監修者:舘野義和(税理士・1級ファイナンシャルプランニング技能士 舘野義和税理士事務所)
「地域未来投資促進税制」は、地域未来投資促進法に基づいて導入された税制優遇措置です。地域経済の活性化を目的とし、2017年7月31日から適用が開始されました。
本記事では「地域未来投資促進税制」について、その概要からメリット・申請方法まで徹底解説しています。ぜひ自社での活用可能性を検討する際のヒントにしてください。
「地域未来投資促進税制」とは
「地域未来投資促進税制」は、地域未来投資促進法に基づく税制優遇制度で、地域の特性を活かした事業への投資を促進し、地域経済の活性化を図るために整備されました。この制度を利用することで、企業は設備投資に対する課税の特例措置(税制優遇)を受けることができ、同時に地域経済の発展にも貢献できます。
まずは、「地域未来投資促進税制」の由来となる「地域未来投資促進法」成立の背景や、制度の概要から解説します。
「地域未来投資促進法」の背景と目的
「地域未来投資促進法」は、「企業立地促進法」の後継法として2017年7月31日に施行された法律です。正式名称を「地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律」といい、地域の特性を生かした事業への投資を促進し、地域経済を活性化させることを目的に成立・施行されました。
当初の適用期限は2023年3月31日まででしたが、令和5年度税制改正に伴い2年間期間が延長され、現在の適用期限は令和7年(2025年)3月31日までとなっています。
同法が成立した背景には、人口減少や産業の空洞化といった地域経済の課題があります。この法律により、都道府県が地域の特性を生かした事業計画を承認し、国がその事業に対して各種支援を行う仕組みが整えられました。
参考:e-Gov法令検|地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律
【地域未来投資促進税制】適用の流れ
地域未来投資促進税制にまつわる手続きは、以下の流れで進行します。
- STEP1:市町村・都道府県が「基本計画」を作成し、国の同意を得る
- STEP2:基本計画をもとに、事業者が「地域経済牽引事業計画」を作成する
- STEP3:都道府県知事が「地域経済牽引事業計画」を承認する
- STEP4:国(主務大臣)による課税特例の確認を受ける
「地域経済牽引事業」の要件
地域未来投資促進税制の適用を受けるには、市町村もしくは都道府県へ「地域経済牽引事業計画」を提出し「地域経済牽引事業」として承認されなければなりません。
地域経済牽引事業の要件は、以下の通りです。
- 地域の特性を活用している
- 高い付加価値を創出している
- 地域の事業者に対し、相当の経済的効果を及ぼしている
課税特例の要件
課税特例を適用されるには、定められた要件を満たし、国による確認を受けなければなりません。
課税特例の要件には「通常類型」と「上乗せ類型」の2種類があります。両類型に共通する要件は以下の通りです。
- 先進性を有すること
- 設備投資額が2,000万円以上であること
- 設備投資額が前年度減価償却費の20%以上であること
- 対象事業の売上高伸び率がゼロを上回り、かつ、過去5年度の対象事業に係る市場規模の伸び率より5%以上高いこと
- 旧計画が終了しており、その労働生産性の伸び率4%以上、かつ投資収益率5%以上であること
また、要件1.「先進性の有無」については、下記二つの類型に分かれます。それぞれの類型ごとに要件を満たさなければなりません。
- 通常類型:労働生産性の伸び率4%以上、もしくは投資収益率5%以上
- サプライチェーン類型:海外への生産拠点の集中の程度が50%以上の製品製造・事業を実施する都道府県内の取引額の増加率が5%以上 等
さらに、下記「上乗せ要件」に該当する場合、より充実した課税特例が適用されます。ただし、サプライチェーン類型は、上乗せ要件の対象外です。
6.直近事業年度の付加価値額増加率が8%以上
7.労働生産性の伸び率が4%以上、かつ、投資収益率が5%以上
事業者向けの具体的な支援内容
地域未来投資促進税制において、事業者が受けられる具体的な支援内容は、主に以下の2点です。
