監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
高年齢雇用継続給付は雇用保険の給付金の一種です。どのような目的で支給される給付金なのでしょうか?2種類の給付金や支給額・申請方法について見ていきましょう。また今後予定されている高年齢雇用継続給付の縮小に対応できるよう、高年齢労働者処遇改善促進助成金についても解説します。
高年齢雇用継続給付は雇用保険の給付
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満で雇用保険の被保険者であった期間が5年間以上の場合に受け取れる給付金です。
高齢者雇用安定法が整備され、定年後も引き続き働き続ける人が増えています。ただし賃金は定年前と比べて低く設定している企業が多いそうです。
高年齢労働者を活用する取り組みを進めたいと企業が考えていても、定年の前後で賃金額が大きく異なると、生活が維持できないことやモチベーションが下がることが考えられます。
このような事態を回避し、高年齢労働者の安定的な雇用のサポートと促進のために設けられたのが高年齢雇用継続給付です。
ここでは厚生労働省の「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて」をもとに、高年齢雇用継続給付に含まれる「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類について、制度の詳細を見ていきましょう。
参考:厚生労働省|高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて
高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金は、被保険者であった期間(基本手当を受給した場合はその後の期間)が通算5年以上あり、60歳到達後も継続して雇用される人が対象の給付金です。60歳以上から65歳未満まで、最大で5年間給付金の支給を受けられます。
ここでは高年齢雇用継続基本給付金の制度について詳細をチェックしていきます。
支給対象者
高年齢雇用継続基本給付金を受けるには、以下の要件を全て満たしていなければいけません。
- 60歳以上65歳未満の一般被保険者である
- 雇用保険の被保険者であった期間が通算5年以上ある
- 60歳以降の賃金が60歳到達時点の賃金月額と比べて75%未満である
雇用保険の被保険者期間の要件は、60歳時点で満たしていなければいけないわけではありません。60歳時点までに要件を満たしているケースはもちろん、60歳以上65歳未満で要件を満たしている場合にも対象となります。
支給期間
高年齢雇用継続基本給付金の支給期間は最長で60歳以上65歳未満の5年間です。給付金の支給対象月は初日から末日まで被保険者でなければいけない点に注意しましょう。
高年齢再就職給付金
離職後、雇用保険の基本手当を受給中に、一定以上の受給資格期間を残して、60歳以降に再就職した人が受給できるのが高年齢再就職給付金です。基本手当の支給残日数に応じて受給できる期間が決まります。
支給対象者
高年齢再就職給付金の支給対象者は、以下の要件を満たしている必要があります。
- 60歳以上65歳未満で再就職した被保険者である
- 60歳以降の賃金が60歳到達前6ヶ月間の平均賃金と比べて75%未満である
- 再就職の前日に基本手当の支給残日数が100日以上ある
- 基本手当の算定基礎期間が5年以上ある
- 安定した職業に付き雇用保険の被保険者になった
支給期間
高年齢再就職給付金は、基本手当の支給残日数によって支給期間が以下のように異なります。
- 支給残日数が200日以上:再就職日の翌日から2年経過する日の属する月まで
- 支給残日数が100日以上200日未満:再就職日の翌日から1年経過する日の属する月まで
- 被保険者が65歳に達したときには期間によらず65歳に達した月まで
給付金の支給対象月は初日から末日まで被保険者でなければいけない点は、高年齢雇用継続基本給付金と同様です。
再就職手当との併給は不可
雇用保険の基本手当を受給中に再就職すると、再就職手当の対象にもなります。ただし高年齢再就職給付金と再就職手当の併給は認められていません。どちらの給付を受けるかは、被保険者自身が決定します。
高年齢雇用継続給付の支給額
高年齢雇用継続給付の支給額は、支給対象月ごとに計算します。「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて」で紹介されている支給額の計算方法を、例を出して見ていきましょう。
まずは支給対象月に支払われた賃金額と賃金月額を比べて、以下の計算式で算出する低下率を算出します。
- 低下率=支給対象月に支払われた賃金額 / 賃金月額×100
低下率が75%未満の場合には、低下率ごとの計算式で支給額を計算可能です。
- 低下率61%以下:支給対象月に支払われた賃金額×15%=支給額
- 低下率61%超75%未満:-183 / 280×支給対象月に支払われた賃金額+137.25 / 280×賃金月額
例えば賃金月額が30万円のケースで支給額がいくらになるか見ていきましょう。支給対象月の賃金額が25万円なら、低下率は約83%のため高年齢雇用継続給付の支給対象外です。
支給対象月の賃金額が18万円なら、低下率は60%のため支給対象となります。支給額は「18万円×15%=2万7,000円」です。
参考:厚生労働省|高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて
支給限度額
支給対象月の賃金が支給限度額である37万452円以上の場合には、給付金は支給されません。また支給対象月の賃金と支給額の合計が37万452円を超えるときには、37万452円から支給対象月の賃金を差し引いた金額が支給額となります。
最低限度額
計算した支給額が最低限度額である2,196円以下の場合、給付金は支給されません。
老齢厚生年金との併給調整に注意
高年齢雇用継続給付は老齢厚生年金との併給調整が行われる場合があります。併給調整で支給停止される割合は、標準報酬月額が60歳到達時点の賃金月額の何%にあたるかで以下のように決まる仕組みです。
標準報酬月額 / 60歳到達時点の賃金月額 |
年金の支給停止率 |
75%以上 |
0% |
74% |
0.35% |
73% |
0.72% |
72% |
1.09% |
71% |
1.47% |
70% |
1.87% |
69% |
2.27% |
68% |
