近年、日本企業の人手不足は深刻化し、人手不足倒産の増加をはじめ、日本社会全体にさまざまな弊害をもたらしています。本記事では、少子高齢化の現状や、人手不足が起きている原因・人手不足が日本社会にもたらすリスクなど、人手不足について知っておきたい情報をわかりやすく網羅。さらに、人手不足を解消したい企業向けに効果的な対策も紹介しています。
日本における人手不足の現状
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足に対する企業の動向調査(2024年7月)|(2024年8月22日)
日本企業の人手不足問題は深刻度を増しています。帝国データバンクの2024年7月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」調査によると、正社員が「不足」と感じている企業の割合は51.0%に達しており、前年同期(51.4%)から微減していますが、いまだ5割を超える数字で推移しているのが現状です。
非正規社員について見てみると「不足」と感じている企業の割合は28.8%でした。正社員と比較すると約半数に留まるものの、推移のパターンは同期していることがわかります。
【企業規模別】人手不足の現状
出典:内閣府|法人企業景気予測調査(令和6年7~9月期調査)結果の概要
内閣府と財務省が2024年9月に発表した「法人企業景気予測調査(令和6年7-9月期調査)」によると、大企業の従業員数判断BSI※は27.0ポイント・中堅企業で39.4ポイント・中小企業では31.9ポイントとなっています。
同調査では、大企業のみが20ポイント台で、産業別に見ても中堅・中小企業を下回る結果となりました。また、令和6年12月末・令和7年3月末の見通しを見ると、大企業と中堅・中小企業とのポイント差は今後広がっていくことが予想されています。
これらの結果から、大企業よりも、中堅・中小企業の方が人手不足が深刻化しやすい傾向にあることがわかります。
※「従業員数判断BSI」=企業の人員状況を示す指標。期末時点での従業員数について、「不足気味」と回答した企業の割合から「過剰気味」と回答した企業の割合を差し引いて算出する。数字が大きい=人手不足感が強い。
【業界別】人手不足の現状
厚生労働省の調査から、正社員等労働者過不足判断D.I.※を見ると「学術研究、専門・技術サービス業」がもっとも深刻で60ポイントでした。次いで「医療・福祉」が58ポイント・「建設業」が57ポイント・「運輸業・郵便業」が56ポイントと続きます。
調査対象となった全産業で数字がプラスで推移しており、業種を問わず人手不足が課題になっている現状が明らかとなりました。
※正社員等労働者過不足判断D.I.=企業における正社員の人員状況を示す指標。正社員が「不足」と回答した事業所の割合 −「過剰」と回答した事業所の割合で算出する。数字が大きい=人手不足感が強い。
人手不足が起きている5つの原因
日本の人手不足問題は、複合的な要因が絡み合って発生しています。ここでは、日本全体が人手不足に陥っている原因を6つの視点から解説していきます。
少子高齢化による労働力人口の減少
厚生労働省が公開した「将来推計人口(令和5年推計)」によると、2020年から2070年にかけて、日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は7,509万人から4,535万人まで減少するとされています。
高齢化率は28.6%から38.7%まで上昇し、日本の少子高齢化がさらに加速していくことは必至の状況です。
そもそもの人口が減少しつつある以上、企業が人手不足に陥るのはある意味自然なことといえます。
働き方の多様化
近年、従来の終身雇用・フルタイム勤務という画一的な働き方から、個人のライフスタイルに合わせた多様な働き方へと、社会のニーズが変化しています。
育児や介護との両立や、副業・兼業、フリーランス志向なども、若い世代を中心に一般的なものとなりました。
ワークライフバランスを前提とした働き方を求める求職者の増加に伴い、従来型の長時間労働や、画一的な勤務体系では、人材の確保が困難になっているのが実情です。
従来型の企業では、求職者のニーズと企業の制度との間のギャップを埋められません。その結果、人材の確保がより困難になっているのです。
コロナ禍による労働市場の変化
新型コロナウイルス感染症の影響は、日本の労働市場に構造的な変化をもたらしました。観光・飲食・イベントなどの対面サービス業では、一時的な需要の激減により人材が流出し、その後の回復局面で深刻な人手不足に直面しています。
また、感染リスクへの懸念から、医療・介護などの特定業種への就業を敬遠する傾向が強まり、これらの分野での人材確保も困難なものになりました。
さらに、テレワークの普及により、柔軟な働き方を提供できない企業は、求職者から見て相対的な魅力度が低下しています。コロナ禍をきっかけに、労働市場における需給のミスマッチがより一層顕在化しているといえそうです。
