2025年の賃上げの平均は、どの程度の水準で推移するのでしょうか。2024年の春季労使交渉では、33年ぶりとなる5%台の賃上げが実現し、2025年も同水準以上の賃上げが見込まれています。本記事では、厚生労働省や連合、経団連が公開しているデータをもとに、2025年の賃上げ見通しと企業に求められる対応策について解説しています。具体的な賃上げの手順や準備に加え、賃上げが難しい場合の代替策も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
2024年の賃上げ平均実績から見る最新動向
2025年の賃上げ平均について考えるにあたり、あらかじめ知っておきたいのが2024年の賃上げ実績です。ここでは「厚生労働省」「連合(日本労働組合総連合会)」「経団連」が公開している資料をもとに、2024年の賃上げの実態を解説します。
【厚生労働省】民間主要企業の春季賃上げ要求・妥結状況
厚生労働省は、2024年8月2日「令和6年 民間主要企業の春季賃上げ要求・妥結状況」を公開しました。これは、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の、労働組合のある企業348社を対象に行われた調査です。
同調査によると、2024年の賃上げの平均妥結額は17,415円で、前年の11,245円から実に6,170円の大幅な増加となりました。賃上げ率は5.33%となり、1991年以来33年ぶりに5%台を記録しています。
業種別の賃上げ実態
業種別の賃上げ状況を詳しく見ていくと、もっとも高い賃上げ率を記録したのは鉄鋼業で、12.49%という際立った数字となっています。続いて造船が6.53%、機械が6.45%と続いています。
また、産業別の平均妥結額を見ると、もっとも高い鉄鋼が37,090円・もっとも低い運輸で9,829円でした。差額は約28,000円と、業種による差が明確に表れる結果となっています。
【連合】2024春季生活闘争|最終回答集計結果
連合が2024年7月3日に公開した「第7回(最終)回答集計」によると、集計組合数5,284社の平均賃上げ額は15,281円(前年10,560円)で、平均賃上げ率は5.10%でした。厚生労働省の調査と同じく、5%の大台に乗ったのは、1991年以来実に33年ぶりのことです。
このうち、昇給分とベースアップ分が明確に分かる組合3,639社に絞って見ると、平均賃上げ額は15,818円(内ベースアップ分10,694円)・賃上げ率は5.20%(内ベースアップ分3.56%)でした。
また、有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額は、加重平均で時給62.70円(前年比+9.92円)・月給10,869円(前年比+4,041円)です。概算の引き上げ率はそれぞれ 5.74%・4.98%となり、時給で見ると一般組合員(平均賃金方式)を上回る結果となっています。
【経団連】2024年春季労使交渉|業種別妥結結果
経団連は、2024年8月に「大手企業業種別妥結結果(加重平均)」「中小企業業種別妥結結果(加重平均)」という企業規模別の「春季労使交渉妥結結果」を公開しました。
大手企業業種別妥結結果(加重平均)
2024年8月5日に発表された「2024年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)」によると、賃上げ率は5.58%・平均引き上げ額は19,210円と、高水準にあることが分かります。
この調査は、原則として従業員500人以上・主要22業種大手244社を対象に行われました。妥結が把握できたのは、このうち22業種186社(76.2%)ですが、うち51社は平均額不明などのため集計より除外されています。
参考:経団連|2024年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果 (2024-08-05)
中小企業業種別妥結結果(加重平均)
2024年8月30日に発表された「2024年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(加重平均)」によると、平均妥結額は10,712円・賃上げ率は4.01%でした。
この調査は、原則従業員数500人未満の17業種754社を対象に実施されました。そのうち、17業種389社(51.6%)の妥結が把握できたものの、うち14社は平均金額不明等のため集計から除外されています。
参考:週刊 経団連タイムス|2024年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(最終集計) (2024年9月12日 No.3651)
2025年の賃上げ見通し
連合は、「2025 春季生活闘争基本構想」において、2024年に実現した5%台の賃上げの流れを継続・定着させる方針を示しています。ここでは、連合が掲げる具体的な要求指標と、企業規模間・雇用形態間の格差是正に向けた取り組みについて解説します。
2025年春闘の賃金要求指標
連合が掲げる2025年の賃上げ目標は、賃上げ分3%以上に定期昇給分(賃金カーブ維持相当分)を加えた5%以上となっています。
この目標設定の背景には、持続的な賃金上昇の定着を目指す狙いがあります。特徴的なのは、中小組合に対し、格差是正分を積極的に要求するよう促している点です。
