2024年度の介護報酬改定において、訪問看護サービスでは基本報酬の微増での引上げや、医療的ケアの必要度が高い利用者への専門的なサービス提供を評価する加算の新設など、質の向上を目指した改定が実施予定です。同時に、業務継続体制やコンプライアンス体制の強化を求める減算措置も導入されるなど、サービスの安定提供と適切な事業運営の両立が重視されています。本記事では、今回の改定の変更点と訪問看護事業を運営する企業が取り組むべき施策について解説します。
基本報酬の改定内容
基本報酬の改定内容を訪問看護と介護予防訪問看護それぞれで解説します。
訪問看護の基本報酬
訪問看護の基本報酬は、訪問看護ステーションと病院・診療所双方で微増での引上げとなります。最大で訪問看護ステーションの場合は「1時間以上1.5時間未満」で+3単位、病院・診療所の場合は同区分で+2単位です。
訪問看護ステーションの場合
現行単位 | 改定後単位 | 増減 | |
20分未満 | 313単位 | 314単位 | +1 |
30分未満 | 470単位 | 471単位 | +1 |
30分以上1時間未満 | 821単位 | 823単位 | +2 |
1時間以上1時間30分未満 | 1,125単位 | 1,128単位 | +3 |
理学療法士、作業療法士
又は言語聴覚士の場合 |
293単位 | 294単位 | +1 |
病院又は診療所の場合
現行単位 | 改定後単位 | 増減 | |
20分未満 | 265単位 | 266単位 | +1 |
30分未満 | 398単位 | 399単位 | +1 |
30分以上1時間未満 | 573単位 | 574単位 | +1 |
1時間以上1時間30分未満 | 842単位 | 844単位 | +2 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所と連携する場合(1月につき)
現行単位 | 改定後単位 | 増減 |
265単位 | 266単位 | +1 |
介護予防訪問看護の基本報酬
介護予防訪問看護についての改定による増減は、訪問看護の場合と同様の水準です。
訪問看護ステーションの場合
現行単位 | 改定後単位 | 増減 | |
20分未満 | 302単位 | 303単位 | +1 |
30分未満 | 450単位 | 451単位 | +1 |
30分以上1時間未満 | 792単位 | 794単位 | +2 |
1時間以上1時間30分未満 | 1,087単位 | 1,090単位 | +3 |
理学療法士、作業療法士
又は言語聴覚士の場合 |
283単位 | 284単位 | +1 |
病院又は診療所の場合
現行単位 | 改定後単位 | 増減 | |
20分未満 | 255単位 | 256単位 | +1 |
30分未満 | 381単位 | 382単位 | +1 |
30分以上1時間未満 | 552単位 | 553単位 | +1 |
1時間以上1時間30分未満 | 812単位 | 814単位 | +2 |
出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
訪問看護における2024年度介護報酬改定の変更点
基本報酬以外の変更点について、それぞれ詳しく見ていきましょう。厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」を参照しています。
専門管理加算の新設(250単位/月)
医療ニーズが高く、専門的な看護サービスを必要とする利用者への対応を適切に行う観点から、新たに「専門管理加算」が創設されました。一定の専門研修を修了した看護師が、緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門・膀胱管理といった医療的ケアにかかる計画的な管理を行った場合に、250単位/月が加算されます。対象者の例としては、悪性腫瘍の鎮痛療法・化学療法中の利用者、真皮を越える褥瘡がある利用者、人工肛門・膀胱を造設している利用者です。
区分 | 現行単位 | 改定後単位 |
専門管理加算 | なし | 250単位/月 |
初回加算の新設(350単位/月・300単位/月)
訪問看護サービスとして、要介護者などの円滑な在宅復帰を推進・支援するため「初回加算」に新たな区分が設けられました。新規に訪問看護計画を作成し、病院や施設からの退院・退所当日に訪問看護を実施した場合、350単位/月の「初回加算(Ⅰ)」が算定可能となります。
一方、退院・退所翌日以降の初回訪問は従来通り300単位/月の「初回加算(Ⅰ)」が算定できます。従来の算定要件では利用者が病院等から退院した日に初回訪問を行った場合の評価がありませんでした。早期の訪問看護介入をより一層促進するための改定と言えます。
区分 | 現行単位 | 改定後単位 |
初回加算(I) | なし | 350単位 |
初回加算(Ⅱ)(従来の初回加算) | 300単位 | 300単位 |
ターミナルケア加算の変更(2,500/単位月)
介護保険におけるターミナルケアの内容が、医療保険におけるターミナルケアと同等の質であることを評価し、加算単位数が2,000単位から2,500単位に引き上げられました。死亡日および死亡前14日以内に2日以上のターミナルケアを行えば算定が可能です。この改定により、訪問看護事業所による在宅での看取り支援がより適切に評価されることになります。
区分 | 現行単位 | 改定後単位 |
ターミナルケア加算 | 2,000単位 | 2,500単位 |
