業務効率化、デジタル化、そして働き方改革などの企業が直面するさまざまな課題に対して、いま注目を集めているのがBPR(Business Process Re-engineering)です。業務プロセスを根本から見直すことで、組織全体の生産性向上と持続的な成長を実現する、新しいアプローチについて業務改善など混同しやすい概念との違いとともにわかりやすく解説します。
BPRとは?基本概念
BPRは、企業活動全体をプロセスとして捉え、分析、理解、再構築することで利益を最大化する活動です。既存の組織構造や業務フローにとらわれず、ゼロから見直して業務プロセスを再設計します。
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BPRの必要性
生産性を高めるBPRが必要な背景には次のことが挙げられます。
少子高齢化による労働力不足
少子高齢化の進展により、日本の生産年齢人口(15歳から64歳)は急速に減少しています。厚生労働省によると、2020年時点で7,509万人(60%)だった生産年齢人口は、2070年には約4割減少し4,535万人になると見込まれました。
この人口構造の変化は労働力不足を引き起こし、多くの産業に影響を与えています。「医療」「建設業」「運輸業」などの分野で人手不足が顕著です。
出典:厚生労働省|我が国の人口について
労働生産性の低さ
日本の労働生産性はほかの先進国と比較して低い水準にあり、これに対応するためにはBPRの推進が不可欠です。労働生産性の低迷が、日本企業の課題となっています。日本生産性本部の「労働生産性の国際比較」によると、OECD加盟38か国中、日本の時間当たり労働生産性は30位(52.3ドル)、一人当たり労働生産性は31位(85,329ドル)と、先進国の中で際立って低い水準にとどまっています。
出典:公益財団法人 日本生産性本部|労働生産性の国際比較2023 プレスリリース
働き方改革への対応
2018年7月6日に公布され、2019年4月1日から順次施行された働き方改革への対応も、BPR推進の後押しとなっています。厚生労働省「人口構造、労働時間等について」では、一般労働者の総実労働時間について2019年 1,978時間、2020年 1,925時間、2021年 1,945時間、2022年 1,948時間と働き方改革に関する法施行前の2018年 2,010時間より50時間以上は減少したことが示されています。
一方で、労働時間が短縮され同じ成果を出すためには、生産性の向上が欠かせません。そこで業務プロセスの見直しが必要となっています。
出典:厚生労働省|人口構造、労働時間等について 労働基準関係法制研究会(第1回) 資料 令和6年1月23日
BPRと混同しやすい概念との違い
業務改善とDXは、BPRと混同しやすい概念です。ここでは違いを説明します。
業務改善とBPRの違い
業務改善は、現状のプロセスを活かしながら、ムダの削減や効率化を図る取り組みです。例えば、紙の申請書をPDF化したり、承認のステップを減らしたりするのが典型的です。一方、BPRは「そもそもこの業務は必要か」という視点から、業務プロセス全体を再設計します。
DXとBPRの違い
DXは、デジタル技術を活用して新しい価値を創造する取り組みです。例えば、実店舗だけだった小売業がECサイトを立ち上げ、オンラインとオフラインを融合させた新しい購買体験を提供するケースがDXにあたります。
一方、BPRは業務プロセスの根本的な見直しを目指します。営業部門の例でいえば、単にZoomでの商談を導入するだけでなく、「そもそも営業活動の時間配分は最適か」「どの顧客にどのようなアプローチをすべきか」といった業務の進め方自体を一から見直すのがBPRの特徴です。
DXとBPRは、多くの場合、補完し合う関係にあります。デジタル化による変革(DX)を成功させるためには、業務プロセスの抜本的な見直し(BPR)が不可欠です。
BPRがもたらす主なメリット
業務プロセスを根本から見直すBPRの実践によって、組織はどのような価値を手に入れられるのでしょうか。7つのメリットについて見ていきましょう。
1. ワークフローの最適化
複雑化した業務の流れを分析し、本当に必要な工程だけを残すことで、効率的なワークフローへと整理できます。承認プロセスの電子化や、重複した確認作業の統合など、具体的な施策を通じて無駄を排除していきます。
2. 生産性の向上
データ入力や日次報告など、定型的な業務を自動化することで、人間にしかできない付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。ほかにも、会議の目的や参加者を見直せば、必要最小限の時間で成果を出せる体制を整えられます。
