「離職率をなんとか改善したい」「リテンションマネジメントって離職防止に効果があるの?」「対応方法は?」……優秀な社員の離職防止に頭を抱えている人事担当者もいるのではないでしょうか?
人材不足が深刻化しているなか、優秀な人材流出を防ぐための取り組みとして、リテンションマネジメントが注目されています。ここでは、リテンションマネジメントをわかりやすく解説するとともに、離職率を改善するヒントや具体策についてご紹介します。
リテンションマネジメントとは?
「リテンション(retention)」は、保持・維持と訳されます。人事領域では、「人材の確保」といった意味になり、企業にとって優秀な社員の離職防止をするための様々な取り組みを「リテンションマネジメント」といいます。高度成長期の終身雇用は終息し、条件などが合わなければ転職するという雇用の流動化が一般的になってきたことを背景に、優秀な人材の流出を防ぐための施策として、リテンションマネジメントは注目されています。
リテンションマネジメントを行うことで、従業員満足度(ES: Employee Satisfaction)が向上すると、優秀な人材の離職防止や新規獲得に繋がるメリットがあります。また、従業員はキャリア形成を図れるほか、企業にとっても人材の定着によって、ノウハウの蓄積や組織成長が図ることができるため、従業員と企業の双方にメリットがあると言えます。
リテンションマネジメントの方法とは?給与アップは効果的か?
・モチベーション理論に見るリテンションマネジメントの考え方
アメリカの臨床心理学者が提唱した「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論」において、「動機づけ要因」は、仕事の達成感、責任範囲の拡大、チャレンジングな仕事が挙げられ、具体的には、社内公募制などのキャリア支援、社内イベントなどの社内コミュニケーションの活発化、社内カンパニー制度の導入などです。
また、「衛生要因」は、企業方針、労働環境、給与などが挙げられ、労働環境や待遇の改善、納得感のある評価・給与体系への見直し、ワークライフバランスの見直しなどの施策が有効になります。
「動機づけ要因」は、対応することにより意欲を向上させることができますが、対応していなくてもすぐに不満につながるものではありません。他方、「衛生要因」は、対応することにより不満を解消できますが、意欲を高められるとは限りません。
リテンションマネジメントのポイントは、どちらか一つを行うのではなく、「衛生要因」の施策で不満を取り除き、そのうえで「動機づけ要因」の施策で意欲を高めることです。特に優秀な社員の離職防止には、「動機づけ要因」に挙げたキャリア支援によりキャリアパスを明示する、社内カンパニー制度などで早期に責任のあるポジションを任せることが有効です。
前述した内容から、「衛生要因」の施策である給与アップは、不満を取り除く要因であり意欲向上にはつながりにくいと言えます。そのため、「動機づけ要因」に不満を感じている社員には効果は期待できませんが、「衛生要因」に不満を感じている社員に対しては一定の効果が見込めるでしょう。たとえば、新型コロナウイルス感染症対策などにより職場環境に変化のあった従業員に対し、なんらかの福利厚生を追加すること、出社の有無や業務に関係なく全員に必要な食事について一定の補助を提供する、などが直近の施策の例としてあげられます。
リテンションマネジメントで離職率改善した例
【事例1】社員のキャリアプランや生涯設計に向けて各種人事制度の透明化に取り組む-株式会社マナベインテリアハーツ(小売業)-
株式会社マナベインテリアハーツでは、自己申告や店長クラスなどの会議で、以前から「キャリアプランが立てにくい」「生涯設計を立てるにはどのようにすれば給与が上がるのか示してほしい」といった要望もあり、「等級制度」「賃金制度」「評価制度」を見直しました。
特に「等級制度」では、それぞれの等級のスキル要件を定めることによって、自ら等級をあげるためにマスターしなければならない事項を明確化したことがポイントとなっています。また、主観や偏見が入らないように客観的な数字を使ったことが工夫点として挙げられています。
目指すキャリアのスキルを明確化することで、「動機づけ要因」に対応した例といえます。若手社員の離職防止には、キャリアを明確にすることが重要ですので、ぜひ参考にしてください。
【事例2】新入社員研修を整備した上で社員の意見を取り入れる仕組みを導入
-株式会社アルファイン(生活関連業)-
株式会社アルファインは、鹿児島でエステティック業を営んでおり、若手が一人前なる前に離職してしまうことが大きな問題となっていたことを背景に、「新入社員研修の見直し」「労働時間管理」「提案制度など」の見直し、導入を行っています。
提案制度では、自発性を促すことを目的に、店長会議に一部の社員も参加させてサービスや商品企画に提案できるようにしています。そのほか、従業員の自発性促進や社内交流を目的に、クリスマスパーティーや社内運動会など社内イベント企画をスタップで主導したことなどが工夫点として挙げられています。
従業員の自発性を促進させることで、「動機づけ要因」に対応した例と言えます。自発性を促す施策は優秀な社員の離職防止に有効なため、こちらも参考になるでしょう。
まとめ
これからリテンションマネジメントに取り組む企業は、考えうるすべてのリテンションマネジメントを行うのではなく、まずは社員のアンケートをとるなどでニーズを把握することが先決です。その上で、「衛生要因」を優先的に対応し、次のステップで「動機づけ要因」に着手するなど、優先順位をつけて着実に進めていくのがよいでしょう。
参考資料
「若者が定着する職場づくり 取組事例集」/ 厚生労働省