新卒の離職率はどのくらいなのでしょうか?かつては学校卒業後3年以内の離職率が、おおよそ中学卒70%・高校卒50%・大学卒30%であったことをさして、七五三現象ともいわれていました。なぜ新卒者は入社後すぐに離職を選ぶのでしょうか?新卒の離職に課題を抱えている企業に役立つよう、早期離職の理由や対策を解説します。
離職率の計算方法
離職率とはある時期に入社した従業員が、一定期間にどれだけ離職したかを示す数値のことです。
離職率を計算するときには「定めた期間の離職者数÷起算日の在籍人数×100」の計算式を用います。2023年4月に入社した新卒の1年後の離職率を計算するなら「2023年4月~2024年3月までの離職者数÷2023年4月の新卒者数×100」です。
例えば2023年4月に10人の新卒者を採用し、2023年4月~2024年3月に2人離職している場合には「2人÷10人×100=20%」と計算できます。
新卒の離職率を確認
新卒の離職率を知るために、ここでは厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」を参考に数値を見ていきましょう。離職率が特に高いタイミングや、企業の規模による離職率の違いを紹介します。
学歴別の離職率
まずは学歴ごとの離職率をチェックしましょう。3年目までの離職率が分かっている2020年3月に卒業し新卒で入社した就職者の離職率を比較します。
中学卒 |
高校卒 |
短大卒 |
大学卒 |
|
1年目の離職率 |
32.1% |
15.1% |
16.3% |
10.6% |
2年目の離職率 |
12.0% |
11.7% |
13.5% |
11.3% |
3年目の離職率 |
8.8% |
10.2% |
12.8% |
10.4% |
3年目までの離職率 |
52.9% |
37.0% |
42.6% |
32.3% |
学歴ごとの離職率は中学卒が最も高い結果です。1~3年目のどのタイミングも、3年間を通しても、中学卒の離職率は高いことが分かります。
1年以内の離職率
離職率が高いのは入社から1年以内であることも分かります。大学卒は1~3年目の離職率がほぼ同じですが、中学卒・高校卒・短大卒では1年目の離職率が最も高くなっています。
これは2020年だけではありません。学歴別に2011~2020年の3月に卒業した新卒者の離職率を見てみましょう。
<中学卒>
1年目の離職率 |
2年目の離職率 |
3年目の離職率 |
3年目までの離職率 |
|
2011年 |
44.8% |
12.5% |
7.6% |
64.8% |
2012年 |
44.3% |
14.0% |
7.0% |
65.3% |
2013年 |
42.0% |
14.3% |
7.4% |
63.7% |
2014年 |
45.4% |
14.4% |
7.9% |
67.7% |
2015年 |
42.6% |
13.0% |
8.5% |
64.1% |
2016年 |
41.1% |
13.6% |
7.7% |
62.4% |
2017年 |
36.5% |
14.7% |
8.5% |
59.8% |
2018年 |
35.8% |
12.5% |
6.8% |
55.0% |
2019年 |
36.9% |
11.7% |
9.2% |
57.8% |
2020年 |
32.1% |
12.0% |
8.8% |
52.9% |
<高校卒>
1年目の離職率 |
2年目の離職率 |
3年目の離職率 |
3年目までの離職率 |
|
2011年 |
19.6% |
11.3% |
8.8% |
39.6% |
2012年 |
19.8% |
11.7% |
8.6% |
40.0% |
2013年 |
20.1% |
11.8% |
9.1% |
40.9% |
2014年 |
19.5% |
12.0% |
9.3% |
40.8% |
2015年 |
18.2% |
11.6% |
9.6% |
39.3% |
2016年 |
17.4% |
11.7% |
10.1% |
39.2% |
2017年 |
17.2% |
12.3% |
10.0% |
39.5% |
2018年 |
16.9% |
11.9% |
8.1% |
36.9% |
2019年 |
16.3% |
10.1% |
9.6% |
35.9% |
2020年 |
