2024年、大企業の賃上げは33年ぶりに5%を超え、歴史的な転換点を迎えました。2025年はさらなる賃上げの動きが加速する見通しです。本記事では、大手企業各社の賃上げ実績と今後の展開、そして企業が賃上げに踏み切る背景や活用できる支援制度まで、最新動向を解説します。
2024年大企業の賃上げ結果
2025年の賃上げ状況は前年までの流れを強く受けています。まず、2024年の大企業賃上げの結果を把握しましょう。
2024年春闘実績
2024年春闘の実績として、主なポイントを以下にまとめます。
- 大企業(1000人以上)の賃上げ率5.24%で33年ぶりの大台突破
- 賃上げ額16,362円(前年比4,982円増)
- 非正規社員の時給62.70円アップ(5.74%増)
- 妥結率99.8%を達成
2024年の賃上げを巡る春闘交渉は、歴史的な転換点を迎えました。1,000人以上の大企業で実現した5.24%という賃上げ率は、バブル経済期以来33年ぶりの5%超えです。金額にして月額平均16,362円という伸びとなり、インフレ下での実質賃金の目減りを十分にカバーする水準となりました。
また、2024年の賃上げは、働く人すべての所得底上げが着実に進んでいる点がポイントです。パートタイマーや契約社員の賃上げ率は5.74%と、むしろ正社員を上回る伸びを示しています。時給は平均62.70円の上昇、月給制の契約社員では10,869円(4.98%)のアップです。「同一労働同一賃金」の理念が、着実に現場に浸透していることを伺わせます。
2024年春闘の成果として、交渉の迅速さも見逃せません。要求を掲げた5,459組合のうち、99.8%に当たる5,450組合が最終回答集計までに合意に達しています。そのうち57.4%の組合が賃金改善分を獲得しており、労使双方の建設的な対話が実を結んだと言えるでしょう。
出典:連合|33 年ぶりの 5%超え!~2024 春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について~
2024年賃上げ表明した大企業一覧
2024年の春闘での賃上げ表明において、話題となった企業をピックアップして紹介します。
サントリーホールディングス
2024年春闘で組合側の要求に満額回答し、ベースアップで1万3,000円、定期昇給と合わせて月額7%の賃上げをしました。対象は従業員5,200人であり、大卒初任給も27万8,000円(3万6,000円増)としています。
出典:讀賣新聞オンライン|サントリーHD、ベア1万3000円で妥結…賃上げ額は過去20年で最高(2024/2/28)
キリンホールディングス
キリンホールディングスは約1,800人を対象に、基本給底上げとして月額平均1万3,000円の賃上げを実施しました。賃金改定分を含めると月額ベースで約7.5%の賃上げです。また、若手社員には最大2万円のベアも実施しています。
出典:日本経済新聞|キリンHD、若手社員にベア2万円(2024/3/13)
ソニーグループ
ソニーグループは2024年度の月額給与を「上級担当者」(主任相当)の標準モデルで2万400円(5.4%)引き上げました。成果が高評価の場合、最大で5万2800円(16.6%)の賃上げとなり、2015年度以降で最大の上げ幅です。
新卒初任給では、大卒で27万5,000円、大学院修了で30万5,000円とし、いずれも1万円の引き上げを実施しました。
出典:Yahoo!ニュース|ソニー、月額2万400円賃上げ 主任級、昇給幅は過去最大(2024/3/21)
トヨタ自動車
トヨタ自動車は2024年春闘で4年連続の満額回答を行い、最大で月額2万8,440円の賃上げを実現しました。これは過去最高水準の賃上げです。とくに、若手重視の賃上げに取り組んだ形で、非生産現場で働く事技職(生産準備や労務管理など)の指導職で1万9,070円の賃上げを実施しています。
出典:日刊自動車新聞電子版|〈2024春闘〉トヨタ、満額回答 賃上げ最大2万8440円 一時金7.6カ月 初任給も引き上げ(2024/3/13)
三井住友フィナンシャルグループ
三井住友銀行は給与、賞与増額や研修充実などで実質7%程度の賃上げに相当する処遇改善を実施しています。
