近年、有給休暇は労働者の多くから関心を集めています。日本は、先進国のなかでも有給休暇の取得率が低い国です。そのため、政府も法律を整備するなど推進に力を入れています。今後の企業において重要となるため、付与される日数や繰り越しについて人事担当の方などは理解しておきましょう。
有給休暇とは
従業員が持っている権利で、休日と違い好きな時に取ることができる休暇です。休日は、もとより働く必要がない日のことを言います。一方で有給休暇とは、本来は働く必要がある日に、従業員が自ら休みを取ることです。また、有給であるため、休日とは違い勤務先から給与が支払われます。わかりやすい言い方をすると「自分が指定した日に休むことができ、給料が支給される休暇」のことです。
有給休暇の条件
企業には、全ての従業員に対して有給休暇を与えることが、法律によって義務とされています。しかし、入社してすぐに休暇を取れる訳ではありません。有給休暇を取るためには、満たさなければならない条件があります(※1)。
入社から6カ月以上が経過している
有給休暇が付与されるには一定の期間、会社に勤務していなければなりません。法律では、この一定の期間を「6カ月以上」と定めています。会社によっては入社してすぐに有給休暇が付与される場合もありますが、労働基準法のルールではあくまで「半年勤務した人に付与」することとなっています。
労働すべき日の80%以上出勤している
一定の期間において「80%以上」出勤している必要があります。休日は含まず、労働すべき日が対象です。つまり、仕事がある日に80%以上の日数を出勤していることが条件となります。
付与されるタイミングと条件
入社6か月からさらに1年が経過すると、追加で日数が付与されます。その後も、1年ごとに有給休暇が追加で付与されていきます。ただし、対象となる期間において出勤した日数が80%を超えていることが前提となります。付与のタイミングに関しては、以下のとおりです。
勤務期間 | 付与される有給休暇の日数 |
---|---|
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
追加された有給休暇は、自分が所有している分に加算されていきます。例えば、入社して1年6カ月が経過した従業員のケースだと、
10日間(入社6カ月時)+11日間(入社1年6カ月時追加分)=21日間
という計算です。つまり、入社して1年6カ月が経過した時点で出勤率80%の要件を満たしていれば、合計して21日間の有給休暇を所有しています。
基本的には従業員が好きなときに取ることができますが、企業には時季変更権というものがあります。事業の正常な運営に支障がある場合、従業員に対して「有給休暇を取る日を変更してもらうことができる」権利のことです。従業員は、正当な理由がない限り、従う必要があります。従わないときは、企業によっては就業規則に違反することもあるため、注意しましょう。
なお、有給休暇の「計画的付与制度」を導入する企業も増えています。所有している日数のうち、5日を除いて残った日数を計画的に振り分ける制度です。企業からすると労務管理がしやすくなり、従業員もためらいを感じずに有給休暇を取得できるため、近年では注目されています。ただし、制度を導入するには従業員と労使協定を結ぶ必要があります。
有給休暇の繰り越しについて
有給休暇は、付与された年にすべて使用が出来なかった場合、翌年に繰り越すことが可能です。
期限は2年間
有給休暇は繰り越すことが出来ますが、期限が2年間と決まっています。超えた分は、次に繰り越すことはできず時効により消滅します。
有給休暇日数の上限は合計で40日間(2年 × 20日間)
有給休暇を繰り越せる期限が2年間で、日数の上限が20日間となっているため、最大で所有できるのは40日間が上限です。ただし、法律により決められた最低限の日数であるため、待遇の良い企業では上限を超える日数を認めていることもあります。
新規有給休暇と繰り越した有給休暇はどちらが優先されるか
有給休暇は、新たに取得した分と繰り越した分、どちらが優先的に消化されていくかは、労働基準法では明確に定められていません。そのため、企業によって取り扱いが違います。就業規則に規定がある企業の場合は、就業規則に沿って消化されます。規定がない場合は、担当者の判断になります。勤務先の担当者に確認すると良いでしょう。ただし、有効期限が先に到来するものから消化するのが一般的です。
日本の有給休暇率
厚生労働省が公表した「令和2年就労条件総合調査(※3)」によると、労働者1人あたりの平均取得率は、56.3%となっています。前年度と比べ約4%増えており、取る方は増加の傾向にあります。
有給休暇の付与日数
