人材定着とは企業に必要な人材を確保することで、リテンション(Retention)ともよばれます。人材を確保するには、採用に関する取り組みと同時に、定着に向けた取り組みが必要です。「採用してもすぐに辞めてしまう」「数年たつと辞める従業員が多く人材が育たない」といった課題を抱えている企業において、役立つ施策を見ていきましょう。
企業が人材定着に取り組むべき理由
日本の生産年齢人口は減少が続いています。内閣府の発表する「令和4年版高齢社会白書」によると、将来的にも増える見込みはなく、2065年にはピーク時の約半数である4,500万人程度になる予測です。
働く人口が減る中、必要な人材を確保するのは、今後どんどん難しくなっていきます。事業そのものは好調であったとしても、事業の継続に必要な人材を確保できず、継続が難しくなるケースも増えていくことが考えられるでしょう。
企業が事業を継続し存続し続けるためには、人材定着の取り組みが欠かせません。
日本の人材定着率
人材定着率とは従業員が入社してから行って期間経過後に、どれくらい定着しているかを示す数値のことです。「(一定期間後に引き続き働いている従業員数÷一定期間の開始時点の従業員数)×100」で計算できます。
例えば4月に入社した10人が翌3月末に7人定着している場合の定着率は「(7人÷10人)×100=70%」です。
また一定期間後に定着している従業員数を、一定期間中に離職した従業員数に置き換えると離職率を算出できます。人材定着率と離職率は正反対の数値のため、一方が分かればもう一方を簡単に計算可能です。
人材定着率であれば「1-離職率」で計算できます。厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査結果」に掲載されている離職率をもとに、日本の人材定着率を見ていきましょう。
2022年の離職率は全体で15%です。離職率から人材定着率を計算する式に当てはめると「1-0.15=0.85」のため、人材定着率は85%と分かります。人材定着率は雇用形態ごとに異なり、一般労働者が88.1%と全体より高いのに対し、パートタイム労働者は76.9%です。
また人材定着率は業種によっても以下のように異なります。
業種 |
人材定着率 |
宿泊業、飲食サービス業 |
73.2% |
サービス業(他に分類されないもの) |
80.6% |
生活関連サービス業、娯楽業 |
81.3% |
医療、福祉 |
84.7% |
教育、学習支援業 |
84.8% |
卸売業、小売業 |
85.4% |
不動産業、物品賃貸業 |
86.2% |
運輸業、郵便業 |
87.7% |
情報通信業 |
88.1% |
複合サービス事業 |
89.0% |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
89.3% |
建設業 |
89.5% |
製造業 |
89.8% |
学術研究、専門・技術サービス業 |
90.0% |
金融業、保険業 |
91.7% |
鉱業、採石業、砂利採取業 |
93.7% |
人材が定着しないときの課題
入社した人材が数年以内に辞めてしまい定着しない場合、何かしらの課題があると考えられます。厚生労働省の「人材確保に「効く」事例集」をもとに、人材定着に関する6つの課題を見ていきましょう。
入社後のフォローが不十分
入社後すぐは「きちんと仕事ができるだろうか」「先輩や同僚とうまくやっていけるだろうか」と不安を感じている人もいるでしょう。この不安に対するフォローが不十分な状態では、離職につながりかねません。
適切なフォロー体制を整えることで、定着率アップにつなげられます。
人員配置や担当業務のミスマッチ
配属先や担当する業務が希望やイメージと違う場合に、ミスマッチから離職につながることもあります。人員配置を行うときには企業の計画に加え、従業員本人の希望の考慮も欠かせません。
キャリアパスのイメージがわかない
従業員の「この職場でこのまま働き続けたとき、どのようなキャリアを実現できるのだろうか?」という疑問へ明確に答えられることも、人材定着を考えるときには重要です。
キャリアパスのイメージができないままでは、長期にわたって働き続ける動機がぼんやりしてしまいます。自分なりにキャリアパスを思い描いている従業員であれば、よりその希望をかなえやすい企業へ転職しようと考え始めるかもしれません。
人事評価の課題
適切な人事評価がない場合にも、人材定着に支障が出る可能性があります。例えば人事評価がある場合でも、上司の主観で評価されるケースでは、評価の基準が不明瞭で不公平感を覚える従業員が出てくるかもしれません。
「結果を出しているのに適切に評価されない」と感じる従業員がいれば、離職につながることも考えられます。
従業員のモチベーションアップにつながる制度の不足
従業員のモチベーションアップにつながる制度が整っておらず、「頑張っても評価されないから無駄」「ここで働いても希望のキャリアは実現できなさそう」と感じる従業員が多いと、人材定着につながりにくいでしょう。
また離職に至らないとしても、モチベーションの低さから業務効率が落ちる可能性があります。
不十分な教育制度
企業が必要な教育の機会を設けなければ、従業員のスキルにばらつきが出てしまいます。
仕事が思うようにできない従業員は「周りの人の迷惑になっていないだろうか……」と不安を感じるでしょう。要領よく仕事をこなせる従業員は、待遇や評価によっては「結果を出しているのになぜ他の人と同じ評価なのだろう」と不満に感じるかもしれません。
必要な知識やスキルは、従業員のポジションによっても異なります。必要な教育の機会がその都度設けられておらず、個人の努力にゆだねられていると、企業に必要な人材は育ちにくいでしょう。
人材定着の課題解決に役立つ施策
人材定着の課題を解決するには、どのような施策を実施するとよいのでしょうか。6つの課題に対する施策を解説します。
メンター制度や交流などの実施
入社直後の従業員に対するフォローが不十分で離職が発生している場合には、メンター制度を設けるとよいでしょう。年齢の近い先輩従業員が入社直後の従業員をサポートする制度です。
直属の上司の他に相談しやすい関係性の先輩ができることで、ちょっとした悩みや不安を気軽に相談しやすくなります。部署を超えた関係性の構築を早期にできるのもポイントです。
