人的資源とは簡単に説明すると、従業員や従業員の持つ資質・能力を資源とする考え方のことです。企業の用いる経営資源は他にもモノ・カネ・情報がありますが、これらとはどのように異なるのでしょうか?人的資源について理解し活用するために、特徴や人的資源管理について見ていきましょう。
人的資源とは何か?他の経営資源とともに解説
企業の持つ経営資源は「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つです。このうちの「ヒト」が人的資源です。それぞれどのような資源なのかを解説します。
人的資源「ヒト」
人的資源とは4つの経営資源のうち「ヒト」のことです。従業員そのものや、従業員の持つ資質・能力などをさします。
モノ・カネ・情報のみでは、企業は事業を進められません。経営戦略に沿って事業を展開していくにはヒトが欠かせないため、経営資源のひとつとして考えられています。
物的資源「モノ」
「モノ」は物的資源ともいいます。企業が扱う製品はもちろん、製品を作る工場の機械や、製品を販売する店舗の土地や建物、バックオフィスで使用するパソコンなどがモノです。形はありませんが、サービスもモノの一種として扱われます。
自社にあるモノを活用して利益を出すのが企業活動です。製品やサービスを売れば利益を得られますし、店舗の立地がよければ効率的に多くのモノを売れるかもしれません。
ただしモノは購入や所有によって税金や賃料などの固定費用がかかる可能性があります。よりよいモノを活用して利益を得ることと同時に、固定費用とのバランスも考えなければいけません。
財務資源「カネ」
現金・預貯金・株式や債権の発行で集めた資金・融資などの財務資源を「カネ」といいます。企業が事業を行うにはカネが必要です。製品を作って販売するために必要な環境を整えるには、設備・材料・従業員の給与などのカネを払わなければいけません。
カネをいつ何にどれだけ使うかは慎重な判断が必要です。使いどころやタイミングを間違えると、利益が出ているのにカネが足りず黒字倒産に至ることもあります。企業の信用力をはかる指標ともなるのが特徴です。
組織資源「情報」
「情報」は組織資源ともいいます。顧客に関する情報や、製品を作るために必要なノウハウ、製品の販売に役立つつながりなどです。
企業は情報を活用することで利益につなげられます。例えば自社にしかない独自のノウハウにより優れた製品を作れば、同業他社の作る類似の製品より人気が出て利益につながる可能性が高まります。
一方、情報が外部へ漏れると損失につながるため、扱いには注意が必要です。
人的資源の特徴をわかりやすく解説
ヒトを表す人的資源には、モノ・カネ・情報とは異なる特徴があります。ここでは人的資源の4つの特徴を詳しく見ていきましょう。
モノ・カネ・情報を使える
人的資源がモノ・カネ・情報と異なるのは、経営資源を活用できるという点です。モノ・カネ・情報を持っているだけでは、企業は利益を得られません。経営資源を使って利益を得る方法を考え実行するヒト(人的資源)が必要です。
人的資源がない場合や不十分な場合、モノ・カネ・情報が豊富にあっても経営戦略の達成は難しいことから、人的資源は重視されています。
自ら考え行動できる
自律的に行動するのも人的資源の特徴です。モノ・カネ・情報を活用するには細かな条件を明確にする必要がありますが、人的資源を活用するときにはあえて大きな裁量を与えることもあります。
経営者や責任者が逐一指導しなくても自ら考え行動するのは人的資源のメリットですが、ときには従業員が経営者や責任者の目指す方向性に沿わない行動を取ることもあるでしょう。
従業員が自律的に行動したとき、企業として目指す方向性と合致した行動をできるようになるには、企業理念やビジョンの共有についても考える必要があります。
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成長していく
適切に育成すれば成長するのも人的資源の特徴です。未経験の人材は、入社時点では人的資源としての価値はそれほど高くありません。ただし研修や訓練を行い経験を積むことで成長すれば、人的資源としての価値が高まります。
入社時点の資質や能力のみで人的資源の価値を判断するのではなく、自社の教育体制でどのくらいの成長が見込めるかも考慮が必要です。また必要に応じて、自社の教育体制の見直しや充実度アップにも取り組みましょう。
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明確な管理方法がない
モノ・カネ・情報は適切な管理方法が明確になっています。一方、人的資源は明確な管理方法が確立されていません。人的資源である従業員は、一人ひとりが意思を持った人であるためです。
誰かひとりに効果的な指示の出し方だったとしても、別の誰かにはあまり役立たないこともあります。同じ指導の仕方でも、リーダーによって従業員の反応が異なることもあるでしょう。
人的資源を管理するためには、個々の性質の見極めが必要です。
人的資本とは?
