監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
ワークライフバランスとは仕事と生活を調和させることです。実現するには、どのような取り組みが必要なのでしょうか?これから取り組む企業で生かせるよう、実際の取り組み事例を紹介します。併せてワークライフバランスを実現することによるメリットや、ワークライフバランスが注目されている理由についてもチェックしていきましょう。
企業ごとのワークライフバランスの取り組み事例
内閣府では仕事と生活の調和を目指す、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みを実施しています。その一環として行っているのが、ワークライフバランスの推進を目指す国民運動「カエル!ジャパン」キャンペーンです。2022年11月時点で3,500件を超える企業や行政機関・個人などが賛同している同キャンペーンでは、取り組み事例も紹介しています。ここでは「カエル!ジャパン」キャンペーンで紹介されている取り組み事例を見ていきましょう。
参考:「仕事と生活の調和」推進サイト|「カエル!ジャパン」キャンペーン
株式会社ブリヂストン
タイヤ・ゴルフ用品・加工品などを手がける株式会社ブリヂストンでは、多種多様な人材が活躍できるようダイバーシティをバックアップしています。
どのような人でも働きやすい環境を整備する一環として実施しているのが、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みです。
多様な働き方を選択しやすいよう、テレワーク制度や短時間勤務制度を整え、そのときどきに最適な仕事と生活のバランスを実現できるよう支援しています。「育児休職者セミナー」や「介護セミナー」などで、仕事への復職や両立に向けたサポートも実施中です。
住友商事株式会社
住友商事株式会社では、従業員の生活全体が充実することで、価値をつくる原動力になると考えています。そのために働き方の選択肢を複数用意しているのが特徴です。
コアタイムを設定しない「スーパーフレックス」は、5:00~22:00の間であれば、始業時間も終業時間も自由に決められる制度です。従業員一人ひとりのライフスタイルに合う働き方につながり、パフォーマンス向上も期待できます。
自宅と企業が契約しているサテライトオフィスを使用して働ける「テレワーク」を出社と組み合わせることで、ベストな働き方を目指すことも可能です。
東日本旅客鉄道株式会社
2012年に「ワーク・ライフ・バランス大賞」を受賞している東日本旅客鉄道株式会社では、育児や介護によるライフスタイルの変化に対応しやすいよう、両立支援を充実させています。
例えば「短時間勤務」では3歳までの子どものいる従業員は日中の6時間勤務が可能です。「短日数勤務」を選べば、小学3年生までの子どものいる従業員は、月4日の休日を取得できます。
株式会社サタケ
食品産業総合機械やプラント設備などを手がける株式会社サタケは、働きやすい職場づくりを目指して、仕事と家庭の両立支援を行っています。働きやすい職場づくりを実践するために「次世代育成支援計画」を策定し、段階的に取り組んでいるのも特徴です。
また導入した制度が社内に根付き従業員の利用が促進するよう、オリジナルポスターを作成・掲示する啓蒙活動も行っています。
株式会社ダイヤアクセス
株式会社ダイヤアクセスでは、従業員が仕事も家庭も充実させられるよう、ワークライフバランスの実現に取り組んでいます。
例えば育児休業の推進を行うときには、まず従業員へ育児に関する制度の周知を行うことから始めました。さらにアンケートを実施し、従業員が求める働きやすい環境の実現につながる制度を策定しているそうです。
同時にノー残業デーの促進にも取り組みました。残業に事前申請が必要な制度を導入し、目標を決めて改善しているそうです。
その結果、大阪市の「きらめき企業賞」や「大阪市女性活躍リーディングカンパニー」認証を受けています。
名工建設株式会社
建設業を営む名工建設株式会社はワークライフバランスの実現に向けて、まず従業員の意識改革に取り組みました。ポスターの掲示やワッペンの配布によって「働き方を工夫して早く帰ろう」という意欲を高める目的があります。
