監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
企業運営において、メンタルヘルス対策に取り組むこと、とりわけ従業員のメンタル不全を未然に防ぐことはとても重要です。特に「五月病」を発症する人が増えるゴールデンウィーク明け前後には一層の注意が必要です。しかし、専門家がいない中小企業の場合、従業員のメンタルヘルスケアは「何から始めればいいのか」「具体的な取り組み方」に戸惑うでしょう。
この記事では、これからメンタルヘルスケアに取り組む中小企業へ向けて、メンタルヘルス対策の進め方や一次予防で大切なポイントを解説します。
メンタルヘルスケアに取り組む企業メリット
職場におけるメンタルヘルスケアとは、従業員がストレスのない状態で健康に業務を行うことができるように、企業側が対策や支援を行うことです。
企業がメンタルヘルスケアに取り組まない場合、どのようなことが起こるでしょうか。精神疾患を抱える従業員を放っておくと、以下のようなことが起こり、職場の雰囲気が悪くなったり、企業に損害をもたらす可能性もあります。
・生産性や創造性の低下
・仕事のモチベーション低下
・欠勤、遅刻の増加
・仕事のミスやトラブル多発
裏を返すと、メンタルヘルスケアに取り組む中小企業は、これらの問題を最小限に抑えられるということでもあります。これは経営管理上の大きなメリットです。
気をつけたい「五月病」
例年、ゴールデンウィークが明けた直後から身心の不調を訴える人が増えます。そのため、この時期の体調不良は「五月病」とも呼ばれています。
新年度のはじまりである4月~5月は、新たな業務や人間関係が始まるなどストレスがたまりやすい時期です。こうした時期に大型連休を挟むことで生活リズムの乱れが起こったり、自分の悩みや疲れに向き合いすぎてしまったりする人が少なくありません。こうしたことがきっかけで、この時期に五月病を発症する人が多いと見られています。
五月病の主な症状は、睡眠障害や食欲低下、「なんとなく体がだるい」などの身体的な症状と、気分の落ち込みやイライラなどの心理的な症状です。症状が進むと、原因不明の頭痛、腹痛や深刻な自己嫌悪や自責の念、パニック障害といった、より深刻な症状が現れることもあります。
特に、今年のゴールデンウィーク前後は、新型コロナによる行動制限が緩和され、外出や旅行をしたり、急に街中に人出が増えたことに違和感を抱いたり、と生活状況や社会環境の変化に疲れや戸惑いを訴える声も聞かれます。こうした情勢の変化と仕事、職場へのストレスが合わさることで、体調不良を感じる人が例年以上に増える可能性も指摘されています。
もし「なんとなく気分が乗らない」「しっかり休めていない気がする」など、五月病が疑われる症状がある人は、同僚、上司や家族など身近な人への相談はもちろん、専門家に相談するのもひとつの方法です。企業側もこうした従業員の心身の不調に関する声を聞き逃さない体制づくりに努めましょう。
中小企業では、専門部署を立ち上げるのが難しい分、従業員それぞれが同僚や部下の不調に気づけるような環境づくりに取り組むのも大事です。五月病の時期だけでなく、日ごろの従業員の体調、メンタルヘルス管理に役立つでしょう。
中小企業特有のメンタルヘルス課題
中小企業は大企業とは異なるメンタルヘルスの課題を抱えています。自社が抱える課題を正しく理解し、適切に対処することが、効果的なメンタルヘルス対策の第一歩となります。まずは、主な中小企業特有のメンタルヘルス課題について整理していきましょう。
人材・予算不足による対策の遅れ
従業員の健康管理は企業メリットだけでなくリスク回避の側面も併せ持っています。しかし、事業所規模が小さくなればなるほど、メンタルヘルスケアへの取り組み率は低い傾向にあります。
厚生労働省が2023年に発表した「職場における心の健康づくり」を参考にしましょう。事業所規模別に見ると、従業員数が100人未満だとメンタルヘルスケアに取り組んでいる割合がぐっと下がります。10〜29人規模の小規模事業所では、1000人以上の大規模事業所のおよそ半数の実施率です。
出典:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構|職場における心の健康づくり
中小企業でも、従業員が50人を超える企業は労働安全衛生法に基づき、産業医の選任やストレスチェックの実施が義務化されています。違反すると50万円の罰金が科されるため、従業員が50人以上の企業は積極的にメンタルヘルス対策に取り組まざる得ない状況にあります。結果として、10〜29人規模の企業に比べて、メンタルヘルス対策に取り組む企業が増え、法整備の効果が見られています。