具体的には、賃金実態が把握できない場合の目安として、格差是正分1%以上を加えた6%以上・18,000円以上を設定しています。この金額は、連合加盟組合の平均賃金水準(約30万円)を念頭に置いたもので、賃金カーブ維持分4,500円と格差是正を含む賃上げ分13,500円以上を合計した金額となっています。
格差の是正
2025年春闘における大きな特徴は、企業規模間と雇用形態間の格差是正を重要課題として位置づけている点です。連合は、具体的な数値目標を示すことで、賃金の「底上げ」「底支え」「格差是正」の実現を目指しています。それぞれの具体的な目標値を見ていきましょう。
企業規模間格差是正
連合が公開している「第7回(最終)回答集計」によると、2024年の春闘では、集計組合数5,284社の平均賃上げ額は15,281円(前年10,560円)で、平均賃上げ率は5.10%でした。
一方、次の表から分かるように、企業規模別に見るとその差は歴然です。
企業規模 (組合員数) |
平均賃上げ額 | 平均賃上げ率 |
300人未満 | 11,358円 | 4.45% |
300人以上 | 15,874円 | 5.19% |
この格差是正を目指し「2025 春季生活闘争基本構想」では、以下のように年齢別の最低到達目標水準が明確に設定されています。
中位数 |
第1四分位 |
|
35歳 |
303,000円 |
279,000円 |
30歳 |
252,000円 |
238,000円 |
この目標を通じ、中小企業における賃金水準の底上げが図られています。
雇用形態間格差是正
雇用形態間の格差是正については、正規雇用労働者と同等の能力を持つ有期・短時間・契約等で働く労働者の処遇改善に焦点を当てています。
具体的な目標として、経験年数5年以上の場合、時給1,400円以上を目指す旨が明記されました。また、全従業員を対象とした企業内最低賃金については、時給1,250円以上の水準を目指すとしています。
これらの目標は、同一労働同一賃金の観点からも重要な意味を持っています。
関連記事:【社労士監修】同一労働同一賃金とは?企業が知っておくべき基本と取り組み手順
賃上げが必要な理由
この数年、賃上げの必要性が強く叫ばれています。その背景にはいったい何があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
物価上昇と実質賃金の関係
消費者物価指数の上昇が続く中、社会的な懸念材料となっているのが、実質賃金の減少です。
2025年1月9日に公開された「毎月勤労統計調査 令和6年11月分結果速報」によると、労働者1人当たりの現金給与の総額は305,832円と、前年同月比で3.0%増加しています。
一方、物価の変動を反映した実質賃金を見ると、前の年の同じ月に比べて0.3%減少しています。これは、物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない現状を示すものです。
物価上昇率を上回る賃上げがなければ、従業員の実質的な購買力は低下します。実質的な賃下げとなり、生活基盤の安定性が失われることから、企業には物価の動向を考慮した賃金設定が求められているのです。
参考:厚生労働省|毎月勤労統計調査 令和6年11月分結果速報
人材確保・定着の課題
厚生労働省が発表している「職業安定業務統計」によると、有効求人倍率は継続的に1倍を超える水準で推移しており、多くの業種で人材確保が課題となっています。
特に深刻な状況にあるのが中小企業です。帝国データバンクの「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」によると、2024年度上半期に人手不足倒産した163件のうち、全体の82.2%を占めたのが従業員数10人未満の企業(134件)でした。また、残りの29件も従業員数10~49人の企業です。
中小企業に人材が集まらない理由として、まず考えられるのが賃金格差です。
実際に「令和5年賃金構造基本統計調査の概況」を見ると、同じ年齢層でも企業規模によって賃金に大きな違いがあることが分かります。
特に中小企業において賃上げは、人材確保、さらに企業の将来的な存続にかかわる重要な課題といえます。
大企業 | 中企業 | 小企業 | |
20〜24歳 | 234,000円 | 220,900円 | 214,700円 |
30〜34歳 | 307,300円 | 277,600円 | 269,000円 |
40〜44歳 | 373,400円 | 331,600円 | 306,600円 |
50〜54歳 | 417,400円 | 361,100円 | 330,000円 |
60〜64歳 | 313,800円 | 305,900円 | 298,800円 |
※常用労働者1,000人以上「大企業」・100~999人「中企業」・10~99人を「小企業」
参考:厚生労働省|職業安定業務統計
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)|(2024年10月4日)
参考:厚生労働省|令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況
