UAゼンセンは2025年春闘において、正規組合員6%、パート組合員7%という連合の目標を上回る賃上げ目標を発表しました。組合員の約6割がパート従業員で、全体の約7割が中小企業の労働組合で構成される同組織では、同一労働同一賃金の法制化や政府の最低賃金引き上げ方針への対応、さらに人材定着を目的とした賃金底上げなど、今回の要求には複数の狙いが込められています。
本記事では、2023年から2024年にかけて過去最高水準の賃上げを実現してきた実績を背景に、2025年春闘での賃上げについて解説します。
UAゼンセンとは?
UAゼンセンは、製造、流通、サービス産業などの労働組合が加盟する日本最大の産業別労働組合です。約2,200の企業別組合が加盟し、組合員数は約190万人の規模を誇ります。
組織の特徴は、組合員の約6割が短時間組合員(パート従業員)であり、全体の約7割が従業員300人未満の中小企業の労働組合で構成されていることです。男女比は、女性が6割以上の割合を占めます。
UAゼンセンの組織構成は、日本の労働市場における非正規雇用の増加と中小企業の重要性を反映していると言えるでしょう。
部門 | 組合数 | 組合員数 | 傘下の部会 |
製造産業部門 | 885組合 | 186,931名 | ・繊維素材部会
・繊維加工部会 |
流通部門 | 508組合 | 1,154,210名 | ・スーパーマーケット部会
・GMS部会 |
総合サービス部門 | 773組合 | 557,808名 | ・フード部会
・フードサービス部会 |
出典:UAゼンセン|UAゼンセンの組織(2024年9月時点)
UAゼンセン2025年春闘の賃上げ|要求内容
連合の春闘方針と比較しながら、UAゼンセン2025年春闘での賃上げ要求内容を正規組合員とパート組合員に分けて見ていきましょう。
2025年連合による春闘方針
連合が2025年春闘において打ち出している目標は、以下のとおりです。
定期昇給相当分(賃金カーブ維持分) | 賃上げ分 | 備考 | |
2025年連合方針 | 5%以上 | 3%以上 | 中小企業は格差是正分 1%以上を加えた18,000 円以上・6%以上 |
出典:連合|2025 春季生活闘争方針について
UAゼンセン2025年春闘「正規組合員」の賃上げ要求
UAゼンセンは2025年の春季労使交渉に向けて、正規組合員とパート組合員それぞれに明確な賃上げ目標を設定している要求方針を発表しました。全体の賃上げ目標率は「6%基準」、正規組合員については基本給を底上げするベースアップ分として「4%」を基準とし、定期昇給を含めた総額で「6%」を基準とする方針を示しています。
また、中小企業では賃金体系が必ずしも整備されていないことに配慮し、「16,500円」という実額で目標値を示しました。
UAゼンセン2025年春闘「パート組合員」の賃上げ要求
パート組合員に対しては、ベア分として「5%(時給60円)」を基準とし、制度昇給分を含めた総額で「7%(時給80円)」を目安とする、より高い水準の要求を掲げています。後ほど詳しく述べますが、正規従業員との賃上げ額(時給換算)で下回らない水準に設定する徹底ぶりです。
出典:日本経済新聞|UAゼンセン、パート7%賃上げ目標「格差拡大に歯止め」(2024年11月6日)
UAゼンセン2025春闘賃上げ|実施プロセス
UAゼンセンの賃上げ方針は、2025年1月の中央委員会で正式に決定される予定です。この方針が決定されると、各加盟企業の労働組合は、この統一要求に基づいて個別の春季労使交渉を展開します。
UAゼンセン2025春闘賃上げ|高い賃上げ要求の背景
UAゼンセンが高い賃上げ率を設定した背景について説明します。
同一労働同一賃金の法制化への対応
今回の方針は、正規組合員と同じ職務を担うパート組合員について、正規組合員の賃上げ額(時間換算)を下回らない水準に設定する方針を強調しています。同一労働同一賃金の観点に沿った取り組みであり、雇用形態による賃金格差解消を目指すためです。
組合間の賃上げ格差の是正
UAゼンセンの永島会長は、「23〜24年の闘争では賃上げができた組合と十分にできなかった組合の格差が拡大した」と振り返っています。組合間の格差解消を目指したことも、2025春闘での高い水準要求の理由です。
出典:日本経済新聞|UAゼンセン、パート7%賃上げ目標「格差拡大に歯止め」(2024年11月6日)
政府による最低賃金引き上げ方針との整合性
2024年は全国加重平均額で前年比51円という過去最高額の最低賃金引き上げが行われています。7%というパート組合員の高い賃上げ率の背景には、政府の目標を達成する目的があると考えられます。