中小企業が置かれたこうした現状の大きな原因と考えられるのが、専門的な知識を持つ人材の不足や、予算の不足です。しかし、これら課題は、低コストで実施できる対策や公的支援を活用することで克服できます。
例えば、厚生労働省が提供する無料の「職場のストレスセルフチェック」を利用したり、地域産業保健センターが従業員50人未満の事業所に無料で提供する健康相談などのサービスを活用したりすることができます。また、従業員同士で悩みを共有する「ピアサポート制度」の導入も、専門家不在を補う有効な方法です。
さらに、「メンタルヘルス対策に関する助成金制度」も存在します。これらを上手く活用することで、低コストでのメンタルヘルス対策が可能です。
参考:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構|職場における心の健康づくり
参考:こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|5分でできる職場のストレスセルフチェック
参考:OHAS(労働者健康安全機構)|地域窓口(地域産業保健センター)
参考:厚生労働省 ・ 独立行政法人労働者健康安全機構|メンタルヘルス対策関係助成金
関連記事:【社労士監修】従業員のメンタルヘルス対策「何から取り組んだらいい?」「中小企業の取り組み事例と具体例」
従業員間の密接な人間関係
中小企業では、従業員数が少ないために人間関係が密接になりやすく、これがストレス要因となることがあります。一方で、この密接さを活かしたコミュニケーション改善が、メンタルヘルス対策に効果を発揮する可能性もあります。
具体的には、定期的な1on1ミーティングの実施や、チーム内でのオープンな対話の機会を設けることが有効です。また、「聴く」スキルを向上させるための研修を行うことで、互いの理解を深め、ストレスの軽減につながります。
さらに、業務の偏りを防ぐためのジョブローテーションの導入も、人間関係の固定化を防ぎ、新鮮な環境づくりに役立ちます。
経営者・管理職の意識改革の必要性
中小企業では、経営者や管理職の意識がメンタルヘルス対策の成否を大きく左右します。彼らがメンタルヘルス対策の重要性を理解し、率先して取り組む姿勢を示すことが、組織全体の取り組みを促進します。
まず、経営者自身がメンタルヘルスに関する基礎知識を学ぶことが重要です。例えば、地域の商工会議所などが開催するセミナーに参加したり、オンラインの学習コンテンツを活用したりすることができます。
また、「心の健康づくり計画」を策定し、組織全体で共有することで、メンタルヘルス対策への取り組み姿勢を明確に示すことができます。さらに、管理職向けのメンタルヘルス研修を定期的に実施することで、現場レベルでの意識向上と適切な対応を促すことができます。
参考:厚生労働省 独立行政法人労働者健康安全機構|職場における心の健康づくり
中小企業のメンタルヘルス対策の進め方
これからメンタルヘルス対策に取り組む場合、まず企業がメンタルヘルス対策に取り組むことを社内に向けて表明します。体制づくりには、窓口担当や取り組みの舵取り役となる「事業場内メンタルヘルス推進担当者」の選定が第一歩です。
指針では、企業内の衛生管理者や常勤の保健師、看護師から選任することが望ましいとされています。しかし、50人未満の規模の企業では保健師などがいる企業は少ないので、多くの場合、産業医の助言や指導を受けながら、人事部や総務部が先頭に立って対策を行っています。
従業員が50人未満の企業だと、無料の相談窓口からストレスチェックの調査票(ダウンロード無料)を利用することで、取り組み費用を0円に抑えることができます。しかし、50人以上の従業員が在籍する企業では、産業医の選任が必要となり、産業医費用がかかります。産業医との契約や、ストレスチェックの実施を専門企業にお願いしたりする場合は、年間30万円~80万円(参考:予算別メンタルヘルス対策モデル/産業医振興財団委託研究)程度の予算を確保しておきましょう。
準備が整ったら、まずは事業者がメンタルヘルス対策に取り組むことを社内に向けて表明します。
次に「心の健康づくり計画」を策定します。労働局や厚生労働省がひな形を公開していますので、参考にしながら自分の会社に沿うように作っていくといいでしょう。メンタルヘルス推進センターなどで相談ができますので、無理に専門家を雇う必要はありません。
参考:ストレスチェックの調査票(ダウンロード無料)
参考:予算別メンタルヘルス対策モデル
メンタルヘルスケアの1次予防、2次予防、3次予防とは
企業でメンタルヘルスケア対策に取り組むには段階があります。順に見ていきましょう。
画像参考:新ストレスチェック制度の趣旨・目的について/厚生労働省(※4)