出典:日本経済新聞|三井住友銀行、実質7%賃上げへ 三菱UFJ労組は6%要求(2024/2/16)
野村証券
野村ホールディングス傘下の野村證券では、2024年度に入社3年目までの若手社員に対して、昇給とベースアップを合わせて平均16%の賃上げを行っています。また、新卒社員の初任給を2万円増額しました。
出典:日本経済新聞|野村証券、若手社員16%賃上げ 入社3年目まで(2024/1/4)
2025年大企業の賃上げ見通し
ここからは2025年の大企業における賃上げの見通しを説明します。
2025年春闘方針
2025年春闘方針における、主なポイントは以下のとおりです。
- 賃上げ分3%以上、定昇含め5%以上を目標設定
- 中小企業は格差是正分1%上乗せで6%以上を目指す
- 具体的な金額として1万8,000円以上を設定
- 3月11日~13日をヤマ場とし、早期妥結を目指す
歴史的な賃上げを実現した2024年春闘に続き、2025年の春闘では「賃上げがあたりまえの社会」の定着を目指す新たなステージに入ります。
大事な内容であるため重複しますが、2024年の春闘の成果としては、1000人以上の大企業は5.24%という33年ぶりの高水準な賃上げを実現したこと、非正規社員の賃上げ率が正社員を上回り格差是正が着実に進んだことが挙げられます。
この流れを受け、2025年春闘では、さらに踏み込んだ目標設定がされました。ベースアップ分として3%以上、定期昇給分を含めて5%以上という数値目標を掲げ、「賃金も物価も上がらない」という従来の社会規範からの転換を目指します。
加えて、2024年に99.8%という高い妥結率を実現した経験も活かす方針です。2025年は3月11日から13日をヤマ場と設定します。賃金格差の是正にも重点を置き、中小企業向けには格差是正分1%を上乗せした6%以上、または18,000円以上という具体的な目標を示しました。
2024年春闘が歴史的な賃上げを実現したのに対し、2025年春闘はその成果を「新たな標準」として定着させる点で、日本の賃上げにおける好循環を生み出せるかどうかを左右する重要な年となるでしょう。
出典:連合|2025春季生活闘争 闘争方針[2024年11月28日掲載]プレスリリース
2025年賃上げ表明した大企業一覧
2025年に賃上げを表明している大企業をピックアップして紹介します。
サントリーホールディングス
2024年に続き、2025年春闘の方針でも話題となっているのがサントリーホールディングスです。人材確保に先手を打つことを狙いとして、ベースアップと定期昇給を含め3年連続で7%程度の賃上げを行う方針を2024年9月という早い段階で明らかにしました。
出典:NHK|サントリーHD 来年の春闘 3年連続のベア含め7%程度賃上げ方針(2024/9/26)
出典:日本経済新聞|サントリーHD、25年も7%程度賃上げ 人材確保へ先手(2024/9/26)
野村証券
2024年に引き続き、野村ホールディングス傘下の野村證券は非管理職が多い若手を対象に賃上げする方針を示しました。非管理職に対して、平均7%の賃上げを目指します。ただし、2024年度とは異なり、ベアは実施しません。
出典:Reuter|野村証、非管理職で7%程度賃上げへ(2024/12/30)
ノジマ
4月を待たずして年明け早々の賃上げ表明をしたのが家電量販店のノジマです。同社は2025年1月から全従業員およそ3000人に対し、月額1万円のベースアップを行い、平均で7%を超える賃上げ率となる見込みとなります。
出典:TBS NEWS DIG|大企業で早くも賃上げ表明 来年の春闘、カギは中小企業への広がり(2024/10/21)
星野リゾート
総合リゾートを運営する星野リゾートでも、観光業界における慢性的な人手不足への対応のため、2025年1月から平均5.5%の賃上げを表明しています。
出典:TBS NEWS DIG|大企業で早くも賃上げ表明 来年の春闘、カギは中小企業への広がり(2024/10/21)
UAゼンセン
大企業と中小企業の双方を含む組合であるUAゼンセンは、2025春闘でいち早く全体の賃上げ率目標を「6%基準」とすることを明らかにしました。流通や繊維、フードなどのサービス業から組織され、非正規雇用者が多く所属します。そのためパート従業員には「7%目標」を軸に置く姿勢です。
