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【社労士監修】労使協定と36協定の違いを解説!種類や様式、違反リスク

【社労士監修】労使協定と36協定の違いを解説!種類や様式、違反リスク

2024.11.22

監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

労使協定と36(サブロク)協定は、労務管理において非常に重要な概念ですが、その違いや関係性について混乱しやすい側面があります。本記事では、両者の違いを明確にし、企業の人事労務担当者が知っておくべき重要ポイントを解説します。

労使協定と36協定の基本的な違い

労使協定のうちの一つが36協定です。はじめに、労使協定と36協定の基本的な違いを説明します。

労使協定とは

労使協定は、労働者の代表と使用者との間で締結されるさまざまな取り決めの総称です。労働条件や労働環境に関する幅広い事項について、合意を形成するために結ばれます。たとえば、賃金や労働時間、休暇、福利厚生などを取り決めます。労使協定の締結により、労働者の権利を保護しつつ企業の柔軟な労務管理を実現することが目的です。

労使協定の種類

主な労使協定の種類には以下があります。

  労使協定の種類 届出義務 有効期間の定め 労働基準法等 様式
1 時間外及び休日労働(36協定) 必要 必要 36条 第9号
2 1週間単位の非定型的変形労働時間制 必要 不要 32条の5 第5号
3 1ヶ月単位の変形労働時間制(※1) 必要 必要 32条の2 第3号の2
4 1年単位の変形労働時間制 必要 必要 32条の4 第4号
5 事業場外のみなし労働時間制(※2) 必要 必要 38条の2 第12号
6 専門業務型裁量労働制 必要 必要 38条の3 第13号
7 任意貯蓄 必要 不要 18条 第1号
8 フレックスタイム制(※3) 不要 不要 32条の3 第3号の3
9 年次有給休暇の計画的付与 不要 不要 39条6項 なし
10 時間単位年休 不要 不要 39条4項 なし
11 休憩の一斉付与の除外 不要 不要 34条 なし
12 賃金の一部控除 不要 不要 24条 なし
13 育児、介護休業に関する協定 不要 必要 育児・介護休業法 なし
14 デジタルマネーによる賃金の支払い 不要 不要 24条 なし

参考:労務ブログ|労働基準法が定める「労使協定」15種類を整理して解説(届出義務・有効期間など)

上記表の補足事項
(※1)就業規則への記載に代えることも可
(※2)法定労働時間内で定める場合は不要
(※3)清算期間が1カ月を超える場合は必要

関連記事:【社労士監修】労使協定とは?基礎知識と福利厚生導入の事例をわかりやすく解説

36協定とは

36協定は通称であり、正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」といいます。36協定は労使協定の一種で、法定労働時間を超える時間外労働や休日労働を可能にするために締結される特定のものを指します。36協定がなければ、企業は労働基準法で定められた労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員を働かせることができません。繁忙期には、36協定が企業の生産性を維持するために不可欠です。

なお、36協定の名称は、労働基準法第36条に「時間外労働・休日労働に関する協定」が定められていることに由来しています。

参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

36協定の様式一覧

36協定には業種や業務の特性により様式の使い分けが必要です。一般的な企業では、一般条項を定めた様式第9号(一般条項)または様式第9号の2(特別条項)を使います。災害時の対応や医療従事者など、臨時的な時間外労働が発生する業務については、働き方改革をきっかけに様式が見直されました。以下に、36協定の様式をまとめます。

様式番号 様式 用途
様式第9号 一般条項 限度時間(月45時間、年360時間)の範囲内で時間外・休日労働を行う場合
様式第9号の2 特別条項 臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う必要がある場合
様式第9号の3 新技術・新商品等の研究開発業務 新技術・新商品等の研究開発業務(時間外労働上限規制の適用除外)に従事する場合
様式第9号の3の2 一般条項

建設事業(災害時における復旧及び復興の事業)を含む場合

建設事業で、限度時間(月45時間、年360時間)の範囲内で時間外・休日労働を行う場合
様式第9号の3の3 特別条項

建設事業(災害時における復旧及び復興の事業)を含む場合

建設事業で、災害時の復旧復興対応が見込まれ、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う必要がある場合
様式第9号の3の4 一般条項

自動車運転の業務を含む場合

自動車運転の業務に従事する場合で、限度時間(月45時間、年360時間)の範囲内で時間外・休日労働を行う場合
様式第9号の3の5 特別条項

自動車運転の業務を含む場合

自動車運転の業務に従事する場合で、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う必要がある場合
様式第9号の4 一般条項

