人手不足やDX化の推進など、目まぐるしい変化を実感することが多い現在、企業がこの先も生き残るためには時代の変化に臨機応変に対応しなければなりません。資産である従業員に、新しい知識や技能を身につけてもらい、時代に応じて柔軟に業務を変化させていく必要があります。
この記事では「リスキリング」すなわち、企業が従業員に新しいスキルや技能を習得させることについて、注目されている理由やメリットを中心に解説していきます。リスキリングを成功させるためには、リスキリングへのモチベーションを高めることも大切です。従業員に喜ばれる福利厚生も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
リスキリングの意味
リスキリングとは、企業が従業員に新しいスキルを習得させたり、既存のスキルを強化させることです。人間の仕事をAIやロボットが行うようになればなるほど、既存業務の量が減り、業務の質や内容も変化します。人間が新たに習得すべき技術を、業務時間内に学ばせるのがリスキリングです。
なお、英語では「reskilling」と表記します。受動態であることもリスキリングの概念を捉えるためのポイントです。スキルを学ばせるための主語は企業で、スキルを習得させられるのは従業員となります。
リスキリングとリカレント教育の違い
- リスキリング:企業が業務と並行して、従業員の新たなスキルを向上させること
- リカレント教育:自ら希望した従業員が、就労と業務から離れる学習を繰り返してスキルを学ぶこと
リスキリングと似ている言葉として、リカレント教育があることも押さえておきましょう。リカレント教育とは、自らの希望により、業務から離れて大学や専門学校などの教育機関で学び、スキルを身につけることです。生涯にわたって労働と学習のサイクルを交互に行います。
リスキリングの場合、スキルを学ぶ点ではリカレント教育と同様ですが、業務と並行しながら必要なスキルを身につける点が大きく異なります。
リスキリングが必要な理由
リスキリングが重視されるようになった背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)への意識の高まりがあります。DXとは「ビジネス環境の変化への対応策として、デジタル技術の活用を前提とする組織改革を行い、勝ち残れる競争力を高めておくこと」です。これからAIの躍進により、人間が行っている仕事は減ると言われています。2015年に発表された野村総合研究所のニュースリリースでは、日本の労働人口の49%が人工知能やロボットなどで技術上、代替可能と発表されました。同ニュースレポートでは「創造性、協調性が必要な業務や、非定型業務は、将来においても人が担う」と記されています。これから登場する社内の新しい仕事に就くためにも、その前段階としての学び、すなわちリスキリングが必要になるでしょう。
出典:2015年野村総合研究所ニュースリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボットで代替可能に」
リスキリングが注目されている理由
リスキリングへの注目度が上がった理由として、世界的な会議で議題に上る、政府が支援に前向きの意を示す、などによる影響があります。
▼2020年のダボス会議
2020年の世界経済フォーラムの年次総会である「ダボス会議」での主要な議題は「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」でした。リスキリング革命では、第4次産業革命(※)に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために「2030年までに全世界で10億人により良い教育・スキル・仕事を提供する」というイニシアチブを取っていきます。なお、ダボス会議での議論をきっかけに、政府側より日本でリスキリングを推進する動きが強まります。
※第4次産業革命:「IoT(モノのインターネット)」「ビッグデータ」「AI(人工知能)」によって引き起こされる技術革新
参考:一般財団法人日本能率協会コラム|『リスキル革命』~ダボス会議で「2030年までに10億人のリスキル」が提唱
▼人材版伊藤レポート
経済産業省が2022年5月に公表した「人材版伊藤レポート2.0」では「リスキル・学び直しのための取り組み」を課題としました。経営環境の急速な変化への対応として、従業員が将来を見据えて自律的にキャリア形成できるよう学び直しを支援することを重視しています。意欲的に取り組めるような企業の支援体制についても肝要という表現で強調しました。
参考:令和4年5月経済産業省「人材版伊藤レポート2.0」
▼岸田総理によるリスキリング支援への表明
岸田総理は、2022年8月に開催された「日経リスキリングサミット2023」(日本経済新聞社主催)にて、ビデオメッセージで官民が連携してリスキリングを広げる重要性を訴えました。10月の所信表明演説でも、個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じることを表明しています。