出典:日本経済新聞|UAゼンセン「賃上げ6%」 25年、パートは上乗せ7%軸
出典:UAゼンセン|"実質賃金の上昇を定着させて日本経済を持続的な成長軌道に乗せる"2025春闘労働条件闘争に関する記者会見を開催
電機連合
電機メーカーの労働組合から組織される電気連合は、2025春闘での統一要求額を月額1万7,000円以上で調整します。2024年の1万3,000円を上回る要求であり、1998年以来最高水準で実施します。
出典:時事ドットコムニュース|ベア1万7000円以上要求へ 電機連合、現行方式で最高―25年春闘(2024/12/27)
大企業で賃上げが必要な理由
2024年は歴史的な賃上げを記録した年です。続く2025年もこの勢いをさらに増すことが重要であると春闘方針で示されています。ここでは、このような賃上げを推し進める背景、賃上げが必要な理由を探ります。
1.物価高への対応
物価高が続くことから、従業員の生活を維持するための賃上げが不可欠です。総務省による令和6年11月分「消費者物価指数」によると、2020年を基準として2024年11月の状況は次のようになります。
- 総合指数:2020年を100として110.0
- 生鮮食品を除く総合指数:109.2
- 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数:108.4
前年同月比では、生鮮食品を含む食料、電気代、都市ガス代(エネルギー)などが指数を押し上げた結果となりました。
出典:総務省|2020年基準 消費者物価指数(2024年11月分)
2.人材確保の必要性
少子高齢化による労働人口減少から、労働力が不足しています。2024年は、人手不足を解消するために賃上げせざるを得ない企業も見られました。本来、賃上げは資金があることが前提ですが、「防衛的賃上げ」と呼ばれ、企業の業績改善が見込めない状況下で人材確保のために賃上げに踏み切る切実なケースです。
また、東京商工リサーチが2023年12月に実施した「欠員率に関するアンケート調査」では、全体の7割超(71.1%)の企業で人手不足感があると回答しました。企業規模では、大企業の18.6%、中小企業の30.06%が人手不足を感じていないという結果となり、大企業での人手不足感が強まっていることを示します。
出典:東京商工リサーチ|従業員の欠員率「5%以上」 企業の51.4%と半数超え 「宿泊業」「建設業」「情報通信業」で人手不足が浮き彫り
関連記事:防衛的賃上げの実態と中小企業の課題|人材確保のための厳しい選択
3.国際競争力の維持
ITや研究開発分野の企業では、グローバル人材の獲得が激化しつつあります。外国人は給与にシビアとされており、適切な賃金水準であることが優秀な人材獲得のために重要です。国際競争力を維持し、今以上に高めるためには、賃上げを戦略的投資として行う必要があるでしょう。
4.大企業の業績回復
2024年12月11日に内閣府と財務省が発表した「法人企業景気予測調査(令和6年10~12月期調査)」によると、「景況判断」BSI(Business Survey Index:業況判断指数)を全産業で見た場合、大企業は5.7%ポイントとなり、3期連続のプラス(「上昇」超)で推移する見通しです。
さらに大企業の先行きについては、2025年1月〜3月にかけて3.9、2025年4月〜6月に2.6となるなど、現段階での2025年大企業の業績は明るいと判断できます。
出典:財務省|法人企業景気予測調査(令和6年10~12月期調査)結果の概要
5.賃上げを支援する制度の存在
賃上げを支援する制度が充実していることも、賃上げの流れを後押しします。ここでは2つの製度を説明します。
賃上げ促進税制
賃上げを支援する政府の手厚い制度も、企業の積極的な賃上げ判断の決め手となります。その代表例が賃上げ促進税制です。令和4年度の税制改正で刷新された制度であり、賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、雇用者給与等支給額の前年度からの増加額の一定割合を、法人税額または所得税額から控除します。
