賃上げがニュースで話題になる日が増える中で、自社の対応について検討を進める企業が増えています。近年、賃上げを求める声が高まっている理由について、日本における賃上げの実情とともに解説します。政府による賃上げ支援策や、賃上げが難しい企業の代替案として人気の福利厚生「チケットレストラン」も紹介します。
「賃上げ」の基礎知識
「賃上げ」には「定期昇給」と「ベースアップ」の2種類があります。ともに給料アップにつながる制度ですが、内容は大きく異なります。それぞれの詳細を確認していきましょう。
定期昇給(定昇)
「定期昇給」は、企業ごとに定められた基準に従って行われる定期的な昇給です。通常、勤続年数・年齢・仕事での成果や評価をもとに昇給額が決まります。
年に1〜2回行われるのが一般的ですが、必ず実施されるとは限りません。定期昇給制度は、あくまでも昇給の機会があることを示すものであり、タイミングや内容は企業によって独自に定められています。
ベースアップ(ベア)
「ベースアップ」は、企業の業績や社会情勢を踏まえ、全従業員を対象に一律で行われる基本給の底上げです。一律実施のため、勤続年数・年齢・仕事での成果や評価は考慮されません。例年、春闘で争点となっているのがこのベースアップ(ベア)です。
つまり、個人に紐付いて行われるのが「定期昇給」・企業に紐付いて行われるのが「ベースアップ」です。
日本における賃上げの実情
世界規模で見てみると、日本は際だって賃上げが進まない国のひとつです。「賃上げ」の是非を考える上で、あらかじめ知っておきたい日本における賃上げの実情を解説します。
「定期昇給」による賃上げが基本
日本における賃上げは、慣例的に、基本給を底上げする「ベースアップ」ではなく「定期昇給」を中心に行われてきました。これには、主に以下の2つの理由があります。
- ベースアップが企業に与える負担の大きさ
- 労働契約法における「不利益変更禁止の原則」
ベースアップと定期昇給は、ともに従業員の給料を増やす施策です。しかし、企業に与える負担の大きさという点において、両者のあいだには大きな違いがあります。
まず定期昇給の場合、昇給は基本的に年功序列で行われます。定年退職制度によって、従業員全体の勤続年数や年齢は一定の水準に保たれるため、人件費の総負担額に大きな変動はありません。企業としての総負担額は一定のまま、従業員一人ひとりのキャリアに応じた賃上げが可能です。
一方でベースアップの場合、一律の基本給の底上げとなるために、実施すれば企業の負担額が一気に増大します。ある程度の企業体力と、将来的に安定した経営の見通しが立たない限り、実施に踏み切りにくいのがベースアップです。
このように言うと「将来的に業績が悪化したのなら、その時点で給料を減らせばよいのでは」と考えられがちですが、そうはいきません。
というのも労働契約法は、労働者にとって不利益となるような就業規則の変更を、労働者との合意なく行うことを禁止しているからです。これを「不利益変更禁止の原則」といいます。この規則により、一度ベースアップを行えば、従業員との合意のないままに給料を引き下げることはできません。
このように、ベースアップでの賃上げは、企業にとって大きなリスクです。日本の大多数の企業は、従業員への利益還元を賞与や一時金の形で行いますが、これも将来の経営リスクを踏まえ、ベースアップを避けようとする慣例によるものです。
リスクマネジメントを重視する経営姿勢
日本の大半の企業は、業績や社会情勢の悪化に見舞われても生き残る企業体力を残すべく、ベースアップを中心とした賃上げは行ってきませんでした。
実際の業績や社会情勢の変化がどうあれ「出た利益は、人件費ではなく内部留保に」というのが日本企業の基本的なスタンスだったのです。
厚生労働省が公表した「令和5年春季賃上げ集計」を見ても、賃上げの妥結額は、1993年(平成5年度)の11,077円以降、2022年(令和4年度)まで約30年にわたり1万円を超えることはありませんでした。平行して賃上げ率も下がり続け、1993年の3.89%以降、2022年まで2%台から1%代を推移しています。
これらの数字は、日本企業における賃上げのハードルの高さを表したものといえます。
参考:厚生労働省|第2表 民間主要企業における春季賃上げ状況の推移
世界から見た日本
日本における賃上げの実情をより深く知るために、ここでOECD(経済協力開発機構)のデータを参照します。
下記に示す表は、OECDのデータをもとに、1991年・2022年における「日本」「アメリカ」「OECD加盟国平均」の平均賃金(単位:米ドル)とその伸び率を一覧にしたものです。
1991年 | 2022年 | 伸び率 | |
日本 | 40,379 | 41,509 | 2.8% |
アメリカ | 52,224 | 77,463 | 48.3% |
OECD加盟国平均 |
40,312 | 53,416 | 3.3% |
1991年当時はそれほど開きのなかった日本とアメリカの平均賃金は、この30年ほどのあいだにほぼ倍にまで大きな差がつきました。伸び率の違いを見ても、その差は圧倒的です。
