監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
「在職老齢年金制度」は、老齢厚生年金を受給しながら働く高齢者の厚生年金受給の一部、もしくは全額が、収入に応じて調整される仕組みです。高齢者の就労と年金受給のバランスを図る重要な制度ですが、働いても実質的な収入が減るケースもあり、高齢者の労働意欲を低下させる可能性も指摘されています。本記事では、在職老齢年金の基礎知識から最新の見直しポイント・企業が知っておくべき実務上の注意点まで詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
在職老齢年金とは?
在職老齢年金とは、働きながら(厚生年金に加入したまま)受け取る老齢厚生年金を指します。次の条件を満たす労働者が対象となり、1カ月あたりの総収入が一定の水準(支給停止調整額)を上回ったとき、その度合いに応じて厚生年金の受給額が減額されます。
- 60歳以上
- 厚生年金に加入している
- 老齢厚生年金を受給している
この制度は、高齢者の就労を促進しつつ、現役世代との給付バランスを保つことを目的としています。一方で、収入によってはいわゆる「働き損」となるため、高齢者の働き控えの要因ともなっています。
2024年度の変更ポイント
在職老齢年金制度の支給停止調整額は、例年4月に見直しが行われています。ここでは、2024年の最新情報とともに、近年の変更ポイントを解説します。
近年の制度改正の流れ
在職老齢年金制度の支給停止調整額は、現役の男性被保険者が受け取る賞与を含む平均月収をもとに設定されています。
2022年4月、それまで「60歳以上65歳未満」と「65歳以上」とで異なっていた支給停止調整額が47万円に統一されました。その後、2023年4月に48万円、2024年4月に50万円と、段階的に引き上げられています。
この流れは、高齢者の働き控えの抑止力となり、人手不足に悩む企業にとっても朗報となっています。
参考:厚生労働省|年金制度の仕組みと考え方_第10_在職老齢年金・在職定時改定
参考:厚生労働省|令和6年度の年金額改定について
企業と従業員への影響
支給停止調整額の引き上げは、高齢労働者の就労意欲の向上につながり、ひいては企業と従業員双方にポジティブな影響をもたらしています。
まず企業側は、豊富な経験を持つ高齢従業員の継続雇用がしやすくなることに加え、新規採用の際の選択肢も広がります。生産年齢人口の減少にともなう人手不足が課題となる中で、これらは大きなメリットです。
一方、従業員は、より多くの収入を得ながら年金を受給できるようになります。特に、引き上げ前の支給停止調整額にちょうど該当し、厚生年金の一部停止措置を受けていた人の場合、実質的な手取り額の増加が期待できます。
在職老齢年金の支給停止額の計算方法と具体例
在職老齢年金制度では「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計が支給停止調整額(2024年度は50万円)を超えた場合に、支給される厚生年金の一部もしくは全額が支給停止されます。以下、用語の詳細や計算方法・計算の具体例を紹介します。
基本月額と総報酬月額相当額
在職老齢年金の支給停止額は、以下の式で求めます。
支給停止額=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 支給停止調整額)÷2 |
・基本月額
加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額・総報酬月額相当額
(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
※上記の「標準報酬月額」、「標準賞与額」は、70歳以上の方の場合には、それぞれ「標準報酬月額に相当する額」、「標準賞与額に相当する額」となります。
「基本月額」は、老齢厚生年金の月額(年金額÷12)です。また「総報酬月額相当額」は、標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額の1/12を合計した金額です。
例えば、月給30万円で年2回各60万円のボーナスがある場合、総報酬月額相当額は40万円『30万円 + (60万円 × 2 ÷ 12)』となります。これらの数値を正確に把握することが、適切な給与設計と年金管理の基本となります。
支給停止額の計算例
具体的な計算例を見てみましょう。
基本月額が15万円・総報酬月額相当額が40万円の場合、1カ月あたりの総収入は次のようになります。
15万円(基本月額) + 40万円(総報酬月額相当額) = 55万円 |
