定年延長とは、従業員の雇用終了年齢を引き上げる制度です。2025年4月から「65歳までの雇用確保措置」が義務化され、企業は定年延長など高齢者の雇用確保に取り組む必要があります。本記事では、定年延長のメリット・デメリットを再雇用と比較しながら解説します。
定年延長とは?定義と基本
定年延長とは、60歳定年の従業員の雇用終了時期を延ばす制度です。高年齢者雇用安定法では60歳未満の定年を禁止しており、現在多くの企業が60歳定年を採用しています。
2025年4月改正「65歳雇用確保」の義務化とその対応
2025年4月から「65歳までの雇用確保措置」が義務化されます。ただし、定年延長の対応として、定年年齢を必ずしも65歳にする必要はありません。以下の3つから自社に合う方法を選択できます。
- 65歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 65歳まで継続雇用する(再雇用制度・勤務延長制度など)
なお、継続雇用の対象者について、2025年4月以降は選別できない点には注意が必要です。「希望者全員」を65歳まで雇用しなければなりません。
出典:厚生労働省|高年齢者雇用安定法改正の概要
企業の「高齢者雇用」状況
高齢者の雇用について、現在の状況をみてみましょう。厚生労働省の「令和5年高年齢者雇用状況等報告」によると、令和5年6月1日時点において、全企業のうちの69.2%が継続雇用制度を選択しており、次いで定年引き上げが26.9%、定年制廃止が3.9%です。
出典:厚生労働省|高年齢者雇用安定法改正の概要
また、『日本の人事部』による「人事白書調査レポート2024」では、シニア活用の重要性について、「大変重要である」(20.4%)、「重要である」(49.0%)と企業が考えていると示されています。全企業のうち約7割がシニアの可能性に注目しているのです。
出典:日本の人事部|人事白書調査レポート2024 注目の人事課題 約7割の企業が「シニア活用は重要」
企業の「定年年齢」状況
定年の年齢は60歳が一般的です。一方で、一般社団法人プロティアン・キャリア協会が2024年9月25日に人事を対象として実施した「シニア社員のキャリア施策に関するアンケート調査」では、65歳定年へとシフトする傾向が明らかになりました。定年60歳が主流(73%)ですが、65歳への延長(22%)も進んでいます。
また、同調査では定年後再雇用制度を設定している企業が85%にのぼるなど、高齢者活用の動きは企業の経営戦略であることを物語る結果でした。
出典:HRpro|60歳→65歳への“定年延長”は進んでいる傾向。「シニア社員」へのキャリア研修実施は半数以上、「定年後再雇用制度」は85%に
70歳までの高齢者就業機会の確保
令和3年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正により、70歳までの雇用確保が現在「努力義務」となっています。企業には以下5つの選択肢があります。
- 70歳まで定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳まで継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に社会貢献事業等に従事できる制度の導入
この制度は今後の法改正で義務化される可能性もあることから、その旨を踏まえて高齢者雇用についての検討が望ましいでしょう。
出典:厚生労働省|高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~
先ほど紹介した3つの選択肢の中で、定年延長(65歳までの定年引き上げなど)を選んだ際のメリットとデメリットを説明します。
【企業側】定年延長のメリット
企業には以下のメリットがあります。
労働力の確保
人手不足が深刻化する中、定年延長は即戦力となる人材を確保できる有効な対策です。とりわけ技術職や専門職では、熟練した従業員の継続雇用が企業の競争力維持に直結します。若手への技術継承もスムーズに進むため、組織全体の技能レベルを高水準に保てるでしょう。
コスト負担軽減
新規採用では、採用から育成までのコストがかかりますが、定年延長では即戦力となる人材の活用が可能なため、コストを抑えられます。さらに、65歳超雇用推進助成金や特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)など、政府の各種支援制度も活用できます。
関連記事:【社労士監修】高齢者雇用に関する助成金一覧!パート・アルバイトにも活用
事業継続の観点
