2024年は、6年に1度のタイミングで3制度(医療・介護・障害福祉)の報酬が改定される年となります。3つの制度の報酬が改定されればインパクトが大きいと予測されますが、少子高齢化・インフレなどを背景とし、2024年の診療報酬改定の注目度はかなり高い状況です。本記事では2024年の診療報酬改定について、厚生労働省による基本方針を踏まえつつ6つのポイントで解説していきます。
診療報酬改定とは?
医療機関で医療行為を受けるときに、その対価として支払う費用が診療報酬です。厚生労働大臣が定めた医療行為それぞれの点数を足しあげて算出できます。自己負担分は患者が支払い、残りは加入している医療保険者が支払う仕組みです。診療報酬改定では、医療サービスや医薬品の公的価格を見直します。
診療報酬は、「診療報酬本体」と「薬価」の2つの報酬から成り立ち、「診療報酬本体」は2年ごとに、「薬価」は市場価格次第で随時反映されます。
診療報酬改定の流れについても押さえておきましょう。内閣が決定した改定率を前提として、個々の価格は中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえ、最終的に厚生労働大臣が改定率を決定することで実施されます。
参照:厚生労働省「診療報酬改定の流れ」
診療報酬改定2024が注目される理由はトリプル改定
2024年は、医療・介護・障害福祉の3つの報酬が同時に改定される、6年に1度のトリプル改定の年です。医療は2年に1度、介護と障害福祉は3年に1度改定が実施されます。3つの制度間の調整が行われる可能性が高いトリプル改定の年は、大規模な改定となりえるため注目されます。また、医療環境を整えるための計画・改革として「第8次医療計画」「医師の働き方改革」が推進されている渦中であることも、注目を集める理由に加えられるでしょう。
診療報酬改定2024に向けてこれまで実施された協議
診療報酬改定2024では、医療と介護の連携の必要性を強く認識し、サービス向上を意識していることが伺われます。医療と介護の課題のすり合わせのため、医療側代表「中央社会保険医療協議会」と介護側代表「社会保障審議会介護給付費分科会」の両者が意見交換を実施しました。この協議は、2023年3月から5月にかけて「社会保障審議会」で3回開催されています。
診療報酬改定2024のスケジュールは6月に後ろ倒し
出典:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会資料」
2年に1度の診療報酬改定は、診療報酬改定の決定から4月1日の施行までが短期間であり、ベンダーや医療機関が集中して対応しなければならないことが課題とされていました。そのための打開策として、診療報酬改定2024では、開始時期を6月に後ろ倒しする案が提示され、総会で了承済みです。なお、薬価改定は従来どおり4月に改定を実施します。
出典・参照:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会資料」
診療報酬改定2024「診療報酬本体プラス0.88%」が正式決定
2024年度の診療報酬改定では、2023年12月20日に以下の通り決定しました。
- 診療報酬 +0.88%
- 薬価等 ①薬価▲0.97%
②材料価格▲0.02%
診療報酬本体は9回連続の引き上げであり、過去10年でもっとも高水準です。診療報酬本体・薬価・材料価格を単純に計算すると、マイナス0.12%となります。この結果は、医師の賃上げを実現したことを表しており、記者会見をした武見敬三厚生労働相は、以下のようなコメントを残しました。
「大変厳しい交渉だったが、適切な賃上げを実現するのが大きな課題だった。(日本医師会との関係は)まったく気にしないで、大臣の責任と立場で正しいと思ったことを徹底してやった。医師会のステートメントはまだ読んでいない」
出典・参照:m3.com ニュース・医療維新「診療報酬本体プラス0.88%を正式決定、厚労・財務相折衝」
参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定【全体概要版】」
診療報酬改定2024|4つの基本認識
ここからは診療報酬改定2024が、どのような認識で進められたかについて、理解を深めましょう。厚生労働省が掲げた「令和6年度の診療報酬改定の基本方針の概要」を紹介します。基本認識として掲げられたのは以下の内容です。
- 物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
- 全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応
- 医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
- 社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和
診療報酬改定2024|4つの基本視点と具体的な施策を紹介
前述した基本認識を推進するための基本視点と、具体的な施策についても紹介します。
1.重点課題!現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進
2023年の春闘、2024年の春闘などでも叫ばれ、全体としては賃上げが行われてはいるものの、医療業界ではほかの業界に追いついていないことが問題視されました。少子高齢化が進めば進むほど、医療関係者の人手不足は深刻になると予測ができます。まずは、医療従事者の処遇を改善し、人材確保することを重視しなければなりません。あらためて、医師の働き方改革を推進し、地域医療の確保にも努めるなど、持続可能な医療体制を築くことが重視されました。具体的な施策例は以下のとおりです。
- 医療従事者の人材確保と賃上げに向けた取り組みを推進
- タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進
- ICTによる業務効率化
- 長時間労働などの勤務環境の改善
- 多様な働き方を踏まえた評価の拡充
- 医療人材および医療資源の偏在への対応
2.ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