労働者が1年間に付与される有給休暇の平均は、1人あたり18日(繰越日数を除く)となっています。前年と比べると横ばいの数値となりますが、上限である20日に近い日数が平均して付与されていることが分かります。
フルタイム・正社員の付与日数
週の勤務が30時間を超えるフルタイム・正社員の方は、入社して6カ月が経過すると、10日間の有給休暇が付与されます。1年が経過すると追加で11日が付与され、その後も1年ごとに上記の表の通りに規定の日数が追加されていきます。
アルバイト・パートタイムの付与日数
アルバイト・パートタイムで働いており、週の勤務が4日以下で30時間に満たない場合は付与される条件が異なります。例えば、週4日勤務の場合、入社して6カ月が経過すると7日間の有給休暇が付与されます。1年が経過すると追加で8日が追加されます。このように、週に勤務する日数および年間に勤務する日数により、細かく規定がされています。詳しくは、厚生労働省「年次有給休暇取得促進特設サイト/年次有給休暇とは」をご参照ください。
出勤率の計算方法
出勤率は、全労働日から出勤日を割って求めます。
出勤日数÷全労働日×100=出勤率(%)
有給休暇が付与されるには、計算した出勤率が80%を超えていなければなりません。
遅刻や早退した場合は出勤とみなされるか
遅刻や早退をしても出勤とみなされます。法律では出勤率を計算するにあたり、遅刻や早退に関して欠勤として扱うことを認めていません。そのため、出勤として扱います。
産前産後休暇、育児休暇、介護休暇をとった場合
育児休暇と介護休暇に関しては、法律に明確な決まりがないため、出勤とするかは企業ごとの判断となります。ただし、休暇ではなく「休業」と認められると、出勤として扱わなければなりません。休業については、法律で明確な決まりがあり、出勤として扱うと定められています。休業と認められるためには、規定となる条件を満たす必要があります。詳しくは、厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(PDF)」をご参照ください。
産前産後休暇については、休暇と休業に関わらず出勤として扱われます。なお、出産予定の前後6週間に関しては、必ず休みを与えなければなりません。
全労働日とは
就業規則や労働契約で決められた所定の休日を除いた日です。企業が決めた出勤すべき日のことを言います。そのため、職種や企業によって変わります。なお、企業の事情で出勤出来ない状況のときは、全労働日には含まれないため、出勤率を計算するときに影響はありません(※4)。
時間単位、半日単位での出勤の場合
就業規則に記載し労使協定を締結していれば、時間単位などでの計算も可能です。全労働日を時間単位に変換し、実際の勤務状況も時間単位に変換して比較します。そうすることで、出勤率を計算できます。計算するときは、エクセルなどを活用して計算すると便利です。計算式を入れると簡単に計算ができるため、担当者の多くが活用しています。
有給休暇を消化しきれない理由
有給休暇を消化しきれない理由について厚生労働省の調査(※5)によると、回答が多かったものが3つあります。
仕事が溜まると後で多忙になる
休みを取ると仕事が進まないため、業務が溜まってしまうのではないかと感じている方が多くいます。なかには、仕事が溜まると後で多忙になるため、余計に疲労が蓄積すると考えている方もいます。
職場の雰囲気で取得しづらい
周りがあまり休暇を取っていなかったりすると、自分も取りにくいと感じてしまう方が多いようです。また、休みを取ったときに同僚から皮肉を言われた経験により、次回から休暇が取りづらくなった方もいます。
上司や同僚に迷惑が掛かる
上司や同僚に迷惑が掛かるため、休暇を取りづらいと感じている方も多くいます。特に責任感が強い方などは、取りづらく感じる方が多いようです。
有給休暇日数が少ない時にできること
自分が取れる日数が少ないと感じたときには、個人でもできることがあります。お悩みの方は是非とも参考にして下さい。
人事・HRに相談する
まずは、人事担当者やHR(Human Resources)に相談してみましょう。その他の業務が忙しく人事担当者が状況を把握できていないケースもあります。まずは、現状を知ってもらうことが大切です。
労働基準監督署に相談する
なかなか改善が見込めない場合、労働基準監督署に相談するのも良いでしょう。相談窓口が設置されているため、気軽に相談が可能です。場合によっては、勤務先に対して指導をしてくれるため、状況の改善に期待できます。
退職・転職
どうしても改善が難しい場合は、退職および転職もひとつの方法です。つらい状況が続くとメンタルにも良いとは言えません。実際に、仕事により精神病を発症する方も増えています。このようなときは、仕事の環境を変えるのも検討してみましょう。
弁護士に相談する