参考:日経新聞電子版「リスキリング支援『5年で1兆円』岸田首相が所信表明」
企業がリスキリングに取り組むメリット
ここからは企業がリスキリングに積極的に取り組むことで得られるメリットを詳しく解説していきます。
1.業務生産性の向上
人的作業で行っていた業務のデジタル化が進めば、生産性を高められ、工数が削減できます。社内のほかの業務にも時間を割けるようになれば、別の企画を立ち上げる機会も増やせるかもしれません。業務生産性の向上とともに、売上の向上も期待できます。
2.事業拡大への期待
これまでの業務経験、既存のスキル、リスキリングで習得した新しいスキルとを合わせ持った従業員は、これまでとは違った視点・発想で業務に携われるようになるでしょう。新しいアイデアが浮かぶ可能性も高まります。既存の事業の拡大や新規事業の立ち上げなどにつながるのがメリットです。
3.人材不足への対処
総務省令和3年「情報通信白書」によるとDX推進において、担い手となるデジタル人材が不足していることを課題視している企業は53.1%でした。内部の人材にリスキリングを行い、DXなど企業の生き残りに対応できるスキルを身につけてもらうのは、企業にとって理にかなった選択肢といえます。
また、専門性の高いスキルを持った人材を外部調達すると高コストになりがちです。リスキリングでスキルを磨いた従業員を育成しておけば、新規事業の立ち上げの局面で、社内異動を発令してスムーズに適任の人材を充当できます。採用・人材コスト削減の観点でも、リスキリングは企業にとってメリットです。
参考:総務省令和3年「情報通信白書」第1部第2節「企業活動におけるデジタル・トランスフォーメーションの現状と課題」
4.社内業務の知識がある人材に活躍してもらえる
社内業務に精通している人材が既存の知識・経験・社内の人脈を活かせるのもリスキリングのメリットです。既存の業務に精通している人材は、社内のルール・やりとりに馴染む時間がかかりません。スキルに特化して新規採用した人材の場合、どれほど優秀な人材であっても社内業務の理解にある程度時間がかかります。
5.従業員エンゲージメント向上
従業員に学びの機会を提供し、キャリア形成をサポートできるリスキリングには、従業員エンゲージメントを向上させる効果も期待できます。従業員エンゲージメントが高い従業員は、企業の向かう方向性に共感し、企業と共に業績向上に向けて自発的に貢献したいと自然と感じやすいそうです。従業員エンゲージメントが向上すると、業務へのやる気や意欲が高まるため、生産性も向上すると言われています。
企業がリスキリングに取り組むデメリット
リスキリングは、取り組みたくなるメリットが多数ありますが、一方でデメリットもあることも理解しておく必要があります。
1.導入で増える企業の業務負荷
リスキリングに取り組むデメリットとして避けられないのが、導入により増える企業の業務負担です。リスキリングでは、従業員に学びの機会を提供するため、人事や経営と連携して施策を考案する必要があります。リスキリングは業務時間内に行うため、既存業務を圧迫する可能性についても無視できません。残った従業員に業務上の負荷がかからないように、事前に調整することも大切です。
2.導入で増える企業の費用負担
社内で持っているスキル以外を学ぶことから、リスキリングでは外部の専門家に依頼することが多いようです。以下のような学習方法から、目的と予算に合う方法を吟味して選びましょう。
- 研修
- オンライン講座
- 社会人大学
- eラーニング
3.従業員による学びへのストレス
新しいことを学ぶことには多少のストレスが伴います。主体的に学んでいる意識が低い従業員であれば、なおさらです。ストレスや業務負担など、学びへのモチベーションが維持しにくい点については、念頭に置いておく必要があります。
リスキリングの導入で活用できる補助金・助成金
岸田総理の表明のとおり、官民一体でのリスキリングが推進されています。リスキリング導入に向けて活用できる補助金を3つ紹介しますので、ぜひ有効活用してください。
企業向け|人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は厚生労働省管轄で、全国の法人企業向けの助成金です。コースはデジタル分野以外も含めて合計7つあります。リスキリングが対象となるコースは以下の2つです。
- 人への投資促進コース:高度デジタル人材の育成を支援
- 事業展開等リスキリング支援コース:新事業進出・デジタル化などを支援
事業展開等リスキリング支援コース、および、人への投資促進コースの高度デジタル人材訓練の主な助成額は以下のとおりです。※実訓練時間数に応じて助成限度額あり
- 助成額(中小企業):経費助成率75%、賃金助成額960円
- 助成額(中小企業以外):経費助成率60%、賃金助成額480円
▼厚生労働省による人材開発支援金YouTube動画解説はこちら
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金人への投資促進コースのご案内(詳細版)」
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」