2025年には、団塊の世代全員が75歳以上となります。医療機関では、より連携を強め、地域包括でケアができる体制を構築するよう取り組んでいます。しかし、人口減少と高齢化に向けて、質が高い医療を適切に提供するためには、医療と介護サービスとのシームレスな連携が不可欠です。その解決策として期待されているのが医療DXです。新型コロナウイルス感染症対応の経験も踏まえつつ、地域全体で外来・入院・在宅を含めた医療機能の分化と強化に取り組み、各分野の連携を強いものにする必要があるとされました。具体的な施策例は以下のとおりです。
- マイナ保険証を活用した高品質で効率的な医療の提供
- 電子処方箋・電子カルテなど電子的な文書提供による医療技術の標準化
- ICTの活用による医療連携の推進
- 医療と介護・医療と障害福祉サービスなど地域包括ケアシステムの推進
- 地域医療構想と高齢者急性期医療ニーズを踏まえた医療機能の分化を推進
- かかりつけの医師・歯科医・薬剤師機能の評価
- ICTを活用した時間外対応体制の整理
- 質の高い在宅医療・訪問看護の確保(在宅緩和ケアの充実など)
3.安心・安全で質の高い医療の推進
物価高騰を踏まえながらも、患者にとって安心できる質の高い医療を確保するための取り組みが必要です。医療技術の進展や疾病構造の変化を受け入れつつ、イノベーションを推進し、新しい医療ニーズに対応できる医療体制を作る必要があります。そのための取り組みを評価できる体制づくりを進める方針です。具体的な施策例は以下のとおりです。
- 患者が住み慣れた地域で医療を継続して受けられるように医療機関間の連携を強化
- 人生の最終段階における医療・ケアを充実させる取り組みを推進
- 小児医療・周産期医療・救急医療などへの適切な評価
- かかりつけ歯科医の機能を評価するなど歯科医療の推進
- 薬局・薬剤師業務の対物から対人中心への転換の推進
- 病院薬剤師業務の評価
- 患者の安心・安全を確保するための医薬品の安定供給の確保を推進
4.効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
高齢化・技術の進歩・高額な医薬品の開発により医療費の増大が見込まれています。現状の「国民皆保険」を維持するためには、限りある医療資源をどのように分配するか、見直さなければなりません。医療関係者の協力のもと、医療サービスの維持・向上のためにサービスの効率化・適正化に努める必要があるとされました。具体的な施策例は以下のとおりです。
- 後発医薬品(ジェネリック薬品)やバイオ後続品の使用促進
- 市場実勢価格を踏まえた適正な評価を実施
- マイナ保険証を活用した高品質で効率化された医療の提供
- 電子処方箋・電子カルテなど電子的な文書提供による医療技術の標準化とICTの活用
- 医療機能の分化による適切な医療資源の分配
- 地域の医薬品供給拠点としての薬局の評価を推進
出典・参照:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要」
診療報酬改定2024を理解するためのポイント6つ
厚生労働省が掲げた「令和6年度の診療報酬改定の基本方針の概要」は、現在推進されている計画・改革と密接に関連しています。4つの視点の施策を今一度6つのポイントに絞って理解することで、診療報酬改定2024の全体像を掴むのに役立ててください。
ポイント1.第8次医療計画
医療法に基づき効率的な医療提供体制を確保するための計画が第8次医療計画です。2024年にスタートし、2029年度までが対象となります。以下への取り組みにより、効率的な医療提供体制を目指すものです。
◯地域医療構想
◯外来医療
◯かかりつけ医の機能
上記の3つは、診療報酬改定の基本視点と量なる項目が多く、報酬改定と合わせて理解を深めるとよいでしょう。
出典・参照:厚生労働省「第8次医療計画、地域医療構想等について」
ポイント2.医師の働き方改革
2019年頃より推進されてきた働き方改革が、2024年4月に医師に対して適用されるようになります。主なポイントは「時間外労働の上限」が規制されることです。
◯医師の長時間労働
◯労務管理が不十分
◯業務が医師に集中
医師の働き方改革では、上記の課題を解決するため、長時間労働を生む構造的な問題に取り組み、医療機関内で医師の働き方を見直します。医師の働き方改革は、診療報酬改定の基本視点で重点課題とされた「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」と深く関わる内容です。
出典・参照:厚生労働省「医師の働き方改革」
ポイント3.報酬の適正化
賃上げが喫緊の課題として認知されているため、診療報酬改定にあたっての基本認識では、物価高騰が続き賃上げが必要な状況について強調されています。しかしながら、患者負担や保険料負担への影響を意識しながら必要に応じて報酬改定をする必要性についても述べられています。
ポイント4.外来医療の強化
診療報酬改定2024では、外来医療の課題として「外来機能の分化の推進」「オンライン診療」の重要性も述べています。患者にとって負担の少ない形で外来医療を提供する必要性を示唆しました。
ポイント5.医療DX化の推進
診療報酬改定2024では医療のDX化を推進しています。
◯ICTの推進
◯全国医療情報プラットフォームの整備による電子カルテでの情報共有
◯電子処方箋の普及
上記のような取り組みを診療報酬改定の具体的な施策として紹介しました。医療におけるデジタル化を促し、高品質な医療提供体制と地域包括ケアとの連動を推進することが掲げられています。
ポイント6.医療・介護・障害サービスの連携
診療報酬改定2024では、医療・介護・障害サービスの連携強化が促されています。特に、患者との情報共有、ほかの医療機関への連携方法などが重要課題とされました。なお、医療や介護の横のつながりを強化する取り組みである「地域包括ケアシステム」の考え方(※)で、厚生労働省が2025年を目処に推進している取り組みの内容も織り込まれています。
(※)2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進すること
出典・参照:厚生労働省ホームページ「地域包括ケアシステム」
診療報酬改定2024は医師の賃上げを実現する形に
診療報酬改定2024では、継続的な医療を提供するためにさまざまな意見交換・議論がなされ、最終的に医師の賃上げを実現する形で決着しました。議論の過程においても、物価上昇や賃上げという言葉がキーワードとして浮上しています。
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