遠隔死亡診断補助加算の新設(150単位/回)
離島などの地域で看護師が情報通信機器を活用し、主治医の死亡診断を補助した場合に新設された加算です。看取り支援にかかる研修を修了した看護師が、診療報酬の死亡診断加算を算定した上で、本加算150単位/回が別途算定できます。
区分 | 現行単位 | 改定後単位 |
遠隔死亡診断補助加算 | なし | 150単位 |
事業継続計画未策定事業所に対する減算
感染症や災害発生時にも介護サービスを継続するために、事業継続計画(BCP)の策定が義務付けられました。BCPが未策定の場合、基本報酬から1%減算される「事業継続計画未策定減算」が設けられています。ただし訪問看護は2025年3月末までの経過措置があります。
区分 | 現行 | 改定後 |
事業継続計画未実施減算
(施設・居住系サービス) |
なし | 3%の減算 |
事業継続計画未実施減算
(その他サービス) |
なし | 1%の減算 |
高齢者虐待防止の推進による措置未実施減算
利用者の人権擁護と高齢者虐待防止を図るため、虐待防止委員会の開催や指針整備、研修実施などの措置が求められるようになります。これらに未対応の場合は1%の「高齢者虐待防止措置未実施減算」が課されます。
区分 | 現行 | 改定後 |
高齢者虐待防止措置未実施減算 | なし | 1%の減算 |
理学療法士による訪問看護の評価見直し
訪問看護の役割を適正化する観点から、理学療法士等の訪問回数が看護職員を上回る場合に減算が科されることになります。
訪問看護・介護予防訪問看護の場合
区分 | 現行 | 改定後 |
理学療法士等の訪問回数が超過している場合等の減算 | なし | 8単位を所定単位数から減算 |
なお、12月を超えて行う場合は、以下の改定後の内容のとおり、1回につき5単位を所定単位数から減算します。
- 12月を超えて行う場合は、介護予防訪問看護費の減算(※)を算定している場合は、1回につき15単位を所定単位数から更に減算し、介護予防訪問看護費の減算を算定していない場合は、1回につき5単位を所定単位数から減算する。
※厚生労働大臣が定める施設基準に該当する場合の8単位減算
出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
口腔連携強化加算の新設(50単位/回)
利用者の口腔衛生管理を推進するため、介護事業者が利用者の口腔状態を定期的に確認し、その結果を歯科医療機関や介護支援専門員に情報提供した場合に新設された加算です。ただし、月1回までの算定で、あらかじめ歯科医療機関との連携体制を文書などで取り決めておく必要があります。
区分 | 現行 | 改定後 |
口腔連携強化加算 | なし | 50単位(1か月1回まで) |
緊急時訪問看護加算の見直し(訪問看護等における24時間対応体制の充実)
24時間対応体制の充実と、夜間の看護師の業務負担軽減を図るため、600単位/月の「緊急時訪問看護加算(I)」が創設されました。電話対応と緊急訪問の体制が整備されていれば算定可能です。従来の加算については「緊急時訪問看護加算(Ⅱ)」574単位/月として残されています。
区分 | 現行 | 改定後 |
緊急時訪問看護加算(Ⅰ) | なし | ・看護ステーション: 600単位/月
・病院又は診療所:325単位/月 ・介護看護事業所:325単位/月 |
緊急時訪問看護加算(Ⅱ) | ・看護ステーション: 574単位/月
・病院又は診療所:315単位/月 ・介護看護事業所:315単位/月 |
・看護ステーション: 574単位/月
・病院又は診療所:315単位/月 ・介護看護事業所:315単位/月 |
その他の加算・体制の見直し事項
その他の主な改定事項は以下の通りです。
身体的拘束等の適正化の推進
身体的拘束の適正化をより一層推進する観点から、訪問看護においても、利用者や他の利用者の生命・身体保護のための緊急性の高い場合を除き、身体的拘束等を原則として禁止することとなりました。やむを得ず実施する場合は、その態様と時間、理由などを適切に記録することが義務付けられます。
人員配置基準における両立支援への配慮
介護職員が治療と仕事を両立できる環境を整備し、離職防止・定着促進を図る観点から、人員配置基準の緩和がされます。「治療と仕事の両立ガイドライン」に沿った事業者の短時間勤務制度の利用について、一定の要件を満たせば常勤・常勤換算として扱えるようになりました。
「書面掲示」規制の見直し
事業所の運営規程の概要など重要事項については、従来の書面掲示に加え、2025年度からはウェブサイト上の公表が義務付けられることになりました。法人のホームページなどで情報開示し、インターネット上で情報の閲覧が完結できるようにすることで、透明性の向上が図られます。
テレワークの取扱い
テレワークについては、個人情報を適切に管理し、利用者の処遇に支障が生じないことなどを前提に、取扱いを明確にし、職種や業務ごとに具体的な考え方を示すことが通知されました。
訪問看護における24時間対応のニーズに対する即応体制の確保
訪問看護における24時間対応について、サービスが提供できる体制が確保されていれば、看護師等以外の職員でも電話連絡に対応できるように見直されます。そのための要件については、以下のとおりです。
ア 看護師等以外の職員が利用者又はその家族等からの電話等による連絡及び相談に対応する際のマニュアルが整備されていること。
イ 緊急の訪問看護の必要性の判断を保健師又は看護師が速やかに行える連絡体制及び緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること。