加えて休暇を取得しやすくなるよう制度の工夫も実施中です。施行現場の竣工までは土曜も稼働日となるため、週末の連休が取りづらくなってしまいます。その代わり実施しているのが、竣工後のリフレッシュ休暇や月に2回土曜日を閉所日とする取り組みです。
業界の事情に合わせた制度づくりで、働きやすい職場づくりを目指しています。
豊田通商株式会社
長時間労働削減を基本方針としている豊田通商株式会社では、勤務管理システムを導入し従業員の勤務時間を把握しています。残業時間の削減に向けて、20:00に一斉消灯する取り組みを実施中です。
また月1回の有給休暇取得を呼びかけており、2023年3月には66.1%が取得しています。育児との両立支援では、休暇制度を整えると同時に、両立に向けた情報発信を行い、情報交換を促進しているのも特徴です。
社会福祉法人ゆたか福祉会
人材の確保や定着を目的にワークライフバランスの実現に取り組んでいるのは、社会福祉法人ゆたか福祉会です。社内アンケートを実施し、従業員が望む支援を受けられるよう制度を充実させています。
育児や介護に関する取り組みでは、育児休業中に育児休業給付金と合わせて給与の約8割を受け取れるよう保障し、小学校入学まで利用できる育児時短勤務制度や所定外労働の免除制度などを設けました。
年次有給休暇を取得しやすい雰囲気づくりにも取り組んでいます。
NECソリューションイノベータ株式会社
NECソリューションイノベータ株式会社が、タイムマネジメントによってワークライフバランスを実現できるよう、従業員に呼びかけ始めたのは2007年です。その後2018年の働き方改革関連法案設立を受け、残業時間の社内基準とチェックシステムを導入しました。
法的基準を超えそうな場合にはアラートによって知らされるため、適切な管理が可能になっています。有給休暇取得も年間20日以上の取得を目標としており、実現に向けて従業員へ呼びかけを実施中です。
三州製菓株式会社
従業員の約80%が女性の三州製菓株式会社では、スキルを持つ女性が結婚・出産などを理由に退職することを大きな損失ととらえ、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みを開始しました。
年次有給休暇の取得促進に向けて5日連続休暇を年2回取得するよう計画し、それを企業が配布する手帳に記載しています。またノー残業デーを設けて残業時間を減らす取り組みも実施中です。
これらのスムーズな実現を目的に、従業員同士がフォローし合える体制を目指し、担当以外に2つ以上の業務を習得する「一人三役制度」にも取り組んでいます。
茅沼建設工業株式会社
建設業は他の業種と比べて残業時間が長い傾向があります。加えてもともと炭坑地域であった茅沼村に根差す企業で「長時間労働は良いこと」といった風潮がありました。
このような状況でワークライフバランスの実現を目指すため、担当部長から根気強く有給休暇の取得や残業時間削減の必要性を説明したそうです。
加えて育児中の従業員がいたこともあり、家庭との両立を目的とした休暇制度や、時短勤務制度が浸透していきました。
実際に残業時間を減らし必要な休暇を取得できるよう、企業は業務が1つの時期に集中しすぎないよう、受注のタイミングをずらすといった工夫で、業務平準化にも取り組んでいます。
社会福祉法人寿栄会
夜勤もある介護現場の仕事は、妊娠・出産をきっかけに退職する女性が多くいます。社会福祉法人寿栄会ではこの状況を問題視し、職場風土改革に取り組みました。
実施したのはリーダーに対する労務管理の教育です。これによりリーダーが長期休暇を取得できるようになり、さらに産前産後休業や育児休業を取得しやすい雰囲気づくりができました。
具体的な施策として、週2日のノー残業デーや、計画的な年休取得、育児休業の5日間有給化などを実施しています。
株式会社オーシスマップ
長時間労働が常態化している測量業界で、残業を削減し若い世代の定着を目指したいと考えた株式会社オーシスマップでは、定時退社を実現するために残業を申請制にしました。
同時に定時退社の重要性を繰り返し伝えることで、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みが定着してきています。