3. コストの最適化
紙文書の電子化による印刷や保管コストの削減や、業務効率化による残業時間の削減など、プロセスの見直しを通じて本質的なコスト最適化が実現できるでしょう。表面的なコスト削減ではなく、業務の在り方から見直すことで、持続的な効果を生み出せます。
4. 意思決定の迅速化
複雑な承認プロセスを見直し、責任と権限を明確にした意思決定の仕組みを構築します。これにより、承認者不在時でもビジネスチャンスを逃さない、機動的な組織運営が可能になるでしょう。
5. 顧客や従業員満足度の向上
事務作業の効率化により、顧客との対話や新しいサービスの企画など、価値を生み出す業務により多くの時間を使えるようになります。また、業務の負担軽減は、従業員一人ひとりの働きがいとワークライフバランスの向上にもつながります。
6. 業務の属人化解消
特定の担当者しかできない業務がある状態は、組織のリスクです。BPRでは、業務の手順や判断基準を明確化、標準化することで、誰もが確実に業務を遂行できる仕組みを構築し、組織の対応力を向上させます。
7. イノベーションの創出
定型業務から解放された時間を、市場調査や商品開発、顧客との対話に充てることで、新しい価値創造の機会が生まれます。業務効率化は、イノベーションの確かな土台となるのです。
BPRがもたらす主なデメリット
BPRのデメリットとして、以下の2点が挙げられます。
初期投資の負担
BPRの実施には多大な労力と時間が必要であり、短期的には人件費やシステム費、外注費などのコストが増加します。
組織内での抵抗
長年続けてきた業務の進め方を変更することへの不安や抵抗は自然な反応です。新しいシステムの習得や既存の業務フローの大幅な変更で表面化しやすくなります。
BPRが進まない原因
少し古い資料ですが、「2018年版中小企業白書」で取り上げられている、BPRが進まない主な課題についての調査結果を紹介します。
- 業務に追われ、業務見通しの時間が取れない(50.6%)
- 取組を主導できる人材が社内にいない(24.1%)
- 取組の目的や目標が上手く設定できない(17.5%)
BPRの推進には、日々の業務と改革のバランス、専門性を持った人材の確保、そして明確な目標設定が不可欠です。
出典:中小企業庁|2018年版中小企業白書 三菱ufjリサーチ&コンサルティング(株)「人手不足対応に向けた生産性向上の取組に関する調査」(2017年12月)
BPR成功のための準備
BPRを成功に導くには、組織全体での準備と適切な体制作りが求められます。ここでは、プロジェクトを開始する前に整えるべき重要な要件を解説します。
経営層と現場一体型の推進体制
全社的な推進体制の確立が重要です。経営トップと推進スタッフが改革ビジョンを共有し、現場メンバーが主体となって進めることが肝心です。従業員の理解を得ることで、目標達成への意識が高まり、BPRの成功につながります。
明確な目標設定
BPRプロジェクトの「成功」基準を明確に定めることが重要です。売上貢献なのかコストカットなのか、具体的な目標を設定します。
企業全体での改革推進
ITシステムの導入するといったシステム変更のみによらず、業務プロセス、組織、人材育成を含めた包括的なアプローチが必要です。顧客満足度の向上を目指した業務設計を心がけ、業務フローの再設計と現在の企業資源の活用を連動させます。
継続的な改善サイクル
改革後も継続的な効果測定と改善を行うことで、持続的な成果を上げられます。BPRは一度の変革で終わりではありません。後ほど解説するフレームワーク(分析のための枠組み)も取り入れるなどで、常に評価改善を続けて高い目標達成が可能になります。
BPRの具体的な進め方
実際のBPRプロジェクトは、以下の5つのステップで進めていきます。各ステップで具体的に何をすべきか、実践的な視点から解説します。
1.検討
なぜBPRが必要なのかを明確にします。「売上が伸びない」「人手不足が深刻」といった漠然とした課題を、具体的な数値目標に落とし込みます。例えば、「申請処理時間を半減させる」「残業時間を30%削減する」といった形です。
2.分析
選定した業務について、実態を詳細に分析していきます。業務の流れを業務フロー図化し、各工程にかかる時間、関係者、使用するシステムなどを書き出していきましょう。この過程で、重複した作業や不必要な確認プロセスなど、見過ごされていた課題の改善機会が見つかります。
3.設計
課題解決に向けた具体的な施策を設計します。この際、「本当にこの業務は必要か」「誰が行うべきか」「どうすれば効率化できるか」という3つの視点で検討を行います。たしかにデジタル技術の活用も有効ですが、まずは業務の本質的な見直しを優先することが大切です。