- 法人税等の特別償却(最大50%)
- 税額控除(最大5%)
要件を満たす事業者は、機械装置や器具備品に対し、取得価額の40%の特別償却または4%の税額控除が適用されます。建物や構築物の場合の特別償却は20%・税額控除は2%です。
さらに、上乗せ要件を満たす場合は、機械装置等に対して50%の特別償却、または5%の税額控除という上乗せ措置も受けられます。これにより、企業は設備投資に伴う税負担を大幅に軽減することができ、より積極的な事業展開が可能となります。
また、自治体の条例によっては、新たに取得する土地・建物等について、地方税(固定資産税・不動産取得税)の減免も可能です。地域経済の発展に寄与する事業を、多角的に支援する仕組みとなっています。
「地域未来投資促進税制」のメリット
地域未来投資促進税制は、企業にとって大きなメリットをもたらす制度です。以下、企業が得られる主なメリットについて解説します。
税額控除や償却費の特例措置
地域未来投資促進税制の最大のメリットは、設備投資に対する税制優遇です。
設備投資に関連する負担が軽減されることにより、企業は設備投資に伴う税負担を大幅に軽減することができ、より積極的な事業展開が可能となります。
特に企業体力に不安を抱える中小企業にとって、同制度がもたらすメリットは大きいといえそうです。
地域経済の牽引事業に対する支援
地域未来投資促進税制は、単に企業の税負担を軽減するだけのものではありません。この制度を活用することで、地域の特性を活かした事業への投資が促進され、新たな雇用の創出や地域産業の高度化が期待できます。
また、地域の中核企業による投資は、取引先や関連企業にも波及効果をもたらし、地域全体の経済循環を活性化させる可能性があります。さらに、先進的な設備投資により、地域の技術力や生産性の向上にもつながり、長期的な地域競争力の強化にも寄与するでしょう。
設備投資の促進
地域未来投資促進税制は、企業の設備投資を強力に後押しする制度です。課税の特例措置により初期投資の負担が軽減されるため、企業はより先進的で大規模な設備投資を行うことができます。
制度を活用することで、企業の生産性の向上や新技術の導入が促進され、企業の競争力強化につながります。設備投資の増加は、関連産業への波及効果も大きいため、地域全体の産業構造の高度化にも寄与するでしょう。
また、環境配慮型の設備投資も促進された場合には、地域の持続可能な発展にも貢献します。
このように、地域未来投資促進税制は、企業の成長と地域経済の発展を同時に実現する効果的な仕組みです。
こうしたメリットから、地域未来投資促進税制は「設備投資減税」の一環として広く認知・活用されています。
参考:公益社団法人リース事業協会|設備投資減税に関するご案内
【地域未来投資促進税制】対象となる事業・地域の概要
地域未来投資促進税制の対象となる事業や地域には、一定の条件があります。詳しく見ていきましょう。
事業計画と基本計画の重要性
地域未来投資促進税制を活用するためには、「地域経済牽引事業計画」の作成と承認が不可欠です。この計画は、地域の特性を活かし、高い付加価値を創出する事業内容を具体的に記載するものです。
また、この事業計画は、各都道府県が策定する「基本計画」に基づいている必要があります。基本計画には、地域の特性や活用戦略・支援措置などが記載されており、事業計画はこれに適合していなければなりません。
つまり、事業計画と基本計画は密接に関連しており、両者の整合性が必要です。適切な計画策定が、本税制措置の適用への第一歩となります。
対象となる地域と分野の具体例
地域未来投資促進税制の対象となる地域は、各市町村や都道府県が策定する基本計画に定められた「促進区域」内に限定されます。
この促進区域は、地域の特性を生かした事業の集積を図るべき区域として設定されています。対象となる事業分野は、製造業・観光業・農林水産業・情報サービス業など、地域の特性に応じてさまざまです。
具体的には、地域の農産物を活用した食品加工業、地域の観光資源を活用した宿泊施設の整備、地域の技術を活かした先端製造業など、地域の強みを生かした事業が対象となります。