(1)メンタルヘルスケア1次予防
1次予防とは、「ストレスチェック」などの実施により、ストレス不全の状態に陥ることを未然に防ぐ予防対策を指します。従業員本人が現在の自分のストレス状態をチェックし、把握するのが目的です。ストレスが溜まっている場合は休養をとったり、産業医によるカウンセリングを実施し、悪化を防ぎます。
また、企業も積極的に職場改善を行い、従業員がメンタルヘルス不全に陥る要因を取り除くことも必要です。
(2)メンタルヘルスケア2次予防
2次予防はメンタルヘルス不全に陥った人の早期発見、対処です。メンタルヘルス不全に陥った人には、これ以上症状を悪化させないように、できるだけ早めに対処や支援を行うことが重要です。
ミスや勤怠不良が増えてきた、などのサインを見逃さずに早期発見に努めましょう。そして産業医と連携して適切なアドバイスに基づいてケアをしたり、業務調整や配置転換などを行って早期回復を目指します。
(3)メンタルヘルスケア3次予防
最後に3次予防です。3次予防はメンタル不全に陥って休職していた人の、職場復帰をサポートする取り組みのことです。メンタルヘルス不全に陥って休職した場合、職場に復帰することは、本人にとって負担にもなります。就業時間や業務などを調整して様子をみながら進めていきましょう。
中小企業向けメンタルヘルス対策チェックリスト
メンタルヘルス対策を効果的に進めるには、経営者・管理職と一般従業員それぞれが取り組むべき項目があります。以下のチェックリストを活用することで、自社のメンタルヘルス対策の現状を把握し、改善点を見出すことができます。
経営者・管理職向けチェックリスト
経営者・管理職は、メンタルヘルス対策の方針策定や体制整備、教育研修の実施など、組織全体のメンタルヘルス対策を主導する立場にあります。以下のチェックリストを参考に、自社の取り組み状況を確認してください。
- メンタルヘルス対策の方針を明文化し、全従業員に周知している
- メンタルヘルス対策の担当者を選任している
- 定期的にストレスチェックを実施している
- メンタルヘルスに関する研修を年1回以上実施している
- 従業員が相談しやすい環境(相談窓口など)を整備している
- 長時間労働の削減に取り組んでいる
- 有給休暇の取得を促進している
- 職場環境の改善に継続的に取り組んでいる
- メンタルヘルス不調者の早期発見・対応の仕組みがある
- 休職者の職場復帰支援プログラムを整備している
一般従業員向けチェックリスト
一般従業員も、自身のメンタルヘルスケアに積極的に取り組むことが重要です。セルフケア・コミュニケーション・ワークライフバランスなどの観点から、以下のチェックリストを活用してください。
- 自分のストレス状態を定期的にチェックしている
- ストレス解消法を持っている(運動、趣味など)
- 睡眠時間を十分に確保している
- 栄養バランスの取れた食事を心がけている
- 職場の同僚や上司とコミュニケーションを取っている
- 困ったときに相談できる人がいる
- 業務の優先順位をつけ、効率的に仕事を進めている
- 定期的に休暇を取得している
- 仕事以外の時間(家族との時間、自己啓発など)を大切にしている
- メンタルヘルスに関する基礎知識を学んでいる
これらのチェックリストを活用し、定期的に自社や自身のメンタルヘルス対策の状況を確認することで、継続的な改善につながります。チェック項目に不十分な点がある場合は、優先順位をつけて改善に取り組んでいきましょう。
予防が大事!メンタルヘルスケアの1次予防の取り組み方
企業と従業員お互いにとって重要なのは、メンタルヘルスの一次予防です。メンタルヘルス不全に陥ることで、従業員本人は辛い思いをするだけでなく、休職に陥れば金銭的にも不安を抱えた生活を強いられることになります。また、企業にとっても、従業員が長期的に職場を離れてしまうので、従業員を穴埋めするための採用や教育費用がかかったり、他の従業員にしわ寄せが行ってしまいます。
では、1次予防を進めるにあたり具体的にどんなことに取り組んでいけばよいでしょうか。
具体的なメンタルヘルスケア1次予防の取り組み方
従業員がメンタル不全に陥る要因はさまざまなものがあり、職場の要因として考えられるものは仕事の量や質、人間関係、職場環境などが挙げられます。職場環境改善の確認ポイントとなるのが次のような質問です。
・仕事量や残業量は適切か
・仕事をする環境は適切か
・人間関係は円滑か
特に五月病の発生時期など、連休明けにはストレスチェックを行いましょう。職場で改善できるものは積極的に改善に取り組み、従業員のストレスの要因をできるだけ減らそうとする企業の姿勢を従業員に示すことが大事です。また、ストレスチェックを定期的に実施し、管理監督者は部下が「働きづらさ」を感じていないか、サインを見落とさないよう注意深く見守りましょう。メンタルヘルス担当者はストレスチェック結果を踏まえて本人に声がけをしたり、産業医に適切な指導を求めたりなど、職場改善を働きかけ続けることが求められます。