続けて示すのは、1991年・2022年それぞれの平均賃金が棒グラフ化されたものです。
この30年ほどのあいだに、日本は加盟国平均からも大きく水をあけられるようになりました。慣例的に賃上げを敬遠する日本企業、引いては日本社会の体質がもたらした結果といえそうです。
2023年|賃上げの動きが急拡大
2022年12月、連合(日本労働組合総連合会)が、翌2023年春闘での5%の賃上げ要求方針を正式に決定すると、大企業を中心に、国内で賃上げの機運が高まりました。
ユニクロやGUの運営で知られる『ファーストリテイリング』は、国内社員の年収を最大40%引き上げることを発表しました。また、東京ディズニーリゾートを経営する『オリエンタルランド』は、約2万人に対して平均7%の賃上げを実施しています。
2023年の春闘第1回集計では、大企業で平均1万3,110円の引き上げ(アップ率3.91%)、中小企業では平均7,864円の引き上げ(アップ率2.94%)という結果が出ました。
これにより2023年春闘では、賃上げの妥結額が11,245円・賃上げ率が3.60%と、1993年以来実に30年ぶりの高水準となったのです。
賃上げに取り組む企業が増えている背景
従来、日本企業は賃上げに対して慎重な姿勢を見せています。それにもかかわらず、2022年末に連合が5%の賃上げ要求方針を決定し、各企業も追随したのはいったいなぜなのでしょうか。社会の風向きが変わった、その主な理由を解説します。
深刻な人手不足
企業が賃上げに取り組む理由として、まず挙げられるのが、深刻な人手不足です。
帝国データバンクが行った調査を見ても、資金を改善する理由として、もっとも多くの企業が「労働力の定着・確保」と回答しています。
出典:帝国データバンク|『2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査』
少子高齢化が進み、生産年齢人口も減少していく中で、人材の獲得・定着に苦慮する企業が増えています。
就職は売り手市場となり、自社ならではの魅力やメリットを持たない企業は深刻な人手不足に陥るようになりました。
その点、同業他社の中で、より高い給料を提示することは、他社との差別化に大きな効果を発揮します。同時に、獲得した人材を長期的に定着させ、企業に対する従業員満足度を高める効果も期待できるでしょう。
自社の未来を担う、より多くのより優れた人材を獲得を目指すため、いわば先行投資の役割を担うのが賃上げといえます。
インフレ対策
近年、パンデミックの収束に向けた需要の拡大や、ロシアのウクライナ侵攻による原材料費の高騰により、世界規模でインフレが進みました。さらに日本では、金利差による円安進行の影響も重なって、物価の上昇が急速に進んでいます。
物価が上昇するということは、同じお金で購入できるモノやサービスの量が減るということです。給料が変わらない場合、実質的な賃金は目減りしていることになります。
こうした事態を踏まえ、従業員の生活を守る手段として、インフレ手当の支給に踏み切る企業が続出しました。一時金として支給する企業がある一方、インフレの長期化を予想し、継続的なサポートとしてベースアップを選んだ企業も少なくありません。
政府による支援「賃上げ促進税制」
国内の状況を踏まえ、政府も「賃金引き上げ特設ページ」を開設するなど、企業の賃上げを積極的に推進しています。
中でも、2022年4月1日に施行された賃上げ促進政策「賃上げ促進税制」は、企業が賃上げに踏み切るひとつの要因となっています。
「賃上げ促進税制」では、企業規模によって異なる税制支援が用意されています。以下、それぞれの内容を紹介します。
まず、大企業向け賃上げ促進税制では、継続雇用者給与等支給額が前事業年度より3%以上増えている場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%が、法人税額もしくは所得税額から控除されます。加えて、継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より4%以上増えている場合、税額控除率が10%上乗せされます。さらに、教育訓練費の額が前事業年度より20%以上増えている場合、税額控除率が5%上乗せされる仕組みです。
中小企業向け賃上げ促進税制では、雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加している場合、増加額の15%が法人税から控除されます。2.5%増加させた場合、さらに15%が上乗せで控除されます。さらに、教育訓練費を前年より10%以上増額した場合には、最大40%の控除を受けることが可能です。
大企業向け・中小企業向け、それぞれ2022年4月1日~2024年3月31日までの期間内に開始する事業年度が対象です。
参考:厚生労働省|賃金引き上げ特設ページ
参考:経済産業省|大企業向け「賃上げ促進税制」ご利用ガイドブック
参考:経済産業省|中小企業向け「賃上げ促進税制」ご利用ガイドブック
2024年以降はどうなる?政財界のトピックス