人的資本とは、個々の従業員が持っている「リーダーシップ」「協調性」「コミュニケーション能力」などの資質や、「知識」「スキル」などの能力を、企業の資本として捉える考え方のことです。
資本は事業活動に用いる元手を意味します。資本は投資対象のため、従業員の資質や能力を資本と考えるなら投資が必要です。
例えばセミナーや研修などの教育機会を提供したり、実際に知識やスキルを使う場を提供したりする必要があります。このように人的資本を高める経営の方法が人的資本経営です。
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人的資源と人的資本の違い
人的資源と人的資本の違いは、従業員の資質や能力の捉え方です。人的資源は従業員の資質や能力を資源と考え、人的資本では資本であり投資対象として考えます。
資源は消費するものです。使うときのことを中心に考えており、将来的な価値にはあまり注目しません。
ただし人的資源は成長する特徴があることから、今ある資質や能力のみで価値を判断するのではなく、育成して活用する視点にも注目が集まっています。
関連記事:人的資本と人的資源の違いは?人的資本経営に注目が集まる理由も解説
人的資源が注目される理由
従業員や従業員の資質・能力を資源と考える人的資源が注目されているのには理由があります。今、人的資源が注目されている理由を見ていきましょう。
人手不足への対策のため
日本は少子高齢化が進んでおり、15~64歳の生産年齢人口は減少し続けています。
厚生労働省の「労働経済動向調査(令和6年8月)の概況」で発表されている、正社員の労働者過不足判断D.I.もチェックしましょう。
労働者過不足判断D.I.とは、人手不足という回答の割合から人手過剰だという回答の割合を差し引いた数値のことです。大きいほど人手不足感が強い業界といえます。
この数値を見ると、正社員が不足していると感じている企業は、業種を問わず半数近くであることがわかります。
産業 |
正社員等労働者過不足判断DI |
調査産業計 |
46 |
建設業 |
57 |
製造業 |
41 |
情報通信業 |
54 |
運輸業・郵便業 |
56 |
卸売業・小売業 |
28 |
金融業・保険業 |
36 |
不動産業・物品賃貸業 |
42 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
60 |
宿泊業・飲食サービス業 |
46 |
生活関連サービス業・娯楽業 |
38 |
医療・福祉 |
58 |
サービス業(他に分類されていないもの) |
47 |
このように多くの企業が人手不足の課題を抱える中、人材確保への取り組みの一環として、人的資源への注目が集まっています。
転職市場は求職者の売り手市場です。何もしないままでは、よりよい条件を提示している他社へ転職する従業員が出てくるかもしれません。新たな人材の採用がスムーズに進まなくなることも予想されます。
人材確保に向けて、人的資源の活用に向けた取り組みが必要です。
関連記事:業界別の人手不足ランキングをチェック!人手不足への対策方法も確認
経営戦略を実現するため
企業の経営戦略を達成するには、必要なスキルを持った人材を適切に配置しなければいけません。そのためには、人的資源の把握や育成が必要となります。
経営戦略に沿って人的資源を活用できない場合、必要な人材の不足や、スキルを持った人材が必要な部署に配置されない事態が起こり得るでしょう。人的資源の適切な管理が経営戦略の成功につながります。
関連記事:人材戦略とは?4つの要素と立案に役立つフレームワークを解説
人的資源管理とは
企業が経営戦略を達成する目的で、人的資源を活用する制度を作り運用することを人的資源管理といいます。従業員が企業の目指す経営戦略の達成に向けて、適切に考え行動できるよう方向づけるための取り組みです。
HRM(Human resource management)ともよばれています。ここでは人的資源管理を行う上で役立つ、5つのモデル概念をチェックしましょう。
ミシガンモデル
1980年代にミシガン大学が実施した研究をもとに構築されたのが「ミシガンモデル」です。同モデルには「採用と選抜」「人材の評価」「人材の開発」「報酬」という4つの要素があります。
企業が目標を達成するために、人材をどのように活用するかを考えて制度設計を行うのが特徴です。
ハーバードモデル
「ハーバードモデル」はハーバード大学が1980年代に実施した研究をもとにしています。同モデルで目指すのは、従業員のスキル向上とより高いコミットメントに加え、従業員と企業が協調することによる、企業の成長です。
「従業員への影響」「人的資源のフロー」「報酬システム」「職務システム」の4つの要素から成り立っています。
高業績HRM(AMO理論)
