監修者:森田修(社労士事務所 森田・ミカタパートナーズ)
現在、政府は働き方の改革に乗り出しており、企業に対する支援も意欲的に行っています。なかでも注目を集めているものが、「働き方改革推進支援助成金」です。
コロナ禍にあった2021年では、たくさんの企業が申請を行っており、実際に支給された事例も多くあります。一方で内容が複雑なこともあり、本制度をよく理解できていない企業担当者の方もいるでしょう。企業の労働環境を改善するにあたり、本制度は非常に効果的なものです。興味のある担当者様は、今後の予想と併せてぜひご参照ください。
働き方改革推進支援助成金とは
働き方改革推進支援助成金とは、生産性を高めながら労働時間の削減に取り組む企業を支援する制度です。政府は2018年より働き方改革を進めており、企業に対しても取り組みの強化を促しています。そのため本制度は、中小企業における労働時間の短縮、および改善への取り組みを目的としたものです。取り組みを行った企業は、実施にかかった費用の一部に対して助成が受けられます。
なお支給までの主な流れは、以下のようになります。
- 自社の就業規則を整備、導入予定サービスの見積書を用意
- 管轄の労働局へ交付申請
- 交付の決定
- 管轄の労働局へ支給申請
まずは、就業規則の見直しが必要です。助成金を受けるためには、年次有給休暇に関する規定などを明記しなければなりません。加えて、導入を予定しているサービスの見積もりは必要です。見積書には、作成した業者の押印が必要となります。
また交付申請は、年度ごとに定められた期間内に行わなければなりません。ただし申し込みが多い場合には、期限より早く締め切られるため早めの申請が必要です。内容に問題がなければ、交付決定となります。申請した内容に沿って、取り組みを開始しましょう。
加えて取り組みにも期間が設けられているため、期間内に実施する必要があります。実施期間の終了後、支給申請を行うことで助成金が支給されます。
働き方改革推進支援助成金4つのコース
令和4年度では、4つのコースが設定あります。内容は以下のようになります。
まず助成金を申請する前提として、以下の条件を満たす中小企業が対象です。
○小売業(飲食業含む)…資本金5000万円以下、または常用雇用する労働者50人以下
○サービス業…資本金5000万円以下、または常用雇用する労働者100人以下
○卸売業…資本金1億円以下、または常用雇用する労働者100人以下
○そのほかの業種…資本金3億円以下、または常用雇用する労働者300人以下
上記の条件に加えて、本制度ではおさえておくべきポイントがあります。下記は全コースに共通するポイントです。助成を受けるためには、コースごとに設定されたすべての条件を満たす必要があります。
・支給対象に該当するか
・コースごとに定められた支給対象となる取り組みの実施
・コースごとに決められた成果目標の設定と達成
・実施期間中に取り組みの実施
支給条件や成果目標および実施期間は、選択コースによって異なります。取り組みや成果目標を設定し、実施期間中に取り組みを行うことで助成金が支給される仕組みです。
労働時間短縮・年休促進支援コース
(※1)
【概要】
中小企業においても2020年4月1日より、時間外労働時間の上限が規定されました。本コースは法律の施行により、労働時間の改善に取り組む中小企業に対する支援が目的です。企業はこのコースを活用することで、費用を抑えながら生産性の向上を図れます。
【支給対象】
助成の対象となるには、以下の条件を満たす必要があります。
①労働者災害補償保険への加入
②交付申請した時点で、成果目標の1から4を実施するための条件を満たしていること
③交付申請時点で年5日の有給休暇取得に向けて就業規則等で整備していること
【対象となる取り組み】
申請を行った企業は、期間内に対象となる取り組みを1つ以上実施する必要があります。対象となる取り組みについては、厚生労働省「労働時間短縮・年休促進支援コース」をご参照ください。
【成果目標】
支給を受けるには取り組みに加えて、次のうち1つ以上を目標として選び、達成しなければなりません。
- 月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数を減少させること(月60時間以下、または月60時間を超え月80時間以下に設定)
- 特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定を新たに1つ以上導入すること
- 時間単位の有給休暇規定を新たにに導入すること
- 年次有給休暇の計画的付与制度を新たに導入すること
【支給金額】
- 成果目標1を達成した場合、最大150万円
- 成果目標2を達成した場合、最大50万円
- 成果目標3または4を達成した場合、最大25万円
【実施期間】
令和4年度における事業の実施期間は、交付が決定した日から2023年1月31日までとなります。
勤務間インターバル導入コース
(※2)
【概要】
勤務インターバル制度の導入に、取り組む中小企業を支援するコースです。近年では従業員の過労死や健康状態の悪化が問題となっており、2019年4月からインターバル制度は努力義務化されました。そのため本コースは、従業員の睡眠や休憩を確保し、健康な体の維持に取り組む企業の支援を目的としています。
なお勤務インターバル制度とは、勤務終了後から次の勤務が開始するまでに、一定の休息時間を設ける仕組みのことです。
【支給対象】
本コースを利用するためには、以下の項目を満たすことが必要です。
①労働者災害補償保険に加入していること
②以下の項目のいずれかに該当する事業主であること
- 勤務間インターバルを導入していない事業場
- 既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場