有給休暇に関して悩みを持つ方のなかには、法律の知識もなくどうしていいか分からないという方もいるでしょう。そのような場合は、専門家である弁護士に相談することも検討すると良いです。費用は掛かりますが、企業との対話も請け負ってくれる場合もあり、スムーズに進めることができます。
有給休暇の買い取りができるケース
買い取りをすると従業員の休みがなくなる可能性があり、法律の目的に反することになるため、基本的には有給休暇の買い取りは認められていません。しかし、一定の条件に限り買い取りができるケースがあります。
期限を過ぎた有給休暇
期限である2年を経過した時点において、消化しきれていない有給休暇については買い取りが認められています。ただし、有給休暇は期限内に取得し、疲労回復をしてもらうのが主旨です。買い取りで話を進めるのではなく、期限内に取得ができるような環境作りこそ、会社のすべきことである点にはくれぐれも留意しておきましょう。
退職するときに残っている有給休暇
退職するときに、消化しきれず残っている有給休暇についても買い取りが可能です。会社は退職日以降に有給休暇を取得してもらうなど時季変更権の行使ができず、退職日までにどうしても有給休暇を消化できないこともあるでしょう。やむを得ず、会社と従業員が話し合いによって合意すれば買い取りが認められる可能性があります。
法律で決められた日数を超える有給休暇
有給休暇は、企業が待遇として法律の基準を上回る日数を付与できます。法律を上回った分に関しては、買い取りができます。つまり、法律で決められた日数は買い取りが出来ないということです。
有給休暇を従業員がとるメリット
従業員が有給休暇を取ることは、企業にとっても多くのメリットがあります。
従業員のモチベーションアップ
心身ともに疲れている状態では、仕事のパフォーマンスも落ちてしまいます。十分な休息を得ることができれば、仕事に対してのモチベーションも上がります。
生産性の向上
従業員が健康的でモチベーションも高いと、仕事でのパフォーマンスも向上し、結果的に生産性の向上にもつながります。最終的には、業績のアップにも期待ができます。
人材の確保
就職するときに「休みがちゃんとあるか」ということは多くの方が重要視する内容のひとつです。そのため、休暇がきちんとある企業は求職者の増加にも期待ができます。また、休みが少ないからという理由で離職する方も多いです。休暇を充実させると離職者を減らすことにもなり、結果として人材の確保にもつながります。
有給休暇を従業員がとらない時のデメリット
従業員が十分な休暇が取れない場合、多くのデメリットがあります。
業務の効率が低下
従業員が疲れ切っている状態だと、仕事の効率も落ちます。すると、生産性も下がってしまいます。
残業によるコストの増加
仕事の効率が落ちると、生産性も低下してしまい仕事が捗りません。そのため、残業しなければならなくなる可能性が高くなります。残業が増えると、人件費に掛かるコストが増加してしまいます。
職場の雰囲気が悪化する
仕事はチームで業務にあたることが多くあります。しかし、疲労が溜まり残業も多いと職場の雰囲気も悪くなり、チームワークも乱れてしまいます。そうなると円滑に仕事が進まず、業績のアップも難しくなります。
有給休暇を付与しなかった場合の企業への罰則
従業員に対して有給休暇を付与しない企業は、労働基準法に違反することになり罰則が科せられます。また、就業規則にも記載しなければなりません。なお、2019年4月に労働基準法が改正され、年に10日間以上の有給休暇を付与されている従業員に対して、年に5日以上の有給休暇を取得させることを義務付けるなど、より厳しくなっています。
1人あたり30万円以下の罰金
従業員の有給休暇の取得について違反した企業に対しては、30万円以下の罰金が科せられます。注意すべきは「従業員1人あたり」ということです。仮に10人の従業員を雇っており、有給休暇を付与しなかった場合、30万円×10人で計算されるため、最大で300万円の罰金を支払わなければなりません。
6カ月以下の懲役
従業員が請求した時季に、正当な理由もなく有給休暇を与えなかった場合は、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられる場合があります。違反があった場合、原則として改善に向けた指導がおこなわれます。指導に従わないと、罰則の対象となる恐れがあるため、指導には従うようにしましょう。
最後に
休暇を充実させることには様々なメリットがあり、実際に有給休暇の取得率を向上させ業績を伸ばした企業の例もあります。しかし、日本では休暇を取得しにくい雰囲気が残っているのが現状となっています。まずは、誰でも気軽に休暇が取得できる環境を整えていくことが大切です。
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