監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)
無期転換ルールは原則として60歳以上にも適用されます。無期転換ルールの基本的な内容を確認した上で、定年後の無期転換で定年がなくなることへの対応について見ていきましょう。特例を用いる方法と、第二定年で対応する方法を解説します。
無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、雇い止めにより雇用が不安定になることを解消し、有期契約労働者の処遇改善を目指すために設けられた制度のことです。
有期契約労働者は1年や3年など、定められた期間で労働契約を更新します。このような働き方をしている人のうち、約3割は5年を超えて労働契約を更新しているそうです。
中には有期契約労働者が職場内で恒常的な役割をになっていることもあります。欠かせない人材となっている有期契約労働者が、実態に合わせた雇用形態で労働契約を結べるよう設けられたルールです。
ここでは無期転換ルールによって無期転換申込権が発生するタイミングと、無期転換ルールの対象企業について「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」を参考に解説します。
参考:厚生労働省|有期契約労働者の無期転換ポータルサイト|契約社員・アルバイトを雇っている企業さまへ!
関連記事:「無期転換ルール」を基礎からわかりやすく解説!2024年改正対応版
5年を超えて更新すると無期転換申込権が発生
無期転換ルールが設けられたことで、有期労働契約が5年を超えると、有期契約労働者には無期転換申込権が発生することとなりました。無期契約申込権が発生した有期契約労働者が、企業へ無期転換を申し込むと無期転換が可能です。
例えば労働契約が1年間の有期契約なら、原則通算5年を超えて更新を行うと、無期転換申込権が発生します。
また有期契約労働者と3年間の有期契約を結んでいるなら、契約を締結もしくは更新してから3年間経過すると、更新後の3年間は有期契約労働者に無期転換申込権が発生します。1回目の更新時には見込み通算契約期間が6年間になるためです。
無期転換申込権が発生している期間中に、有期契約労働者が無期転換を申し込むと、有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約に切り替わります。
全ての企業が対象
パート・アルバイト・契約社員などの有期契約労働者が在籍している企業は、規模や業種にかかわらず無期転換ルールの対象です。
在籍している有期契約労働者が5年を超えて更新し、無期転換の申し込みをした場合には応じなければいけません。無期転換の拒否はできませんし、更新回数や更新年限の上限は無期転換の回避が目的だと認められない場合もあります。
無期転換ルールへ対応するための手順
有期契約労働者から無期転換の申し込みが行われたとき、スムーズに対応するには事前準備が必要です。対応に向けて以下の手順に沿って準備をしましょう。
- 有期契約労働者の実態を把握する
- 無期転換後の処遇を明確にする
- 就業規則を整備する
- 従業員に説明する
今在籍している有期契約労働者の人数・更新回数・担当業務などを把握した上で、無期転換後の雇用形態や業務などを検討しましょう。
契約を無期契約にして働き方はこれまでと同じようにする他、職務限定正社員・短時間制正社員などの多様な正社員にする、正社員として契約するといった方法が考えられます。
決まった内容は就業規則へ盛り込みましょう。併せて従業員への説明も重要です。制度を変更しても周知しなければ、業務を行う上で混乱が生じる可能性があります。誤解からトラブルを招くおそれもあるでしょう。
制度設計の段階から従業員へ知らせて、意見を募ったり質問を受け付けたりすることで、有期契約労働者の無期転換がスムーズに進みやすくなります。
無期転換ルールは60歳以上にも適用
無期転換ルールには年齢制限が設けられていません。原則として60歳以上であっても、有期契約労働者が5年を超えて更新すれば、無期転換申込権が発生します。
このとき有期契約労働者が無期転換を申し込めば、有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約となるルールです。
例えば60歳で1年間の有期労働契約を結び5年間更新し続けると、65歳の更新時に無期転換申込権が発生します。この有期契約労働者が無期転換を申し込めば、翌年からは無期労働契約となります。
定年を超えた無期転換で定年年齢がなくなる可能性
雇用の安定性を目的に設けられた無期転換ルールには年齢制限がありません。定年を超えて有期契約労働者として勤務する人が、5年を超えて更新する場合にも、無期転換申込権が発生します。
ただしこれでは定年年齢がなくなる可能性がある点に注意が必要です。定年年齢がなくなれば、従業員からの申し出があるか、企業が解雇をしない限り、労働契約は終身で続きます。
人手不足の状況から、高齢者の活用を進めるよう計画している企業もあるでしょう。ベテランから若手へのノウハウの承継といったプラスの面がある一方、ベテランの人件費が膨らみ若手への分配が不十分になるマイナス面も考えられます。