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政労使による賃上げ推進の背景
連合の「2025春季生活闘争基本構想」では、四半世紀に及ぶ慢性デフレに終止符を打ち、動き始めた賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せることを重要課題として掲げています。
また、経団連の十倉会長は、2025年1月7日に開催された「経済三団体共催2025年新年祝賀パーティー」後の共同会見において「2023年に始まり、2024年に勢いを増した高水準の賃上げを、2025年は定着させる1年にしたい」との考えを述べました。
両者の方針は、政府の賃上げ促進政策とも共鳴するものです。企業の賃上げをサポートするため、政府は「賃上げ促進税制」「業務改善助成金」など、さまざま施策を提供しています。
これらの取り組みからも分かるように、現在の日本経済において、賃上げは政労使が共通認識を持って取り組むべき重要課題となっています。
参考:経団連:経済三団体共催2025年新年祝賀パーティー後の共同会見における十倉会長発言要旨 (2025-01-07)
関連記事:賃上げ促進税制の基本を分かりやすく解説!別表記載時の注意点も
賃上げ実施に向けた準備と検討事項
賃上げを実施する際は、計画的な準備と段階的な検討が重要です。以下、実務担当者が押さえておきたいポイントを6つのステップで解説します。
STEP1|自社の賃金状況の把握
全従業員の賃金分布・年齢別の賃金カーブ・同業他社との比較などを多角的に分析します。また、基本給と諸手当の構成比率・昇給や昇格の運用実態・職種別の賃金水準などを把握し、自社の賃金体系の特徴や課題を明確にしましょう。
STEP2|賃上げに伴うコストのシミュレーション
昇給対象者の人数や昇給額に基づく総額の試算・社会保険料の増加分・賞与や退職金への影響額を含めた包括的なコスト計算が必要です。中長期的な収支計画との整合性も確認し、企業の財務体力に見合った実現可能な計画を立てます。
STEP3|法令遵守の確認とリスクの回避
最低賃金との関係や、同一労働同一賃金の観点からの確認が必要です。就業規則の変更が必要な場合は、労働者の過半数代表からの意見聴取など、法定手続きを確実に実施しましょう。
STEP4|ステークホルダーとの協議と合意形成
労働組合や従業員代表との協議、取締役会や株主への説明を実施します。部門間での公平性の確保や、評価制度との整合性についても十分な協議が求められます。
STEP5|従業員への説明と納得感の醸成
賃上げの背景や目的・実施時期・具体的な金額について、全体説明会や部門別の説明会・個別面談など複数の機会を設けて説明します。期待役割の変更や新たな評価基準がある場合は、それらについても丁寧な説明が必要です。
STEP6|実施後の効果測定とフォローアップ
従業員満足度調査・離職率の変化・生産性指標の推移などを継続的にモニタリングし、必要に応じて改善を図ります。これらの分析結果は、次年度以降の賃金政策の立案や人事制度の改善に活用します。
賃上げが難しい場合はどうする?福利厚生の活用
政労使一体となって賃上げを推進する近年、人材の獲得や定着、そして自社の長期的な経営の安定を図る上で、賃上げは必要不可欠な施策です。
一方で中小企業を中心に、十分な資金が用意できず、思い切った賃上げに踏み切れない企業も少なくありません。
そこで注目したいのが、福利厚生を活用した実質的な賃上げです。
一定の条件を満たした福利厚生は、損金として経費計上できるため、企業の法人税を軽減する効果があります。また、従業員も非課税枠で運用ができるため、給与として同額を支給するよりも実質的な手取りを増やす効果があります。
つまり福利厚生は、従業員の実質手取りを増やしながら、企業の税負担も抑えられる魅力的な施策なのです。
参考記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」
福利厚生を利用した実質的な賃上げを検討・導入する企業の中で、近年特に注目を集めているサービスに、エデンレッドジャパンが提供する食事補助の福利厚生サービス「チケットレストラン」があります。
「チケットレストラン」は、一定の条件下で利用することにより、全国25万店以上の加盟店での食事が半額になる食事補助の福利厚生サービスです。
コンビニやファミレス・カフェなど選択肢が幅広く、勤務時間内であれば利用する時間や場所の制限もありません。
日常に欠かせない食費のサポートを通じて従業員の実質的な手取りを増やせる点が高く評価され、大企業に比べて大幅な賃上げが難しい中小企業に多く選ばれるサービスとなっています。
参考記事:「チケットレストラン」の仕組みを分かりやすく解説!選ばれる理由も
企業の実態に合わせた賃上げ施策の選択を
人手不足や物価高を背景に、平均的な賃上げ率・賃上げ額は2025年も上昇傾向にあります。賃上げは、いまや大多数の企業にとって重要な経営課題といっても過言ではありません。
一方で、大企業と比較して資金面に課題を抱えがちな中小企業では、賃上げそのものが難しいケースも多く見られます。こうしたケースでは「チケットレストラン」のような福利厚生の充実が効果的な選択肢のひとつとなるでしょう。
企業の現状を踏まえ、適切な賃上げ、もしくは賃上げ代替案の検討を進めてみてはいかがでしょうか。