医業に従事する医師を含む場合

医業に従事する場合で、限度時間(月45時間、年360時間)の範囲内で時間外・休日労働を行う場合
様式第9号の5 特別条項

医業に従事する医師を含む場合

医業に従事する場合で、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行う必要がある場合

出典:
厚生労働局|時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)
厚生労働省|【パンフレット】時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 (中⼩企業への適⽤は令和2年4⽉以降)【パンフレット】建設業時間外労働の上限規制 わかりやすい解説【パンフレット】労働時間等の改善基準のポイント(トラック)【パンフレット】医師の働き方改革 2024年3月までの手続きガイド

労使協定・36協定の適用範囲と目的の違い

適用範囲と目的の関係性を確認することで、それぞれの協定の違いが明確になります。

労使協定の適用範囲と目的

労使協定は、賃金や勤務条件など広範囲な内容を対象とします。労使協定のおかげで、企業は法令以上の条件を設定することが可能となり、フレックスタイムや福利厚生を導入できるため、従業員の満足度向上や離職率低下を目指しやすくなる側面もあります。また、締結の過程で、労使間での信頼関係を築くことも目的の一つです。

36協定の適用範囲と目的

労使協定が幅広い内容を対象とするのとは対照的に、36協定は「時間外労働と休日労働に特化している」のが特徴です。36協定によって、企業は法的な枠組み内で残業や休日出勤を指示できるようになり、業務量の増加やプロジェクトの締切への柔軟性の確保が可能になります。

ただし、限度時間を超えて労働させる場合、医師による面接指導や健康診断など、適切な管理と労働者の健康・福祉の確保が欠かせません。

出典:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

労使協定と36協定の締結手続きと届出の違い

労使協定のなかには、労働基準監督署への届出が必要なものと、不要なものがあります。労使協定と36協定の場合をそれぞれ確認しましょう。

労使協定の締結手続きと届出

労使協定は取り決める内容によって締結手続きが異なります。労働基準監督署への届出が必要なものもありますが、すべてではありません。基本的には、従業員にとって不利益がある内容は、届出の対象です。

様式についても、「1ヶ月単位の変形労働時間制」のように決まった様式があるものと、「賃金の一部控除」のように様式は定められていないものとがあります。労使協定の種類、様式と届出義務の関係性については、前述の表に記載があります。

労使協定の締結手順は以下のとおりです。

  1. 労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者の選出
  2. 協定内容の協議
  3. 書面による協定の作成
  4. 労使双方の署名または記名押印
  5. 必要に応じて労働基準監督署への届出

36協定の締結手続きと届出

36協定については、必ず法令に基づいた手続きを踏まなければなりません。使用者と従業員代表または労働組合との間で合意した内容を書面化し、書面を労働基準監督署に届け出ます。労働基準監督署への届出をもって効力が発生するため、届出も重要なプロセスです。届出を怠った場合には、法的な問題につながる可能性もあるため、慎重に行います。

36協定の締結手順は以下の通りです。

  1. 労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者の選出
  2. 協定内容の協議(時間外労働の上限、対象業務など)
  3. 書面による協定の作成(新様式の使用)
  4. 労使双方の署名または記名押印
  5. 労働基準監督署への届出(必須)

労使協定と36協定の有効期間の違い

36協定以外の労使協定と、36協定の有効期間には違いがあります。

労使協定の有効期間

労使協定ごとに、有効期間の有無とその目安が異なります。そのため、都度確認し更新手続きを行うようにしましょう。更新時には、新たな条件や環境変化を反映も求められます。

労使協定の種類 有効期間の定めの目安
1ヶ月単位の変形労働時間制 3年以内が望ましい
1年単位の変形労働時間制 1年程度が望ましい
事業場外のみなし労働時間制 定期的な見直しが望ましい
専門業務型裁量労働制 3年以内が望ましい

参考:
労務ブログ|労働基準法が定める「労使協定」15種類を整理して解説(届出義務・有効期間など)
厚生労働省|1か月単位の変形労働時間制
厚生労働省岡山労働局|1年単位の変形労働時間制について
厚生労働省|【 8 事業場外労働のみなし労働時間制 】 /法第 38 条の 2

36協定の有効期間

労使協定の種類 有効期間の定めの目安
時間外及び休日労働(36協定) 一般的に1年間

出典:厚生労働省|2021年4月〜36協定が新しくなります

36協定の場合、有効期間は通常1年間です。特別条項付きの場合でも、労働基準局が「36協定の有効期間は最長でも1年間とすることが望ましい」と指導しています。特別条項とは、特別な事情がある場合には上限を超えた残業を認める規定です。締結するときは、労働が必要となる明確な理由をできる限り具体的に示す必要があります。