2.69% |
67% |
3.12% |
66% |
3.56% |
65% |
4.02% |
64% |
4.49% |
63% |
4.98% |
62% |
5.48% |
61%以下 |
6.00% |
参考:
日本年金機構|年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整
厚生労働省|高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて
高年齢雇用継続給付の申請方法
高年齢雇用継続給付は原則として企業が申請書や添付書類を提出します。2種類の給付金について、手続きの手順や必要な書類を確認しましょう。
高年齢雇用継続基本給付金の申請手順
高年齢雇用継続基本給付金の初回申請手続きの手順は以下の通りです。この手続きは、最初に支給を受ける支給対象月の初日から4カ月以内に行わなければいけません。
- 必要事項を記入済みの「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書および雇用保険受給資格者六十歳到達時等賃金証明書」を事業主経由で公共職業安定所に提出する
- 「受給資格確認通知書」「支給(不支給)決定通知書および2回目分の支給申請書」が交付される
- 企業は公共職業安定所から交付された通知書を被保険者へ渡す
- 公共職業安定所から被保険者へ給付金が支給される
この後は企業を通して、2カ月に1度のペースで公共職業安定所へ提出します。
また提出書類と添付書類もチェックしましょう。
書類の種類 |
注意点等 |
|
提出書類 |
高年齢雇用継続給付支給申請書 |
初回申請時に使う書類は「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」 |
添付書類 |
雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書 |
初回支給申請時に受給資格等の確認に必要 |
支給申請書と賃金証明書の記載内容を確認できる書類及び被保険者の年齢が確認できる書類等 |
記載内容を確認できるのは賃金台帳・労働者名簿・出勤簿など、被保険者の年齢確認ができるのは運転免許証か住民票 |
高年齢再就職給付金の申請手順
高年齢再就職給付金の申請は以下の手順で行います。
- 必要事項を記入済みの「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書および雇用保険受給資格者六十歳到達時等賃金証明書」を事業主経由で公共職業安定所に提出する
- 公共職業安定所から企業へ「受給資格確認通知書」「支給(不支給)決定通知書および2回目分の支給申請書」が交付される
- 企業は公共職業安定所から交付された通知書を被保険者へ渡す
- 公共職業安定所から被保険者へ給付金が支給される
※受給資格の確認のみを先に行うことも可能です。詳細は「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続きについて」をご覧ください。
2回目以降は2カ月に1度のペースで、被保険者から預かった支給申請書を公共職業安定所の指定する月に提出します。
提出書類と添付書類は、高年齢雇用継続基本給付金と同様で以下の通りです。
書類の種類 |
注意点等 |
|
提出書類 |
高年齢雇用継続給付支給申請書 |
初回申請時に使う書類は「高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書」 |
添付書類 |
雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書 |
初回支給申請時に受給資格等の確認に必要 |
支給申請書と賃金証明書の記載内容を確認できる書類及び被保険者の年齢が確認できる書類等 |
記載内容を確認できるのは賃金台帳・労働者名簿・出勤簿など、被保険者の年齢確認ができるのは運転免許証か住民票 |
高年齢雇用継続給付は廃止?
厚生労働省の「高年齢雇用継続給付について」によると、高年齢雇用継続給付は縮小の予定です。現在の給付率は賃金の15%が原則となっていますが、2025年4月からは賃金の原則10%になります。
加えて廃止の検討も引き続き行われているようです。
高年齢労働者処遇改善促進助成金の利用も検討を
高年齢雇用継続給付の縮小が決まっており、廃止が検討される中、高年齢労働者の処遇改善を実施するために活用できる高年齢労働者処遇改善促進助成金が設けられています。
高年齢労働者の賃金規定を増額改定する場合に利用できる助成金です。以下の要件を満たしている企業は利用を検討してみてはいかがでしょうか。
- AとBを算出・比較すると75%以上となっている(A全ての算定対象労働者の60歳到達時点での1時間あたりの毎月決まって支払う賃金、B賃金規定を増額改定したあとのすべての算定対象労働者の1時間あたりの毎月決まって支払う賃金)
- 賃金規定改定後の高年齢雇用継続基本給付金の総額が改定前より減少している
- 支給申請日に増額改定後の賃金規定を継続して運用している
助成額は、賃金規定改定前の高年齢雇用継続基本給付金の総額から、賃金規定改定後に助成金の支給対象期を支給対象期間として算定対象労働者が受給した高年齢雇用継続基本給付金の総額を差し引いた金額の2/3(中小企業以外は1/2)です。
6カ月ごとに最大4回申請できます。
参考:厚生労働省|「高年齢労働者処遇改善促進助成金」をご活用ください
関連記事:シニア再雇用の現状と課題。シニアの雇用を促す助成金についても解説
高年齢労働者の処遇改善に高年齢雇用継続給付を活用しよう
高年齢雇用継続給付とは、雇用保険の給付の一種で高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2種類があります。60歳以上65歳未満で、雇用保険の基本手当を受給していないか、基本手当の支給残日数が一定以上ある被保険者が対象です。
賃金月額と、60歳以上65歳未満の支給対象月の賃金を比べて、低下率が75%未満のときに給付金を受け取れます。定年前と比べて賃金が低くなりやすい高年齢労働者の処遇改善につながる給付金です。
高年齢労働者の処遇改善を実施するときには、福利厚生の充実度アップにも取り組むとよいでしょう。例えば食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」を導入すれば、従業員がバランスのよい食事をとりやすくなり、健康経営にもつながります。