意が必要な課税対象となるケース
上記の表のとおり、非課税限度額を超える部分については、給与所得として課税対象となります。補足でも記載しましたが、最も経済的で合理的な経路以外の経路を利用した場合の差額も課税対象です。また、一律支給で実際の交通費を超える部分についても課税されます。
とりわけ注意が必要なのは、在宅勤務時の交通費です。在宅勤務時の交通費支給は、就業規則、実費の額の多さ、出張扱いになるかどうか、といった条件・状況により課税対象となる可能性があるため、注意が必要です。
参考:税理士法人江崎総合会計|在宅勤務時の交通費にご注意
交通費現金支給の実務
交通費を現金支給する際の実務的な内容についても確認しましょう。
支給額の計算方法
交通費(通勤費)の計算方法は、従業員の通勤手段によって異なります。主な計算方法は以下のとおりです。
1.公共交通機関を利用する場合
最も経済的で合理的な経路の運賃を基準に計算し、定期券の金額を基に支給額を決定します。たとえば、1か月の定期券代が12,000円の場合、毎月の給与と合わせて12,000円を通勤手当として支給します。
2.自動車・バイク・自転車での通勤の場合
通勤距離に応じた金額を設定するのが一般的です。多くの企業では、1km当たり10〜15円程度の単価を設定しています。なお、ガソリン価格の変動や車種による燃費の違いを考慮し、定期的な見直しが望ましいです。
3.複数の交通手段を併用する場合
自家用車で最寄り駅まで行き、そこから電車で通勤するケースでは、それぞれの区間で適切な計算方法を用い、合算して支給額を決定します。合計で15万円が限度額です。
参照:国税庁|No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当
交通費(通勤費含む)領収書の取り扱い
交通費の現金支給において、領収書の取り扱いは適切な経費管理と税務処理のために重要です。主なケースごとの取り扱い方法を以下に解説します。
定期券購入の場合
定期券を購入した際の領収書を提出させます。領収書は、実際にかかった費用を証明するために必要です。
都度払いの場合
毎月の利用実績の報告が必要です。日々の交通費を記録したリストと、可能な限り領収書や乗車券の半券を添付してもらいます。3万円以上の交通費の場合は必ず領収書が必要です。一方で、すべての乗車について領収書を取ることは現実的でない場合もあるため、一定金額以上の支出についてのみ領収書の提出を求めるといった対応も可能です。
ICカードを利用する場合
交通系ICカードの利用履歴を月末に印刷して提出させる方法もあります。正確な利用金額を把握でき、従業員の手間も比較的少なくて済むため効率がよい方法です。
一律支給の場合
一律支給の場合は、実際の交通費との照合が難しいため、多くの企業では領収書の提出を求めません。ただし、この場合は給与に上乗せする形となり、全額が課税対象となる可能性が高いです。
交通費現金支給のメリットとデメリット
交通費を現金で支給することには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
交通費現金支給のメリット
交通費現金支給にはどのようなメリットがあるのか、解説します。
従業員の経済的負担の軽減
毎月の給与と一緒に交通費(通勤費)を受け取ることで、従業員は交通費を立て替える必要がなくなり、経済的な負担が軽減されます。
福利厚生としての魅力向上
交通費(通勤費)の現金支給は、給与とは別枠で上乗せして支給されるため、福利厚生の一環として従業員に評価されやすく、採用や定着にプラスの影響が期待できます。
交通費現金支給のデメリット
交通費現金支給のデメリットについても、確認します。
管理コストの増加
個々の従業員の交通費(通勤手当)を計算し、毎月の給与計算に反映させる必要があるため、管理コストが増える可能性があります。また、非課税限度額を超える部分や一律支給の場合など、課税対象となるケースの計算が複雑です。正しく効率的に計算をする知識・ノウハウと適切な税務処理が求められます。
不正受給のリスク
実際の交通費よりも多く申告するなどの不正受給に気をつけなければなりません。適切なチェック体制を整える必要があります。
リモートワーク時の取り扱いの難しさ
リモートワークが増加するなか、在宅勤務日の交通費支給をどう扱うかという新たな課題が生じています。リモートワークを一般化する代わりに、交通費(通勤手当)を一律廃止する企業もあるようです。
リモートワーク時代に導入したい福利厚生|食事補助
リモートワークの普及に伴い、企業が交通費支給制度の見直しを検討している企業も増えています。ここからは、交通費支給と並んで時代に即した見直しが求められる福利厚生として、食事補助について見ていきましょう。
従業員満足度向上への新たなアプローチ
交通費支給制度を時代に合わせて見直す際、ほかの福利厚生も同時に見直すことで、従業員満足度を効果的に向上できます。そこで注目したいのが、支給対象の従業員が公平に利用できる食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」との組み合わせです。交通費支給と食事補助の相乗効果により、従業員満足度の向上、採用競争力の強化、そして従業員定着率の上昇が目指せます。
福利厚生としての食事補助のメリットと課題
食事補助には、従業員の経済的負担軽減、健康促進、生産性向上などのメリットがあります。しかし、従来型の食事補助の代表例である「従業員食堂」や「仕出し弁当」には、勤務地や拠点の違いにより、一律支給が困難という課題がありました。
革新的な食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」
従来型の福利厚生における食事補助の課題を解決し、高い実用性で従業員から支持を得ているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。「チケットレストラン」は、専用ICカードの配布を通じて、従業員の食事代を企業が半額補助する食事補助の福利厚生サービスです。
従業員は、全国25万店舗以上の加盟店で食事を楽しんだり、食事を購入したりできます。利用については、支払い時にICカードで決済するので簡単です。コンビニ、ファミレス、カフェ、Uber Eatsなど、幅広い加盟店で使えるため、勤務環境を問わず全国にいる支給対象の従業員が公平に利用できる点がメリットです。
また、「チケットレストラン」は食事補助の非課税枠を活用し、一定の利用条件下であれば給与所得とならない形で支給ができます。つまり、企業が従業員に補助した金額は、従業員側の所得税に影響がありません。食事代の補助という経済的メリットに加えて、食事を選ぶ楽しみ、税負担が増えない安心感などが喜ばれており、98%という高い利用率、93%の満足度、99%以上の継続率を誇っています。
「チケットレストラン」は企業にも導入メリットがある
「チケットレストラン」は企業にとっても魅力的なメリットがあります。一定の条件下で福利厚生費として計上でき損金として扱えるため、法人税の負担を軽減できるのです。また、最短1か月でのサービス導入が可能であり、導入後の事務負担は月に1回のチャージ作業のみというシンプルさも魅力です。総務や人事担当者の負担を少なく導入と管理ができます。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
福利厚生で企業競争力を強化しよう
交通費(通勤費)支給や食事補助などの福利厚生は、従業員満足度の向上、従業員の健康促進、企業の魅力アップ、そして人材確保・定着率の向上をもたらします。長時間通勤者や不規則勤務の従業員であれば、長く勤めたい企業として従業員から選ばれる理由にもなるでしょう。
時代にふさわしく、従業員に喜ばれる福利厚生の導入により、従業員のワーク・ライフ・バランス向上と魅力的な職場環境作りを実現できます。ぜひ「チケットレストラン」の導入を検討してみませんか。