15.1% |
11.7% |
10.2% |
37.0% |
<短大卒>
1年目の離職率 |
2年目の離職率 |
3年目の離職率 |
3年目までの離職率 |
|
2011年 |
18.6% |
11.7% |
11.0% |
41.2% |
2012年 |
18.8% |
12.2% |
10.5% |
41.5% |
2013年 |
18.9% |
12.0% |
10.9% |
41.7% |
2014年 |
18.3% |
12.0% |
11.0% |
41.3% |
2015年 |
18.1% |
12.2% |
11.2% |
41.5% |
2016年 |
17.5% |
12.4% |
12.0% |
42.0% |
2017年 |
17.7% |
13.3% |
12.0% |
43.0% |
2018年 |
17.9% |
13.0% |
10.6% |
41.4% |
2019年 |
17.8% |
11.8% |
12.3% |
41.9% |
2020年 |
16.3% |
13.5% |
12.8% |
42.6% |
<大学卒>
1年目の離職率 |
2年目の離職率 |
3年目の離職率 |
3年目までの離職率 |
|
2011年 |
13.4% |
10.1% |
8.8% |
32.4% |
2012年 |
13.1% |
10.3% |
8.9% |
32.3% |
2013年 |
12.8% |
10.0% |
9.1% |
31.9% |
2014年 |
12.3% |
10.6% |
9.4% |
32.2% |
2015年 |
11.9% |
10.4% |
9.5% |
31.8% |
2016年 |
11.4% |
10.6% |
10.0% |
32.0% |
2017年 |
11.6% |
11.4% |
9.9% |
32.8% |
2018年 |
11.6% |
11.3% |
8.3% |
31.2% |
2019年 |
11.8% |
9.7% |
10.0% |
31.5% |
2020年 |
10.6% |
11.3% |
10.4% |
32.3% |
大学卒に限っては近年入社1~3年目の離職率に差がなくなってきていますが、全体的には2011~2020年の10年間を通して1年目の離職率が高い傾向です。
また短大卒と大学卒は10年間の離職率がほぼ横ばいですが、中学卒と高校卒の離職率は低下している傾向があります。
かつて新卒入社後3年目までの離職率は、中学卒70%・高校卒50%・大学卒30%だったことから、七五三現象ともよばれていました。近年は中学卒が50%台、高校卒が30%台まで下がっています。
ただし中学卒より高校卒の方が、高校卒より大学卒の方が離職率が低くなる傾向は変わっていません。
3カ月以内の離職率
リクルートワークス研究所の「11.8%が“半年未満”で離職する。「超早期離職」問題」によると、新卒入社後3年以内に離職した中で、6カ月未満の超早期離職の割合は以下の通りです。
高校卒 |
短大等卒 |
大学卒 |
全体 |
|
1カ月未満 |
6.8% |
4.3% |
4.3% |
5.2% |
1カ月以上3カ月未満 |
12.1% |
9.5% |
8.4% |
9.9% |
3カ月以上6カ月未満 |
11.2% |
10.2% |
10.7% |
10.8% |
この結果をもとに3カ月以内の離職率を計算すると、高校卒18.9%・短大卒13.8%・大学卒12.7%と分かります。
3カ月以上6カ月未満の離職率が高校卒から大学卒までほぼ10%であるのに対し、3カ月未満の離職率には高校卒と短大卒・大学卒との間に差があります。高校卒は短大卒・大学卒と比べて、ごく短い期間で離職する人材が一定数存在するといえる結果です。
参考:リクルートワークス研究所|11.8%が“半年未満”で離職する。「超早期離職」問題
企業の規模と離職率の関係
離職率は企業の規模によっても異なります。3年目までの離職率が分かっている2020年の離職率を企業規模別に見てみましょう。
企業規模 |
1年目までの離職率 |
2年目までの離職率 |
3年目までの離職率 |
全体 |
10.6% |
21.8% |
32.3% |
5人未満 |
26.0% |
42.1% |
54.1% |
5~29人 |
21.5% |
37.0% |
49.6% |
30~99人 |