2024年の支給停止調整額50万円を超えていることが分かりました。そこで、在職老齢年金の支給停止額の計算式にあてはめます。
支給停止額 = (15万円 + 40万円 − 50万円) ÷ 2 = 2.5万円 |
このケースでは、毎月2.5万円が厚生年金から減額されます。つまり、最終的な総収入は52.5万円となります。
企業が知っておきたい在職老齢年金の注意点
企業が在職老齢年金制度を適切に運用するためには、いくつかの注意点があります。以下、特に重要なポイントを4つ紹介します。
老齢基礎年金と老齢厚生年金の違い
在職老齢年金制度において、支給停止の対象となるのは老齢厚生年金のみです。老齢基礎年金は、就労状況に関わらず全額支給されます。
例えば、月額6.5万円の老齢基礎年金と月額10万円の老齢厚生年金を受給している場合、支給停止の計算対象となるのは老齢厚生年金の10万円のみです。
70歳以上の従業員への適用
70歳以上の従業員に対しても在職老齢年金制度は適用されますが、厚生年金保険料の負担はありません。つまり、70歳以上の従業員は保険料を支払うことなく、在職中でも老齢厚生年金を受給できます。
ただし、70歳以下の高齢労働者と同様に、月額総収入が支給停止調整額を超えた場合には、老齢厚生年金の支給額が減額されます。
加給年金への影響
支給停止額の計算結果が老齢厚生年金月額を上回る場合、老齢厚生年金(加給年金額を含む)は全額支給停止となります。
例えば、基本月額が10万円・総報酬月額相当額が100万円の場合、
「支給停止額 = (10万円 + 100万円 - 50万円) ÷ 2 = 30万円」
となるため、理論上の厚生年金支給額はマイナス20万円となります。このようなケースでは、加給年金を含む厚生年金全額が支給停止されます。
高年齢雇用継続給付との関係
「高年齢雇用継続給付」は、次の要件を満たす高齢労働者を対象に、最高で賃金額の15%に相当する額が雇用保険から支払われる制度です。
- 60歳以上65歳未満
- 雇用保険の被保険者
- 雇用保険の加入期間が5年以上
- 賃金額が60歳到達時の75%未満
高年齢雇用継続給付を受給すると、標準報酬月額の最大6%にあたる金額が老齢厚生年金から支給停止されます。
関連記事:【社労士監修】高年齢雇用継続給付とは?申請方法や支給額の計算方法をチェック
福利厚生と在職老齢年金の関係性
在職老齢年金制度による高齢労働者の働き控えへの対応策として、注目度を高めているのが福利厚生です。以下、福利厚生と在職老齢年金の関係性について解説します。
収入減少を補う福利厚生の重要性
在職老齢年金制度により、老齢厚生年金の減額対象となる労働者の中には、働き損にならないよう働き控えをして収入をコントロールする人もいます。働き控えによる労働力の減少は、多くの企業にとって深刻な課題です。
食事補助や健康サポートをはじめとする福利厚生は、給与とは別の形で企業が従業員へ提供する報酬です。一定の条件を満たし、損金として計上することで、企業の法人税が削減されるほか、従業員の所得税にも影響しません。
特に食事補助のような生活に即した福利厚生は、従業員にとって金銭的なメリットが多く、在職老齢年金によって減少した実質手取りを補填するものとして高い効果が期待されています。
食の福利厚生「チケットレストラン」
食事補助の福利厚生として、日本一の実績を持つサービスが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、全国25万店舗以上の加盟店での食事が半額になるサービスで、勤務時間内であれば時間や場所の制限がありません。また、正規雇用の従業員・契約社員・アルバイト・パートなどの雇用形態を問わず提供できる平等性も魅力です。
ICカード1枚でコンビニ・ファミレス・カフェなど、さまざまなジャンルの店舗を利用できるので、利用する従業員の年齢を問わない点も人気の秘密となっています。
関連記事:パート・アルバイト・契約社員 にも「第3の賃上げ」を!ラウンドテーブルを開催~“年収の壁”を抱える非正規雇用にも、福利厚生で実質手取りアップを実現~
在職老齢年金への理解を深め、働き控えへの対応を
在職老齢年金制度は、高齢者の就労促進と年金財政の安定化を図る重要な仕組みですが、一方で、高齢労働者の働き控えという課題の原因ともなっています。高齢労働者の豊富な経験やスキルを十分に生かせないことは、企業にとって大きな損失です。
その点「チケットレストラン」のような福利厚生を導入し、減少した手取りを補うことは、働き控えに対する効果的な対策となります。従業員の満足度向上や、今後の労働力不足への対応策として、ぜひ「チケットレストラン」の導入を検討されてはいかがでしょうか。