近年、フリーランスなど個人事業主として働く方も増えています。増加にあわせて、個人事業主の福利厚生にも関心が高まりつつあります。経費としての取り扱いや利用できる範囲など、個人事業主の方は理解を深めておきましょう。
監修者:久米和子(Reiwa社会保険労務士事務所)
福利厚生費とは
福利厚生費とは、会社が従業員のために負担するお金のことです。従業員やその家族を手助けするもので、社会保険などが代表的なもので給与は含まれません。また、休憩室の設置など環境を整備することも含まれます。
福利厚生費には、法律で決まっている「法定福利」と、それ以外の「法定外福利」があります。健康保険や厚生年金などの社会保険が法定福利費です。税金は掛からず、費用の一部を会社が負担しなければなりません。
法定外福利は、会社が任意で支給をするもので、対象となるには条件が決まっています。また、税金が掛かることがあります。
個人事業主と福利厚生費
個人で仕事をおこなうときには、主に3つのパターンに分かれます。どのようなときに福利厚生費が使えるのか知っておきましょう。
単独経営の場合
働いている人が自分だけといった場合は、基本的に全ての福利厚生費は使えません。福利厚生とは、雇用する従業員のためにあるものです。自分で自分を雇うことはできません。つまり、個人事業主は会社で雇用する従業員にはならず、福利厚生の対象となりません。そのため、仕事で使ったお金でも、個人的に使用したお金としてみられるということです。
家族経営の場合
働いている従業員が自分と家族だけというケースでも、基本的には使うことができません。本来、経費とは仕事で必要なときに使うものです。家族とは、一緒に生活をしていることが多いので「仕事で必要なときに使った経費なのか、日常の生活の中で使ったお金なのか」などの線引きが非常に困難です。このように業務なのかプライベートなのか判断が難しいため、利用はできないとされています。
従業員がいる場合
従業員に他人がいるときは、場合によっては福利厚生費として活用できます。例えば、食事会などを開催するとき、全員の費用を平等に会社が払う場合は経費として使えます。ですが、自分と家族の分だけを支払うような場合は、家族との個人的な飲食に使ったものとみなされるため使えません。要するに、全員が同じような条件で利用できるものであれば、事業主と家族が使用した分のお金も、福利厚生として活用ができるということです。
個人事業主として福利厚生費が認められる条件
必要な条件をみたすと、事業主でも福利厚生費を活用できることがあります。なお、個人事業主の場合、家族ではない従業員がいることが前提です。
条件1 全従業員に対して平等なものである
会社で働いている従業員の全員に対して、平等に適用されるものが福利厚生です。例えば、仕事で着る制服を、家族の従業員に対してだけは支給するようなケースは、全員に対して平等とは言えません。よって、福利厚生の対象にはなりません。家族の従業員はもちろんのこと、正社員やパートタイマーなどの雇用形態も関係がなく、会社で働く全員が同じように活用できなければなりません。
条件2 標準的な金額である
標準的な金額であれば認められます。法律で使える上限が決まっているわけではありません。標準的とは個人によって異なりますが、相場とあまりにも違うような高額なものは認められないケースがあります。実際、高額なことで福利厚生費とは認められず、裁判で却下された事例もあります。認めてもらうためには、標準的な金額のものであることです。
個人事業主の福利厚生費の計上について
法律で明確な決まりがないため、計上できるものは専門家や地域の税務署によって意見が分かれます。主な例をご紹介するので、今後の参考にして下さい。
交際費や会議費との違い
福利厚生費は、参加する人が「社内の従業員のみ」であることです。これが交際費や会議費との違いです。社外の方が参加する場合は、内容によって交際費や会議費として処理します。
通勤費
他人の従業員に支給するものは認められます。計上できる分には上限があり、通勤距離や通勤方法(自動車や公共交通機関の利用)によって金額が変動します。例えば、交通機関又は有料道路を利用している人に支給する通勤手当は月に上限15万円までです。
健康診断
他人の従業員に関しては、福利厚生のひとつとして健康診断を受けさせる義務があります。掛かった費用は福利厚生費になります。ただし、福利厚生として取り扱うためには従業員全員が受診対象者であることや、費用が著しく高額でないこと、会社が医療機関に直接費用を支払っていることなどの要件があります。また、個人事業主には適用されませんが、重大な病気が見つかったとき、医療控除を受けることができます。
社員旅行
全員の旅費を平等に会社が支払うのであれば、事業主と家族の分まで認められることが多いようです。社員旅行とするには規定があり「①旅行の期間が4泊5日まで、②全体の1/2以上が参加している、③旅費が一人あたり10万円程度」以上の3つをみたす条件となります。
スポーツクラブ
計上できるのは、従業員が活用した分の費用だけとされることが多いようです。事業主と家族が使用した分については、基本的に計上するのは難しいでしょう。
マッサージ
個人事業主とその家族が利用した分の費用は認められていません。しかし、他人の従業員が利用した分を会社が支払った場合、支払った分の費用については計上できます。
飲食
働いている全員が活用できる条件をクリアしていれば、個人事業主の方と家族である従業員に掛かった費用の分も、計上できることがあります。ただし、飲食をする状況や内容によって、計上が出来ないこともあるため注意が必要です。
個人事業主が福利厚生を導入するメリット
福利厚生を導入すると様々なメリットがあります。ポイントを押さえておくと、より効果的な運用ができます。
メリット1 税金が節約できる
福利厚生費は、経費として計上できるもので、一定の範囲であれば税金が掛かりません。そのため、会社の側からすると法人税など税金の節約ができます。また、従業員の側からしても所得税が掛からないため収入が減りません。このように、税金の負担を減らすことができるため、個人事業主と従業員の両方に導入するメリットがあると言えます。
メリット2 人材の確保ができる
会社に求めるものについては、多くの会社や調査機関が働く人を対象に調査をおこなっています。「福利厚生費が充実している」との回答は、調査結果の上位によくランクインします。それだけ、働く人は福利厚生に対する関心が高く、制度が充実した会社で働きたいと思っていることがわかります。つまり、福利厚生を充実させるということは、人材の確保につながります。個人事業主の方でも、人材が必要になったときに人材の確保がしやすくなるでしょう。
メリット3 会社のイメージアップ
働く人の関心が高いということは、そのまま会社のイメージにもつながります。例えば、イメージの良い会社の製品を「あの会社の製品だから安心」と思って利用したような経験はありませんか。このように、イメージとは売上にも影響を与えるため、会社にとても重要なものです。これは、個人事業主の方にも同じことが言えます。福利厚生を充実させると、会社のイメージアップができ、結果的に売上など業績のアップにも期待ができます。
まとめ
意見が分かれることも多いため、ひとつの情報だけを信じるのは危険です。どうすべきか迷ったら、税務署に問い合わせてみると良いでしょう。個人事業主の方も福利厚生費を上手く活用し、充実した職場作りを目指しましょう。
監修者:久米和子(Reiwa社会保険労務士事務所)
<参考資料>
・勤労者の福利厚生について/厚生労働省
・No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当/国税庁
・No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当/国税庁
・No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行/国税庁
・税務調査における福利厚生費(個人事業主)/税務調査専門税理士 川代会計事務所