これらの要件は、すべて市町村や都道府県ごとに作成した、国の同意を受けた基本計画に記載されているものです。各企業は、対象自治体の基本計画に基づいた取り組みを行います。
参考:国税庁|No.5436 地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
対象となる設備と事業用資産
地域未来投資促進税制の対象となる設備や事業用資産には、一定の条件があります。対象となる資産について、国税庁は次のように定義しています。
この制度の対象となる資産(特定事業用機械等)は、新設もしくは増設に係る特定地域経済牽引事業施設等を構成する機械および装置、器具および備品、建物およびその附属設備ならびに構築物でその製作もしくは建設の後事業の用に供されたことのないものとされています。なお、貸付けの用に供されるものは、対象となりません。
出典:国税庁|No.5436 地域未来投資促進税制(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
なお、制度の対象資産は新規の設備投資に限られ、レンタル用や中古品は対象外です。
「地域未来投資促進税制」の注意点
地域未来投資促進税制の適用を受けるにあたっては、事前に知っておきたいいくつかの注意点があります。中でも特に重要なポイントについて解説します。
対象資産の取得時期に関する重要事項
地域未来投資促進税制を利用するには、確認申請後、「確認書」が交付されてから対象資産を取得する必要があります。地域経済牽引事業計画の承認後であっても、主務大臣の確認を受ける前に取得した場合は本税制措置の対象外です。
また、対象資産にまつわる工事は、地域経済牽引事業計画の「承認後」に着工しなければなりません。承認前に着工した場合は税制措置が受けられないため注意が必要です。
対象資産の範囲と限度額
対象となる資産には一定の条件があります。新規の設備投資に限られ、中古品は対象となりません。具体的には、機械装置・器具備品・建物およびその附属設備・構築物が対象です。
また、対象資産の取得価額の合計額のうち、地域未来投資促進税制の対象となる金額は80億円が限度となります。これらの条件を十分に理解し、計画を立てることが重要です。
税額控除の上限と適用期限
税額控除を選択する場合、その事業年度の法人税額等の20%相当額が上限となります。また、本税制の適用期限は2025年3月31日までとなっています。
制度の適用を受けるにあたっては、この期限までに対象資産を取得し、事業で使用しなければなりません。適用期限や上限額を考慮しながら、長期的な視点で事業計画を立てることが求められます。
【地域未来投資促進税制】最新の改正
令和6年度税制改正において「地域未来投資促進税制」に「中堅企業枠」が新設されました。成長意欲が高く、地域経済を牽引する中堅企業を対象に、通常最大5%の税制控除を6%に引き上げるものです。
出典:経済産業省|令和6年度(2024年度)経済産業関係 税制改正について
これにより、成長志向の中堅企業による大規模国内投資のさらなる推進が期待されています。
地域経済の活性化と企業の成長を両立する地域未来投資促進税制
地域未来投資促進税制は、地域経済の活性化と企業の成長を同時に実現する効果的な制度です。この税制を活用することで、企業は設備投資に伴う税負担を軽減しつつ、地域経済への貢献も果たすことができます。
特に、新たな雇用の創出や地域産業の高度化につながる投資は、地域全体の経済循環を活性化させる可能性があります。こうしたポジティブな効果は、従業員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
企業の成長と地域経済の活性化により、従業員の待遇改善も期待できます。例えば、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」のような食事補助の福利厚生サービスは、従業員の満足度向上に直結します。こうした取り組みは、企業の競争力強化と従業員のモチベーションアップの両立を促し、さらなる成長の好循環を生み出すものです。
地域未来投資促進税制を活用し、地域とともに成長する企業としてのブランディングを目指してみてはいかがでしょうか。