監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
事業をおこなうとき、深く関わってくるものが福利厚生です。従業員を雇用するうえで、避けて通れません。ですが、計算なども複雑で苦労する担当者の方も多いのではないでしょうか。
今回は、福利厚生費とはなにか、また計算方法について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
福利厚生費とは
企業が自社の従業員に対して負担しているもので、保険やリフレッシュに利用する施設など、業務以外を目的としているものに掛かった費用のことです。
福利厚生のうち、法定福利に分類される社会保険料などは、「法定福利費」として計上し、法定外福利となる慶弔金や住宅手当などは、基本的に「福利厚生費」として処理します。
福利厚生費と法定福利費の違い
押さえておきたい要点が3つあります。きちんと理解しておきましょう。
課税対象か
福利厚生費には、税金が発生するものと発生しないものがあります。発生するかの判断は、内容によって判断されます。一方、法定福利費の場合、基本的に税金は発生しません。
企業の義務か、任意か
福利厚生費となるものは、企業が任意で提供するものです。つまり、従業員にサービスをするかは企業の自由になります。社会保険などの法定福利費は、特別な理由がない限り、従業員に対して絶対に提供しなければなりません。
企業と従業員の負担割合
法定福利費に関しては、企業が負担する分と従業員が負担する分の割合いが法律によって決められています。企業が負担した分は、法定福利費として処理し、従業員が負担する分については、支払う給料から差し引き、預かり金などの勘定で処理をおこないます。
法定福利費となる保険
おもに、国が運営をしている保険で公的保険とも呼ばれるものがあります。この保険に当てはまるものを「法定福利費」として処理します。公的な保険にはいくつかの種類があります。
社会保険
企業の求人などでも待遇として表記されていることが多く、公的な保険の代表的なものです。社会保険には、健康保険や厚生年金、介護保険、雇用保険、労災保険などがあり、特に健康保険と厚生年金保険、介護保険をまとめて社会保険と呼びます。
介護保険
高齢者の介護や特定の病気にかかった人を、社会の全体で支えることを目的としたものです。65歳を過ぎたとき、もしくは末期のガンなど特定の病気にかかり、なおかつ定められた条件をみたすと、受けられる介護のサービスに掛かる費用が軽減されます。
厚生年金保険
国民の全員に対して加入が義務とされているものが基礎年金です。国民年金に加入されている方はこの基礎年金だけが積み立てられています。厚生年金とは、基礎年金に上乗せされるものです。そのため、厚生年金に加入すると、国民年金だけに加入している方より多く年金を受け取ることができます。
労働保険
社会保険と同じく公的な保険のひとつです。失業や業務中に発生したトラブルに関する支援をおもな目的としています。なお、個人事業主やフリーランスの方などは加入出来ないことがあります。加入出来ないときは、民間の保険などを利用するとよいでしょう。
雇用保険
失業したときに受け取ることができるものに、失業手当というものがあります。この失業手当を受け取るために加入するものが雇用保険です。基本的には、雇用保険に加入していないと失業手当を受け取ることはできません。
さらに、育児休業や介護休業を取得したときには要件を満たしていれば、雇用継続給付として給付金が支給されます。また、教育訓練給付金も雇用保険の制度の1つです。
労災保険
業務中に負ったケガや病気の治療や休業するときの支援などを目的とした保険です。また、通勤中の事故なども労災保険が支給される対象となります。受け取るためには、医師の診断が必要です。労災保険は企業がすべて負担します。
法定福利費の計算方法
法定福利費は、決められた方法で計算をします。また、おこなう事業によっては計算のやり方が異なる場合があります。要点を押さえておきましょう。
一般的な福利厚生費の計算式
基本的には、以下の計算によって金額が決まります。また、計算のもとになる給料とは、毎年4月から6月の3ヶ月間における1カ月あたりの平均額のことを指します。これを標準報酬月額と言います。この給料に対して、保険ごとの保険料率で計算をします。
1ヶ月あたりの給料×対象となる保険の保険料率=法定福利費
例えば、一般の事業をおこなっている企業に勤めている方の給料が月給30万円だったとします。
30万円(給料)×0.6%(企業負担率)=1,800円(企業が負担する金額)
30万円(給料)×0.3%(労働者負担率)=900円(労働者が負担する金額)
1,800円+900円=2,700円(雇用保険の総額)
なお、雇用保険と労災保険に関しては、展開している事業によって計算が異なります。
雇用保険料率(①+②) | ①企業負担分 | ②労働者負担分 | |
一般の事業 | 0.9% | 0.6% | 0.3% |
農林水産業・清酒製造業 | 1.1% | 0.7% | 0.4% |
建設業 | 1.2% | 0.8% | 0.4% |
※令和3年7月15日現在
また、労災保険についてはさらに細かく事業ごとに分けられています。詳しくは、厚生労働省のホームページでご確認下さい。
建設業の場合
建設業の場合は、その他の業種と違う考え方をします。工事など建設をする際は、請負という契約をすることが多くあります。請負契約では、請負元と呼ばれる人が工事全体の保険料を負担しなければなりません。
請負契約だと保険料の計算に必要な賃金の把握が困難なときがあります。そのため、建設業の場合は別に決められた手順に沿って保険料を計算します。
見積書に法定福利費を内訳表示する必要がある
建設業では、作業員の福利厚生が充実してないことが以前より問題とされていました。そのため、見積書を提出するときは、内訳に法定福利費を表示しなければなりません。作業員の福利厚生を充実させるために、このようなルールが作られています。
労務費を工事ごとに算出する
作業や製造にかかる人件費のことを労務費と言います。建設業などでは、保険料を計算するとき、この労務費をもとに計算をします。労務費は、工事ごとに算出をしなければなりません。
労務費から法定福利費を算出する
計算した労務費をもとに法定福利費を算出します。建設業において請求できる保険は下記の5種類です。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- こども・子育て拠出金
- 雇用保険料
なお、労災保険は請求できないので注意しましょう。
見積書に法定福利費を明示する
計算した保険料を見積書に記載します。まとめて記載するのではなく、保険ごとにきちんと明示しましょう。また、保険料の金額だけでなく、対象となった労務費の金額や保険料率なども記載しておく必要があります。
<参考資料>
雇用保険料率について/厚生労働省
令和3年度の労災保険率について ~令和2年度から変更ありません~/厚生労働省