14.8% |
28.8% |
40.6% |
100~499人 |
10.9% |
22.1% |
32.9% |
500~999人 |
8.9% |
20.2% |
30.7% |
1,000人以上 |
7.2% |
16.7% |
26.1% |
企業規模が小さいほど離職率は高い傾向があります。全体では3年目までに32.2%の離職率ですが、5人未満では54.1%と入社した新卒の半数以上が離職しているそうです。
業界ごとの離職率ランキング
離職率は業界ごとに異なります。厚生労働省の「令和4年 雇用動向調査結果の概要」をもとに作成した以下の表で、新卒を含む全体の離職率が高い業界ランキングを見ていきましょう。
順位 |
業界 |
離職率 |
1 |
宿泊業、飲食サービス業 |
26.80% |
2 |
サービス業(他に分類されないもの) |
19.40% |
3 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
18.70% |
4 |
医療、福祉 |
15.30% |
5 |
教育、学習支援業 |
15.20% |
6 |
卸売業、小売業 |
14.60% |
7 |
不動産業、物品賃貸業 |
13.80% |
8 |
運輸業、郵便業 |
12.30% |
9 |
情報通信業 |
11.90% |
10 |
複合サービス事業 |
11.00% |
11 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
10.70% |
12 |
建設業 |
10.50% |
13 |
製造業 |
10.20% |
14 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
10.00% |
15 |
金融業、保険業 |
8.30% |
16 |
鉱業、採石業、砂利採取業 |
6.30% |
全ての業界の平均離職率は15.0%です。「宿泊業、飲食サービス業」「サービス業(他に分類されないもの)」「生活関連サービス業、娯楽業」「医療、福祉」「教育、学習支援業」は、平均よりも離職率が高い業界と分かります。
新卒の離職理由
「新規学卒者の離職状況」で2020年の新卒の離職率を見ると、入社から3年目までに中学卒52.9%・高校卒37.0%・短大卒42.6%・大学卒32.3%が離職しています。なぜ3年目までに離職する新卒が多いのでしょうか?
人間関係がうまくいかない
社内の人間関係にストレスを感じて離職につながるケースが多いようです。例えば「上司から理不尽な理由で怒られた」「先輩の言葉遣いや態度がきつく相談しにくい」「同僚と相性が悪くコミュニケーションを取りにくい」などの理由が考えられます。
また通常の業務が忙しく、上司や先輩従業員が新卒者の教育に十分な時間を割けておらず「職場で歓迎されていないようだ」と感じて離職につながることもあるそうです。
思っていた仕事ができない
入社前に思っていた仕事と実際に担当する仕事が違うことも、離職理由のひとつです。企業説明会やさまざまな資料などから考えていた仕事との違いに戸惑うことや、自分に向いているのか悩むこともあります。
新卒者を募る求人広告でアピールしている内容が、職場の実態と合っていない可能性もあるでしょう。
新卒が離職しない企業ランキング
新卒の入社から3年目までの離職率は、2020年に中学卒52.9%・高校卒37.0%・短大卒42.6%・大学卒32.3%ですが、中には離職率0%の企業もあります。
「CSR企業総覧(雇用・人材活用編)2023年度版」をもとに、定着率が高い企業300社をランキングにして紹介している、東洋経済オンラインの「「新卒社員の3年後定着率」が高い300社ランキング」を見ていきましょう。
「新卒3年後定着率の高い会社」ランキング1位の企業は92社あり、どれも定着率100%です。離職している新卒は1人もいません。ランキング1位の92社のうち、2019年の入社人数が20人以上の企業20社を紹介します。
社名 |
2019年の入社人数 |
四国電力 |
92 |
ISID |
39 |
三菱地所 |
37 |
森永製菓 |
33 |
高砂香料工業 |
33 |
アドバンテスト |
30 |
アズワン |
28 |
りらいあコミュニケーションズ |
26 |
神鋼商事 |
25 |