取引先との関係維持という点で、定年延長は大きな効果を発揮します。法人向けビジネスでは、長年の付き合いがある担当者が急に変わることで、取引関係に支障が出るケースがあります。加えて、培ってきた業務知識やノウハウも継続的に活用することが可能です。
【企業側】定年延長のデメリット
続いて、定年延長のデメリットを説明します。
人件費の増加
定年延長により、60歳以降も給与や賞与の支払いが継続するため、人件費が増加します。多くの企業では年功序列型の賃金制度を採用しているため、勤続年数が長くなるほど人件費負担は大きくなります。また、退職金も勤続年数に応じて増加するため、企業の財務面への影響は無視できません。
組織の高齢化
定年延長により、管理職ポストの空きが減少し、若手の昇進機会が制限されます。その結果、組織の活力低下につながる可能性があります。
後戻りは厳しい
定年延長は一度決めたら後戻りは厳しいかもしれません。定年延長を取りやめるのは、労働条件の不利益変更を伴うケースに該当する可能性があるため、従業員との事前合意の上で就業規則の変更が必要となります。
高齢従業員に対する配慮
高齢従業員の健康管理も新たな負担となります。加齢に伴う体力・健康面での個人差が大きくなるため、定期健康診断の項目追加や空調などの職場環境改善など、きめ細かな対応が必要です。
次では、従業員からの視点で、定年延長のメリットとデメリットを説明します。
【従業員側】定年延長のメリット
従業員側のメリットは以下のとおりです。
60歳以降も定期収入を確保
60歳以降も安定した収入が得られることは、大きなメリットです。年金だけでの生活に不安を抱くシニアも多いでしょう。また、就労期間が延びることで将来の年金額も増えます。
慣れた職場で継続して働ける安心感
60歳での転職は、求人が限られる上、新しい環境への適応も大変です。定年延長なら、慣れた職場で長年の同僚と働き続けられるため、心身の負担が少なく済みます。
モチベーション向上
これまで培った技術スキルを活かしたい想いに応えるのが定年延長です。後進の指導・育成は、経験に基づく確かなスキルが活かせる絶好の機会です。企業の役に立ち、やりがいも得られます。
【従業員側】定年延長のデメリット
従業員の定年延長によるデメリットを説明します。
労働条件の変化
重複しますが、60歳以降は、給与水準が引き下げられるのが一般的です。賞与や諸手当も見直しの対象となります。また、役職からの退任や職務内容の変更も予想されます。
年金受給への影響
65歳以降も働く場合、「在職老齢年金制度」により年金額が調整されます。賃金と老齢厚生年金の合計が基準額を超えると、老齢厚生年金の一部または全額が支給停止になることがあります。
令和6年度の場合、賃金と厚生年金の月額合計が50万円を超えると調整対象です。
関連記事:【社労士監修】在職老齢年金とは?2024年最新情報と企業が知りたいポイントを徹底解説!
働き方の制限
体力面、健康面を考慮し、業務内容が制限されることがあります。勤務時間の短縮や職務内容の変更など、従来とは異なる働き方への対応が求められます。
雇用確保における「定年延長」と「再雇用」のメリット・デメリットも比較
65歳までの雇用確保が義務となる中、企業は「定年延長」と「再雇用」のどちらを選ぶべきか、判断を迫られています。それぞれの特徴を整理して、自社に合った制度を見つけましょう。
雇用確保で「定年延長」するメリット
正規従業員のまま雇用が継続するため、業務はスムーズに進みます。従業員の雇用形態は変わらず、モチベーション維持も容易です。人事管理の手間も最小限で済み、実務面での負担も少なくて済みます。
雇用確保で「定年延長」するデメリット
定年延長は全従業員を対象としなければならないため、柔軟な人材活用がしづらくなります。人件費負担が重いなどの理由により見直しすることも、前述のとおり従業員との合意が必要となるため簡単には進みません。
雇用確保で「再雇用」するメリット
一旦雇用関係が終了するため、新たな条件での契約が可能です。企業のニーズに合わせた人件費調整や業務内容の見直しができ、柔軟な人材活用が可能となります。
雇用確保で「再雇用」するデメリット
労働条件変更によるトラブルリスクがあり、契約更新の手続きなど人事面で実務負担が増えます。雇用形態が変わることで、従業員のモチベーション維持も課題になるでしょう。
企業に求められる「定年延長」に向けた対応・準備
実際に定年延長を進めるには、次の対策や準備を行います。3つのStepにわけてみていきましょう。
Step1:制度設計
定年延長の導入では、以下の制度改定が必要です。
- 就業規則の変更:定年年齢の引き上げを規定
- 賃金制度の見直し:60歳以降の給与水準を設定、手当の見直し