出典:厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧
人手不足対策としての賃金底上げ
パート組合員などの非正規雇用者が約6割を占めるUAゼンセンでは、実質賃金の上昇を定着させながら人材定着へも積極的に対応する必要があります。そのためパート従業員の賃金の底上げにより、正規組合員との格差解消に努めることが重要であり、連合の目標を超える7%という高い賃上げを目指します。
出典:NHK|UAゼンセン 来年の春闘賃上げ 非正規雇用「7%を目安」の方針
UAゼンセン2023年・2024年の春闘賃上げ実績
UAゼンセンの春闘での賃上げ妥結は、2023年と2024年の両年でパート組合員について連合方針を上回る水準を維持してきました。ここでは、これまでの妥結内容について確認していきましょう。
2023年春闘での賃上げ実績
2023年は、2013年にUAゼンセン結成以来、最も高い水準の賃上げを実現した年です。2023春闘における全体での結果と比較すると、とくにパートタイム組合員への賃上げに努めたことがわかります。
具体的には、連合目標の5%程度を実現できており、UAゼンセンの6割が正規組合員以外であることを踏まえると、非正規雇用者を含めた幅広い賃上げを実現できたことが大きな成果と言えるでしょう。
区分 | 妥結総合計 | 賃金引き上げ分(ベアなど) | 備考 |
正規組合員 | 10,552円(3.65%) | 6,518円(2.16%) | 物価上昇分に見合った賃上げ |
パートタイム組合員 | 52.7円 (5.08%) | 45.7円 (4.40%) | 8年連続正規組合員の妥結総合計での割合を上回る |
出典:UAゼンセン|2023労働条件闘争 妥結概況(5月末時点)
2023年連合による春闘方針と結果
以下表で、2023連合による方針と結果を確認できます。
区分 | 定期昇給相当分(賃金カーブ維持分) | 賃上げ分 | 備考 |
2023春闘連合方針 | 5%程度 | 3%程度 | - |
2023春闘結果 | 10,560 円(3.58%) | 4,982 円(1.96%) | 30年ぶりの高い水準 |
出典:連合|2023 春季生活闘争方針について、2023 春季生活闘争まとめ
2024年春闘での賃上げ実績
「より高い水準の賃上げ」を目指したのが2024年UAゼンセン春闘での賃上げの指針です。UAゼンセン結成以来最大の賃上げ要求を行い、前年を上回る妥結結果を達成しています。
パートタイム組合員の賃上げ率が9年連続で正規組合員を上回っていることは注目に値し、雇用形態間の格差是正が進んだ形となりました。2023年に続き、パートタイム組合員の賃上げにおいては連合の掲げる目標「5.0%以上」を大きく上回る「5.75%」という結果となっています。
区分 | 妥結総合計 | 賃金引き上げ分(ベアなど) | 備考 |
正規組合員 | 14,484円(4.95%) | 10,487円(3.40%) | 前年比約+1ポイント以上の大幅な賃上げ |
パートタイム組合員 | 62.5 円(5.75%) | 記載なし | 9年連続正規組合員の妥結総合計での割合を上回る |
出典:UAゼンセン|2024年度_UAゼンセン妥結概況(6月末時点)
2024年連合による春闘方針と結果
以下表は、2024連合による方針と結果をまとめたものです。
区分 | 定期昇給相当分(賃金カーブ維持分) | 賃上げ分 | 備考 |
2024春闘連合方針 | 5%以上 | 3%程度 | 定期昇給相当分は5%以上と賃上げの程度を強める形 |
2024春闘結果 | 15,281 円(5.10%) | 10,694円(3.56%) | 33年ぶりの5%超え |
出典:連合|2024 春季生活闘争方針、~2024 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~
UAゼンセン賃上げで注目したい5つのポイント
UAゼンセンの賃上げ要求には、独自の特徴があります。5つのポイントを確認しましょう。
1.連合方針を上回る積極的な要求
UAゼンセンは連合の方針を上回る賃上げ要求を掲げるのが特徴です。2023年春闘では加重平均で「5.08%」の賃上げを要求し、連合の目標である「5%程度」を要求を上回る形でした。さらに2024年春闘では加重平均「6.04%」まで引き上げており、連合目標である「5%以上」を大きく上回る要求を掲げています。