DXへの対応の遅れ
日本企業のDX対応は、国際的に見て大きく後れをとっています。経済産業省の「DXレポート」内でもIT人材不足が懸念されており、2015年には約17万人だったIT人材不足が、2025年には43万人にまで拡大すると試算されています。
また、古いシステムの刷新や新技術の導入に必要な人材の確保が困難なために、業務効率化や生産性向上の取り組みが進まず、それがさらなる人手不足を招くという悪循環に陥っている企業も少なくありません。
DX人材の育成には、一定の時間とコストが必要です。短期的な解決は難しい状況となっています。
参考:経済産業省|D X レポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~
需要と供給のミスマッチ
労働市場における需要と供給のミスマッチは、複数の側面で深刻化しています。
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和6年10月分)」から、職業別有効求人倍率を見てみると、保安職業従事者で6.87倍、建設・採掘従事者が5.34倍、サービス職業従事者で3.05倍と極めて高い一方、事務従事者は0.44倍と著しい差が生じています。
この背景として考えられるのが、主に以下の3つの要因です。
- 企業が求める専門的なスキルや資格を持つ人材の不足
- 求職者が希望する労働条件と企業が提示する条件の不一致
- 特定の産業や地域における労働力の偏り
さらに、新卒一括採用や年功序列型の人事制度など、日本特有の雇用慣行も、労働市場の柔軟な需給調整を妨げる要因となっています。
参考:厚生労働省|一般職業紹介状況(令和6年10月分)について
人手不足が日本社会にもたらす7つのリスク
人手不足は、各企業に留まらず、日本社会全体に影響を与える深刻な課題です。ここでは、人手不足が日本社会にもたらす具体的なリスクを7つ紹介します。
経済の停滞
人手不足による経済への影響は、さまざまな局面で顕在化しています。たとえば、生産・サービス関連では、提供能力の低下により、受注機会を逃すケースや新規事業の展開を断念するケースが増加しています。
また、人手不足に伴う人件費の上昇は、企業の財政を圧迫し、設備投資や研究開発への投資を抑制する要因のひとつです。
さらに、労働人口の減少による税収減少により、国や地方自治体の財政基盤が弱体化し、社会インフラの整備や維持にも影響を及ぼすことが懸念されています。
人手不足倒産の増加
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)|(2024年10月4日)
近年、人手不足を直接の原因とする人手不足倒産が急増しています。帝国データバンクの調査によると、2024年度上半期(4-9月)の人手不足倒産件数は163件で、年度ベースで過去最多を記録した2023年度(313件)をさらに上回るペースを記録しました。
特に顕著なのが、建設業(55件)と物流業(19件)の2業種で、これには2024年4月から施行された労働時間の上限規制が大きな影響を与えていることが推察されます。
人手不足倒産は、地域の雇用や経済に深刻な影響を与えるだけでなく、サプライチェーン全体にも波及する可能性があり、その影響は広範囲に及んでいます。
関連記事:「2024年問題」とは?必要な対策と物流業界に及ぼす影響を解説
労働環境の悪化
人手不足は、既存従業員の労働環境に深刻な影響を及ぼします。
従業員数が減少すると、失われた労働力を補填するため、1人あたりの業務上の負荷が増えるのが一般的です。特に中小企業では、一人当たりの業務負担の増加割合が高く、長時間労働が常態化する傾向にあります。
また、業務過多によるメンタルヘルスの悪化も課題となっており、労災認定件数の増加も懸念されます。こうした人手不足を補うため、高齢者や女性の雇用を急速に進める企業も増えていますが、適切な労働環境の整備が追いついていないケースも多く、新たな労務管理上の課題となっているのが実情です。
社会保障制度の崩壊
社会保障制度は、人手不足と少子高齢化の二重の課題に直面しています。
少子化が進む一方で、2025年には、第一次ベビーブームに生まれた「団塊の世代」が、75歳以上のいわゆる「後期高齢者」となります。この世代は約800万人にものぼるため、2025年を機に、日本人口の実に1/4が後期高齢者となる計算です。
これは、社会保障制度を利用する人口が増える一方で、それを支える生産年齢人口が減少することを意味します。収支バランスを維持できなかった場合、年金制度をはじめ、社会保障制度そのものが維持できなくなる可能性もゼロではありません。人手不足の進行は、社会保障制度全体の機能不全につながる可能性があるといえます。
関連記事:【2025年問題】とは?企業に迫る危機と対策をかんたんに解説!