都内中小企業向け|DXリスキリング助成金
DXリスキリング助成金は、東京都管轄による都内の中小企業や個人事業主を対象とした助成金です。従業員に対して、民間の教育機関が運営しているDX講座を受講させたときに、経費の一部を都が助成します。助成率・上限額・訓練時間は以下のとおりです。
- 助成率:3分の2
- 上限額:64万円
- 訓練時間:20時間以上
参考:東京都「DXリスキリング助成金募集」
個人向け補助金|経済産業省「キャリアップ支援事業」
キャリアアップ支援事業は、経済産業省による個人向けの補助金です。転職を実現し、継続就業するという条件が整った場合に、最大56万円の補助が受けられます。利用の流れやサービス内容は、以下のとおりです。
- 無料のキャリア相談:これまでの経験に適したリスキリング講座を検討
- リスキリング:講座の受講
- 無料の転職支援:リスキリングで習得したスキルにマッチする職業への就職支援
助成額については以下のとおりです。
- リスキリング講座の受講修了:講座受講費用の2分の1相当額(上限40万円)
- 転職し、その後1年間継続的に転職先に就業:講座の受講費用の5分の1相当額(上限16万円)
リスキリングの進め方
ここからは、企業でリスキリングを進める方法について解説します。
STEP1:今後の事業に必要なスキルを定める
従業員にリスキリングを行うまえに、今後自社に必要なスキルを定めましょう。リスキリングはそれ自体が目的ではなく、リスキリングの先にある企業の目的を達成するための手段です。
STEP2:教育方法を決定する
リスキリングには、いくつかの方法があります。講師を招いての研修・オンライン研修・オンライン講座・eラーニングなど実にさまざまです。従業員の業務スタイルに合う学習方法をいくつか選択できると、従業員の学びを促せます。
STEP3:学びを実施する
教育プログラムを決めたら、従業員に学びを実施しましょう。デメリットでも紹介しましたが、業務と並行しつつ、新しいスキルを身につけるリスキリングは、従業員に大小ストレスを生じさせるかもしれません。面談やアンケートなどでストレス状態を確認し、前向きに取り組めているかチェックすることも重要です。
STEP4:学びを業務で活かす
最終ステップでは、これまでにリスキリングで学んだスキルを今後の業務に活かします。リスキリングで習得したスキルは、上司や周りの従業員に積極的にアピールできるのが理想的です。実務で活用できなければ、企業も従業員もリスキリングに投じた労力が報われません。
リスキリングの方法
リスキリングの形式として「オンライン研修」「eラーニング」「企業内大学・社内大学」「ワークショップ」の4つを紹介します。
1.オンライン研修
オンライン研修は、新型コロナウイルス感染症の流行で一段と増えました。オンライン研修サービスを提供する企業自体も増えています。自席やテレワーク中の自宅で研修が受けられるのがオンライン研修のメリットです。
2.eラーニング
eラーニングの「e」とは、electronicの略称です。学びを電子化したもの、つまり、パソコン・タブレット・スマートフォンなどを用いながら、時間や場所を選ばずにインターネットを利用して学べるのがeラーニングの特徴であり、メリットです。スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスで学習できることから、多くの利用者がスマートデバイスで学ぶように変化するようになりました。スマートデバイスの普及とともに、eラーニングの利便性は再注目されています。
参考:デジタル・ナレッジ「eラーニングとは」
3.企業内大学・社内大学
企業内大学・社内大学とは、公的な大学ではなく、従業員の教育を目的として社内に大学のような機能・部署を作ることです。学習形式は、オンラインの場合もリアルの場合もあり、企業ごとに異なります。以下に紹介する事例も参考にしてください。
企業名 | 内容 |
日本マクドナルド株式会社「ハンバーガー大学」 | ・年間約10,000人の受講者がハンバーガー大学を卒業
・楽しみながら必要なスキルに自然に気づけるカリキュラムで人材を育成。 |
博報堂「HAKUHODO UNIV.」 | ・2005年4月設立
・年間200講座以上を提供 |
株式会社資生堂「エコール資生堂」 | ・2007年開始
・全従業員を対象に専門的なスキル習得を推進し人材を育成 |
4.ワークショップ
ワークショップは、参加者主体の学習形式です。ワークショップ型研修では、グループディスカッションや共同作業などを実施します。参加者同士が能動的にコミュニケーションを取りあうことに重きを置いた研修です。
リスキリングの導入事例
ここからはリスキリングの導入事例を紹介します。リスキリングの導入事例には、大企業が多いことにも注目してください。
企業名 | 内容 |
日立製作所 | ・2019年4月日立アカデミーを設立しDX教育を実施
・2022年10月AIを駆使し従業員のリスキリングを促すシステム「学習体験プラットフォーム(LXP)」を導入 |