- 既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
③交付申請及び支給申請時点で36協定の締結・届出をしていること
④原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること
⑤交付申請の時点で、年5日の有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
【対象となる取り組み】
本コースでも、期間内に取り組みを1つ以上実施する必要があります。対象となる取り組みについては、厚生労働省「勤務間インターバル導入コース」をご確認ください。
【成果目標】
本コースにおける成果目標は、以下のものです。原則としては、すべての項目を達成する必要があります。
1:新規導入
新たにインターバル制度を取り入れる場合、事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を労働協約または就業規則に定めること
2:適用範囲の拡大
すでに9時間を超えるインターバル制度を導入している場合、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である場合は、対象となる労働者の範囲を拡大し、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とすることを労働協約または就業規則に規定すること
3:時間延長
既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象として、当該休息時間数を2時間以上延長して休息時間数を9時間以上とすることを労働協約または就業規則に規定すること
【支給金額】
新たにインターバル制度を導入した場合、最大100万円
時間延長・適用範囲の拡大をした場合、最大50万円
【実施期間】
令和4年度における事業の実施期間は、交付が決定した日から2023年1月31日までとなります。
労働時間適正管理推進コース
(※3)
【概要】
2020年4月1日より、賃金台帳など労務管理に関する書類の保存期間が、5年(当面の間3年)と延長されました。本コースは法律の施行を受け、労働時間の適切な管理などに取り組む中小企業への支援を目的としたものです。このコースを活用することで、企業は業務効率化や生産性の向上を図りやすくなります。
【支給対象】
本コースでは、下記の項目に該当する企業が対象です。
①労働者災害補償保険に加入していること。
②交付決定日より前の時点で、勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるようなITシステムを用いた労働時間管理方法を採用していないこと。
③交付決定日より前の時点で、賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することが就業規則等に規定されていないこと。
④交付申請した時点で、36協定の締結・届出がされていること。
⑤交付申請した時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業則等を整備していること。
【対象となる取り組み】
本コースでも、対象となる取り組みの実施が必要です。厚生労働省「労働時間適正管理推進コース」にある取り組みの中から、1つ以上を期間中に実施してください。
【成果目標】
支給を受けるには、以下の項目すべての達成を目指して取り組む必要があります。
1:新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるようなITシステム(※)を用いた労働時間管理方法を採用すること。
※ネットワーク型タイムレコーダー等出退勤時刻を自動的にシステム上に反映させ、かつ、データ管理できるものとし、当該システムを用いて賃金計算や賃金台帳の作成・管理・保存が行えるものであること。
2:賃金台帳など労務管理書類の保存期間が5年とする規定を、新たに就業規則などへ規定すること
3:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を、労働者および労務管理担当者へ実施すること
【支給金額】
成果目標を達成したとき、最大100万円
【実施期間】
令和4年度における事業の実施期間は、交付が決定した日から2023年1月31日までとなります。
団体推進コース
(※4)
【概要】
本コースは、事業主団体などが傘下となる企業の労働条件を改善すべく、取り組みを実施した事業主団体への支援を目的とした制度です。事業主団体が傘下の企業に対して、時間外労働の削減、賃上げに向けた取り組みを実施した際に支給されます。
【支給対象】
対象となる事業主団体は、3事業主以上(共同事業主においては10事業主以上)で構成する、次のいずれかに該当し、1年以上の活動実績がある事業主団体等です。
①事業主団体
・法律で定められる事業主団体
(事業協同組合、信用協同組合、事業協同小組合、企業組合、商工組合など)
②共同事業主
・協定書を作成するなどの条件を満たした共同事業主
・労働者災害補償保険に加入している事業団体の事業主であり、かつ中小企業の割合が構成する企業全体の2分の1以上であること
【対象となる取り組み】
このコースでも期間内に、対象となる取り組みを1つ以上実施しなければなりません。対象となる取り組みについては、厚生労働省「団体推進コース」をご参照ください。
【成果目標】
本コースでは、以下の成果目標を達成することが必要です。
1:事業団体が新たに事業を計画した際、時間外労働の削減や賃上げに向けた取り組みを実施すること
2:実施する取り組みを、事業団体を構成する2分の1以上の企業に活用すること
【支給金額】
下記のいずれか低い方の金額が支給されます。
・対象となる経費の合計金額
・総事業費から収入額を引いた金額