- 退職金制度の調整:延長期間における退職金の取り扱い
このような制度改定を同時進行で進めます。人件費が増加するのを防ぐといった観点も盛り込む必要があるでしょう。年功序列型の場合、成果主義型の賃金体系へとシフトするといった対策も有効です。
Step2:労使の合意形成
定年延長をスムーズに導入するには、労使協議による従業員との丁寧な話し合いが欠かせません。制度変更の目的や新制度の詳細を、説明会などでわかりやすい資料を用いて伝えましょう。
Step3:実務面の整備
60歳以降の人事評価制度について、昇給や賞与の基準を含めて新たに整備が必要です。ベテラン従業員の経験とスキルを適切に評価できる仕組みを作りましょう。また、専門職ポストの新設や若手育成担当など、経験を活かせる新たな役割設計も効果的です。
健康管理面では、健康診断の充実化を進めます。さらに、食事補助制度の導入など、あらゆる年齢層の従業員がモチベーションを維持できる福利厚生の整備も重要な施策となります。
次に、シニアの働く意欲を高めた企業の成功事例をみてみましょう。
実質手取りアップを実現する「チケットレストラン」でシニアの"やる気"もアップ
定年後の給与ダウンを緩和し、シニア従業員の意欲を引き出す新たな取り組みがあります。IT企業のダイナミックマッププラットフォーム株式会社では、60歳超の嘱託社員に対し、雇用形態を問わず提供できる「チケットレストラン」を導入しました。
「チケットレストラン」は、食事補助の福利厚生サービスです。一定の利用条件下であれば非課税枠運用ができるため、賃上げよりも実質手取りをアップすることができます。また、全国のコンビニやファミレスで利用できるICカードで支払いをすれば、食事代を半額負担してもらえるため、正規雇用の従業員はもちろんのこと、シニア従業員に対しても意欲高く働ける環境づくりに成功しています。
この実質手取りをアップする「チケットレストラン」は、「第3の賃上げ」として多くの企業に導入されています。
関連記事:パート・アルバイト・契約社員 にも「第3の賃上げ」を!ラウンドテーブルを開催~“年収の壁”を抱える非正規雇用にも、福利厚生で実質手取りアップを実現~
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「第3の賃上げ」とその代表例「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンが提唱する「第3の賃上げ」とは、“実質手取りを増やす”ことができる福利厚生による賃上げです。食事補助や社宅などの福利厚生費は、一定の要件を満たすと非課税枠で運用ができるため、給与として支給されるよりも手取りが増えます。
食の福利厚生サービス「チケットレストラン」は「第3の賃上げ」の代名詞的な存在です。一般的な賃上げが難しい企業、パート従業員へ賃上げしたい企業、高齢者や外国人などの満足度も高めたい企業など、多くの企業から注目を集めています。
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公務員の定年延長制度
民間同様に、公務員でも定年延長の動きがあることも押さえましょう。
公務員の定年延長は、令和5年4月より国家公務員・地方公務員ともに段階的に導入されています。定年年齢は2年ごとに1歳ずつ引き上げられ、令和13年度に65歳に到達します。
この改正では、3つの新制度が導入されることになりました。60歳の管理職が翌年度から非管理職へ異動する「役職定年制」、60歳以降に短時間勤務を選択できる「定年前再任用短時間勤務制度」、そして移行期間中の経過措置となる「暫定再任用制度」です。
出典:内閣官房|国家公務員の定年の引上げ(概要)
公務員の定年延長メリット
ベテラン職員の知識や経験を長期的に活用でき、行政サービスの質を維持することが可能です。とくに地域に根ざした課題対応には、地域の経緯を知る職員の存在が不可欠となっています。職員個人にとっても、年金受給までの収入確保という利点があるでしょう。
公務員の定年延長デメリット
人件費の増加による財政負担が大きな課題となります。また、若手職員の昇進機会が減少することで、組織の新陳代謝の低下も避けられません。
定年延長への戦略的対応を
人手不足が深刻化する今、企業の持続的成長に向けてシニア人材の豊富な経験と専門性が不可欠です。若手・女性・外国人など多様な人材が活躍できる職場環境の整備と、2025年の法改正への戦略的な対応が、企業の競争力を左右します。その具体策として、世代を超えた従業員の満足度を高め、働きがいのある職場づくりを支援する食の福利厚生「チケットレストラン」も、効果的な選択肢の一つとなるでしょう。