参天製薬 |
24 |
エスペック |
23 |
スカパーJSATホールディングス |
22 |
イワキ |
21 |
東洋エンジニアリング |
21 |
タムロン |
21 |
八洲電機 |
20 |
あすか製薬ホールディングス |
20 |
長谷川香料 |
20 |
IDEC |
20 |
日本タングステン |
20 |
参考:東洋経済オンライン|「新卒社員の3年後定着率」が高い300社ランキング
新卒の離職防止に向けた対策
新卒の離職率が低い企業では、どのような取り組みを行っているのでしょうか?「「新卒社員の3年後定着率」が高い300社ランキング」の上位にランクインしている企業の取り組みを参考に、新卒の離職防止に役立つ対策を紹介します。
ミスマッチの予防
新卒が入社後数カ月で離職するといったことが続いているなら、採用時点でミスマッチが起こっている可能性があります。会社説明会やパンフレット・求人広告などに掲載する内容を見直すことで、ミスマッチを回避可能です。
例えば先輩従業員にインタビューをして実際の仕事内容や職場の雰囲気が伝わる内容にしたり、職場見学の機会を設けたりすると、新卒者が「こんな仕事だとは思わなかった」とギャップを感じる事態を避けやすくなります。
教育制度の充実アップ
入社後の教育制度も重要です。離職率の低い企業では、経営戦略を実現するために必要なスキルを持つ人材育成に向けて、教育にも力を入れています。
新卒者に対しては、内定後から複数回にわたり研修を実施することで、同期とのつながりの強化が可能です。良好な人間関係が構築できていることで、離職を考えても踏みとどまるといったケースもあります。
また実際に仕事が始まってからは、担当する仕事に合わせたスキルアップのための研修や、教育担当の先輩従業員によるOJT、他部署とのつながりを持つきっかけとなるメンター制度なども有効です。
充実した教育制度があれば、新卒者に早いタイミングで仕事を任せられるようになることも期待できます。「役に立っている」といった実感を得ることで、仕事にやりがいを感じられる新卒者が増えれば、離職防止につながります。
働きやすい制度づくり
制度を整えて働きやすい環境をつくることも、新卒者の離職対策のひとつです。制度を整えるときには、新卒者が何を求めているのかをリサーチする必要があります。
例えば学情の実施した新社会人アンケートによると、テレワークの制度があれば利用したいと考えている新卒者は約70%に上る結果でした。テレワークを導入すれば、働きやすさの自由度が高まり、新卒者の離職率低下につながるかもしれません。
他にもフレックスタイム制や休暇制度などを充実させることで、プライベートとのバランスを取りやすくなり、働きやすさを高められます。単に制度をつくるだけでなく、実際に制度を利用しやすい環境づくりを行うことも重要です。
加えて住宅手当や食事補助など、生活する上で必ずかかる費用を企業がサポートする制度を取り入れるのもおすすめです。従業員の生活費の負担が少なくなり、自由に使える給与を増やせます。
食事補助を導入する場合には、全国25万店舗以上の加盟店で使えるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を利用すれば、導入や運営の手間を抑えつつ、全従業員が公平に利用できるサービスを提供可能です。
新卒の離職率低下に向けた制度づくりを
新卒の入社3年目までの離職率は、中学卒52.9%・高校卒37.0%・短大卒42.6%・大学卒32.3%です。ただし企業によっては新卒の離職率が0%といったケースもあります。
新卒を採用してもすぐに辞めてしまうなら、離職率の低い企業の取り組みを参考に、離職防止の対策を実施するのが有効です。
「思っていた仕事と違った」という理由から離職する新卒者が多いなら、募集の時点でミスマッチが生じている可能性があるため、自社について伝える情報を変更する必要があります。
働きにくさから離職を選ぶ新卒者が多いなら、テレワークやフレックスタイム制などの制度を整えて利用しやすい環境づくりを進めるのが有効です。
従業員の生活費をサポートする食事補助といった制度の導入も役立ちます。管理の手間を抑えつつ効果的な制度を取り入れたいと考えているなら、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を検討してみませんか。