・上限金額である500万円
都道府県単位又は複数の都道府県単位で構成する事業主団体等(構成事業主が10以上)に該当する場合は最大1,000万円
【実施期間】
令和4年度における事業の実施期間は、交付が決定した日から2023年2月17日までです。
コースごとの概要は以上となりますが複雑な内容も含まれており、イメージしづらい場合もあるでしょう。そのようなときのために厚生労働省では、厚生労働省「助成事例(平成30年度)」で実際に支給された事例を紹介しています。具体的な事例が掲載されており、自社が申請を行うときに参考になるためぜひ活用してください。
個人事業主が助成金を申請するための要件
働き方改革推進支援助成金は、法人に限定されていないため、個人事業主の方でも申請が可能です。ただし申請をするためには、3つの条件を満たす必要があります。
まずは資本金または出資金額、常時雇用する労働者に関して、規定された条件を満たすことが必要です。条件となる出資金額や雇用する人数は、業種によって異なります。業種ごとの満たすべき条件は、以下のようになります。
・小売業…資本金5000万円以下、かつ常用雇用する労働者50人以下
・サービス業…資本金5000万円以下、かつ常用雇用する労働者100人以下
・卸売業…資本金1億円以下、かつ常用雇用する労働者100人以下
・そのほかの業種…資本金3億円以下、かつ常用雇用する労働者300人以下
上記の条件に加えて、労働者災害補償保険の適用事業主であることも条件です。
また、「年5日の年次休暇」を就業規則で規定していることも必要です。個人事業主の場合だと、就業規則を作成していないこともよくあるため、そのような場合には就業規則の作成から行う必要があります。
コロナ禍における助成金制度
日本では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、業種によっては事業転換を余儀なくされた企業もあります。そのためコロナ禍の2021年には上記コース以外に、2つのコースが設けられていました。
現在は申請が終了していますが、コロナウイルスは収束の気配を見せておらず、今後再開される可能性もあります。今後の動向によっては、活用できる機会が訪れるかもしれないため、どのような制度か把握しておくとよいでしょう。
職場意識改善特例コース
(※5)
【概要】
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、「特別休暇制度」を就業規則に規定した中小企業を対象としたコースです。
【支給対象】
本コースの支給対象となる条件は以下の事業主で下記の取り組みを1つ以上実施することが必要です。
1. 労働者災害補償保険への加入
2. 特別休暇の規定の整備を行う中小企業の事業主
【対象となる取り組み】
- 労務管理担当者への研修
- 労働者に対する研修や周知と啓発
- 外部専門家(社会保険労務士または中小企業診断士等)のコンサル
- 就業規則等の作成や変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入や更新
- 労務管理用機器の導入や更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入や更新
- テレワーク用通信機器の導入や更新
- 労働能率の増進に資する設備や機器等の導入、更新
【支給金額】
成果目標を達したとき、最大50万円
【実施期間】
事業の実施期間は、令和2年2月17日~12月31日までとなっていました。
テレワークコース(3次)
(※6)
【概要】
新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主※ テレワークを実施する労働者が通常勤務する事業所が、交付申請日時点で緊急事態宣言が発令されている地域内にあることが必要。※ 緊急事態宣言に準じる地域も対象になります。
【支給対象】
本コースの支給対象は、以下の条件を満たす企業です。
①労働者災害補償保険に加入していること
②新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規で導入する中小企業事業主
【対象となる取り組み】
対象取り組みについては、厚生労働省「テレワークコース」をご参照ください。
【成果目標】
支給対象の取り組みを実施する際、事業実施期間中に以下の成果目標を達成する必要があります。
- 助成対象の取組を行うこと
- テレワークを実施した労働者が1人以上いること
【支給金額】
成果目標を達成したとき、最大100万円
【実施期間】
・本コースの事業は、令和3年1月8日~1月29日までが実施期間でした。
さいごに
職場環境の改善を図るにあたり、助成金は非常に有効なものです。そのため申請する企業も多く、あっという間に申請が締め切られることも少なくありません。実際に2021年には、予定より早く申請受付が終了しました。
そのような事態を防ぐには、きちんと制度を理解して早めに申請することが必要です。事例を参考にイメージしておくと、申請もスムーズに進めやすくなります。働き方改革推進支援助成金をうまく活用して、快適な職場環境を整えましょう。
【参考資料URL】
厚生労働省/「労働時間等の設定の改善」
(※1)「働き方改革助成金 (労働時間短縮・年次促進支援コース)/厚生労働省」
(※2)「働き方改革助成金(勤務間インターバル導入コース) /厚生労働省」
(※3)「働き方改革助成金(労働時間適正管理推進コース) /厚生労働省」
(※4)「働き方改革助成金(団体推進コース) /厚生労働省」
(※5)「働き方改革助成金(職場意識改善特例コース) /厚生労働省」
(※6)「働き方改革助成金(テレワークコース) /厚生労働省」
(※7)「雇用環境・均等局 令和4年度予算概算要求における重点要求/厚生労働省」