公共サービスの削減
人手不足は、公共サービスの提供体制にも深刻な影響を及ぼしています。特に医療・介護分野では、人材不足によって施設の運営が困難になるケースが増加し、地域医療の崩壊も危ぶまれています。
また、建設業や運輸業での人手不足は、インフラの整備や維持管理・公共交通機関の運行・物流といった、国民の生活基盤そのものを揺るがすものです。
こうした公共サービスの低下は、特に地方部において顕著であり、地域間格差の拡大にもつながっています。
サービス・商品の質の低下と価格上昇
人手不足は企業のサービス提供能力や生産体制にも直接的な影響を及ぼしています。たとえば対人サービス業では、十分な人員を確保できないことによるサービス品質の低下が課題となっています。
特に小売業や飲食業では、十分な人材を確保できないために営業時間を短縮やサービスの縮小をせざるを得ず、売上減少という経営上の大きな課題に直結しているのが現状です。
こうした課題への効果的な対策に賃上げがありますが、人件費が商品・サービスの価格に転嫁されるため、物価上昇のひとつの要因ともなっています。
社会の分断
人手不足は、労働市場における格差の拡大を通じて、社会の分断を深刻化させる要因ともなっています。
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」から産業別の平均賃金を見てみると、もっとも水準の高い「電気・ガス・熱供給・水道業」が410,200円なのに対し、もっとも低い「宿泊業・飲食サービス業」では259,500円に留まっているのが現状です。
業種による賃金格差は拡大傾向にあり、特に中小企業と大企業の間での格差が顕著です。また、正規雇用と非正規雇用の処遇格差も依然として大きく、これが社会的な軋轢を生む要因となっています。
さらに、都市部と地方部での雇用機会や賃金水準の格差は、地域間の経済的な不均衡を助長し、社会の一体性を損なう要因となっています。
人手不足を解消する効果的な対策
人手不足の解消には、短期的な対応策と中長期的な構造改革の両面からのアプローチが必要です。ここでは、企業が実践できる具体的な対策について解説します。
賃上げをする
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|特別企画:企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート|(2023年5月17日)
人材確保のための賃上げは、即効性のある対策として注目されています。
株式会社帝国データバンクが2023年に行った調査によると、「人手が不足していない」要因としてもっとも多かったのが「賃金や賞与の引き上げ」でした。複数回答ではありますが、半数を超える51.7%の企業に選択されています。
次点の「働きやすい職場環境づくり」が35.0%に留まっているところを見ても、人手不足解消における賃上げの有効性がわかります。
単純な賃上げだけでなく、業績連動型報酬制度の導入や職務給への移行など、公平で透明性の高い賃金体系を構築することで、より幅広い求職者からの注目を集めることが可能です。
多様な働き方を推進する
働き方改革の推進は、近年、人材確保・定着の重要な鍵となっています。具体的には、フレックスタイム制やテレワークの導入・短時間正社員制度の整備・副業や兼業の容認など、個人のライフスタイルに合わせた柔軟な勤務形態の提供が効果を上げています。
十六総合研究所が2023年に行った調査では、多様な正社員制度を導入している企業にその効果について尋ねたところ、「人材の定着・離職の防止」と「仕事と育児・介護等の両立支援」が共に60%と、もっとも多い結果となりました。
多様な働き方の推進が、人手不足解消の強力な一手であることが改めてわかる結果となっています。
参考:十六総合研究所|多様な働き方の導入状況に関する特別調査
外部人材を活用する
外部人材の活用は、即効性のある人手不足対策として注目を集めています。
人材を一から育てるには時間とコストが必要ですが、一定のスキルを持つフリーランスや副業人材などを雇用することで即戦力の確保が可能です。
特に、IT関連をはじめとする高い専門性が求められる業種では、外部からの人材調達が人手不足解消の有効な選択肢になるでしょう。
シニア人材の活用も注目されており、65歳以降の継続雇用制度の導入や、経験・スキルを生かした専門職としての採用が増加傾向です。副業・兼業人材の活用も効果的で、特定のプロジェクトや専門性の高い業務において、必要な人材を柔軟に確保できる利点があります。さらに、業務委託やフリーランスの活用など、雇用形態にとらわれない柔軟な人材活用も広がっています。
