監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
ブラケットクリープとは物価上昇率や賃上げ率より所得税額の増加率が高く、負担が重くなることです。物価上昇が続く中、2024年春には従業員の賃上げを行う企業が多くありました。ただし中には「賃上げしたのに実感できない」というケースも出てきています。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?企業が取り組める対策と併せて解説します。
ブラケットクリープとは
物価上昇率や賃上げ率より所得税額の増加率の方が高くなるのがブラケットクリープです。この現象への対策について知るために、まずはブラケットクリープの意味を見ていきましょう。
言葉の意味をチェック
ブラケットクリープは、階層を意味する「bracket(ブラケット)」と、ゆっくり近づく・忍び込むという意味の「creep(クリープ)」からなる言葉です。所得階層区分がゆっくりとより高い税率が適用される区分へ近づいていく現象のため、このようによばれています。
ブラケットクリープについて解説
日本の所得税は累進課税制度といい、課税所得が多くなるほど高い税率が適用される仕組みです。国税庁によると所得税率と控除額は、以下のように課税所得額に応じて定められています。
課税所得額 |
税率 |
控除額 |
1,000~194万9,000円 |
5% |
0円 |
195万~329万9,000円 |
10% |
9万7,500円 |
330万~694万9,000円 |
20% |
42万7,500円 |
695万~899万9,000円 |
23% |
63万6,000円 |
900万~1,799万9,000円 |
33% |
153万6,000円 |
1,800万~3,999万9,000円 |
40% |
279万6,000円 |
4,000万円~ |
45% |
479万6,000円 |
賃上げが行われると課税所得額も上がるため、所得税額も上がります。このとき税額の上がり方が、物価や給与の上昇率よりも高くなることがブラケットクリープです。中には賃上げによりこれまでより高い税率が適用されることもあります。
賃上げしているにもかかわらず、従業員が受け取れる手取り額は、賃上げ前とそれほど変わらないというケースも出てくるでしょう。中には賃上げ前より手取りが減るといった人もいるかもしれません。
その一方、所得税による税収は物価上昇率や賃上げ率以上に上がります。実質的な増税となることから「隠れた増税」「ステルス増税」ともいわれる状態です。
年収400万円のケース
年収400万円のケースを例に、ブラケットクリープについて見ていきましょう。ここでは単純化するために、所得税を課す最低金額である課税最低限を100万円とし、税率を20%とします。
年収400万円であれば、所得税額は「(年収400万円-課税最低限100万円)×税率20%」で60万円です。手取り額は340万円と分かります。
ここで物価が10%上がったため、年収も10%上がり440万円になったとします。同様に計算すると、所得税額は68万円、手取り額は372万円です。
このケースでは所得税が約13%増えており、物価や給与より高い上昇率となっています。その一方で手取り額は約9%と、物価上昇率を下回ります。
賃上げされているにもかかわらず、生活にかかる費用の負担は増している状態です。
ブラケットクリープへの対策
ブラケットクリープは税制上の課題のため、対策は国が行わなければいけません。日本国内でも1995年までは、課税所得金額の階層区分を引き上げるインフレ調整が行われていました。
所得税が課される所得額や階層区分を引き上げることで、物価や給与の上昇率以上に税額が上がることを抑える取り組みです。
ただし現時点では国民民主党がブラケットクリープ対策を提唱しているのみで、具体的な対策は行われていません。
定額減税はブラケットクリープ対策か?