出典:UAゼンセン|2024年度_UAゼンセン妥結概況(6月末時点)
2.非正規雇用者の処遇改善への取り組み
UAゼンセンの賃上げ要求のもう一つの特徴は、パート組合員に対する手厚い賃上げ設定です。2023年春闘ではパート組合員で「5.08%」の賃上げを実現し、2024年春闘ではさらに「5.75%」まで賃金を引き上げることに成功しました。これはUAゼンセン結成以来の最高水準となり、非正規雇用者の処遇改善への強い姿勢を示しています。
出典:UAゼンセン|2024年度_UAゼンセン妥結概況(6月末時点)
3.過去最高水準の実績
2023年UAゼンセン春闘での賃上げは、正規組合員が3.65%と、パート組合員の平均賃上げ率が5.08%となり、いずれも過去最高の水準を達成しました。2024年の春闘でも、正規組合員4.95%、パート組合員5.75%、ともに記録的な賃上げを実現します。
UAゼンセンの積極的な賃上げ要求が成果を出していることは、春闘における賃上げ全体の流れをより高い水準へと引き上げていると言えます。
出典:UAゼンセン|2023労働条件闘争 妥結概況(5月末時点)、2024労働条件闘争 妥結状況(6月末時点)
4.業界をリードするイオングループ高水準の妥結
イオングループは、UAゼンセン加盟企業の中でも注目される存在です。2023年春闘では、UAゼンセンの統一要求方針である「6%程度」を上回る7%以上の賃上げ率を達成しています。さらに2024年春闘でも、パート組合員の時給を7.02%引き上げるなど、継続的な処遇改善を実現しています。
イオングループのような大手企業の積極的な賃上げは、他企業への波及効果も大きく、業界全体の賃金水準向上を牽引する役割を果たしています。
出典:日本経済新聞|イオンリテール、正社員5%賃上げで早期妥結(2023年3月1日)
出典:日経ビジネス|イオン、パートの賃金2倍も 生産性向上で待遇社員並みに(2024年10月4日)
関連記事:賃上げを表明した企業一覧。2025年春闘の動向や第3の賃上げも解説
5.早期妥結の傾向
UAゼンセンの2024年春闘では、4つのグループに分けて計画的な交渉を進めました。計画的な交渉により、早期に妥結する組合が多い傾向があります。
【交渉グループのヤマ場設定】
- Aグループ:3月13日
- Bグループ:3月21日
- Cグループ:3月31日
- Dグループ:5月31日
上記のとおり計画的な交渉スケジュールと段階的な妥結により、多くの組合で目標水準を達成しています。とくに3月中の早期妥結が多いことが特徴的で、これにより他の労働組合への波及効果が期待できます。
時期 | 妥結組合数(正規) | 妥結組合数(パート) | 成果 |
2月末時点 | 22組合 | 22組合 | イオングループが先行し、6~7%台での満額回答を実現 |
3月末時点
(A、B、Cグループ) |
436組合 | 208組合 | 3割超の141組合で満額回答(うち46組合が満額超) |
6月3日時点
(Dグループを含む) |
1240組合 | 378組合 | 正規従業員292組合で満額回答(うち108組合が満額超) |
2024年7月3日時点(最終) | 1338組合 | 387組合 | 正規従業員312組合で満額回答 |
出典:UAゼンセン|【速報・2024賃金闘争】満額妥結相次ぐ!Aグループヤマ場前に早期・高水準の妥結続く(2024年3月1日)、2024労働条件闘争 妥結概況(3月末時点) 、2024労働条件闘争 妥結状況(5月末時点) 、2024労働条件闘争 妥結状況(6月末時点)
関連記事:春闘とは?流れや時期・目的などをわかりやすく解説。近年の動向も
UAゼンセンが示す賃上げの新たな方向性
UAゼンセンは2025年春闘において、連合の目標を上回る7%という高い賃上げ目標を掲げ、パート従業員の待遇改善に積極的に取り組んでいます。この姿勢は、労働者の実質的な生活向上を目指す新しい動きと捉えられます。
UAゼンセンのように、パート従業員が活躍する企業では、実質的な収入増加に向けた新たな賃上げのアプローチが有効です。エデンレッドジャパンが提唱する「第3の賃上げ」の考え方があります。従来の定期昇給(第1の賃上げ)やベースアップ(第2の賃上げ)に加え、食事補助などの福利厚生制度を戦略的に活用することで、実質的な手取り収入を増やすことを「第3の賃上げ」と定義しました。
パート従業員を含む全従業員が毎日利用できる食の福利厚生「チケットレストラン」は、日々の生活に直結するサポートが可能です。春闘での賃上げと組み合わせることで、従業員の生活水準のさらなる向上が期待できます。