4.実施
業務プロセスの刷新は、慎重かつ計画的に進めることが重要です。まずは限定的な範囲でトライアルを実施し、成果と課題を丁寧に検証します。その後、現場の意見を取り入れながら随時調整を加え、徐々に展開範囲を広げていくアプローチが望ましいです。
5.モニタリング
定期的に効果を測定し、当初の目標に対する進捗を確認します。数値化できる指標(処理時間、エラー率など)と、定性的な評価(従業員の満足度など)の両面から評価を行います。新たな課題が見つかった場合は、速やかに対応策を検討しましょう。
BPRに有効な7つのフレームワーク
BPRを進める上で心強い味方となるのが、以下の7つのフレームワークです。それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
1. シックスシグマ
「なぜ不良品が出るのか」「なぜミスが発生するのか」を数値で見える化し、改善につなげる手法です。BPRと組み合わせることで、組織全体のパフォーマンス改善と品質管理の徹底が可能になります。
- Define(定義):問題を特定
- Measure(測定):データを収集
- Analyze(分析):原因を分析
- Improve(改善):対策を実施
- Control(管理):効果を維持
例えば、申請書の記入ミスが多い業務があれば、Measure(測定)として、1か月分の申請書をチェックし、ミスが生じるタイミングやその内容を集計するといった使い方が可能です。
2. BPM(ビジネスプロセスマネジメント)
業務の流れを可視化し継続的に分析することで、業務プロセスを最適化し生産性を向上させる取り組みです。BPRによる改革後、その効果を持続的なものにするために重要な手法となります。
- プロセスの可視化
- 定期的なモニタリング
- 課題の特定と改善
- 効果の測定
BPMを導入すると、日々の業務の流れを数値で確認できるようになります。問題にいち早く気付けることから、早期対策を打つことが可能です。
3.リーンマネジメント
無駄を見つけて除去することで、価値の最大化を目指す手法です。会議の必要性や承認プロセスの簡略化といった視点で、業務の無駄を徹底的に見直します。BPRと組み合わせることで、より効率的な業務プロセスを実現できます。
4. ECRSの原則
BPRを推進する上で、業務改善の王道とも言える「ECRSの原則」ついて知っておくことも有益です。
- 排除(Eliminate):不要な作業を無くす
- 結合(Combine):複数の作業をまとめる
- 交換(Rearrange):作業の順序を変える
- 簡素化(Simplify):作業を簡単にする
例えば、複数の承認印を一つにまとめる、確認作業の順序を変えて効率化するなどの改善をECRSの順に行います。業務改善の順序と視点を示す法則であるため、効果的な改善を実現するのに役立ちます。
5. SWOT分析
組織の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を整理するSWOT分析は、BPR開始前の現状分析に有用です。客観的な視点で組織を評価し、改革の方向性を定める際の指針となります。
【内部環境の分析】
- 強み(Strength):自社の優れている点
- 弱み(Weakness):自社の改善が必要な点
【外部環境の分析】
- 機会(Opportunity):追い風となる外部要因
- 脅威(Threat):向かい風となる外部要因
自社の状況を客観的に整理することで、改革の対象となる業務や内容など具体的な方向性が見えてくるため、業務改革の優先順位を決める際の重要な判断材料となります。
6. AARRRモデル
顧客との関係を「Acquisition(獲得)」から「Revenue(収益)」まで5つのステップで分析するフレームワークです。顧客価値の創出プロセスを体系的に捉えることで、BPRによる業務改善の効果を評価できます。
- Acquisition(獲得):新規顧客の開拓
- Activation(活性化):サービス利用の促進
- Retention(継続):継続的な取引関係の構築
- Referral(紹介):サービスの紹介
- Revenue(収益):最終的な収益化
「獲得→活性化→継続→紹介→収益」という5つの段階それぞれで、業務プロセスの改善がどのような影響を与えているかを確認します。顧客との関係性を段階的に分析することで、BPRの効果をより包括的に把握することが可能です。
7. 4P分析