また「五月病は一時的なものだ」「うつ病になるのは自分の心が弱いからだ」「恥ずかしいことだ」と自分自身で抱え込む人も少なくありません。メンタルヘルス不全は誰にでも起こりうることだということを、社内に徹底して共有し、メンタルヘルス不全を受け入れる風土づくりを行うことが必要です。
担当者は企業全体でメンタルヘルス対策に積極的に取り組んでいることを社内にアピールし、匿名で会社に意見できる「ご意見箱」を設置したり、気軽に相談できる窓口があることを周知したりすることも大切です。ほかにも、外部の専門家を招き、メンタルヘルス対策についての講習会を開くなど、企業内でメンタルヘルスケアの重要性を共有し、従業員が不調を相談しやすい環境づくりに努めていきましょう。
チケットレストランはメンタルヘルスケア向けの福利厚生サービス
企業がメンタルヘルスに関する施策を実行する上で、外部組織と手を組む必要性が生じる場合があります。産業医や地域医師会など医療分野での外部との取り組みも重要な項目ですが、従業員のメンタルヘルス維持と改善のために福利厚生サービスを導入するのも一つの手です。
メンタルヘルスと食事には因果関係があると考えられています。後天的にメンタルヘルスを患う原因は、主にストレスや運動不足だといわれ、まだ研究段階ですが、ストレスや運動不足による影響は、日々の食事管理によって最小限にできるという論文も散見します。うつ病の症状改善にも深く関係しているそうです。
心身の状態を整え、改善させるには栄養バランスが取れた食事が欠かせません。栄養バランスが取れた食事とは、栄養素のどれかに偏るのではなく、人間の活動に必要な栄養素をまんべんなく取れる食事です。
そこでメンタルヘルスケアも兼ねた福利厚生のひとつとしておすすめなのが、ICカード配布型の食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」です。
特筆すべきなのは、「チケットレストラン」の便利さです。導入企業での利用率98%・継続率99%・満足度93%と重宝している様子がうかがえます。「チケットレストラン」への加盟店は、2023年5月現在25万件をこえています。2023年3月からは Uber Eats ともサービスを連携し、さまざまな好みや食に関する特性がある人、リモートワークや出張メインなど多様なワークスタイルの従業員が多い場合でも平等に健康な食事を実現するために利用できます。
たとえば、普段の食事に「チケットレストラン」を利用して、コンビニやスーパーでプラス1品、健康食を取り入れるのもおすすめの利用方法です。さらに「チケットレストラン」には、ヘルシー志向のレストランやカフェも加盟しています。
また、「チケットレストラン」を導入することで期待できる効果として、どのような働き方をする社員でも「会社は自分の健康に配慮してくれている」と感じられることがあげられます。ワークエンゲージメントにつながり、従業員のメンタルヘルスにも良い効果があるでしょう。
さらにメンタルヘルスの1次予防として、従業員とその上司が食事をしながら会話をして心身の状況をヒアリングする際にも「チケットレストラン」は活用できます。
関連記事:メンタルヘルスには食事管理が重要!福利厚生で心の健康を支援しよう
メンタルヘルスで重要なのは企業の認識
メンタルヘルス対策に取り組む企業が増えてきたものの、従業員数100人以下の中小企業ではまだ遅れているのが現状です。しかし、50人以上の従業員を有する中小企業では労働安全衛生法に基づき、産業医の選任やストレスチェックの実施が義務化されたことにより、何らかのメンタルヘルス対策に乗り出す企業が増えてきました。
メンタルヘルス対策に取り組むにあたり、重要なのは企業のトップや人事労務の担当者がメンタルヘルス対策に取り組む重要性を認識することです。管理職と一般の従業員の関係性づくりや風通しの良い環境づくりにも取り組みましょう。
取り組み内容や計画作成においては、国のサポートや助成金を受けることもできます。税制の優遇措置を受けられる食事補助の福利厚生サービスを導入し、企業と従業員の信頼関係づくりから始めるのもよいでしょう。導入が簡単で導入企業から評価を得ている「チケットレストラン」を検討してみましょう。
※産業カウンセラーとは、一般社団法人日本産業カウンセラー協会が認定する民間資格を有する人を指し、メンタルヘルスや職場の人間関係、キャリア形成等のカウンセリングを主な仕事としています。