高業績HRMのうち、「能力(Ability)」「モチベーション(Motivation)」「機会(Opportunity)」の3つの要素で構成されている人的資源管理のモデルを「AMO理論」といいます。
3つの要素を向上させることで、競争優位性を高めて企業価値の向上につなげるモデルです。
高業績HRM(PIRK理論)
高業績HRMの「PIRK理論」は、「権限(Power)」「情報(Information)」「報酬(Reward)」「知識(Knowledge)」の4つの要素から成ります。
大きな裁量を与え、必要な教育を行い、十分な給与を支給することで、従業員の帰属意識とモチベーションを高めるモデルです。
タレントマネジメント
従業員の資質や能力を企業が一元管理することを「タレントマネジメント」といいます。従業員が今携わっている業務に関するスキルはもちろん、プライベートやこれまでの経験から得たスキルについても把握するのが特徴です。
自社の従業員に関する情報を集約し、人材配置や人材育成に役立てるモデルです。
人的資源管理の課題
人的資源管理は、企業が経営戦略を達成する目的で人的資源を活用するときに重要なポイントです。ただし実施するには課題もあります。これから人的資源管理に取り組む企業に役立つよう、把握しておくべき課題を解説します。
成果を判断しにくい
人的資源管理は、実施したことでどれだけ経営戦略の達成に役立ったかが不明瞭です。人的資源管理のために人材育成の制度を整備したとしても、その取り組みによりどれだけ売り上げが上がったかはわかりません。
重要なのは取組結果を評価するためのKPIを事前に設定しておくことです。例えば人材育成の制度導入前後で、従業員のモチベーションや帰属意識にどれだけ変化があるか測定すれば、制度導入の効果を定量的に把握できるようになります。
自社の状況に合わせた適切なKPIを設定することで、課題を解決できるかもしれません。
取り組みが従業員に理解されない
経営者やリーダー層はよいと感じた取り組みであっても、従業員は「面倒くさい」「負担が増える」などマイナスに感じる可能性もあります。適切に運用されれば効果が期待できる取り組みでも、運用がうまくいかなければ成果は出ません。
人的資源管理を行うときには、従業員の声を取り入れると受け入れられやすくなるでしょう。
例えば人材育成のために定期的な研修制度を導入しても、研修が勤務時間として扱われなければ、参加する従業員は一部に留まると考えられます。どうなれば研修に参加しようと思えるかを従業員にヒアリングした上で制度づくりに取り組むとよいでしょう。
人材育成や人材配置が難しい
人材育成や人材配置の難しさも、人的資源管理の課題のひとつです。誰をどのタイミングで育成するか、育成後にどこへ配置するかは、経営戦略の達成に影響を与えます。
従業員と企業の希望が合致していれば、人材育成も人材配置もスムーズに進みやすいでしょう。一方、従業員が企業の希望と異なる希望を抱いている場合には、人材育成や人材配置によって従業員のモチベーションが下がる可能性もあります。
人材育成や人材配置を考えるときには、企業の考えを従業員へ伝えるだけでなく、従業員の希望も考慮した上ですり合わせていく必要があります。
人的資源の活用につながる取り組み
人的資源を活用するには、制度の整備や導入が必要な企業もあるでしょう。具体的にどのような取り組みが役立つのでしょうか?人的資源の活用に向けた取り組みを紹介します。
従業員が働きやすい雇用制度の構築
人的資源を活用するには、従業員が働きやすいよう雇用制度を整えるのが有効です。
これまで正規雇用従業員はフルタイムのみとしていた企業の場合、育児・介護・体調などの影響によりフルタイムで働けなくなると、非正規雇用で働くか退職するしかないケースもあるでしょう。
正規雇用従業員の時短勤務を制度として導入すれば、スキルや経験のある従業員が働き続けられます。企業にとっても人材育成の手間やコストが無駄にならないプラスの取り組みです。
従業員のスキルアップにつながる教育制度の導入
人的資源は適切に育成すれば成長し価値が高まります。企業が何もせず育成を従業員任せにすれば、自社で必要としているスキルを身につけられない従業員も出てくるでしょう。
人的資源管理のためには、従業員をスキルアップさせて価値向上につなげるための教育制度が必要です。
入社時に行う研修以外にも、職種やポジションごとの研修を実施したり、業務に必要な資格取得に役立つ講座の受講をサポートしたりするとよいでしょう。
教育制度により従業員が成長していけば、完成までに手間のかかる製品の効率的な製作や、これまでにない発想による業務効率化などの実現につながります。
公正な評価制度の導入
教育制度によってスキルアップが実現しても、それが公正に評価されなければ、従業員のモチベーションは下がります。モチベーションが下がれば従業員の働きは悪くなると考えられるため、人的資源の活用は進みにくくなるでしょう。