ノー残業デーの他に取り組んでいるのは、全従業員のスケジュールの共有です。ここでは仕事のスケジュールに加えて、家族の行事や誕生日なども共有しています。
このような取り組みが実際に残業時間の削減につながったことで、「ひょうご仕事と生活のバランス企業表彰」などを受け、スムーズな採用活動や定着につながっているそうです。
株式会社ツナグ・ソリューションズ
採用コンサルティングを営む株式会社ツナグ・ソリューションズでは、自社の取り組みを社外へ発信できるよう「従業員が辞めない職場とは?」を考え、以下のようなユニークな特別休暇を設けました。
- 大切な人の誕生日に取得でき1万円までのプレゼント代が支給される「LOVE休暇」
- 最大10万円の勉強費が支給され5日間まで取得できる「勉強休暇」
- 5,000円を限度にチケット代が支給され年2回取得できる「カルチャー&エンタメ半休」
- 月1回取得できる「理美容半休」
これらの休暇が実際に取得できるものだということを周知し「休むことも仕事」という意識を浸透させていったそうです。
株式会社お仏壇のやまき
仏壇や墓石を扱う株式会社お仏壇のやまきでは、家族を亡くしたお客様の気持ちを汲むことが重要です。そこで従業員が自分自身の家族とより多くの時間を過ごせるよう、ワークライフバランスの実現に向けた取り組みを始めました。
具体的には販売に携わる従業員の多能職化を進め、店舗の仕事をひと通りできるようにしました。全員が全ての仕事をできるようになることで、休暇の取得が促進されたそうです。
加えて有給休暇を100%取得すると、ボーナス休暇と金一封が贈られるルールを策定することで、有給消化率100%を達成しました。
従業員満足度が高まることで、離職率の低下にもつながっています。
ワークライフバランスが注目されている理由
ワークライフバランスに注目が集まっているのは、企業が継続するために必要とされている取り組みだからです。具体的な理由について見ていきましょう。
人材不足を避けるため
16~64歳の生産年齢人口は、減少が続く予測です。総務省の「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によると、2065年には生産年齢人口が5,000万人を下回る見込みといわれています。
従業員が働きやすくなる仕組みづくりを行わなければ、十分な人材を獲得できなくなるかもしれません。ワークライフバランスの実現に向けた取り組みは、従業員の働きやすさを高めるための施策の1つです。
仕事と生活が調和した働き方ができる職場であれば、働きやすさからスムーズな採用につながりやすくなりますし、今いる従業員はライフステージの変化にかかわらず働き続けやすくなります。
関連記事:中小企業の人手不足の現状は?商工会議所の調査データをチェック
ダイバーシティを推進するため
ダイバーシティとは多様性のことです。1つの企業の中に、性別・人種・価値観などの異なる多種多様な人材が所属している状態を意味しています。
多種多様な人材が所属しているということは、可能な働き方が異なる点に注意が必要です。子育て中の人材にとって1日8時間の勤務時間は長すぎるかもしれませんし、病気の治療と仕事を両立している人は通院のために1週間に3日の休みが必要かもしれません。
異なる状況に置かれている人材の働きやすさを確保するためにも、ライフワークバランスの実現が重要です。
健康経営に取り組むため
従業員の健康管理を経営的な観点から戦略的に行うことを健康経営といいます。ワークライフバランスが実現できていない状況で、長時間労働や休日出勤が常態化していると、従業員は健康的な生活を送れません。
残業が続けば自炊する時間を取れず、コンビニ弁当や総菜・外食などに頼りがちになります。睡眠時間が十分取れないこともあるでしょう。そのような生活が続くことで、心身に影響を及ぼす従業員も出てくることが考えられます。
従業員の健康状態が悪化すると、仕事へのモチベーションや生産性が下がるかもしれません。病気に発展すれば休職が必要になることもあります。
企業の発展や存続のためにも、ワークライフバランスの実現が必要です。
関連記事:【健康経営のメリット・デメリット】なぜ必要か?取り組み方も解説