この制度は企業が活用しやすい点が特徴であり、青色申告を行う事業者であれば幅広く適用が可能です。
出典:経済産業省|賃上げ促進税制
出典:経済産業省|「賃上げ促進税制」御利用ガイドブック
関連記事:大企業向け賃上げ促進税制を分かりやすく解説!中小企業向けとの違いも
キャリアアップ助成金
基本給などの処遇改善を実施する場合や、非正規雇用の労働者のキャリアアップを実現する形で賃上げをする場合は、キャリアアップ助成金が利用可能です。企業は賃上げの目的やタイミングに応じて、複数のコースから適切なものを選択できます。
なお、キャリアアップ助成金は、拡充や廃止で時代に寄り添う形で見直されています。たとえば、2023年11月29日以降は「正社員化コース」の助成額がプラスされました。「短時間労働者労働時間延長コース」のようにパート従業員の社会保険加入を助成するものは、2024年3月31日で廃止され、新たに「社会保険適用時処遇改善コース」が設けられています。
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内 (令和6年度版)
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金「正社員化コース」を拡充しました!2023 年11月29日以降における変更点のご案内
出典:厚生労働省|キャリアアップ助成金 年収の壁対策として労働者1人につき最大50万円助成します!
6.賃上げ手法の多様化
2024年の賃上げの動きとして、新たな方法が提唱されたことも、賃上げの流れに好影響を与えています。「第3の賃上げ」は、福利厚生を利用して手取りを増やす賃上げ手法です。
- 第1の賃上げ:勤続年数、年齢、従業員の成績など企業が定めた基準で行われる定期昇給。
- 第2の賃上げ:基本給が引き上げられるベースアップ。
- 第3の賃上げ:“実質手取りを増やす”ことができる、福利厚生サービスを活用した“賃上げ”。
実質手取りを増やせるのは、食事補助や社宅などの福利厚生費は、経費として非課税で処理できる点にあります。第1の賃上げ、第2の賃上げで増えた金額は所得税がかかりますが、福利厚生として企業から受け取った分は所得税がかかりません。
加えて企業は全額を経費として扱えるため、税負担の軽減というメリットが得られます。
賃上げ原資が不足している場合はもちろん、企業の働き方改革との組み合わせ、求人でのアピールポイントなど、企業の魅力を高める方法としても取り入れられます。
毎日使える食事補助の福利厚生「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが提供する食事補助の福利厚生「チケットレストラン」は、「第3の賃上げ」の代表例として2024年に各種メディアから注目を集めました。食事補助の福利厚生で利用できる非課税枠を最大限活用するサービスであり、非正規雇用者にも提供できるといった魅力を備えることから、2025年の賃上げとしても引き続き注目を集めています。
関連記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
パート・アルバイト・契約社員 にも「第3の賃上げ」を!ラウンドテーブルを開催~“年収の壁”を抱える非正規雇用にも、福利厚生で実質手取りアップを実現~
2025年は大企業の賃上げ動向に引き続き注目
2024年から2025年にかけて、大企業の賃上げは新たなステージに入ります。物価高への対応や人材確保の必要性から、多くの大手企業が「5%を超える賃上げ」を実施し、この流れは2025年も継続する見込みです。さらに、賃上げ促進税制やキャリアアップ助成金といった支援制度も充実しており、企業の賃上げ実現を後押ししています。
また、2024年度は、各種メディアで取り上げられたこともあり「第3の賃上げ」という福利厚生を活用した実質手取りアップの方法が賃上げ手法として存在感を高めました。従来の定期昇給やベースアップに加えて、食事補助などの福利厚生サービスを活用することで、企業側の税負担を抑えながら従業員の実質的な処遇改善を図れます。
人材の確保と定着が課題となる中、従来の定期昇給やベアに加えて、食の福利厚生「チケットレストラン」による新たな賃上げのアプローチに取り組んでみませんか。