このような事態への対応として、継続雇用の高齢者の特例や、第二定年を設ける方法が有効です。
定年後引き続き雇用する有期契約労働者は特例あり
無期転換ルールには特例が設けられています。この特例により、定年後引き続き同じ企業で働く有期契約労働者は、無期転換申込権が発生しません。
厚生労働省の「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」を参考に、特例の対象となるために必要な手続きをチェックしましょう。
参考:厚生労働省|高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について
特例には認定が必要
特例の適用を受けるには、雇用管理措置に関する計画について、都道府県労働局長の認定を受けなければいけません。申請書の提出先は本社・本店管轄の都道府県労働局です。
提出した申請書は審査され、通過すれば認定通知書が交付されます。認定通知書交付までの流れは以下の通りです。
- 都道府県労働局から審査結果の連絡を受けて交付日を決める
- 交付日に都道府県労働局を訪れる
- 認定通知書・申請書の写し・添付書類の写しの交付を受ける
- 留意事項の説明を受ける
認定後には特例に関する労働条件の明示が必要
特例が適用されたときには、その旨を契約の締結や更新時に明示する必要があります。定年後引き続き同じ企業で働く従業員には、定年後雇用されている期間は無期転換申込権が発生しないことを、書面で伝えなければいけません。
特例の対象者には高年齢者雇用確保措置の実施が必要
特例の対象者となる従業員には「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度」のうちいずれかの高年齢者雇用確保措置を行う必要があります。加えて以下のいずれかの措置も行うよう定められています。
- 高年齢者雇用安定法第11条の規定による高年齢者雇用等推進者の選任
- 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
- 作業補助具の導入や照明の交換など作業施設や作業方法の改善
- 健康管理や安全衛生への配慮
- 身体機能の低下による影響が少なく経験を活かせるよう職域の拡大
- 資格制度や専門職制度など知識・経験等を活用できる配置や処遇の推進
- 賃金体系の見直し
- 短時間勤務やフレックスタイム制など勤務時間制度の工夫
高齢者の特例措置の注意点
高齢者の特例措置の対象となる有期契約労働者は、定年前から自社で勤務し定年後も引き続き働き続けている従業員です。同じ有期契約労働者でも、以下のケースは対象外となります。
- 他社で定年を迎えてから雇用した有期契約労働者
- 定年前から有期労働契約を締結しており定年を迎えた有期契約労働者
これらの有期契約労働者は特例の対象外のため、企業が認定を受けていても、無期転換申込権が発生します。
60歳以上の無期転換に対応する方法
高齢者の特例措置のみでは、60歳以上で無期転換する従業員が出てくる可能性があります。業務遂行能力への懸念や労災発生の防止などの観点から、高齢者の無期転換へ対応するには、第二定年制や契約書での規定が有効です。
それぞれの対応方法を見ていきましょう。
第二定年制
60歳以上で無期転換すると、特別に規定を設けない限り、雇用期間は終身となります。このようなケースでも定年がなくならないようにするには、第二定年制を設けるとよいでしょう。
例えば通常の定年を60歳と定めている企業で、60歳を超えて無期転換をする従業員に対応するには65歳を、65歳定年制で65歳を超えて無期転換する従業員に対応するには70歳を、それぞれ第二定年と定めます。
第二定年制についての規定は、就業規則へ盛り込みましょう。
定めた第二定年を超えて無期転換する従業員に対しては、第二定年で有期労働契約が終了する規定を定めるか、第三定年を定める方法を検討するとよいでしょう。
契約書での規定
契約書に契約更新の上限について記載し、有期契約労働者に明示する方法もあります。有期労働契約を結ぶときに「契約更新の上限年齢は70歳までとする」というように契約更新の上限を記載しましょう。
無期転換ルールは60歳以上も適用される
無期転換ルールには年齢制限がないため、5年を超えて更新していれば60歳以上でも無期転換申込権が発生します。定年年齢を超えて無期転換すると、定年がなくなってしまいかねません。
定年前から自社に勤務し、定年後に有期契約労働者として勤務している従業員は、特例の認定を受ければ無期転換申込権が発生しなくなります。その他のケースでは、第二定年制や契約書での規定を設けることで、有期労働契約の更新上限を設定可能です。
自社の状況に合わせて、適切な方法で対応しましょう。同時に高齢者が経験を活かして働きやすい環境づくりも重要です。勤務時間に柔軟性を持たせる、作業の補助具を導入する、福利厚生を充実させるといった取り組みが役立ちます。
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