ただし、これらの外部人材の活用には、適切な労務管理体制の整備や教育訓練の実施・コミュニケーション面での配慮など、適切なマネジメントが必要不可欠です。
リスキリングによるキャリア支援をおこなう
デジタル化の進展に伴い、リスキリングの重要性が高まっています。リスキリングは、職業能力の再開発・再教育を指す言葉で、経済産業省では以下のように定義しています。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
具体的には、デジタルスキルの習得支援・専門資格の取得支援・キャリア開発プログラムの提供などが挙げられます。また、社内ジョブローテーションを通じた多能工化の推進や、部門を超えた人材育成の取り組みも、組織全体の生産性向上に効果的です。
デジタル化が進む中、企業に必要な人材も日々変化しています。リスキリングを通じた従業員のキャリア支援は、企業の人的資本価値を高めるだけでなく、従業員のモチベーション向上にもつながる重要な施策なのです。
関連記事:経済産業省が補助金を交付するリスキリングとは?定義やメリットも
採用対象を拡大する
採用対象の拡大は、人材確保の新たな可能性を開く重要な施策です。従来の新卒一括採用や年齢制限付きの採用から、より柔軟な採用戦略への転換が進んでいます。
近年、職種や年齢を限定しない「ポテンシャル採用」を導入する企業も増加しています。また、女性の再就職支援や高齢者の継続雇用・障がい者雇用の促進など、多様な人材の活用を積極的に進める企業も増加傾向です。人材の多様性は、人手不足解消だけでなく、イノベーションの創出や職場の活性化といった副次的な効果も生み出します。
企業側の取り組みとして、適切な教育訓練体制の整備や職場の受け入れ態勢の構築が不可欠ですが、そのぶん得られるメリットも大きい施策です。
福利厚生を充実させる
福利厚生の充実は、人材の確保・定着において重要な差別化要因です。充実した福利厚生制度を提供する企業は、特に若手求職者からの注目度が高く、採用市場においての競争力が高まる傾向にあります。
また、福利厚生が充実している企業では、従業員が「企業から大切にされている」との実感を得やすく、満足度やエンゲージメントが向上します。満足度やエンゲージメントの向上は、直接的に従業員のモチベーションやパフォーマンスに影響するものです。ひいては生産性も向上し、企業としての業績向上も期待できるでしょう。
具体的な福利厚生としては、「社宅の提供」「食事補助」「慶弔見舞金」「健康サポート」「休暇制度」「自己啓発支援制度」「余暇・レクリエーション」「メンタルヘルスサポート」などが挙げられます。
中でも、食事補助や福利厚生施設の利用補助など、日常的に利用できる制度は、即効性のある従業員の実質的な処遇改善策として高く評価されています。
全国25万店以上で食事が半額に「チケットレストラン」
数ある福利厚生の中でも、近年特に注目度を高めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、一定の利用条件を満たすことで、全国25万店舗以上の加盟店での食事代が半額になる食事補助の福利厚生サービスです。勤務時間内であれば、利用する場所やタイミングに制限がないため、勤務形態も問いません。内勤の従業員はもちろんのこと、外勤・リモートワーク中・出張中の従業員にも平等にメリットを提供できます。
また、運用に必要なのは月に1度のチャージのみで、少額から利用可能です。大企業のみならず、人員や資金のリソースに課題を抱える中小企業でも無理なく導入できる福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入されています。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
日本における人手不足の現状と今後の展望
日本における人手不足は、少子高齢化や働き方の多様化、DXへの対応の遅れなど複合的な要因によって深刻化しています。
特に、中小企業や介護・建設業などの特定業界では人材確保が困難で、企業経営に直接的な影響を及ぼしています。このような状況において、労働市場の需給バランスを整えるためには、賃上げや多様な働き方の推進・リスキリングによる人材育成・外部人材の活用といった具体的な対策が不可欠です。
一方で、企業における福利厚生の充実も、人手不足解消の効果的な手段として注目されています。中でも「チケットレストラン」のような食事補助サービスは、従業員満足度を向上させつつ、企業の競争力強化に寄与します。人手不足問題を解消し、これからの時代にマッチした企業としての基盤づくりとして、ぜひ導入を検討してはいかがでしょうか。