ウ 当該訪問看護事業所の管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制及び勤務状況を明らかにすること。
エ 看護師等以外の職員は、電話等により連絡及び相談を受けた際に、保健師又は看護師へ報告すること。報告を受けた保健師又は看護師は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録すること。
オ アからエまでについて、利用者及び家族等に説明し、同意を得ること。
カ 指定訪問看護事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員について届け出ること。
出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について
特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算及び中山間地域に居住する者へのサービス提供加算の対象地域の明確化
介護サービスを提供する事業所が、地理的に条件が不利な地域に所在する場合、運営コストが通常より高くなります。そのような事業所は、「規定する過疎地域」から「公示された過疎地域」となることで、明確化されます。
特別地域加算の対象地域の見直し
過疎地域など人が少なく交通が不便などの理由で、サービス確保が困難なことが認められる場合、前回改正以降に追加、あるいは除く必要がある地域については、必要性について自治体に徴収した上で見直しを行います。
退院時共同指導の指導内容の提供方法の柔軟化
退院時共同指導加算について、文書以外の方法で指導内容を提供することが可能となりました。
訪問看護の2024年介護報酬改定に向け企業が取り組む施策
訪問看護の2024年介護報酬改定では、介護事業を営む企業にさまざまな体制変更を求めることになります。ここからは企業が取り組むべき施策について、2つのポイントを解説します。
人材確保・働き方改革の推進
訪問看護ではサービスの性質上、24時間対応体制が評価されています。しかし、少子高齢化が進行すれば、今のサービスを継続して提供することは困難です。だからこそ「緊急時訪問看護加算の見直し」などにより、夜間対応の勤務環境を評価し、そのような体制作りを推進すると考えられます。企業は、人材確保や働き方改革を推進する取り組みを重視すべきでしょう。
改定への対応を追われている状況下でも、たとえば、福利厚生を導入するといった方法ならば、負担を少なく働き方改革を推進できます。
福利厚生で働きやすさを高められる「チケットレストラン」
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は、従業員のランチ代を半額補助する食の福利厚生サービスです。全国にある大手コンビニ・ファミレスなど25万店舗以上の加盟店で利用できます。急な外出や夜勤の場合でも食事代を補助できるため、訪問看護などの柔軟な勤務環境の介護職員にも還元できるのがメリットです。しかも、福利厚生費として計上できるため、所得税がかからず、従業員は実質手取り額もアップします。
介護業界における「チケットレストラン」の導入事例
介護業界では、介護報酬に上限がありますが、給与以外で職員に還元できることから導入していただいた企業の実績もあります。株式会社ハートコーポレーションの場合、給与面で差別化が難しい業界だからこそ「チケットレストラン」のような独自の取り組みがあることで、人材採用に貢献できたと実感されているそうです。介護職員も「持参のお弁当に一品プラス」「奮発して豪華なお弁当を購入」など、「チケットレストラン」は自分らしく食事を楽しめる点が好評とのことです。ベースアップが難しい業界にこそ「チケットレストラン」は喜ばれると言えるでしょう。
導入事例:株式会社ハートコーポレーション
訪問看護におけるDX化
デジタル技術を活用することで、より質の高いケアと業務の効率化が期待できます。少子高齢化で人材確保が困難になる以上、DX化を推進して不足する労働力を補わなければなりません。たとえば、タブレットを利用して、リアルタイムで電子カルテ記録などを共有をすれば、伝達ミスが減らせます。レセプトや請求ソフトを導入し、請求作業を効率化すれば、訪問数を増やすことも期待できるでしょう。残業時間を軽減することで、今回の改定で必要となる研修の時間に充てることも可能です。一方で、機器の操作方法を理解し、セキュリティ対策を適切に実施する必要もあります。
まとめ
2024年度の介護報酬改定では、訪問看護サービスの質の向上と並行して、事業の継続性やコンプライアンス体制の強化が重視されています。新設の専門管理加算や口腔連携加算などを効果的に活用しつつ、BCP未策定や虐待防止策の欠如による減算を避けることが重要になってきます。利用者に適切なサービスを安定的に提供し続けるため、介護事業者には事業運営の見直しと体制整備が求められているということです。
今回の改定に対し、対応するのは現場で働く介護職員です。従業員が喜ぶ福利厚生を導入することにより、一丸となって変化に対応していきたいという企業メッセージを伝えられるでしょう。たとえば食の福利厚生サービス「チケットレストラン」は、従業員に嬉しい魅力を豊富に備えており、実質手取りアップなど、ハイブリッドな仕組みで従業員の食事を支援できます。ぜひ「チケットレストラン」の導入を検討してみませんか。