マーケティングの基本となる以下4つの要素から、業務改善の効果を総合的に評価する手法です。
- 製品(Product):商品、サービスの品質や特徴
- 価格(Price):価格設定や収益性
- 流通(Place):販売チャネルや配送方法
- 販促(Promotion):広告宣伝や営業活動
BPRの結果、改善された業務プロセスが市場にどのような影響を与えるかを評価する際に有用です。
BPRの成功事例
BPRに成功した3つの事例を紹介します。
「問いかけ」がBPR成功につながったブリヂストンの事例
世界最大手のタイヤメーカー、ブリヂストンは、設計者がドキュメント作成などの付随業務に時間を取られていた課題に対し、以下の施策をBPRとして実施しました。
- 設計業務の可視化と標準化
- 専門技術を活用したBPO(EPO:Engineering Process Outsourcing)の導入
- データベース構築による試験情報の一元管理
- 自動化ツールの導入
「なぜ高度な技術を持つ設計者が、データ入力や資料作成に時間を取られているのか」という問いかけから始まった改革により、設計開発業務の効率が約15%向上しました。年間3万8,000時間もの時間創出もでき、設計者が本来の「企画開発業務」に注力できるようになったそうです。他部門へも波及し、全社的な改革の推進力となっています。
出典:transCosmos|株式会社ブリヂストン
「組織の簡素化」でBPRに成功したLIXILの事例
住宅設備の製造販売メーカーであるLIXIL(リクシル)のBPR事例は、「組織の複雑さ」という大企業の課題に真正面から取り組んだ好例です。
3階層あった営業組織を2階層に減らし、意思決定の速度を上げました。また、バラバラだった本社機能(財務経理や人事など)を一本化します。画期的だったのは、営業部門と事業部門の指揮命令系統を一本化し、開発、生産、販売の連携を強化したことです。これにより意思決定の迅速化と効率的な事業運営が可能になりました。
出典:LIXIL|PRESS RELEASE株式会社 LIXILグループ(2020年3月23日)
リモート窓口でサービス向上を実現した結城市のBPR事例
茨城県結城市では、本庁舎と3か所の出張所をテレビ会議システムで結び、住民サービスの改善に成功しました。従来は専門的な相談のために本庁舎まで出向く必要があり、「職員の顔を見ながら相談したい」という住民ニーズにも応えられていませんでした。
そこで、各出張所にプライバシーに配慮した専用ブースを設置し、保健、税務、福祉、子育て分野の相談をオンラインで可能にしました。結果、本庁舎への移動負担が解消され、職員の顔が見られて安心といった住民の声も届くようになります。コロナ禍での接触機会削減にも貢献し、住民満足度を高めたBPRの好事例です。
出典:総務省|地方公共団体における行政改革の取組(令和5年5月公表)
企業の「食事補助をデジタル化」福利厚生のBPR事例も紹介
従来、企業の食事補助といえば、社員食堂の運営や食券の発行が一般的でした。エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、食事補助の仕組みを専用のICカード1枚でデジタル化し、全国25万店舗以上のコンビニやファミレスで利用できる新しい福利厚生の形を提案します。
導入企業のメリットとしては、運営コストの削減(社員食堂不要)、管理業務の簡素化(月1回のチャージのみ)、食事補助の非課税枠の活用(福利厚生費として経費計上可能)です。従業員も一定の利用条件下において補助金額が非課税枠で活用できるので、毎日のランチが充実し、勤務形態に関係なく公平に利用できます。
ICカード決済型の「チケットレストラン」は、従来の食事補助の仕組みを見直す企業にとって、業務効率化とコスト削減、そして従業員満足度向上を実現する新しい選択肢となっています。また、専用アプリでは、購入履歴や残高を確認することができ、加盟店検索をすることができます。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
BPRへの取り組みで持続可能な企業へ
BPRは、業務プロセスの根本的な見直しを通じて、組織の持続的な成長を実現する有効なアプローチです。本記事で紹介した通り、製造業から自治体まで、さまざまな組織でBPRによる改革が成果を上げています。
BPRの取り組みは、福利厚生の分野でも可能性を秘めています。紹介した事例の中でも、「チケットレストラン」による食の福利厚生サービスのデジタル化は、従来型の社員食堂運営からの改革を実現しています。BPR推進の一助として「チケットレストラン」の導入を検討してみませんか。