ワークライフバランスを実現するメリット
仕事と生活を調和させるライフワークバランスは、従業員の働きやすさを高めるだけではありません。ここではワークライフバランスの実現によって、企業が得られるメリットを紹介します。
業務効率化や生産性の向上
残業や休日出勤を行っている従業員がいるのは、定められている労働時間内で終わらないほど多くの業務があるからです。そのような状況からワークライフバランスを実現するには、業務効率化や生産性の向上が欠かせません。
今ある業務を洗い出し、無駄がないか確認し、減らせる業務はなくしていく必要があります。人が時間をかけて行っている業務を、システムに置き換えることも検討するとよいでしょう。
特定の部署や人材の残業が多いなら、業務の振り分けをし直すタイミングかもしれません。全体の負担が同じ程度になるよう振り分けることで、残業を減らせる可能性があります。
ワークライフバランス実現の過程で業務効率化や生産性の向上が実現すれば、より効率的に成果を出せる体制が実現可能です。
離職率の低下
ワークライフバランスを実現し労働時間や休日などの条件が従来より良くなると、従業員の働きやすさが高まります。働きやすい職場であれば「続けたい」と考える従業員が増えるでしょう。今いる従業員の離職を防げる可能性があります。
これまでの働き方ではライフステージの変化に対応できないから、といった理由で離職を選ぶ従業員も、ワークライフバランスが整えば仕事を続けられる可能性が高くなるでしょう。
離職率が下がれば、人材不足の解消にもつなげられます。
イメージアップ
企業のイメージアップにもワークライフバランスの実現が役立ちます。日々の仕事が定時で終わり、必要に応じて休暇の取得や時短勤務が可能な企業は「従業員思いの良い企業」といったイメージにつながりやすいものです。
採用活動を行うとき、このようなイメージを求職者に与えられていれば、他社と比べてスムーズに採用が進みやすくなります。
アピールにはワークライフバランスの認証制度を用いるのも効果的です。認証制度には「安全衛生優良企業認定 ホワイトマーク」「ユースエール認定」「えるぼし認定」などがあります。
従業員の働きやすさ向上には福利厚生の充実度アップも役立つ
仕事と生活が調和する働き方が実現できれば、従業員の働きやすさは各段に向上します。さらに従業員の働きやすさを高めるには、福利厚生の充実度を高める施策もおすすめです。
ただしどのような福利厚生を導入しても効果が出るわけではありません。働きやすさを高める目的で導入するなら、働く男女501人を対象に実施した「あったら嬉しい福利厚生に関する意識調査」を参考に従業員が喜ぶ福利厚生を導入しましょう。
ランキング |
あったら嬉しい福利厚生 |
1位 |
家賃補助・住宅手当 |
2位 |
特別休暇 |
3位 |
旅行・レジャーの優待 |
4位 |
社員食堂・食事補助 |
5位 |
スポーツクラブの利用補助 |
6位 |
資格取得・教育支援 |
7位 |
保養所 |
8位 |
生理休暇 |
9位 |
慶弔金の支給 |
10位 |
通勤手当 |
例えば4位にランクインしている食事補助を導入するなら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」がおすすめです。手間や費用を抑えつつ、従業員の昼食代をサポートできます。
物価高の影響で昼食代を節約する従業員もいる中、従業員の実質的な手取り額を増やすことにもつながる福利厚生です。
ワークライフバランスの取り組みで働きやすい職場づくりを
ワークライフバランスを実現する取り組みによって、企業は業務効率化や離職率の低下・イメージアップなどのメリットを得られます。
働きやすい職場になることで、従業員は「長く働き続けたい」と考えるでしょうし、子育てや闘病などで離職を余儀なくされてきた人も働き続けられるかもしれません。
さらに従業員の働きやすさを高めるには、福利厚生の充実度アップも検討すると効果的です。最小限の手間で導入や運営が可能な、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」なら、食事補助によって従業員の実質的な手取り額アップも実現できます。