2024年に行われる定額減税は、合計所得金額が一定以下の場合に、所得税と住民税の減税を受けられる措置です。定額減税はどのような目的で行われるのでしょうか。
定額減税とは
定額減税とは、合計所得金額1,805万円以下(給与収入のみであれば2,000万円以下)の人を対象に行われる減税です。納税者本人と同一生計の配偶者を含む扶養親族の人数分、以下の金額の減税を受けられます。
税金の種類 |
定額減税額 |
所得税 |
3万円 |
住民税 |
1万円 |
合計 |
4万円 |
例えば夫が会社員として、妻が扶養内のパートとして働き、子どもが2人いる家庭であれば、夫は所得税と住民税を併せて16万円の減税を受けられる計算です。
このとき減税額を控除しきれない場合は、給付金として自治体から支給される仕組みになっています。
定額減税はデフレ脱却の措置
定額減税の目的はデフレ脱却です。物価高の影響を受け、個人消費の低迷が続いている中、消費を下支えする目的で実施される措置とされています。
ブラケットクリープへの対策とは異なる措置です。
個人にできるブラケットクリープ対策
ブラケットクリープ対策として個人が利用できるのは所得控除です。所得控除は所得税額の計算に用いる課税所得を算出するときに差し引けます。課税所得額が下がることで、所得税額も下がる仕組みです。まずは所得控除の種類をチェックしましょう。
- 雑損控除
- 医療費控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
所得控除の中には、年末調整で行えるものもあれば、確定申告をしなければ受けられないものもあります。
例えば医療費控除を受けるには確定申告が必要なため、手続きの面倒さから利用していない人もいるかもしれません。医療費の自己負担分が10万円を超えている場合や、特定一般用医薬品等や予防接種などの費用が1万2,000円を超える場合には、確定申告で控除を受けられます。
特に課税所得金額の階層区分が、上限金額をわずかに超えて上の階層区分になったという場合には、所得控除の活用により適用される税率自体を下げられるかもしれません。
課税所得を増やさずにできる待遇改善
ブラケットクリープによって、従業員の負担する税額が物価や給料の上昇率以上に上がっているとき、企業が賃上げを行っても、従業員はそれを実感しにくくなってしまいます。そこで役立つのが、課税所得を増やさずに待遇を改善できる福利厚生の活用です。
賃上げと福利厚生による待遇改善を組み合わせることで、従業員の税負担を抑えられる方法を紹介します。
実質手取りを上げる第3の賃上げとは
食事補助サービス「チケットレストラン」を提供しているエデンレッドジャパンでは、定期昇給を第1の賃上げ、ベースアップを第2の賃上げ、福利厚生サービスの活用による実質手取りを上げることを第3の賃上げと定義しました。
福利厚生の中には、一定の要件を満たすと、従業員の所得税を計算するときに課税所得に含まなくてよいものがあります。例えば食事補助や社宅などです。
非課税で支給できるため、同額の給与アップを行った場合よりも、実質的な手取り額が上がりやすい取り組みといえます。
参照:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
関連記事:サンデーステーションでも話題!「第3の賃上げ」で手取りをアップ
第3の賃上げにおすすめの「チケットレストラン」
実質的な手取り額を上げる第3の賃上げに取り組むなら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」がおすすめです。従業員の課税所得に含まれないよう一定の要件を満たす福利厚生を、担当者の手間を抑えつつ導入できます。
全従業員へ公平に提供できるサービスであることもポイントです。全国に25万店舗以上の加盟店があるため、働く場所によらずサービスを利用して食事を購入できます。
使い勝手の良さから、導入した企業では利用率が98%に達しています。従業員満足度も93%あり、大勢が利用し満足しているサービスです。
待遇改善に福利厚生を役立てよう
ブラケットクリープとは、所得税額が物価や給料の上昇率を超えて上がることです。税額の負担が増えることから、企業が賃上げを行っても、従業員は賃上げの実感を得にくいでしょう。
企業がブラケットクリープの影響を最小限に抑えつつ、従業員の待遇改善を行うときには、賃上げとともに福利厚生を活用するのがおすすめです。福利厚生の中には、要件を満たすと従業員へ支給しても所得税の対象とならないものがあります。
所得税がかからない分、実質的な手取り額を上げられる方法です。例えばエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を活用すれば、担当者の負担を最小限に抑えつつ、従業員満足度の高い食事補助を導入できます。
福利厚生を活用した待遇改善に「チケットレストラン」の利用を検討してみませんか。