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|労働外時間の上限規制わかりやすい解説

労使協定違反・36協定違反におけるリスクの違い

労使協定に違反した場合と、そのなかでも36協定に違反した場合のリスクの違いについて解説します。

労使協定違反のリスク

労使協定違反では、2つのリスクが考えられます。

1つ目は企業内での問題です。賃金や勤務条件が不適切な場合、従業員の不満が高まり、結果として仕事の生産性が低下したり、従業員が退職したりしてしまう可能性があります。

2つ目は法令違反に関するリスクです。たとえば、36協定を結ばずに残業をさせた場合は法令違反となります。また、就業規則の作成や労働基準監督署への届出を怠ると、労働基準法89条違反として第120条により、最大30万円以下の罰金が科せられます。

出典:e-GOV法令検索|労働基準法第八十九条、第百二十条


36協定違反のリスク

労使協定の代表例でもある36協定については、より厳格な法規制があるのが特徴です。無届けで「月45時間以上・年間360時間以上」の残業や休日出勤を命じた場合には、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

労使協定は通常、1年間有効です。期限切れになると、協定を提出していないのと同じ状態となり、この場合も法令違反となります。加えて、36協定違反という事態は、企業イメージにも悪影響を及ぼし、社会的な制裁を受ける可能性もあるため注意が必要です。

労使協定と他の労働関連規定との違い

労使協定とほかの労働関連規定との違いも確認しましょう。ここでは、労働基準法、労働協約、就業規則、労働契約との違いを表にまとめます。

項目 定義・特徴 適用範囲 法的効力 当事者 労使協定との関係
労働基準法 労働条件の最低基準を定める法律。 全労働者 強制力あり 使用者と労働者全般 労使協定は労働基準法の例外を認める。
労使協定 労働者と使用者間の特別な取り決め。 特定条件下の労働者 合意に基づくが法に従う必要あり 労働者の代表と使用者 労働基準法の例外を設けるために必要。
労働協約 労働組合と使用者間の包括的な協定。 組合員及び影響を受ける非組合員 合意した内容は拘束力あり 労働組合と使用者 労使協定より広範な内容を含む。
就業規則 使用者が作成し、労働条件を定める規則。 全従業員 法律で強制力あり※ 使用者と従業員全般 労使協定と併用されることが多い。
労働契約 個々の労働者との契約。具体的な条件を定める。 個々の労働者に対して有効 契約として強制力あり 労働者と使用者 労使協定とは異なり、個別契約として締結される。

(※)労働基準法を超える内容を含む場合、その項目は労使協定を結ぶ。

労働基準法との違い

労働基準法はすべての企業や労働者に適用される労働条件の最低基準を定めた法律です。一方、労使協定は、労働基準法の基準の一部を変更できる特別な取り決めとして機能します。たとえば、36協定のように、時間外労働や休日労働を可能にする際に必要となります。

労働協約との違い

労働協約は労働組合と使用者の間で結ばれる包括的な取り決めで、賃金や労働時間など広範な労働条件を定めます。労使協定は、残業や変形労働時間制といった特定の事項についてのみ締結される、より限定的な協定です。

就業規則との違い

就業規則は企業側が作成し、従業員の意見を聴いた上で定める職場のルールです。一方、労使協定は労働者の代表と使用者が対等な立場で協議し、合意の上で締結する点が異なります。

労働契約との違い

労働契約は企業と個々の労働者間で結ばれる個別の契約です。労使協定は労働者の代表と使用者との間で締結され、該当する労働者全員に適用される集団的な取り決めとなります。

労使協定と36協定の違いを押さえて法令を遵守

労使協定や36協定は、企業経営において欠かせない重要な手続きです。とくに年1回の更新が必要な36協定については、働き方改革による時間外労働の規制強化も加わり、より適切な運用が求められています。

36協定など労使協定見直しのタイミングは、従業員の働き方全般を見直す良い機会です。たとえば、長時間労働の抑制と合わせて、食事補助などの福利厚生を整備することで、従業員の健康管理と満足度向上につなげられます。

食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」では、専用のICカードへのチャージを通じて企業が従業員の勤務中の食事代(ランチ・おやつ・飲み物・夜食など)を補助します。福利厚生として食事補助を提供するにあたり、給与での天引きが発生する関係で労使協定の変更も必要となりますが、従業員のランチタイムや休憩時間をより充実させられるため、導入価値のある施策です。

契約から1か月程度で、全国に25万店舗ある加盟店やコンビニで利用できる食事補助のサポートを得られるため、栄養バランスの良い食事を手軽に取れるようになります。また、同僚との会食の機会も増え、職場のコミュニケーション活性化にもつながります。昼休みのリフレッシュ効果で、午後の業務効率向上も期待できるでしょう。

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