三井住友フィナンシャルグループ | ・2016年デジタルIT専門教育組織として「デジタルユニバーシティ」を発足
・2021年「SMBCグループ全従業員向けデジタル変革プログラム」というデジタル研修を実施 |
サッポロホールディングス株式会社 | ・2022年2月「全社員DX化人材化」を目標とする「DX・IT人財育成プログラム」をスタートし、DX・IT人財育成プログラムを始動 |
あおぞら銀行 | ・2021年4月全行員対象の「デジタル人材育成プログラム」をスタートしDX教育を実施 |
JFEスチール株式会社 | ・2019年データサイエンティスト育成プログラム構築 |
トラスコ中山株式会社 | ・ビジネスに精通した人材をデジタル戦略本部と他部署を相互異動させることでデジタル人材を育成 |
株式会社メルカリ | ・希望する従業員を対象に、博士課程進学を支援する「mercari R4D PhD Support Program」という制度を開始 |
Z HOLDINGS(現LINEヤフー株式会社) | ・全従業員向けに文理両軸でAI人材を育成する「Z AIアカデミア」を発足し提供
・座学・ワークショップ・グループ人材の交流会を通して、参加者の知識向上を促す |
中小企業ではリスキリングが進んでいない現状にも注目
リスキリングの導入事例では、DX化に力を入れたリスキリングがよく見られることや、有名な大企業の事例が多いことなどがわかりました。事例で少なかったことから想像しやすいかもしれませんが、中小企業では大企業ほどリスキリングが進んでいないようです。フォーバルGDXリサーチ研究所が2023年1月〜2月にかけて、全国の中小企業経営者に実施したWebアンケート「中小企業のDXに関する実態調査第三弾」をみてみましょう。中小企業のリスキリングへの取り組みについて、現状がわかります。
アンケートによると「リスキリングとは何か知っていますか」という質問に対して、「聞いたことはあるがよく知らない」と「知らない」の合計が約6割となったそうです。
参照:2023年1月〜2月実施フォーバルGDXリサーチ研究所Webアンケート「中小企業のDXに関する実態調査第三弾」
また、「今後リスキリングへの取り組みや支援を行っていますか」という質問に対して、約9割が現状できていない結果になりました。リスキリングを行っている企業は、わずか7.6%です。人材開発支援助成金などの中小企業向けの助成金は支給割合が大手企業よりも高いことも紹介していますが、今後はよりいっそう、中小企業がリスキリングに前向きに取り組めるよう政府が促す必要性を感じさせます。
参照:2023年1月〜2月実施フォーバルGDXリサーチ研究所Webアンケート「中小企業のDXに関する実態調査第三弾」
リスキリング成功に向けて企業ができること
リスキリングを成功させたい企業は、従業員が学びへのモチベーションを保ちやすいような魅力的な職場環境かどうかに目を向けてみましょう。学びへのモチベーションを高めるには、従業員エンゲージメントを向上させ、企業と理念を共有し業務で貢献したいと感じてもらうことが大切です。そのためには、従業員満足度を向上させ、これからも長く働きたいと感じてもらう必要があります。
従業員満足度を向上させるために、従業員が嬉しいと思える福利厚生を充実させるのはいかがでしょうか。ここからは従業員が導入効果を実感しやすい食事補助スタイルの福利厚生を紹介します。
従業員満足度向上に貢献する「チケットレストラン」とは?
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、専用のICカードを従業員に配布し、食事代を提供できる福利厚生です。全国のコンビニ・カフェ・チェーン店など25万店舗以上の提携店舗で利用でき、専用のICカードで支払いを済ませると実質食事代を半額で済ませられます。勤務スタイルも勤務時間にも影響されず、全従業員が公平に利用できる点が「チケットレストラン」のメリットです。これまで食事補助が難しかった職種の方にも食事補助によるサービスを提供できるようになります。利便性が高いことや、全従業員が利用できることが評価され、導入後の従業員満足度は93%を誇っています。
継続的なインフレ手当としての「チケットレストラン」
チケットレストランは、一定の条件を満たすことで福利厚生として利用できるため、企業にも経費節減という導入メリットがあります。導入後は、月に1度チャージ作業で運用可能で業務の負担になりません。長期的に提供できる仕組みが整っており、昨今注目されているインフレ手当としても充当できます。利用率98%・継続率99%、そして従業員満足度も93%、企業にも従業員にもメリットがある食の福利厚生です。
リスキリングで人材を有効活用!従業員のモチベーションアップも大切に
DX化が進みつつある今、リスキリングは企業が避けて通れない取り組みとなっています。従業員が前向きにリスキリングに取り組める企業になるためには、従業員エンゲージメントを高く保つことにも目を向けていくことになります。従業員が満足できる「チケットレストラン」のような福利厚生の導入により、学びへのモチベーションを高めていけば、リスキリングの成功が見えてくるでしょう。