2023年10月時点において、日本の物価高が収束する兆しは見られません。こうした状況に鑑み、経済界や政界ではさまざまな動きが見られています。以下、主なトピックスを紹介します。
2024年春闘に向けた連合の動き
連合は、2023年10月19日のプレスリリースにおいて、2024年春闘の基本構想として「賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め5%以上の賃上げを目安とする」方針を固めました。
2023年の方針「賃上げ分を3%程度、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含む賃上げを5%程度」に比べると、数字こそ変わらないものの、より強い表現が選ばれていることが分かります。
前述のとおり、各企業の賃上げの動きが進んだことにより、2023年の賃上げ率は、30年ぶりの高水準となる3.60%を達成しました。しかし、消費者物価指数を見てみると、依然として4%台〜2%台後半で推移しています。現状の賃上げでは不十分との判断がなされた結果が、2024年春闘の基本構想に反映しているといえそうです。
参考:総務省統計局|2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年(令和5年)9月分
物価高に対する緊急経済対策を発表
2023年10月18日、立憲民主党は、続く物価高を克服するための緊急経済対策を提言しました。
同党はこの対策の中で、中間層を含む全世帯の6割ほどを対象に、1世帯あたり3万円の「インフレ手当」の直接給付を求めています。
この動きは、物価高が続くインフレが家計に与えている負担の大きさが、広く懸念されていることを示したものといえそうです。
賃上げが難しい企業はどうする?
賃上げの必要性を理解しながらも、企業体力が追いつかず、賃上げに踏み切ることができない企業は少なくありません。こうしたケースでは、どう対応するのが正解なのでしょうか。おすすめの代替案と具体的なサービスを紹介します。
福利厚生での代替がおすすめ
人手不足対策や従業員への経済的なサポートとして、何らかの施策を行いたいと考える企業は多いものです。一方で、賃上げがもたらす支出の増加を余裕を持って受け入れられる企業はそう多くありません。
そこでおすすめなのが、福利厚生を賃上げの代替案として導入するという方法です。
福利厚生費は経費として計上ができるため、企業の負担は最小限に留められます。
また、就職先や転職先を検討する求職者にとって、福利厚生の充実度は重要な要素です。「福利厚生が充実した企業は従業員を大切にする企業」とのイメージを持たれやすいことから、企業としてのブランディングと人材の獲得にも役立つでしょう。
賃上げの代替案として新たな福利厚生を導入することは、企業にとって大きなメリットをもたらす施策といえます。
食の福利厚生として日本一「チケットレストラン」
新たな福利厚生として、近年、特に多くの企業に選ばれているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
エデンレッドジャパンが2023年5月に行った調査によると、2023年6月の値上げの影響で節約を意識している人の割合は、全体の9割に達しました。さらに、具体的な節約項目としてもっとも多かったのが「食費」でした。
出典:エデンレッドジャパン|6月の値上げで9割が節約を意識 「ビジネスパーソンのランチ実態調査2023」
つまり、物価高の現状において、食事補助の福利厚生を提供することは、非常に効果的な施策といえます。
なお「チケットレストラン」は、専用のICカードを使って利用する福利厚生の食事補助サービスです。
サービスを導入した企業の従業員は、全国約25万店舗の加盟店での食事を半額で利用できます。加盟店は、ファミレス・コンビニ・カフェ・人気飲食チェーン店など幅広く、利用者の嗜好や年代を問いません。一定の条件をクリアすることで、福利厚生として利用できるため、企業として節税効果も得られます。
こうした数々のメリットが評価され、「チケットレストラン」は食の福利厚生として日本一の実績を持つサービスとなっています。
賃上げは福利厚生で代替も可能 無理のない対策を
深刻な人手不足やインフレへの対策として、賃上げを進める企業が増えています。連合がさらなる賃上げを目指した2024年春闘の基本構想を発表していること、また、国による積極的な支援も始まっていることから、この動きは今後ますます広がっていくでしょう。
とはいえ、企業体力の問題で、賃上げが現実的ではないケースも少なくありません。そんなときは、代替案として福利厚生を導入することで、従業員の生活支援や、従業員を大切にする企業としての姿勢をアピール可能です。ひいては、魅力ある企業として、人材の獲得やブランディング効果も期待できるでしょう。
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」も選択肢に加え、自社ならではの施策を検討してみてはいかがでしょうか。