まずは誰が評価者であっても、同じように取り組み同じように成果を出していれば、公正に評価される制度づくりが必要です。完成した制度を従業員にも共有すれば、どのように仕事に取り組めば評価されやすくなるかも理解できるでしょう。
従業員が高い評価を目指して企業の求める働きをすれば、企業は経営戦略の達成に近づき、従業員はより高い評価につながり、両者にとってプラスとなります。
福利厚生の拡充
人的資源を活用するには福利厚生の拡充も役立ちます。従業員が「この企業で働き続けたい」と考えるには、働きやすい職場づくりもポイントです。
例えば特別休暇を導入すれば、従業員はプライベートと仕事のバランスを取りやすくなります。休暇を使ってリフレッシュすることで、休み明けには業務効率の改善も期待できるでしょう。
福利厚生の導入で働きやすい職場づくりに取り組むなら、従業員が喜ぶ福利厚生を選ぶのが重要です。人気の福利厚生に関するランキングをもとに、従業員の意見をヒアリングするとよいでしょう。
例えばスターツコーポレートサービスが「福利厚生に関する意識調査」で、現役で働いている人を対象に「新入社員に戻ったときにどの福利厚生を1番重要だと思うか」質問したときの回答の集計結果が役立ちます。
順位 |
1番重要な福利厚生 |
回答数 |
1 |
寮・社宅、住宅手当などの家賃補助 |
468 |
2 |
特別休暇 |
419 |
3 |
財産形成支援 |
267 |
4 |
育児・介護支援 |
227 |
5 |
社員食堂 |
221 |
6 |
自己啓発支援 |
191 |
7 |
カフェテリアプラン |
162 |
8 |
社員旅行・レクリエーション |
62 |
参考:PR TIMES|現役社員が選ぶ、一番重要な福利厚生は…「寮・社宅、住宅手当などの家賃補助」|スターツコーポレートサービスが福利厚生に関する意識調査を実施
人的資源の活用に向けた福利厚生の拡充には「チケットレストラン」がおすすめ
人的資本の活用を目的に福利厚生を拡充するときには、エデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。
スターツコーポレートサービスが行った「福利厚生に関する意識調査」内の1番重要な福利厚生ランキングでは、「チケットレストラン」と同じ食事補助の一種である社員食堂が5位に入っています。
ここでは「チケットレストラン」がおすすめの理由を見ていきましょう。
従業員の手取りアップにつながる
エデンレッドジャパンが行った「ビジネスパーソンのランチ実態調査2024」によると、80%以上の人が「家計が苦しい」回答しました。2024年は32年ぶりに賃上げ率が5%を超えましたが、賃上げ率を上回る物価上昇の影響で、実質的な手取り額は減っています。
「毎月勤労統計調査令和5年分結果速報の解説」でも明らかです。実質賃金・名目賃金・消費者物価指数の推移を見ると、名目賃金が上がっているにもかかわらず、消費者物価指数の上昇により実質賃金が下がっているのがわかります。
「ビジネスパーソンのランチ実態調査2024」によると、実質的な手取り額が減った影響もあり、食費の節約を意識している人が多いそうです。節約を目的に、3人に1人が昨年よりもランチ代を減らしており、4人に1人はランチを食べない日もあると回答しています。
企業が食事補助を従業員に支給すれば、従業員の実質的な手取り額を増やすことが可能です。従業員はランチ代を過度に節約したり欠食したりすることなく、バランスのよい食事をとれるようになります。
関連記事:歴史的賃上げでも…8割以上が「お小遣いが増えていない」!「ビジネスパーソンのランチ実態調査2024」
従業員満足度向上が期待できる
食事補助の提供により、従業員が「十分な待遇を受けている」と実感できれば、従業員満足度は高まり「この先も働き続けたい」と考える従業員が増えるでしょう。離職率の低下につながり、人的資源を活用しやすくなります。
関連記事:【社労士監修】従業員満足度(ES)とは何か?向上により得られるメリットを解説
人的資源や人的資源管理を理解して経営戦略の達成に役立てよう
企業が経営戦略を達成するには、経営資源のひとつである人的資源(ヒト)の活用が欠かせません。人的資源を活用するには、人的資源管理のモデルが役立ちます。また働きやすい雇用制度の整備や、公正な評価制度の導入、福利厚生の拡充なども有効です。
福利厚生を導入して人的資源の活用につなげるなら、エデンレッドジャパンの提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」がおすすめです。実質的な手取り額アップや、従業員満足度向上が期待できる福利厚生の導入を検討してみませんか。