また入社直後の従業員が「職場に受け入れられている」という実感を持ちやすくなるよう、交流会を行うのもよいでしょう。個別に悩みや不安について相談できる面談の機会を設けるのもよい方法です。
配置や業務の転換
配置された部署や担当することになった業務が当初考えていたイメージと違う場合や、希望のキャリアに沿わない場合に、離職につながるケースもあります。そのような場合には、配置転換や担当業務の変更によって、離職を避けられるかもしれません。
入社直後に配属された部署や担当になった業務では能力をうまく発揮できなくても、他の部署や業務であれば適応し長く働き続けられる可能性があります。中小企業では配置転換がないケースもありますが、可能な範囲で検討するとよいでしょう。
キャリアパスの整理と周知
キャリアパスの整理や周知も人材定着の施策として有効です。採用した人材が将来をイメージしやすいようキャリアパスを明示しましょう。
従業員が希望をかなえるための具体的なステップが分かりやすいよう、評価制度と必要なスキルを結びつけて提示します。具体例として先輩社員のキャリアパスを示してもよいでしょう。
現時点で従業員の希望するキャリアに相当するポジションがない場合には、ポジションの新設を検討するのもひとつの方法です。加えて整理したキャリアパスは、全従業員に分かりやすいよう周知します。
評価制度の周知と評価者教育
全従業員が納得できる公平な評価制度の整備も人材定着のポイントです。上司の主観による評価ではなく、業務に関するスキルや目標の達成度を基準として、客観的に評価する制度がなければいけません。
必要な評価制度を整備したら、制度の内容を従業員へ伝えることも重要です。公平に評価することを目的とした変更であることを伝えます。
同時に評価する側である上司に対する教育も必要です。評価者としての適切な態度や考え方を学ぶ機会を設けることで、従業員に対して公平な評価を実施できるようにします。
責任ある仕事と適切な報酬
「誰にでもできる簡単な仕事」と感じている業務にやりがいを見出すのは難しいことです。従業員のモチベーションを高めるには、責任ある仕事を任せるとよいでしょう。
従業員が自分の仕事の意義や価値に気付けるよう、担当している業務が企業の中でどのような役割を持つものか、説明することも重要です。
同時に仕事に見合う報酬の支給もポイントといえます。やりがいがあっても給与が低いままでは、不満から離職につながりかねません。責任や意義のある仕事を任せたなら、それに見合う報酬の支給が必要です。
各段階に必要な教育制度の整備
教育制度の整備もポイントといえます。入社直後の従業員には、早いタイミングで入社時研修や業務に関する研修を実施しましょう。
教育役の先輩従業員は「見て覚えて」「分からないことがあったら聞いて」ではなく、手順とコツを伝えて、最初は横について仕事を行う必要があります。
誰が担当しても一定以上の水準で業務を実施できるよう、マニュアルを整備するのもポイントです。従業員ごとのスキルのばらつきを抑えられるため、商品やサービスの質を保ちやすくなるのもポイントといえます。
教育が必要なのは入社時のみではありません。業務に必要なスキル・資格を取得するための研修や、マネジメントを実施するために必要な知識を身につける研修など、従業員の段階に応じて異なる教育を行わなければいけません。
適切なタイミングで必要な教育を実施することで、離職率低下につなげられます。
働く環境の見直しも必要
従業員の離職が続き、なかなか定着しないのは、働く環境に原因があるからかもしれません。人材定着に向けた施策の実施とともに、働く環境の見直しも行いましょう。
適切な労働時間や休日の取得
大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、一部の業種を除き「時間外労働の上限規制」が施行されています。これにより時間外労働の上限が明確に規定されました。
この上限を超えて従業員を働かせていると、従業員は十分な休息やプライベートの時間を持てなくなり、疲労が蓄積していきます。疲れから業務の効率が落ちることもあるでしょう。
このような状態で長く働き続けるのは難しいため、離職を選ぶ従業員も出てきます。加えて時間外労働の上限規制には罰則が設けられているため、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されるかもしれません。
希望の日に休日を取得できる体制の整備もポイントです。法律で定められている有給休暇を適切に取得できるよう促すと同時に、企業独自の休暇制度を設けることで、従業員の働きやすさを高められます。
ただし休暇制度を作っただけでは不十分です。制度を作ると同時に、実際に休日を取得しやすい職場の空気感を醸成する必要があります。
働きやすさにつながる制度の導入
他にも働きやすさにつながる制度は複数あります。住宅手当や食事補助などが代表的です。導入により従業員の生活費の負担を減らせるため、物価高への対策としても役立ちます。
例えば食事補助を提供できるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入した企業では、生活費の出費が減った分、よりバランスのよい健康的な食事をできるようになった従業員がいるケースもあるそうです。
日々の食事の質を向上させることで、従業員の健康管理に戦略的に取り組む健康経営にもつながります。
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人材定着は課題の洗い出しと施策の実施が重要
人材定着を実施するには、自社が現在抱えている課題の洗い出しが必要です。例えば入社後間もないタイミングで離職する従業員が多いなら、入社直後のサポートが不十分な可能性があります。研修や交流の機会を設けることで、定着につなげられるかもしれません。
人材定着の施策以前に、働く環境の整備が必要なケースもあります。まずは適切な労働時間や希望通りに休日を取得できる環境を整えましょう。さらに住宅手当や食事補助の導入により、従業員の生活費の負担を抑えられます。
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」なら、導入や管理の手間を抑えつつ、全従業員へ公平に食事補助を提供可能です。働く環境の整備に取り組むなら、導入を検討してみてはいかがでしょうか。